26 / 53
惑星ヴァージャ (一)
しおりを挟む* * *
スタージョは惑星キャンビアにたどり着いた。
地球人類が宇宙に進出し築いた植民エリアのなかでも最奥部への入り口、ハブにあたる星だ。スペースポートで籍を連絡船から惑星キャンビアに移し、滞在許可を得て地上へ降りる。
今回は難儀しそうだ。
――どうしたものか。
ラーシュ・オリジナルの籍は同じ惑星キャンビアにあった。登録日付は地球時計で三年前。これまで数十年、百年単位で眠りに就き移動してきたことを考えるとニアミスといっていいほどの接近だ。しかし、スタージョの顔色は冴えない。デバイスに、いつもなら届くはずのオリジナルとおぼしき人物からのメールがなかった。次にどこへ向かえばいいのだろう。
おそらく、ラーシュ・オリジナルはこの星にいない。
ではどこに?
クロエが次に向かいそうなのはいったいどこだ? この広い宇宙のどこを探せばよい?
――オリジナルはあんたを利用するだけ利用して、使い途がなくなったらほっぽり出すつもりなのさ。
黒衣の女の言葉が暴れまわるように脳内をこだまする。スタージョは力なく頭を振り、女の声を打ち消した。
ここから先、自分で情報を集めなければならない。
植民エリア最奥部のハブとなっているだけあって、惑星キャンビアには船や物資、人が集まる。アースポートも賑わっていた。
スタージョが駅前広場の隅で地球時計をぼんやり眺めていると
「ラーシュ・ヨハンソン」
声をかけられた。
生を享けて三百年。スタージョをラーシュ・ヨハンソンと呼ぶのは惑星や連絡船の入管窓口係員を除けばくだんの女だけだ。体温が低そうな白い肌に黒髪、黒い目、服も黒ずくめで唇だけが別の生きもののように赤い。
黒衣の女が
「こっち、来なよ」
手招きをする。
「呼ばれたからってほいほいついて行くと思われているんなら心外だな」
「いいから。――早く」
女が黒々とした目を尖らせた。広場に建ち並ぶ商館の間、暗い路地へいざなわれる。
「なあ、きみ。おれは忙しいんだ。こんなことはもう――」
「ほんとに? オリジナルからメールも届かないのに?」
言い当てられてスタージョは言葉を失った。
「どうして届かないんだと思う?」
「それは――」
「あたしらはもう、用済みだからさ」
身を寄せてきた女が低く蠱惑的な声で囁く。体温が低そうな白い肌をしているのに、黒衣越しの体が熱いことを知っている。後ろめたさにスタージョは足をもつれさせて女から離れた。
「おれ、たち?」
「ラーシュ・ヨハンソン、あんたはもうクロエ・フレーザーを探さなくていい。――これから」
女がしがみついてくる。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる