1 / 15
01 『愛してる』という嘘
しおりを挟む
――愛してる。その言葉をずっと信じていた。
王家に生まれた私は、隣国の宰相の息子であるリチャード様の婚約者に選ばれていた。
幼い頃から親に決められていた結婚。
「愛してるよ、エリザベス姫様」
彼はいつもそう言って、私に花を贈ってくれていた。
外へ出かける時も、いつも横を歩いてくれていた。
私とリチャードは18歳になり、もうすぐ婚約の儀を行うことになっていたのだけれど――ある日、聞いてしまった。
その日、リチャードと会う予定はなかったけれど、用事があったので父と共に宰相の家へ行った。
父の用事は思ったより長かった。
だから私はリチャードのところに会いに行こうと思った。
リチャードは何をしているだろうか、突然行ったら驚くかしら、と歌を口ずさみながら彼の私室に足を運んだ。
ドア越しにリチャードの声が聞こえた。
部屋にいるんだ。
私がドアを叩こうとした時、リチャードの言葉が聞こえた。
「愛してるよ」
――え?
今まで私に囁いてくれていた『愛している』の言葉が、なぜ部屋の中から聞こえてくるのだろうか。
そして、部屋の中からくすくすと笑う女性の声が聞こえた。
ノックしようとする手が止まった。
「でも、貴方には婚約者がいるでしょう?」
女性の声が聞こえる。
「あれは親同士が決めたものだから。本気じゃないよ」
リチャードの声が……聞こえる。
目元に涙が浮かんだ。
今まで囁いてくれていた『愛している』は偽りの言葉だったんだ。
確かに親同士が決めた結婚だけれど。
それでも、愛があると私は思っていた。
彼が『愛してる』と言ってくれていたから。
でも違った。
彼は他の女性を愛していたんだ。
私は涙を拭って、その場から逃げるように立ち去った。
私は三日三晩、ロクに食事をとらず、部屋に閉じこもっていた。
両親もメイドたちも心配してくれたけれど、大丈夫と笑って誤魔化せるほど私の心は強くなかった。
週に一回、かならずリチャードから手紙が届く。
けれど私はそれを読まずに捨てた。
どうせ偽りの『愛』の言葉が綴られているだけだろうから。
そうして二ヶ月が経過した頃、リチャードが城にやってきた。
今日は両親が出かけている日だった。
アポイントのない来客に、執事もメイドも大慌てでリチャードを招いた。
「姫様、リチャード様が来訪されています」
「いらない。断って」
「む、無茶を言わないでください」
執事長が慌てふためく。
でも私は彼の顔を見たくなかった。
――そのとき、びびびーんっと、頭の中に稲妻のような衝撃が走った。
それは別世界の思い出だった。
私はこんなファンタジーな家じゃなく、普通のOLとして東京で働いていた。
いわゆるブラック会社。薄給なのに終電で帰り、始発には家を出る。その繰り返しの日々だった。
けれどそんな私にも二つの癒やしがあった。
一つは大切な彼氏の存在。
もう一つは乙女ゲーム『ときめきファンタジア』
ゲームは何回も繰り返しやった。アップデートが頻繁にあって、新しいストーリーが頻繁に追加されていた。
何度もやりこんだ。
電車の中でも、家の中でも『ときめきファンタジア』は私に癒やしを与えてくれた。
内容はごく普通の女の子が王子様と結ばれる王道ファンタジー……と見せかけて、結構ハードなシナリオが多いものだった。
主人公の前にはライバルの女性や、嫌がらせをするモブ男子などがいたけれど、彼らにはエグい裁きがくだされていた。
裏切り者には、斬首、絞首、拷問などなど。
攻略対象はみんなヒロインにベタ惚れで、二人の世界に酔うことができる内容だった。
主人公はごく普通の女の子。
私は、一国の姫。
あぁ……頭の中で思い浮かぶ。
エリザベスはリチャードルートでヒロインの邪魔をするライバルキャラクター。
「リチャードは宰相の息子だけど、若いのに騎士団長に選ばれてる天才騎士で……うん、ここまでシナリオ通りだわ。でもリチャードって……確か裏表の激しいキャラで……」
記憶が濁流のように流れてくる。
「ヒロインのためなら何でもするキャラクターで……人を真正面から殺すこともあれば、スパイ行為や拷問、ハニートラップも平気で行う。ネットでは爽やかなのに腹黒キャラって話題に上がってて……」
そして今現在の記憶と一致する。
主人公は『ごく普通の女の子』
私は一国の姫。
「待って、待って……私、エリザベスなのよね。……ってことは、エリザベスの未来って……」
確か……思い出せ。思い出せ。
「……リチャードに拷問されて、国の秘密を吐かされて殺されるんだったわ!」
やっと思い出したリチャードルートの結末は、エリザベスにとって最悪な未来だった。
王家に生まれた私は、隣国の宰相の息子であるリチャード様の婚約者に選ばれていた。
幼い頃から親に決められていた結婚。
「愛してるよ、エリザベス姫様」
彼はいつもそう言って、私に花を贈ってくれていた。
外へ出かける時も、いつも横を歩いてくれていた。
私とリチャードは18歳になり、もうすぐ婚約の儀を行うことになっていたのだけれど――ある日、聞いてしまった。
その日、リチャードと会う予定はなかったけれど、用事があったので父と共に宰相の家へ行った。
父の用事は思ったより長かった。
だから私はリチャードのところに会いに行こうと思った。
リチャードは何をしているだろうか、突然行ったら驚くかしら、と歌を口ずさみながら彼の私室に足を運んだ。
ドア越しにリチャードの声が聞こえた。
部屋にいるんだ。
私がドアを叩こうとした時、リチャードの言葉が聞こえた。
「愛してるよ」
――え?
今まで私に囁いてくれていた『愛している』の言葉が、なぜ部屋の中から聞こえてくるのだろうか。
そして、部屋の中からくすくすと笑う女性の声が聞こえた。
ノックしようとする手が止まった。
「でも、貴方には婚約者がいるでしょう?」
女性の声が聞こえる。
「あれは親同士が決めたものだから。本気じゃないよ」
リチャードの声が……聞こえる。
目元に涙が浮かんだ。
今まで囁いてくれていた『愛している』は偽りの言葉だったんだ。
確かに親同士が決めた結婚だけれど。
それでも、愛があると私は思っていた。
彼が『愛してる』と言ってくれていたから。
でも違った。
彼は他の女性を愛していたんだ。
私は涙を拭って、その場から逃げるように立ち去った。
私は三日三晩、ロクに食事をとらず、部屋に閉じこもっていた。
両親もメイドたちも心配してくれたけれど、大丈夫と笑って誤魔化せるほど私の心は強くなかった。
週に一回、かならずリチャードから手紙が届く。
けれど私はそれを読まずに捨てた。
どうせ偽りの『愛』の言葉が綴られているだけだろうから。
そうして二ヶ月が経過した頃、リチャードが城にやってきた。
今日は両親が出かけている日だった。
アポイントのない来客に、執事もメイドも大慌てでリチャードを招いた。
「姫様、リチャード様が来訪されています」
「いらない。断って」
「む、無茶を言わないでください」
執事長が慌てふためく。
でも私は彼の顔を見たくなかった。
――そのとき、びびびーんっと、頭の中に稲妻のような衝撃が走った。
それは別世界の思い出だった。
私はこんなファンタジーな家じゃなく、普通のOLとして東京で働いていた。
いわゆるブラック会社。薄給なのに終電で帰り、始発には家を出る。その繰り返しの日々だった。
けれどそんな私にも二つの癒やしがあった。
一つは大切な彼氏の存在。
もう一つは乙女ゲーム『ときめきファンタジア』
ゲームは何回も繰り返しやった。アップデートが頻繁にあって、新しいストーリーが頻繁に追加されていた。
何度もやりこんだ。
電車の中でも、家の中でも『ときめきファンタジア』は私に癒やしを与えてくれた。
内容はごく普通の女の子が王子様と結ばれる王道ファンタジー……と見せかけて、結構ハードなシナリオが多いものだった。
主人公の前にはライバルの女性や、嫌がらせをするモブ男子などがいたけれど、彼らにはエグい裁きがくだされていた。
裏切り者には、斬首、絞首、拷問などなど。
攻略対象はみんなヒロインにベタ惚れで、二人の世界に酔うことができる内容だった。
主人公はごく普通の女の子。
私は、一国の姫。
あぁ……頭の中で思い浮かぶ。
エリザベスはリチャードルートでヒロインの邪魔をするライバルキャラクター。
「リチャードは宰相の息子だけど、若いのに騎士団長に選ばれてる天才騎士で……うん、ここまでシナリオ通りだわ。でもリチャードって……確か裏表の激しいキャラで……」
記憶が濁流のように流れてくる。
「ヒロインのためなら何でもするキャラクターで……人を真正面から殺すこともあれば、スパイ行為や拷問、ハニートラップも平気で行う。ネットでは爽やかなのに腹黒キャラって話題に上がってて……」
そして今現在の記憶と一致する。
主人公は『ごく普通の女の子』
私は一国の姫。
「待って、待って……私、エリザベスなのよね。……ってことは、エリザベスの未来って……」
確か……思い出せ。思い出せ。
「……リチャードに拷問されて、国の秘密を吐かされて殺されるんだったわ!」
やっと思い出したリチャードルートの結末は、エリザベスにとって最悪な未来だった。
71
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
【完結】攻略を諦めたら騎士様に溺愛されました。悪役でも幸せになれますか?
うり北 うりこ
恋愛
メイリーンは、大好きな乙女ゲームに転生をした。しかも、ヒロインだ。これは、推しの王子様との恋愛も夢じゃない! そう意気込んで学園に入学してみれば、王子様は悪役令嬢のローズリンゼットに夢中。しかも、悪役令嬢はおかめのお面をつけている。
これは、巷で流行りの悪役令嬢が主人公、ヒロインが悪役展開なのでは?
命一番なので、攻略を諦めたら騎士様の溺愛が待っていた。
【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~
鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢になる前に、王子と婚約解消するはずが!
餡子
恋愛
恋愛小説の世界に悪役令嬢として転生してしまい、ヒーローである第五王子の婚約者になってしまった。
なんとかして円満に婚約解消するはずが、解消出来ないまま明日から物語が始まってしまいそう!
このままじゃ悪役令嬢まっしぐら!?
光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる