麗しの騎士は王女さまをひとりじめしたいっ

アクアマリン

文字の大きさ
上 下
7 / 9
本編

晩餐会

しおりを挟む

王女の成人を祝う晩餐会が開かれた。
選任騎士の叙勲と誕生を祝うための宴だ。

上座で父王とならんで席につくローズマリーは首をかしげていた。招待客はなぜか男性ばかりで、女性がひとりも見当たらない。

斜め後ろに控えていたアリッサが「リストの男性たちですよ」と耳打ちしてきた。つまりは祝いと称したお見合いパーティーだと。

「でもランスがいないわ」

無意識のうちにあの無表情を探すが、今度は反対側からエルザが「姫様が除外したからですよ~」と言う。急に心細くなり、ローズマリーは後ろを振り返った。

そこにはさきほど叙勲式を終えたばかりのヴァネッサが立っている。傷ひとつない白銀の甲冑に真っ白のマント姿の美女だ。
すらりと背が高く、鋼のように鍛えられた体をしている。
プラチナブロンドの髪は男性のように短く、アイスブルーの意思の強い眼差しが凛々しい。

初対面で専任騎士を打診するという王女の暴挙を笑って受け入れてくれた懐の広さに、ローズマリーはすぐにヴァネッサが大好きになった。
女性ながらあまりのイケメンぶりに王女と二人の侍女はしばしポウッとなったほどだった。

いまもこちらの不安を吹き飛ばすかのような爽やかで力強い笑みを向けてくる。

「いかがかなさいましたか?」

「ううん、なんでもない」

ほんのり頬を染めて微笑む娘に王が破顔した。

「なんだ姫よ、その様子なら婿など必要なさそうだな」

「そ、そんなこと……。お父様は私に結婚してほしいのですか、ほしくないのですか。勝手に婿を募集したくせに一体どちらなんです」

「それは決まっているだろう。結婚してほしくはない。ずっと手元に置いておきたいさ。……でもお前の子は見たい」

きっとどの孫より可愛いに違いない、と存在すらしていない架空の孫にデレる父にローズマリーはあきれた。侍女二名も同様である。



晩餐会の途中で「明日の政務がなんちゃらかんちゃら」と意味不明な言葉を残し王が退席すると、招待客が我先にと話しかけてくる。

王女の後ろの専任騎士を気にしてか一応礼節を保った距離はあけてくれているものの、家族以外とはあまり接する機会のなかったローズマリーは数人に囲まれただけで息苦しさのあまり吐きそうになった。

もう自室に帰りたくてたまらない。助けを求めて侍女たちを近くに呼び寄せた。

「気分が悪いから退席したい」と伝えるとアリッサは「食べ過ぎじゃないですか? お見合いなのにあんなに召し上がるなんて……」と半目で言い返してくる。
今度はエルザに向き直り「コルセットをゆるめて」と頼むと「せっかく作った谷間が平地になってしまいます~」と笑顔で拒否られた。

涙目で最後の砦・ヴァネッサを見つめると、力強く頷きさっと横抱きに抱き上げてくれた。
突然の事に胃に圧がかかり冗談ではなく「うっ」と口を押さえると、周囲にいた男性たちが一斉に引いて輪がさぁっと広がった。

「気分が優れないのですね、では退席しましょう。諸君、悪いが今夜の晩餐はこれで」

誰にも何も言わせない颯爽とした空気をまとい、ヴァネッサがスタスタと会場をあとにする。
王女の湯あみの支度のため侍女二人は先に部屋に戻った。

「姫様、部屋までもちますか。少し夜風にあたられませんか」

「……そうね、ちょっと新鮮な空気が吸いたいわ。二酸化炭素を吸いすぎたもの」

庭園のなかほどにある東屋ガゼボにやってくると、ベンチソファに下ろされた。大きく深呼吸しているとヴァネッサが「飲み物を取ってくる」と言って姿を消した。

すぐに戻りますという言葉の通り、足音が近づいてくる。

早かったのね、とローズマリーが声をかけると「そうですか」と返事があった。

だがそれはヴァネッサの声ではなくもっと低い男性の声だ。


( この声は…… )


振り向くとそこには、いつにもまして無愛想なランスロットが腕を組んで立っていた。






「なぜ私が婿候補から除外されたのか理由をお聞かせ願います」





しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ
恋愛
アレクシアはこの一国の王妃である。だが伴侶であるはずの王には執務を全て押し付けられ、王妃としてのパーティ参加もほとんど側妃のオリビアに任されていた。 (私って一体何なの) 朝から食事を摂っていないアレクシアが厨房へ向かおうとした昼下がり、その日の内に起きた革命に巻き込まれ、『王政を傾けた怠け者の王妃』として処刑されてしまう。 そして―― 「ここにいたのか」 目の前には記憶より若い伴侶の姿。 (……もしかして巻き戻った?) 今度こそ間違えません!! 私は王妃にはなりませんからっ!! だが二度目の生では不可思議なことばかりが起きる。 学生時代に戻ったが、そこにはまだ会うはずのないオリビアが生徒として在籍していた。 そして居るはずのない人物がもう一人。 ……帝国の第二王子殿下? 彼とは外交で数回顔を会わせたくらいなのになぜか親し気に話しかけて来る。 一体何が起こっているの!?

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...