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国立魔法兵士学園編

第10話 憩い

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「みんなー!お待たせ!」

 扉を開けると早々にアカネは元気な声を出して自分の到着を知らせた。

「あ!きたきた!早くこっち来てよ!アカネ!」

「うん!あ、カナタ君も!今日は楽しんでね!」

 そう言うとアカネは奥のテーブルへと駆け寄り、5、6人で構成されたメンバーと談笑を始めた。

「これ、僕来てよかったのかな‥‥」

「何言ってんだよ?お前だって選抜メンバーだったんだから、いて当然だぜ?」

 呆然として立ち尽くしていると、背後からガタイのいい男性に肩を組まれる。ギョッとして振り返るとそこには頬や腕に絆創膏を貼り付け、なんとも痛々しい格好をしたハルクだった。

「え、ハルク君。びっくりしたなぁ。誰かと思ったよ」

「誰かとは失礼な奴だなぁ。同じ死戦を潜り抜けた仲じゃねぇか。なぁ兄弟?」

これが陽キャの絡みというやつだろうか。とてもじゃないが今の僕には高レベルすぎて対応できない!

「つーかさ、前々から思ってた事があるんだけどよぉ」

 先ほどより肩を組む力を強くし距離を詰めると、周りに聞こえない声でボソボソと喋り始めた。

「お前アカネちゃんに目かけられてね?つか、ぶっちゃけどういう関係なんよ?」

「は?アカネと僕が?どういう関係も何も——」

「だっておかしくね!?アカネちゃんってたしかに分け隔てなくクラスメイトに優しいけどさ、お前にだけ度が過ぎてると思うんよ。寮監の許可まで取ってお前を呼びにいくか?」

 互いに異性の部屋に行くには寮監の許可を取らなくてはいけない。それも何時から何時までの申告制で理由も用紙に書く必要がある。たしかに面倒な手順ではあるのだが、アカネの場合はイレギュラーなところがあると思っている。

「アカネって多分自分よりみんなを大切にする性格だからさ、こんな僕にも参加して欲しくて来てくれたんじゃないかな?」

 実際この可能性が1番高いと思う。もしそれ以外だとしたらもうそれはアレしかない。けど、それは絶対に起こり得ないものだから自然的に消滅する。

「いやーだとしても‥‥」

「テメェが弱いからじゃねぇのかよ。カナタよぉ」

「げっ」

ハルクが顔を歪ませながら振り返ると、そこには先ほどまで大広間にいなかったクラスメイト。鈴鹿とラムの2人が僕とハルクが話す一番近い席に座っていた。

「ていうかハルク。どうしてテメェがこんな無能雑魚と一緒にいんだ?まぁオメェも実際権能持ってんのに使わないで逃げるだけのクソ雑魚だから一緒だけどよぉ」

「‥‥っ!!そ、そういう龍平こそ、レオナちゃんにボコボコにされてたじゃねぇか。まぁしゃーなしか。強い権能も上手く使えなきゃ意味ねぇもんな?」

 一度舌を打つ音が聞こえると、周りの食器の金属音を立てるとともに鈴鹿は勢いよくその場に立ち上がった。

「んだと、テメェ!!」

「待ってって!龍平!!ここでやんなくたっていいだろ!!」

 次なる行動を予見し、すぐさま止めに入ったラムは鈴鹿の右腕を抑えた。

「黙ってろラム。こういう舐めた野郎は力づくでわからせてやった方がいいんだよ!」

暫くしてラムの制止を振り切ると、ズカズカとハルクの元へと大股で歩み寄る。

「はーいストップ。そこまでだよ龍平君」

俺とハルクに背を向けて、鈴鹿の正面に立ったのはアカネだった。

「どけよアカネ。テメェも殴んぞ」

「席に座って龍平君。そうやってすぐカッカと熱くなるのは君のよくないところだよ?」

アカネは鈴鹿の至近距離まで詰めると、人差し指を鼻に当てて制止した。

「‥‥チッ。テメェはやりにくいんだよクソが。おいハルク!今日はアカネは免じて許してやんが、今度煽って来たらぶち殺すからな!覚えてやがれ!」

そう言って鈴鹿は踵を返して元のいた席へと戻る。ラムは一度苦笑いした顔をこちらに見せると鈴鹿の横へと着席した。

「い、いやぁ~ビビったビビった。マジ殺されんのかと思ったぜ‥‥」

「じゃあ、なんであんなこと言ったんだよ。僕まで殺されると思ったし、なんならまだ心臓ドキドキしてるし‥‥」

「いや、俺決めたんだ。あいつと一緒に居ても、従順なままでいてもずっと今の俺のままだって。今よりもっと強くなって‥‥今日レオナちゃんに助けて貰った分、いつか必ず俺が守ってあげるんだって!そう決めた!」

 誓いを立てる男、ハルクの目には何か熱く光るものを感じた。俺が微笑ましくその姿を見ていると、後ろから妙な気配を感じた。

「なーに話してるの?2人とも」

部屋に訪れた時同様、アカネは顔をひょっこりと出しては赤毛のツインテールを揺らしながらこちらを伺う。

「いや、ハルク君が————」

「アカネちゃん!やっぱり女の子が男に守られるっていいとカッコいいと思わん!?」

 いきなり僕の肩を弾き飛ばすと、澄み切った空気を吹き飛ばす勢いの大声量が放たれた。目の前でそれを喰らった僕とアカネはたまったもんじゃない。

「え?あ、うん。かっこいいと思う、よ‥‥」

 もはや回答の是非はどうでもいい。アカネは反射的に耳を塞ぐと自らの鼓膜を防衛した。

「やっぱそうだよなぁぁ!?いやー、困ったなぁ」

 何が困るのだろうか。そう突っ込まずには入れられなかったが、出かかった台詞を喉元で押さえつけた。

「おい!ハルクテメェうるせぇぇぞ!!」

 それはテーブルで肉を噛みちぎっていた鈴鹿の怒声だった。ただ今回ばかりはクラスメイト全員総出の意見であったため、俺やアカネは深く頷き共感の意を示した。

「アーカーネ!」

 するとクラスメイトのエリサが、アカネの背中目がけて突撃して来た。

「わっっ!エリちゃん!?」

「やっほ!あ、カナタ君も!」

 僕に一度目を合わせると、エリサはウインクして見せた。少し心臓がドキッとなり、急いで視線を外す。

「どーしたの?エリちゃん」

「みんなで持ち寄った食材やお菓子が終わっちゃいそうでさー、誰か買い出しに行ってほしいなーって思って‥‥」

「それで私に頼みに来たのー?」

「いつもみたいに権能使わないでいいからさ!ほら!アカネ今日試合で疲れてるし!」

 なら別にアカネに限らなくてもいいじゃないのだろうか。などとクエスチョンマークを頭に浮かべていると、エリサが口角を上げてこちらに振り向く。

「でもさ、ボディガードがいれば話は別じゃない?ね!カーナーター君?」

「はい?僕ですか?」

「え!?な、なななんでカナタ君なの!?」

 アカネさん‥‥いくら僕が弱くて頼らないからってそんなに嫌そうにしなくても‥‥

「んー?別にー?ただ隣にカナタ君が居てたまたまボディガードとしてうってつけかなーっと思って」

 悪戯そうに笑う彼女はなんやら企みがあるのか、先ほどからニヤついた卑しい笑顔を解こうとしない。

「そういうことなら俺が行こっか?エリちゃん?」

 と、先ほどから展開を黙って見届けていたハルクが颯爽と僕とアカネの間を断ち切って登場する。

「俺ならカナタよりは強いし、頼りになるボディガードに————」

「あんたは黙ってて」

「え、いや————おう‥」

 潔く登場してくれたのにも関わらず粗末な扱いを受けたハルク。僕に比べて扱いが雑な気がする。

「さ!お二人さん仲良くいってらっしゃーい!門限まであと1時間切ってるから急いでね!」

そうしてエリサが僕たちの背中を押して無理やり部屋から追い出そうとすると、再び後方から聞き馴染んだ怒声が飛んでくる。

「おい待てやこら!!」

「え、鈴鹿君?」

ズカズカと大股で踏み込んでくる鈴鹿。今度は一体何にご立腹なのだろうか。

「カナタ1人じゃ何かあった時なんも出来ねぇだろうが」

「何かって‥‥そんな戦場に行くわけじゃないんだから‥‥」

 怪訝した表情を浮かべるエリサ。大体この先の展開が読めてしまうのが嫌でしょうがないのだろう。

「俺が行く。丁度店で買いたいものもあるしな。カナタテメェは引っ込んでろ!」

「ちょっと!カナタとアカネのセットは必須なんだから!アンタは————おまけ!そう!ついてくるにしても黙って後ろからついて行けばいいの!」

「はぁ?何言ってんだテメェ‥‥まぁいい。さっさとついてこいや」

 威張り散らしながら台詞を吐くと、鈴鹿は大広間の扉を開けて1人で玄関に向かった。

「まったく‥折角アカネにチャンスあげたかったのに‥‥ほんとごめんね?」

「だから!なんで私に謝るの!?」

どうしてそんなに動揺しているのだろうか。いまいち現在の状況が理解できないが、僕はアカネと共に鈴鹿を追いかけて、目的地である店へと向かった。


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