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スタージョ (四)
しおりを挟むメールに示されていた惑星に着くと、デバイスにオリジナルとおぼしき人物からのメールが届く。たまに口座に金が振り込まれていることもあった。慎重に渡航計画を立てて中継地点を設け連絡船に乗り冷凍睡眠処置を受けて旅をする。
――直接向かわないほうがいいような、気がする。
厭な勘は当たるものだ。
とある辺境の植民星で連絡船の到着を待つ間、スタージョは滞在許可を得て惑星行政府の依頼で診療所の手伝いをするためにスペースポートから地上へ降りていた。
この植民星は温暖だったころの地球と似ているらしい。
さんさんと降りそそぐ陽光を奪い合うように高い場所に広がり重なる緑の林冠。幹や枝を行き来する小さくすばしっこい獣。しかしテラフォーミングを幾度繰り返しても惑星原生生物が勢いを盛り返す。当初、地球の――人類にとって住みやすかったころの――環境を再現することを目標にしていた惑星行政府もテラフォーミング事業の方向を変えざるを得なかった。今は妥協ラインを探っているところだという。
森の端、ねっとりとした暑熱に包まれた診療所に大人に付き添われて子どもたちがやってきた。氷に鎖され人を寄せつけぬ星と化した地球から遠く離れたここで、古い地球の祭りが再現されていた。
「トリック・オア・トリート!」
「お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ!」
吸血鬼や魔女、フランケンシュタインや骸骨、妖精など惑星原生植物繊維でつくられたコスチュームに身を包んだ子どもたちがはしゃぐ。
「お菓子をあげようね」
オレンジのリボンに蝙蝠のチャームがついた菓子の包みを手渡すと、魔女の仮装をした少女が
「この黒いの、なーに?」
首を傾げた。
「蝙蝠っていうんだよ」
「こーもり?」
こーもりこもりこーもり、と口ずさむように繰り返して少女は黒いチャームを指差す。
「翼があるのね。鳥さんなの?」
「鳥の仲間ではないけど、空を飛ぶんだ」
スタージョは蝙蝠を見たことがない。それでもラーシュから図鑑や記録映像で蝙蝠の姿を見た記憶を受け継いでいた。
「どうやって飛ぶんだろ。見てみたいな」
ぱたぱたと両手を翼に見立て羽ばたく仕草をして少女がスタージョを見上げはにかんだ。
「お祭りにいくわよー!」
他の兄弟をつれた母親が少女に声をかける。診療所の待合室で立ち上がりしゅば、と母親のもとへ向かう姿勢をとりかけて少女がスタージョを振り向いた。
「せんせー、きれいなおめめね」
ひと言残すと満足したらしく、菓子の包みを手にぱたぱたと駆け出す。
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