上 下
13 / 13

13 アンナ視点

しおりを挟む

公爵家での何不自由ない生活。
マリッサには似合わない美しいドレスも私が着ればより引き立つし、大きな石ころみたいなダイヤモンドもサファイアも私が身につければたちまち高級に見える。
 
使用人には傅かれ、第一夫人のマリッサよりも第二夫人の私が公爵家の顔になるの。
だけど、別にマリッサを虐げたりなんてしないわよ?
並ぶだけで私を引き立ててくれる便利な女なんだもの。
それに公爵家の権力と財力。美しい夫に私の美貌。

ピートは美しくないマリッサよりも美しい私を愛してるって態度で示してくれるの。

誰もが羨み憧れる生活でしょう?


なのにあの日、王子の狂言は社交界を揺るがして、貴族たちは2つに別れてしまった。
王子のせいで私の運命は変わってしまったのよ。
 
ピートが私を切り捨てないように第二夫人にする約束を取り付けさせたのに。
マリッサとの婚約を解消して、男爵家にピートが婿入りをしても貧乏なままで、ピートの実家の侯爵家は助けてくれなかった。
 
母は情緒不安定になり、このままでは貴族ではなくなり平民になってしまうかもしれないと泣き喚いた。
援助してくれる家を探さなくては。
大丈夫。誰もが私を褒め称えたこの美貌があるもの。

だけど旧貴族派は美しさだけが全てのような人達だから援助出来るほど裕福な家も少なく、また余裕があったとしても自身たちの美にお金をかけたいという思っているんだろう。
今の繋がりの中では援助を見込めそうな家はない。

もどかしくも人脈もなかなか新しくは広がらなかった。
社交的な人や新しいことに踏み込んで行く人はどんどん新貴族派へと流れて行ったから。
援助してもらえるあてが見つからないまま日々が過ぎていく。
それでも一縷の望みにかけて旧貴族派の集まりに行っていたある日、匿名での援助をしたいと使者が接触してきた。
 
その日は旧貴族派と中立派も出席していたので正体の検討がつかなかったがそんなことは気にしていられない。
もしも正体が不細工な年寄りだとしても援助してくれるということは裕福なはず。
もし正体を明かしてきたら私の美貌でどうにかもっとお金を出してもらえるようにお願いするつもりだ。
 
だけど、匿名の援助者は全然正体を教えてくれなくて。
援助は本当に最低限で、爵位を手放さないぎりぎりだし、生活が楽になることはなかった。
 
 
そして私の人生を狂わせた王子。
あの日から1年後にマリッサとの婚約を発表して、それからさらに1年程経って結婚式をした。

憎くてたまらない王子達を祝福なんてしたくないし結婚式には出ていないけれど、王城ではお祝いのパーティーが開かれて貴族達はみな出席しなくてはいけなかった。
 
やがて馬車は混み合った馬車留めにたどり着きやっと馬車から降りる。
 
周りには新貴族派達がいて、あの日のマリッサのようなドレスを着ている女達が私たちを見ると、ヒソヒソとささやき始めた。
内容までは聞こえてこないが私を馬鹿にしている態度は透けて見える。
 
パーティーが始まっても旧貴族派は嘘のように少なくて、見つからない。

新貴族派達が私とピートを見てはクスクスと嘲笑う。
こんな屈辱私が受けていいはずがないのに。
怒りで震える気持ちを抑え気分が悪いと休憩室へと向かうと、個室は空いていないと断られた。
新貴族派の嫌がらせに決まってる。

悔しいが誰もが使える解放された休憩室へと向かった。
休憩室へと近づくとヒソヒソと話し声が聞こえてくる。

「相変わらず手入れもしてないお魚みたいなお顔に品の悪いドレスでよく顔を出せたものよね。見た?あのドレス。こーんなフリル付けてるの!あはは」
 
「あら、せっかくの娯楽なんだから顔を出してもらわないと困るわよ」
 
「そうよ。せっかく娯楽好きの新貴族派達が援助してるのよ?」
 
「生かさず、殺さずね。ふふふ」
 
「だけど、少しはお手入れする気はないのかしら?」
 
「きっとまだ傾国の美女気取りなのよ。娯楽にはちょうどいいじゃない」
 
「そうよ。それにもし新貴族派に乗り換えてきたらつまらないわ」
 
「それもそうね。せめて飽きるまでは援助分は楽しませて欲しいものよね」
 
笑い合う女達の声が頭に響く。
新貴族派の援助?
娯楽?何の話?
笑い合うあの女達は中立派だったはずだ。なのに今日の装いはどう見ても新貴族派?
思い返せば中立派と言いながらも新貴族派寄りの思考の者もいたのだ。
あの女たちもそうだったのだろう。

きっと旧貴族派の美しさを妬んで悪口を言ってるだけだわ。
 
そう思うのに頭がガンガンして背筋が冷えていく。
ここに立っているはずなのに足元がぐらぐらと不安定でたまらない。
 

部屋のベッドで飛び起きると夜着が汗で張り付いて気持ち悪かった。
バクバクと心臓が嫌な音を立てて真っ暗で静かな寝室に響く。
あの女達の会話をいまだ夢にみる。
 
ピートは仕事が忙しいと自室のベッドで寝ていて、最後に夫婦の寝室で一緒に眠ったのはいつだったかもう分からない。
 
1人で迎える夜は不安で心細くて。
嫌な考えに頭が支配される。

もしも匿名の援助者が、新貴族派たちだったら?
娯楽って言ってたあの女たちが笑っていたのは?
ううん。新貴族派だなんてあいつらの価値観は狂ってるだけ。
 
しばらくは中立派のパーティーは控えてもいいかもしれない。

だけど、だけどもし、新貴族派の機嫌を損ねて援助が打ち切りにされたら?
ピートの実家の侯爵家はきっと助けてくれない。
平民になる?私が?マリッサが公爵の地位なのに私が平民?
 
悪い夢を見ているに違いないのよ。
早く目が覚めて。お願いよ。
 
次に目が覚めるときにはこの悪夢から目覚めることを私は祈る。
今日も1人では広すぎるベッドで眠りについた。
しおりを挟む
感想 12

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(12件)

まんまる。
2021.12.23 まんまる。
ネタバレ含む
暁山 からす
2021.12.23 暁山 からす

読んでいただきありがとうございました。

解除
わわわ
2021.12.23 わわわ

面白かったです
日本でも昔は・・・が美人だったみたいですからね。
でもこれで終わりはなんか寂しいな、もう少し読みたかったです。

暁山 からす
2021.12.23 暁山 からす

読んでいただきありがとうございました。

解除
アルフィー50
ネタバレ含む
暁山 からす
2021.12.22 暁山 からす

読んでいただきありがとうございました。

解除

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が呆然としてる間に、周囲の人達が王子を論破してくれました

マーサ
恋愛
国王在位15年を祝うパーティの場で、第1王子であるアルベールから婚約破棄を宣告された侯爵令嬢オルタンス。 真意を問いただそうとした瞬間、隣国の王太子や第2王子、学友たちまでアルベールに反論し始め、オルタンスが一言も話さないまま事態は収束に向かっていく…。

婚約破棄ですか? 理由は魔法のできない義妹の方が素直で可愛いから♡だそうです。

hikari
恋愛
わたくしリンダはスミス公爵ご令息エイブラハムに婚約破棄を告げられました。何でも魔法ができるわたくしより、魔法のできない義理の妹の方が素直で可愛いみたいです。 義理の妹は義理の母の連れ子。実父は愛する妻の子だから……と義理の妹の味方をします。わたくしは侍女と共に家を追い出されてしまいました。追い出された先は漁師町でした。 そして出会ったのが漁師一家でした。漁師一家はパーシヴァルとポリー夫婦と一人息子のクリス。しかし、クリスはただの漁師ではありませんでした。 そんな中、隣国からパーシヴァル一家へ突如兵士が訪問してきました。 一方、婚約破棄を迫ってきたエイブラハムは実はねずみ講をやっていて……そして、ざまあ。 ざまあの回には★がついています。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

ならば今、勇敢な恋のうたを歌おう

神室さち
恋愛
あまたある中小企業に勤める街宮紫音(まちみや しお)は、今日もにっこり笑って作業伝票にハンコを求める出入りのソフトウエア会社の佐藤君と対峙する。そして、どうやら彼に好意があるらしい同僚に割り込まれる。 恋愛ごとどころか人間関係の構築の段階で何かずれている紫音の緩やかな恋の始まりと、もやもやするような違和感と、当人を置いて加速する周辺。 振り回されているのは果たして誰なのか。 以前自サイトに上げていた作品です。 作中に出てくる楽曲は、みなさま適宜ご想像ください。

従姉妹に婚約者を奪われました。どうやら玉の輿婚がゆるせないようです

hikari
恋愛
公爵ご令息アルフレッドに婚約破棄を言い渡された男爵令嬢カトリーヌ。なんと、アルフレッドは従姉のルイーズと婚約していたのだ。 ルイーズは伯爵家。 「お前に侯爵夫人なんて分不相応だわ。お前なんか平民と結婚すればいいんだ!」 と言われてしまう。 その出来事に学園時代の同級生でラーマ王国の第五王子オスカルが心を痛める。 そしてオスカルはカトリーヌに惚れていく。

【完結】婚約破棄中に思い出した三人~恐らく私のお父様が最強~

かのん
恋愛
どこにでもある婚約破棄。 だが、その中心にいる王子、その婚約者、そして男爵令嬢の三人は婚約破棄の瞬間に雷に打たれたかのように思い出す。 だめだ。 このまま婚約破棄したらこの国が亡びる。 これは、婚約破棄直後に、白昼夢によって未来を見てしまった三人の婚約破棄騒動物語。

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。