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部屋のカーテンを開ける音が聞こえる。
 
「お嬢様、おはようございます」
 
「‥‥う~ん」
 
お嬢様?何言ってるの?私の使用人部屋にお嬢様がいるわけないでしょ。
 
「お嬢様、朝でございますよ?今日もとても天気のいい1日になりそうです」
 
はぁ?私は今日はお休みなんだからゆっくりさせてよ。
改めて布団に潜り直そうとするといつもと違う手触りのいい掛け布を掴んでいた。
え?何かおかしい。眠気を振り払って少しだけ掛け布から顔を出す。
 
え?何?ここは?こんな広いベッド、使用人部屋じゃないことだけは確かだ。
どうなっているの?
どうしよう。なにがどうなってるのか分からないけど、使用人の私がこんなところに寝てたらクビになるだけじゃなくてなにか罰を与えられる。
混乱する頭と冷えていく身体とで思考はまとまらない。
 
「お嬢様、起きられましたか?おはようございます」
 
カーテンを開け終えた見たことのある侍女が私を振り向いて近づいてくる。

「あ‥‥あの、私‥」
 
「どうかされましたか?」
 
「‥え?‥あの、私もなぜこんなところで寝ているのか分からなくって‥」
 
「デイジーお嬢様?お気分でも悪いんですか?」
 
お、お嬢様ですって?何を言っているの?この人はカミラお嬢様の侍女だったはず‥‥。なのにどうして‥‥。
 
「カ、カミラお嬢様は‥‥?」
 
「申し訳ございません。カミラお嬢様とはどちらの家の方でしょうか?」
 
「な、何を言っているの‥?カミラお嬢様はこの伯爵家の‥‥」
 
侍女は困ったような様子で失礼しますと部屋を出て行ってしまった。
 
1人残された部屋を見回すと、とても広くて上品な家具が置いてある。
ここが使用人部屋ではないことだけは間違いない。
 
「どうなっているの‥‥?」
 
 
『君の欲しい物を見つけたよ』
 
ふと、あの犬の声が頭に聞こえた気がした。
 
『カミラお嬢様はズルいよねぇ。君が持ってないものを全部持ってる』

『ドレスも。綺麗な宝石も。家族も。婚約者も。産まれながらの高貴な血筋も』
 
『だからね、君がカミラお嬢様の変わりにこの家のお嬢様になるのはどう?』
 
『ふふふ。喜んでくれて嬉しいよ。
ああ、だけど願い事は取り消せないからね。本当にこの願いでいいんだね?』
 
『カミラお嬢様?最初から居なかったことになるだけだよ。最初からこの家のお嬢様は君だったってことになるだけ』
 
『目が覚めたら君の願い事は叶っているからね。さようなら。君の幸運を祈っているよ』
 
コンコンというノックの音がして現実に引き戻された。
ドアの方を見ると、さっき出て行った侍女と共に伯爵家の医師が入ってきたところだった。
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