5 / 10
5
しおりを挟む部屋のカーテンを開ける音が聞こえる。
「お嬢様、おはようございます」
「‥‥う~ん」
お嬢様?何言ってるの?私の使用人部屋にお嬢様がいるわけないでしょ。
「お嬢様、朝でございますよ?今日もとても天気のいい1日になりそうです」
はぁ?私は今日はお休みなんだからゆっくりさせてよ。
改めて布団に潜り直そうとするといつもと違う手触りのいい掛け布を掴んでいた。
え?何かおかしい。眠気を振り払って少しだけ掛け布から顔を出す。
え?何?ここは?こんな広いベッド、使用人部屋じゃないことだけは確かだ。
どうなっているの?
どうしよう。なにがどうなってるのか分からないけど、使用人の私がこんなところに寝てたらクビになるだけじゃなくてなにか罰を与えられる。
混乱する頭と冷えていく身体とで思考はまとまらない。
「お嬢様、起きられましたか?おはようございます」
カーテンを開け終えた見たことのある侍女が私を振り向いて近づいてくる。
「あ‥‥あの、私‥」
「どうかされましたか?」
「‥え?‥あの、私もなぜこんなところで寝ているのか分からなくって‥」
「デイジーお嬢様?お気分でも悪いんですか?」
お、お嬢様ですって?何を言っているの?この人はカミラお嬢様の侍女だったはず‥‥。なのにどうして‥‥。
「カ、カミラお嬢様は‥‥?」
「申し訳ございません。カミラお嬢様とはどちらの家の方でしょうか?」
「な、何を言っているの‥?カミラお嬢様はこの伯爵家の‥‥」
侍女は困ったような様子で失礼しますと部屋を出て行ってしまった。
1人残された部屋を見回すと、とても広くて上品な家具が置いてある。
ここが使用人部屋ではないことだけは間違いない。
「どうなっているの‥‥?」
『君の欲しい物を見つけたよ』
ふと、あの犬の声が頭に聞こえた気がした。
『カミラお嬢様はズルいよねぇ。君が持ってないものを全部持ってる』
『ドレスも。綺麗な宝石も。家族も。婚約者も。産まれながらの高貴な血筋も』
『だからね、君がカミラお嬢様の変わりにこの家のお嬢様になるのはどう?』
『ふふふ。喜んでくれて嬉しいよ。
ああ、だけど願い事は取り消せないからね。本当にこの願いでいいんだね?』
『カミラお嬢様?最初から居なかったことになるだけだよ。最初からこの家のお嬢様は君だったってことになるだけ』
『目が覚めたら君の願い事は叶っているからね。さようなら。君の幸運を祈っているよ』
コンコンというノックの音がして現実に引き戻された。
ドアの方を見ると、さっき出て行った侍女と共に伯爵家の医師が入ってきたところだった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人
白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。
だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。
罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。
そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。
切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》
[完結] 伴侶は自分で選びます。
キャロル
恋愛
獣人と人間が共存する世界でお互いの国が協定を結び共通の脅威である魔物を排除すべくお互いの特性を生かし平和に暮らしていた。
ある一点おかしな法律を除いては、………。
獣人の竜種と狼種は番以外には発情しない為種族繁栄のため人間が番と判断された場合、婚約者がいようが恋人がいようが番と結婚しなければならない………獣人には番はわかるが人間にはわからないが、人間が獣人の番の場合生まれた時に心臓の位置に紋様が現れる。逆に獣人も人間が番の場合同じ位置に同じ紋様が出るため紋様がある者は同族と婚姻できない。
………なんだそりゃ、まるで呪いじゃないの、冗談じゃない
私はそんなのごめんです。幸い天才的な魔道具作りの才能を持つ私。番とは認識させてやるもんか!
伴侶は自分で探します。いや、いらないかも。
次女ですけど、何か?
夕立悠理
恋愛
美人な姉と、可愛い妹。――そして、美人でも可愛くもない私。
道脇 楓(どうわきかえで)は、四歳の時に前世の記憶を思い出した。何とかそれに折り合いをつけた五歳のころ、もっと重要なことを思い出す。この世界は、前世で好きだった少女漫画の世界だった。ヒロインは、長女の姉と三女の妹。次女の楓は悪役だった。
冗談じゃない。嫉妬にさいなまれた挙句に自殺なんてまっぴらごめんだ。
楓は、姉や妹たちに対して無関心になるよう決意する。
恋も愛も勝手に楽しんでください。私は、出世してバリバリ稼ぐエリートウーマンを目指します。
――そんな彼女が、前を向くまでの話。
※感想を頂けると、とても嬉しいです
※話数のみ→楓目線 話数&人物名→その人物の目線になります
※小説家になろう様、ツギクル様にも投稿しています
たとえこの想いが届かなくても
白雲八鈴
恋愛
恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。
王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。
*いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。
*主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす
春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。
所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが──
ある雨の晩に、それが一変する。
※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。
この恋、諦めます
ラプラス
恋愛
片想いの相手、イザラが学園一の美少女に告白されているところを目撃してしまったセレン。
もうおしまいだ…。と絶望するかたわら、色々と腹を括ってしまう気の早い猪突猛進ヒロインのおはなし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる