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4 聖魔術師の幻影編
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グラディア王国の王城に到着した私たちは、疲れもそのままで、広い応接間に通された。
部屋につくと、待たされることなく先触れが入る。
そして、先触れと入れ替わるようにしてやってきたのは、穏やかな表情の国王陛下だった。
どうやら、陛下自ら、応接間の控え室で待機していたらしい。
さぞかし周りは肝を冷やしただろう、と思ってみたけど、グリプス伯を始めとして、侍従やら近衛やら王城に従事する人たちに動揺はない。
まさか、いつものことだとか?
そう言えば、そういうことに慣れてる人だと王太子殿下が話していたな。
よく言えば気さく、悪く言えば傍迷惑、どちらにしろ周りを振り回すタイプ。
周りがこの反応だということは、昔からの行動のようだ。そりゃ慣れるよな。
応接間にやってきた陛下は、慣れた歩みでスタスタと席に着くと、私たちに慰労の声をかける。
「新リテラ王国への訪問、金冠の披露会への参席、誠にご苦労であった」
陛下は王太子殿下と比べると、あまり威厳のあるタイプではないけれど、人の良さが窺えた。
まぁ、現在の王太子殿下は統率のスロンだ。絶対的なカリスマ性を持つ。加えて、スローナスの力が加われば、政情においては敵なしとされている。
そのスロンに比べれば、威厳があまり見られず凡庸に見えるかもなこの陛下。
グレイからは、穏やかで、気さくで、凡庸に見せておいてな人物なので、注意するよう言われていた。
まぁ、そうだよね。
仮に凡庸であっても王様。王様になるための教育はみっちり行われただろうし、努力を怠るようにも見えない。
それに、凡庸な王様から、あの王太子殿下が生まれて今のようにまで育つとも思えない。
と思ったところで、カス王子が使節団を代表して喋り始めた。
そうだった。
こいつも王様の息子だったわ。
たまには凡庸な王子も生まれるよね。
「グラディア王国使節団としての役目、しっかりと果たして参りました」
中身はカスでも、受け答えはいい。
「して、金冠はどうであった?」
陛下は即、本題に入る。
陛下が即、本題に入っているのに、カス王子は脇にそれた。
「金冠も素晴らしい物でしたが、新リテラ王国の王女殿下、とてもお美しく聡明で、素晴らしいお方でした」
いや、そんな話、どうでも良くない?
そもそも、新リテラ王国の王女殿下ってお披露目会に関係なくない?
みんなの唖然とした視線を受けながら、カス王子はキリッと眉毛を釣り上げ、話し続ける。
「笑う声も鈴のような音色で、とてもかわいらしいんですよ。あんなお方がこの世に存在するなんて、想像もつきませんでしたよ。
それでですね、」
「金冠はどうだったのだ?」
穏やかな顔で陛下はカス王子の話をぶったぎった。
「陛下、金冠のことより、もっと重要なことがあります」
ないな。カス王子。いい加減にしないとそろそろ怒られるぞ。
「十年に一度目覚める力の強い魔導具『金冠』の話より重要な物はない。
何のために使節団と称して、大人数を送り込んだと思っているのだ?」
「隣国の状況を知るためですよね?」
陛下のこめかみが小さくヒクッと動く。
「だから、金冠の状況を確認するためだと言っておるだろう!」
穏やかな顔のまま怒鳴った。表情を変えないところは凄い。
とはいえ、自分の息子だろう。もうちょっと、王族の力というヤツでどうにか上手く教育出来なかったのだろうか。
「(バカだねー)」
「(カス王子のカス振りが凄い)」
小さく笑うリュリュ先輩に私も小さく返すのだった。
そして、陛下の一声で、話者が強制交代となる。
「お前はもうよいから下がれ。他の皆から金冠の話を聞く」
そもそも、カス王子、もとい、第二王子殿下は、今回、金冠にはほとんど関わっていない。当然ながら触れてもいない。
最初の見学と最後のお披露目会で金冠を遠くから目にしただけだった。
「さぁ、好きに話して構わぬ。私も二十年前に使節団として披露会に参席した身。今の金冠がどのようなのか、興味がある」
「では、私の方から」
挙手をして最初に話し始めたのは、使節団の副団長、実質のまとめ役であるグリプス伯。
「グリプス伯か。そなたは十年前の使節団にも参加していたな。どうであった? 変わりはなかったか?」
「はい。十年前の金冠と変わりはありませんでした。今回も金冠の主が見つからず、眠りについた模様です」
陛下はグリプス伯の話を聞いて、うむっと軽く頷く。
それを見たダイアナ嬢が、控えめに手を挙げた。
「よろしいでしょうか?」
「セイクリウス嬢か。王宮魔術師団の希望と呼ばれていると、聞いておる」
「まぁ、お耳汚しを。それで、金冠の主についてですが。実はわたくし、金冠の主候補に選ばれまして」
「ほぅ」
陛下が意味ありげな視線を向けて、重々しく頷くと、ダイアナ嬢はその場に立ち上がって話を始める。
「(それ、みんな、選ばれたしー)」
「(リュリュ先輩、静かに)」
末席の方なので、聞こえないとは思うけど。リュリュ先輩の憤りを私は必死になって宥めると、リュリュ先輩はチッと舌打ちをした。
気持ちは分かる。みんなのことなのに、自分だけのことのように報告されるのは、私だってあまりいい気はしないから。
それでも、この陛下がダイアナ嬢の話を真に受けて、そのまま信用するとも思えなかったので、私は黙っていることにした。
リュリュ先輩にもそう伝えると、私と同じ結論に至ったようで、その後は静かになる。
「金冠の主として適性があるとのことで。わたくし、研修も受けて参りまして。
最後の披露会では、金冠との契約の儀式も、執り行いましたの。ホホホホホホホ」
「(今、グリプス伯が金冠の主が見つからなかったと話をしたばかりなのにねー)」
ダイアナ嬢の自慢話のような報告に、またもやリュリュ先輩が切れそうになった。
移動疲れで機嫌が相当悪い。今度はリュリュ先輩の上司のリンクス隊長が宥める。
まだまだダイアナ嬢の話は続きそうなので、リンクス隊長には頑張ってほしい。私は心の中でリンクス隊長を応援した。
その間にも、ダイアナ嬢はダラダラと続き、リュリュ先輩だけでなく、みんなの我慢が限界に近づいていった。
部屋につくと、待たされることなく先触れが入る。
そして、先触れと入れ替わるようにしてやってきたのは、穏やかな表情の国王陛下だった。
どうやら、陛下自ら、応接間の控え室で待機していたらしい。
さぞかし周りは肝を冷やしただろう、と思ってみたけど、グリプス伯を始めとして、侍従やら近衛やら王城に従事する人たちに動揺はない。
まさか、いつものことだとか?
そう言えば、そういうことに慣れてる人だと王太子殿下が話していたな。
よく言えば気さく、悪く言えば傍迷惑、どちらにしろ周りを振り回すタイプ。
周りがこの反応だということは、昔からの行動のようだ。そりゃ慣れるよな。
応接間にやってきた陛下は、慣れた歩みでスタスタと席に着くと、私たちに慰労の声をかける。
「新リテラ王国への訪問、金冠の披露会への参席、誠にご苦労であった」
陛下は王太子殿下と比べると、あまり威厳のあるタイプではないけれど、人の良さが窺えた。
まぁ、現在の王太子殿下は統率のスロンだ。絶対的なカリスマ性を持つ。加えて、スローナスの力が加われば、政情においては敵なしとされている。
そのスロンに比べれば、威厳があまり見られず凡庸に見えるかもなこの陛下。
グレイからは、穏やかで、気さくで、凡庸に見せておいてな人物なので、注意するよう言われていた。
まぁ、そうだよね。
仮に凡庸であっても王様。王様になるための教育はみっちり行われただろうし、努力を怠るようにも見えない。
それに、凡庸な王様から、あの王太子殿下が生まれて今のようにまで育つとも思えない。
と思ったところで、カス王子が使節団を代表して喋り始めた。
そうだった。
こいつも王様の息子だったわ。
たまには凡庸な王子も生まれるよね。
「グラディア王国使節団としての役目、しっかりと果たして参りました」
中身はカスでも、受け答えはいい。
「して、金冠はどうであった?」
陛下は即、本題に入る。
陛下が即、本題に入っているのに、カス王子は脇にそれた。
「金冠も素晴らしい物でしたが、新リテラ王国の王女殿下、とてもお美しく聡明で、素晴らしいお方でした」
いや、そんな話、どうでも良くない?
そもそも、新リテラ王国の王女殿下ってお披露目会に関係なくない?
みんなの唖然とした視線を受けながら、カス王子はキリッと眉毛を釣り上げ、話し続ける。
「笑う声も鈴のような音色で、とてもかわいらしいんですよ。あんなお方がこの世に存在するなんて、想像もつきませんでしたよ。
それでですね、」
「金冠はどうだったのだ?」
穏やかな顔で陛下はカス王子の話をぶったぎった。
「陛下、金冠のことより、もっと重要なことがあります」
ないな。カス王子。いい加減にしないとそろそろ怒られるぞ。
「十年に一度目覚める力の強い魔導具『金冠』の話より重要な物はない。
何のために使節団と称して、大人数を送り込んだと思っているのだ?」
「隣国の状況を知るためですよね?」
陛下のこめかみが小さくヒクッと動く。
「だから、金冠の状況を確認するためだと言っておるだろう!」
穏やかな顔のまま怒鳴った。表情を変えないところは凄い。
とはいえ、自分の息子だろう。もうちょっと、王族の力というヤツでどうにか上手く教育出来なかったのだろうか。
「(バカだねー)」
「(カス王子のカス振りが凄い)」
小さく笑うリュリュ先輩に私も小さく返すのだった。
そして、陛下の一声で、話者が強制交代となる。
「お前はもうよいから下がれ。他の皆から金冠の話を聞く」
そもそも、カス王子、もとい、第二王子殿下は、今回、金冠にはほとんど関わっていない。当然ながら触れてもいない。
最初の見学と最後のお披露目会で金冠を遠くから目にしただけだった。
「さぁ、好きに話して構わぬ。私も二十年前に使節団として披露会に参席した身。今の金冠がどのようなのか、興味がある」
「では、私の方から」
挙手をして最初に話し始めたのは、使節団の副団長、実質のまとめ役であるグリプス伯。
「グリプス伯か。そなたは十年前の使節団にも参加していたな。どうであった? 変わりはなかったか?」
「はい。十年前の金冠と変わりはありませんでした。今回も金冠の主が見つからず、眠りについた模様です」
陛下はグリプス伯の話を聞いて、うむっと軽く頷く。
それを見たダイアナ嬢が、控えめに手を挙げた。
「よろしいでしょうか?」
「セイクリウス嬢か。王宮魔術師団の希望と呼ばれていると、聞いておる」
「まぁ、お耳汚しを。それで、金冠の主についてですが。実はわたくし、金冠の主候補に選ばれまして」
「ほぅ」
陛下が意味ありげな視線を向けて、重々しく頷くと、ダイアナ嬢はその場に立ち上がって話を始める。
「(それ、みんな、選ばれたしー)」
「(リュリュ先輩、静かに)」
末席の方なので、聞こえないとは思うけど。リュリュ先輩の憤りを私は必死になって宥めると、リュリュ先輩はチッと舌打ちをした。
気持ちは分かる。みんなのことなのに、自分だけのことのように報告されるのは、私だってあまりいい気はしないから。
それでも、この陛下がダイアナ嬢の話を真に受けて、そのまま信用するとも思えなかったので、私は黙っていることにした。
リュリュ先輩にもそう伝えると、私と同じ結論に至ったようで、その後は静かになる。
「金冠の主として適性があるとのことで。わたくし、研修も受けて参りまして。
最後の披露会では、金冠との契約の儀式も、執り行いましたの。ホホホホホホホ」
「(今、グリプス伯が金冠の主が見つからなかったと話をしたばかりなのにねー)」
ダイアナ嬢の自慢話のような報告に、またもやリュリュ先輩が切れそうになった。
移動疲れで機嫌が相当悪い。今度はリュリュ先輩の上司のリンクス隊長が宥める。
まだまだダイアナ嬢の話は続きそうなので、リンクス隊長には頑張ってほしい。私は心の中でリンクス隊長を応援した。
その間にも、ダイアナ嬢はダラダラと続き、リュリュ先輩だけでなく、みんなの我慢が限界に近づいていった。
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