麗しの騎士は王女さまをひとりじめしたいっ

アクアマリン

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本編

夜の庭園

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なぜこんなことになったのだろう。


宵闇に沈む庭園の一角。
東屋ガゼボのベンチソファにローズマリーはその身を横たえていた。
月明かりのないこんな夜は回廊を行き交う人もなく、まるで世界に二人だけ取り残されたようだ。

「ランス……怒ってるの?」

「はい。怒っております」

真面目な顔で見下ろすランスロットにローズマリーは困っていた。

背もたれと座面に腕をついたランスロットが、身を乗り出すようにしているため起き上がることができない。

はじめは隣同士で座っていたのだが途中からなぜかこの姿勢になってしまった。
晩餐会の食事と大勢の人に囲まれた疲れで、だんだんまぶたが重くなってくる。

「どうして?」

「どうして、とは」

「どうして夫候補からランスを除外しちゃいけないの? 自分の夫は自分で決めたいわ」

至極まっとうなその意見にランスロットはぐっと詰まった。

「……理由をお聞かせ願います」

「だって、あなた騎士なんですもの」

「騎士ではなぜ駄目なのですか」

「任地を移動するかもしれないでしょう? 私は王都を離れたくないの」

「ならば騎士はやめます」

「えっ?」

「指導部に転属し、後継の育成に努めます。任地もわからず命の危険も減ります。それなら納得していただけますか」

「えーと……たぶん」

「たぶん?」

そっと頬を撫でられて、あまりの心地よさに目を閉じた。

「姫様、寝ないでください」

「だって気持ちい……」

うっとりと答えると唇になにか柔らかいものが押し当てられた。

「?」

うっすら目を開けるのとパシッと音がしたのは同時だった。

「そこまでだ」

凛とした声のヴァネッサが剣の柄を差し出し、それを顔の横で片手でランスロットが受け止めている。

「なにしてるの?」

きょとんとした王女の声にヴァネッサが咳払いをした。

「姫様、起きてください。お部屋に戻りますよ」

「はあい」

よいしょ、と起きるとローズマリーはランスロットに向き合った。

「さっきの騎士をやめるというのは本気なの?」

その言葉にヴァネッサがさっとランスの顔を見た。
それに動じずランスロットはローズマリーをひたと見つめる。

「それで夫として認めていただけるのなら私に迷いはありません」

「わかったわ。少し考えて答えを出します」

「は」

その場に膝をつくランスロットに背を向け、ローズマリーはヴァネッサをしたがえて自室に戻った。
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