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惑星ヴァージャ (三)
しおりを挟むまるで二日酔いだ。
祖父アーサーと大喧嘩して屋敷を飛び出して撒いても撒いても次から次に湧いてくる取り巻きたちとクラブで呑んで踊ってやけくそではしゃぎまくって迎えた朝、後悔を丹念に煮詰めてゼリー寄せにしたかのような目覚めだった。
最悪。
クロエ・フレーザーはひんやりとした部屋で眉を顰めた。
万聖街でラーシュと別れてセシルと軌道エレベーターに乗った。体感では昨日だけど冷凍睡眠からの目覚めはあの別れから何年も――何十年も、あるいは百年以上時間が経ったことを意味している。
もう、いない。
これから大急ぎで万聖街に帰っても誰もいない。
愛するラーシュのいないこの宇宙でどうやって生きていけというのか。
文句をいいたくても頑固な祖父アーサーももういない。誰もいない。
どんよりとした微熱、ぐったりした体のすみずみまでしみわたった疲労に無力感も二日酔いそのものだ。
気怠くしぱしぱと瞬きをしたら、誰かの影が射した。
「もしかして、――起きた?」
しぱ。しぱぱぱ。
視界にぼんやり映った姿が信じられず、クロエは繰り返し瞬きをする。そして
――見なかったことにしよう。目覚めなかったことにしよう。
ぎゅっ、と目を閉じた。
あり得ない。
ナースウェア姿のクロエがいた。いや、見間違いだ。そうに決まっている。
「ほんとに? ――やだ、目開いてないじゃない」
「さっきは瞬きしてたんだけど」
最悪なだけでない。最低だ。
自分が自分と話している。ほんとうの自分は口も目も閉じているというのに。どうなっているんだ。
「ま、覚醒処置がちゃんとできてるんだから起きても不思議はない。――シシー呼んできて」
「分かった」
足音が遠ざかると溜め息とともにとすん、とベッドサイドに誰かが腰かける音がした。
「起きてるんでしょ? チェックさせてくれる?」
促されてしぶしぶ目を開けると、白衣を着た自分がいた。
「わたしはドクター・クロエよ。さっきの子はナース・クロエ。――というのは半分冗談」
もう半分は冗談でないと。
どうなっているんだ。悪酔いしているのかと思いたいところだが、二日酔いに似た症状が多少あるだけで体調はそう悪くない。
「あのクロエ・フレーザー本人に会えるなんて、光栄だわ。戸惑ってる顔もかわいいわね」
「ありがとう――? あなたも同じ顔だけど?」
「わたしはカチャ・ファンデル・ホルスト。医師よ」
カチャがベッドに横たわるクロエにも見えるようモニターに自身のデバイスの画面を映した。
カチャ・ファンデル・ホルスト=CF
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