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本編
王女より乗り気な侍女と侍女
しおりを挟む婿の募集が打ち切られた朝、ローズマリーの専属侍女のアリッサが鼻息荒く豪語した。
「なんとかして立候補者リストを手に入れて参ります!」
「わぁ、アリッサさん頑張ってください~」
ぱちぱちぱち~と手を叩いて励ますのはもう一人の専属侍女・エルザだ。
三人はローズマリーの私室でブランチ中だった。
堅苦しいことを嫌う女主人の方針で、食事は共にとることになっている。
クルミのスコーンを手にローズマリーはため息をついた。
「そんなに何人もいるかしら…」
大々的に募集しておきながら立候補したのがランス一人だったらとんだ恥さらしだ。
ローズマリーは候補者の数はできれば知りたくないのだが、侍女たちは「そんなわけありません!」と妙に自信満々だ。
もういっそランスが夫でかまわない。
多少無愛想ではあっても誠実な人物だとわかっている。
知らない仲ではないし、彼は自分を邪険に扱わないと確信をもって言える。
「姫様、王から政略結婚の免除を言い渡されているのですよ? 王族で自由恋愛を許されるなんてすごいことです。そんな弱気ではもったいないですよ!」
「そうですよ~。素敵な殿方は国内外問わずたっくさんいらっしゃいすよ~」
「……なんでそんなに気合いが入ってるの、アリッサ」
「だって私は姫様専属侍女ですもの!」
くわっと目を見開くその目がメラメラと燃えている。
「嫁ぎ先にはご同行するのですもの! 未来の職場がどんな所になるかは姫様の選択次第なのですよ!」
「なのですよ~」
にこにこ同意する同僚にアリッサは怪訝な顔をした。
「エルザは関係なくない? 婚約者と来年挙式でしょう?」
「そうですけど~、通える範囲内でしたら結婚後も姫様の侍女は続けます~」
「まあ、嬉しいわエルザ」
「ですのでできれば王都内に新居を構えていただけたらと思います~」
「そうね~、じゃあその条件で探しましょうか」
「………それですと、ランスロット様は除外対象では?」
え? と首をかしげる女主人に、アリッサが続ける。
「ランスロット様は騎士です。今は王都勤めですが、また任地が変わられるかもしれません。その場合、既婚者は家族を連れて行くものですし」
「あら~、ではその時は私失業ですね~」
あっさり頷くエルザに「えっ? えっ?」とローズマリーは狼狽えた。このおっとりとした侍女はアリッサ同様彼女のお気に入りなのだ。手放すなんて考えられない。寂しすぎる。
そのとき脳内に天秤が現れた。
両の秤皿には無表情のランスロットとにこにこ笑顔のエルザがいる。
ぐらりぐらりと天秤が揺れ、ゴトン、とエルザの皿が地面にぶつかった。
ローズマリーはうん、と頷き二人に向き合った。
「なら私、ランスロットとは結婚しない。ついでに騎士とは結婚しません」
「姫様…」
「まだお決めになるのは早いですよ~」
「ううん、だってエルザの方が大事だもの」
きっぱりと言い切ると、アリッサを見据えた。
「立候補者のリストとやらを至急手に入れてきてちょうだい」
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