24 / 53
ラーシュ (十)
しおりを挟む目覚めたラーシュ・ヨハンソンは解凍されたポッドからゆっくりと体を起こした。身支度を整える。
冷凍睡眠ポッド格納庫の地球時計によればクロエと離ればなれになってからもうすぐ三百年だ。長いながい旅の間にラーシュが目覚めたのは四度。前回、前々回とセシル・コピーと顔を合わせる機会がなかった。ラーシュが目を覚ますころにはセシル・コピーが調査を終え、調査と財務関連の報告書とスタージョへ送る座標のリストが置いてある。そして姿を現さないセシル・コピーはすでに冷凍睡眠ポッドに入ってしまっている。
――なぜだ?
解せない。
セシル・コピーとの間柄は友人とは言い難い。ラーシュは友人でありたいと願ったがセシルが
――ラーシュ様を支えるようにと、亡くなった旦那さまからのおいいつけですので。
勝手に線を引くのだ。どうもラーシュを次のあるじだと考えているらしく、まめまめしく世話を焼く。先に冷凍睡眠ポッドに入る際もセシルは医療技術者や部下などへの引き継ぎを完璧に整えていた。
――おかしい。
いくらセシルが勝手に上下関係だと決めてかかっているとしても、覚醒時に顔を合わせない理由にはならない。
――問い詰めてやる。
ラーシュは策を講じることにした。覚醒を早めたのだ。
前回のコールドスリープ時にこっそりと、しかし強く技術者に頼んでおいたのが奏功したか、船は植民星に到着してあまり時間が経っていないようだ。ラーシュはそっと冷凍睡眠ポッド格納庫から脱け出した。
「――集まった情報はこれだけか」
船内の一室から聞き覚えのある不機嫌そうな声が聞こえてくる。
「す、すみ、ません」
「責めているのではない。いくら集めても現時点ではこれが精いっぱいだとわたしにも分かる」
重いため息に声が曇った。
「オリジナルが本気でお嬢を隠している……。状況が悪化しているのか、または……」
「あ、あのっ、提案があり、ます!」
「聞こう」
「滞在を延ばしませんか。この惑星には義体専門のいい医者がいると聞きました。ぜひ診察を――」
「いや、駄目だ。先を急ぎた――」
部屋に踏みこんでラーシュは驚いた。資料から顔を上げたセシル・コピーの丸く瞠られた目は片方だけだった。もう片方は眼帯に隠れている。それだけではない。シャツの左袖からのぞく手は金属製だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
後悔と快感の中で
なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私
快感に溺れてしまってる私
なつきの体験談かも知れないです
もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう
もっと後悔して
もっと溺れてしまうかも
※感想を聞かせてもらえたらうれしいです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる