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本編
晩餐会
しおりを挟む王女の成人を祝う晩餐会が開かれた。
選任騎士の叙勲と誕生を祝うための宴だ。
上座で父王とならんで席につくローズマリーは首をかしげていた。招待客はなぜか男性ばかりで、女性がひとりも見当たらない。
斜め後ろに控えていたアリッサが「リストの男性たちですよ」と耳打ちしてきた。つまりは祝いと称したお見合いパーティーだと。
「でもランスがいないわ」
無意識のうちにあの無表情を探すが、今度は反対側からエルザが「姫様が除外したからですよ~」と言う。急に心細くなり、ローズマリーは後ろを振り返った。
そこにはさきほど叙勲式を終えたばかりのヴァネッサが立っている。傷ひとつない白銀の甲冑に真っ白のマント姿の美女だ。
すらりと背が高く、鋼のように鍛えられた体をしている。
プラチナブロンドの髪は男性のように短く、アイスブルーの意思の強い眼差しが凛々しい。
初対面で専任騎士を打診するという王女の暴挙を笑って受け入れてくれた懐の広さに、ローズマリーはすぐにヴァネッサが大好きになった。
女性ながらあまりのイケメンぶりに王女と二人の侍女はしばしポウッとなったほどだった。
いまもこちらの不安を吹き飛ばすかのような爽やかで力強い笑みを向けてくる。
「いかがかなさいましたか?」
「ううん、なんでもない」
ほんのり頬を染めて微笑む娘に王が破顔した。
「なんだ姫よ、その様子なら婿など必要なさそうだな」
「そ、そんなこと……。お父様は私に結婚してほしいのですか、ほしくないのですか。勝手に婿を募集したくせに一体どちらなんです」
「それは決まっているだろう。結婚してほしくはない。ずっと手元に置いておきたいさ。……でもお前の子は見たい」
きっとどの孫より可愛いに違いない、と存在すらしていない架空の孫にデレる父にローズマリーはあきれた。侍女二名も同様である。
晩餐会の途中で「明日の政務がなんちゃらかんちゃら」と意味不明な言葉を残し王が退席すると、招待客が我先にと話しかけてくる。
王女の後ろの専任騎士を気にしてか一応礼節を保った距離はあけてくれているものの、家族以外とはあまり接する機会のなかったローズマリーは数人に囲まれただけで息苦しさのあまり吐きそうになった。
もう自室に帰りたくてたまらない。助けを求めて侍女たちを近くに呼び寄せた。
「気分が悪いから退席したい」と伝えるとアリッサは「食べ過ぎじゃないですか? お見合いなのにあんなに召し上がるなんて……」と半目で言い返してくる。
今度はエルザに向き直り「コルセットをゆるめて」と頼むと「せっかく作った谷間が平地になってしまいます~」と笑顔で拒否られた。
涙目で最後の砦・ヴァネッサを見つめると、力強く頷きさっと横抱きに抱き上げてくれた。
突然の事に胃に圧がかかり冗談ではなく「うっ」と口を押さえると、周囲にいた男性たちが一斉に引いて輪がさぁっと広がった。
「気分が優れないのですね、では退席しましょう。諸君、悪いが今夜の晩餐はこれで」
誰にも何も言わせない颯爽とした空気をまとい、ヴァネッサがスタスタと会場をあとにする。
王女の湯あみの支度のため侍女二人は先に部屋に戻った。
「姫様、部屋までもちますか。少し夜風にあたられませんか」
「……そうね、ちょっと新鮮な空気が吸いたいわ。二酸化炭素を吸いすぎたもの」
庭園のなかほどにある東屋にやってくると、ベンチソファに下ろされた。大きく深呼吸しているとヴァネッサが「飲み物を取ってくる」と言って姿を消した。
すぐに戻りますという言葉の通り、足音が近づいてくる。
早かったのね、とローズマリーが声をかけると「そうですか」と返事があった。
だがそれはヴァネッサの声ではなくもっと低い男性の声だ。
( この声は…… )
振り向くとそこには、いつにもまして無愛想なランスロットが腕を組んで立っていた。
「なぜ私が婿候補から除外されたのか理由をお聞かせ願います」
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