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しおりを挟む寝ている間に夢に見た。
私じゃない私の夢。
現世の私が見たこともない街並みを歩き、見たこともない大きな鉄の塊に大勢の人が飲み込まれ景色が流れていく。
やがて鉄の塊の動きが止まると鉄の塊は飲み込んだ人たちと一緒に私も吐き出した。
やがて空に向く高い建物に入って行き、人が動き回る空間にたどり着く。
ああ、懐かしい仕事場だと思う。
仲良しの同期や可愛いがっていた後輩。
得意じゃない先輩や気にかけてくれた上司。
だけど誰の名前も思い出せなくて。
他にもよく行ったショッピングモールやお気に入りのカフェのパンケーキ。
ちょっと贅沢な日の高級チョコレート。
実家の白猫に懐かしい顔ぶれ。
色々な場面がつぎはぎした映画のように流れていった。
本能で前世の記憶なんだと理解した。
どこか遠く懐かしいような思い出たち。
夢から目を覚ますと、メイドのルーナがずっと付き添ってくれてた。
ルーナのこともちゃんと分かる。
「お嬢様!気がつかれたんですね。良かった!」
「私は‥‥どうしたのかしら?」
「お嬢様は、ピート様とお出かけになった先で気を失ってしまったようなんです。ご気分はいかがですか?今お医者様をお呼びしますね」
「ああ。思い出してきた。ピートが口付けなんてしようとするもんだから‥‥」
「ええ!?お嬢様、つ、ついに‥‥!」
やばっ。声に出ていたのね。
「あ、違うのよ。びっくりしちゃって。でも口付けはしてないの。だから、お父様達にも秘密にしてね」
思い出したくもない。ぞっとしちゃうわ。
「お嬢様‥‥。わかりました。とにかくお医者を呼びますね。少しお待ちください」
ルーナが出ていくと、静かな部屋でひとりきりになる。
辺りを見回すと、確かに小さい頃から過ごした自分の部屋で。
前世の自分とマリッサとして過ごしてきた自分が溶け込んで、新しく生まれ変わった気分だ。
マリッサは無条件でピートを愛していたみたいだが、私には絶対に無理だ。
あんなのと口付けを交わして子作りするくらいなら修道院に入った方がマシだ。
あの太くてボサボサの眉。
細くてどこを見ているのかわからない目に丸々とした顔。
肌はボコボコで清潔感を感じられない。
おまけに顔立ちの凹凸もなく限りなく平面に近い。
ピートはまさに前世の私がもっとも嫌悪するタイプ。
ここは前世で耳にしたことがある美醜逆転の世界だと私は確信している。
美しい者は醜いと罵られ、醜いものほど美しいという価値観。
小さい頃から植え付けられた価値観と、前世の価値観が正反対なために、刺激となって前世を思い出したのかもしれない。
顔で人を差別するわけではないが、人間誰しも生理的に受け付けないというものがあるはずだ。
私の場合はそれがピート。
それからアンナ。
学園一の美貌だと思っていたアンナも、私のひっくり返された価値観の中では真逆に位置する。
アンナの魚そっくりな顔に太くてボサボサの眉。その下にある寝ているように細い目にこれまたガサガサとブツブツの肌。エラが張っているところが素晴らしいと褒めそやされていてアンナも満更じゃなく思ってるのを知っている。
私は女の子は努力次第で可愛くなれると信じているが、あの素のままの何も手入れをしてない者を好むことはできない。
それに、マリッサは箱入りだから疑ってなかったみたいだけど、ピートとアンナは間違いなくデキてる。
マリッサが気付かないと思ってるのか馬鹿にしてるわ。
マリッサを親友と言いながらその婚約者に手を出すなんて。
誘いに乗るピートも同じだ。
アンナの首筋にあった虫刺され、あれはキスマークだろう。
ここまで馬鹿にされてピートとの結婚なんて無理だ。
アンナとの不貞を理由にこの婚約をなんとか取り消すことが出来ないかしら。
私をあざ笑っている2人なら私が気付かないと思ってボロを出してくれるかもしれない。
しばらくするとルーナがお医者様とマリッサの父と一緒に戻ってきた。
「マリッサ!大丈夫かい?とても心配したんだ。何があったんだい?出先で倒れてしまうなんて。とても怖い目にあったんだね。教えておくれ。私に全て任せてくれれば大丈夫だからね」
「旦那様。落ち着いてください。お嬢様はまだ目覚めたばかりですので」
「ああ、そうだったな。すまないマリッサ。今はゆっくり休んでおくれ。マリッサの具合が良ければ夕食を一緒に取ろう」
「はい。お父様お忙しい中ありがとうございます。是非、夕食をご一緒してください」
「もちろんだとも!さあ、今はもう少し休みなさい」
お父様は嵐のように去って行き、お医者様も異常なしだと診察を終えて部屋を出て行った。
とりあえず父には日差しが強かったのでめまいがしただけだと誤魔化した。
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