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第一部 アリア編
運命の出会いでした(アリア談)
しおりを挟むその男性は魔王城の門前に立ちはだかり、勇者パーティにひとりで対峙していた。
一対十二と多勢に無勢だが、慌てる風でもなく、かといって傲り高ぶってもいなかった。
冴えざえとした冷徹な眼差しで、侵入者である勇者一行を睥睨している。
目があった瞬間にアリアの胸のなかで何かが爆発した。
衝撃に身をよろめかせ、ドクドクとまるで太鼓のような鼓動に身を折る。
息が苦しかった。
そして目が離せなかった。
長身で引き締まった体つきの男性だった。
長く艶やかな黒髪が風になびいて、優雅さと気品に満ち溢れていた。
その手触りを確かめたくて手がうずくほどに。
切れ長の瞳を勇者にひたと据えた男性が名乗った。
この世界を統べる魔王であると。
「えええええええええ!」
突然叫びだしたアリアにそばに立つ召喚士がビクッとした。
「ど、どうしたんで」
「なんでもないです!」
食いぎみに返事をし、アリアはギリギリと歯軋りした。
あの男性が、魔王。
そうかしら? とは思ったけれどやはりそうだった。
アリアは愕然とした。
はじめてこの胸を高鳴らせた奇跡のひとを、いまから倒すというの?
やっと出会えた血沸き肉踊る超絶イケメンを……?
アリアの葛藤などしらぬ勇者が、魔王を名乗る男性に長々と口上を述べている。
黙って腕を組み耳を傾ける魔王はどこかつまらなそうだった。
このあとの展開はわかっていた。
「いまから貴様を倒す! 世界に平和をもたらすために!」
抜き身の長剣をジャキッと構え、勇者が威勢良く決まり文句を言い放つと、それを合図に召喚士が呪文の詠唱をはじめ、戦士たちが闘気を高め肉体を強化し乱闘が始まるのだ。
──そうはさせない!
「いまから」
勇者が予想通りのセリフを言い始めた瞬間、アリアは地を蹴った。
魔王と勇者パーティの間に躍り出るとくるりと振り向き、誰よりも早く詠唱を終えて仲間たちを大きな球体に包み込む。
驚愕の面持ちの一同を、続けて繰り出した移動魔法で魔界から人間界へと弾き飛ばした。
そして持てる魔力のすべてをふりしぼり、結界を張り直した。
誰も向こう1000年は破れないような強固な結界を結び、力尽きたアリアはその場にへたりこんだ。
そこへ魔王が静かに歩み寄ってきた。
「己を犠牲にして仲間を守ったか」
「いえ、ちょっと邪魔だったので…」
「なに?」
「はっ、あのっ、なんでも///」
魔王にまじまじと見つめられてアリアの顔がみるみる赤く染まっていく。
「なんだその顔は」
奇異なものを見る目付きで魔王が一歩後ずさる。…なんだか嫌な予感がする。
そんな彼の足にアリアがひしっと抱きついた。
「あの、どうか私をお側においてください!」
「なんだ貴様は。放せ! 何を企んでいる!」
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「帰れ!」
「もう帰れません! なので今日から住み込みのメイドになります!」
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