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本編
15年後の二人
しおりを挟む28歳のランスロットは20歳のローズマリーにとって、数年ぶりに会う幼馴染みであり、年の離れた兄であり、また、見知らぬ他人だった。
その日、ローズマリーは侍女にランスロットを部屋に呼ぶようにと言いつけていた。
各地を転々とし、約10年ぶりに再び王宮勤めとなったと風の噂で耳にしていた。
成人の儀を迎えるにあたって父王より「選任騎士を指名せよ」とのお達しがあり、昔馴染みの彼に頼もうと思ったのだ。
ノックのあとに名前を告げ現れた彼にはあの頃の少年の面影はどこにもなかった。
厳しい鍛練のすえ手に入れた頑健な体にステンレスの鎧をまとった立派なひとりの騎士だった。
けれど澄んだブルーの瞳は間違いなくあの当時のままで、ローズマリーは「久しぶりね」と微笑んだ。
そしてなんの前置きもなく言った。
「ランス、私の選任騎士になってくれる?」
無邪気なまでにシンプルな問いだった。
なのでその答えもいたってシンプルなものだった。
「申し訳ありませんがそれはできません」
ためらいもなくばっさりと斬られローズマリーはポカンとした。
二人が出会ったのは15年も前で、その頃のランスロットはまだ騎士見習いのヒョロリとした少年だった。当時から騎士になってとお願いしランスも了解してくれていたのに…。
予想外の答えに頭のなかは「?」でいっぱいだった。
「なぜだめなの?」
「なぜなら私がなりたいのは騎士ではなく夫だからです」
おっと?
「誰の」
「姫様のです」
ローズマリーは目をしばたかせた。私の夫…。
「えええええ!?」
「姫様に求婚したい者は明日の朝までに王に願いでよとの御布令が出されました。これから謁見を賜っておりますので失礼いたします」
「えっ、謁見?」
はい。と頷くランスロットはいつもの無表情だ。
整った顔立ちと相まって少し近寄りがたい雰囲気の彼は「麗しの騎士」という二つ名を持っている。
いまやご婦人がたに大人気の騎士らしい。
「これより姫様の婿に名乗りをあげて参ります。選任騎士にはヴァネッサを推薦します。女ですが誠実で腕もたちます。──では」
「ごきげんよう……」
堂々たる足取りで退出したランスを呆然と見送り、ローズマリーは頭を捻った。
───今のってもしかして
「プロポーズだったのかしら…?」
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