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本編
ランスロットへの戸惑い
しおりを挟む部屋に戻ると浴室からかぐわしい花の香りが漂ってきた。エルザお得意のローズ・バスだ。
湯の準備をして待っていた二人の侍女と共に体を清めた。
「ランスに夫になるためなら騎士をやめてもいいと言われたのだけど、どう思う?」
「ええっ!」
「あら~」
「なんかポリシーなくて嫌なんだけど。そんな風に思っちゃ悪いかしら」
湯を掬い上げ肩にかけるとローズマリーは胸のもやもやについて二人に話した。
ランスロットに言われてなんだかな、と思ったことだった。
「それくらい姫様のことを想っているということでは?」
「でもずっと任地を転々としてたのよ? その間音信不通だったのよ。10年ぶりの再会相手にそんな風に言われてもピンとこないわ」
「今宵の宴でどなたかビビビときたりは……しませんでしたね。はい」
女主人の顔色をうかがいつつアリッサが苦笑する。ローズマリーは盛大なため息をついた。
「あーもう、夫選びって面倒くさい……」
「ならランスロット様にお決めになられたらよろしいですよ~」
「そうですね。少なくとも今日あの場にいた男性諸君よりはマシかもです」
「だれも姫様に大丈夫ですかってお声がけしませんでしたものね~」
言われてみればそうだ。
ヴァネッサに抱き上げられ急な吐き気に見舞われて、ローズマリー自身はそれどころではなかったけれど、たしかに誰も心配してはくれなかった。
端から見れば寂しいことだ。
ランスロットがあの場にいたらどうだっただろうと考えてみた。
きっとヴァネッサが行動を起こすより先に連れ出してくれたはずだ。
気分が悪いそぶりにも引かずに対応してくれたはず。
彼にはそういう肝の座った部分がある。
よし、とローズマリーは浴槽から勢いよく立ち上がった。
「もう少しちゃんとランスと話してみるわ」
※ ※ ※
王女が就寝の準備を済ませる頃。
ランスロットは晩餐会場とその周辺の見回りを行っていた。
「さっきのあれはなんなんだ」
片付けに忙しく立ち動く人々を避けながら、ヴァネッサがやってきた。
鋭い視線に周囲の人々は怯えたように離れていく。
「目覚めの儀式だ」
「ふざけるな。騎士をやめるという話の方だ!」
「やめはしない。指導騎士になるというだけのことだ」
「お前はそれでいいのか!」
激昂する相手から視線をはずし、部下を呼び寄せ指示を与えるとランスロットはヴァネッサをバルコニーへと誘導した。
「いいもなにも俺は騎士という立場に未練はない。あの方を得るための踏み台のようなものだしな」
「な」
「任地を転々とし、騎士としての階級を上げるべく修行に明け暮れたのはそれが王都へ……あの方のそばへ戻るための条件だったからだ」
「条件?」
ランスロットは頷いた。
「十年前に俺は王と約束を交わしたんだ」
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面白い🤣
続きがとっても気になります!今からランスロットがどう動くのか楽しみです!
読んでいただきありがとうございます♪
ランス静かにおこですね♡
ご感想ありがとうございましたm(._.)m