南京錠と鍵

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ラーシュ (十)

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 目覚めたラーシュ・ヨハンソンは解凍されたポッドからゆっくりと体を起こした。身支度を整える。
 冷凍睡眠ポッド格納庫の地球時計によればクロエと離ればなれになってからもうすぐ三百年だ。長いながい旅の間にラーシュが目覚めたのは四度。前回、前々回とセシル・コピーと顔を合わせる機会がなかった。ラーシュが目を覚ますころにはセシル・コピーが調査を終え、調査と財務関連の報告書とスタージョへ送る座標のリストが置いてある。そして姿を現さないセシル・コピーはすでに冷凍睡眠ポッドに入ってしまっている。

――なぜだ?

 せない。
 セシル・コピーとの間柄は友人とは言い難い。ラーシュは友人でありたいと願ったがセシルが

――ラーシュ様を支えるようにと、亡くなった旦那さまからのおいいつけですので。

 勝手に線を引くのだ。どうもラーシュを次のあるじだと考えているらしく、まめまめしく世話を焼く。先に冷凍睡眠ポッドに入る際もセシルは医療技術者や部下などへの引き継ぎを完璧に整えていた。

――おかしい。

 いくらセシルが勝手に上下関係だと決めてかかっているとしても、覚醒時に顔を合わせない理由にはならない。

――問い詰めてやる。

 ラーシュは策を講じることにした。覚醒を早めたのだ。
 前回のコールドスリープ時にこっそりと、しかし強く技術者に頼んでおいたのが奏功したか、船は植民星に到着してあまり時間が経っていないようだ。ラーシュはそっと冷凍睡眠ポッド格納庫から脱け出した。

「――集まった情報はこれだけか」

 船内の一室から聞き覚えのある不機嫌そうな声が聞こえてくる。

「す、すみ、ません」
「責めているのではない。いくら集めても現時点ではこれが精いっぱいだとわたしにも分かる」

 重いため息に声が曇った。

「オリジナルが本気でお嬢を隠している……。状況が悪化しているのか、または……」
「あ、あのっ、提案があり、ます!」
「聞こう」
「滞在を延ばしませんか。この惑星には義体専門のいい医者がいると聞きました。ぜひ診察を――」
「いや、駄目だ。先を急ぎた――」

 部屋に踏みこんでラーシュは驚いた。資料から顔を上げたセシル・コピーの丸くみはられた目は片方だけだった。もう片方は眼帯に隠れている。それだけではない。シャツの左袖からのぞく手は金属製だった。
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