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本編
父と娘の夕食にて
しおりを挟む「選任騎士を誰にするか決まったのかい?」
夕食の時に父王に聞かれ、ローズマリーは目をあげた。ぼうっとしながら動かしていた手を止める。
カトラリーをメインディッシュに置き、ナプキンで口許をぬぐうとため息をついた。
「ヴァネッサを指名します。その前にランスにお願いしたら断られましたの」
ローズマリーの言葉に「はっはっは」と父は朗らかに笑った。
「あやつはローズの夫になりたいのだからな。はいとは言えんだろう。選任騎士と主人との恋愛は騎士道においてはタブーだからな」
「私の婿を募集しているというのは本当なのですか?」
当事者であるにも関わらず寝耳に水の話だった。
恨みがましく見つめる娘に父は苦笑した。
「許可もなく勝手をしたと怒っているのかい?」
「少し」
「政略結婚よりはいいだろう?」
ローズマリーは口を尖らせた。
「私では力不足ですか? お姉さま達のようにこの国のため、そして嫁ぎ先のためにその力を発揮することは無理ということですか?」
三人の姉はそれぞれ他国に嫁いだ。そのうち長女の相手は王太子だったため、いずれはその国の女王となる予定だ。
ローズマリーは七人兄弟の末っ子で、とくに甘やかされて育った自覚はある。
けれどもほかの兄弟同様この国や国民のためにこの身を捧げる覚悟はいつからか出来ていた。
なのに──
「──まるで無能の烙印を押された気分です」
娘の呟きに父は眉を下げた。
「そんなことはないよ。上の三人が嫁いだ所以外でめぼしい国はそうないんだ。無理して遠くの国へ行くことはないし、この国に残っても国民の力となることはできるよ」
「…そうですか?」
「そうとも」
「ではお相手は私が好きに決めてもよいのですか?」
その質問に父の口許がピクリとひきつった。
「どうかな。大事なローズのことだからね。私もしっかり見極めたいと思っているよ」
「つまりお父様が選ぶんですか?」
ローズマリーはため息を飲み込みつつ、質問を重ねた。この父はどうも昔から過保護でいけない。
今は亡き母にそっくりな自分を手元に残しておきたいだけなのだとわかっている。つまり婿には父にとって都合のよい人物が選ばれるのだろう。
見習い騎士で遊び相手だったランスロットがたった数年でその任を解かれ、以後僻地を転々とさせられたのは、ローズマリーと親しくなりすぎてはいけないと王が危惧したからだと侍女たちがうわさしていたのを耳にしたことがある。
王家御用達の学園にも通わせず、家族をのぞいては家庭教師と侍女以外接触させず、社交界デビューもしないまま、気づけば適齢期を過ぎてもフィアンセがいない。
それもこれも過保護な父や兄弟、そしてぼやぼやしていた自分自身のせいだ。
「だ、だだ、だれか心に思う相手がいるのかい…?」
ブルブル震える手に握られたフォークが皿に当たりカタカタと音が鳴っていた。それを目にしてローズマリーはまたため息をついた。
「いいえ。でもお決めになる時は私の意見も取り入れていただけたら嬉しいです」
「……………」
「お父様?」
「わ、わかった」
しぶしぶとだが了承してくれたことに満足し、ローズマリーはにっこり微笑んだ。
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