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4 聖魔術師の幻影編
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差し伸べられた手の上に、手を重ねたのはバルザード卿だった。
「ヴェルフェルム卿。申し訳ありませんが、警備の関係上、うちのお嬢は後援家門以外の人間とダンスは出来ないんです。
うちのお嬢の(周囲の)安全のためなんで、ご了承いただけますね?」
バルザード卿はそのまま手を握って、クラウドをぐいっと引っ張り上げる。あっさりクラウドは立ち上がった。
さすがうちの騎士団の新人。力が強い。
じゃなくて。
今はそんな誉めるようなことを考えている場合ではなかった。
バルザード卿の言い分は私の安全のためと見せかけておいて、私の周囲の安全、つまりは自分の安全を最優先に考えてるとんでもない言い分だったのだ。
うん。言葉が出ない。
脇から出てきて、その上、とんでもない言い分で、申し込み先の私以外の人間からダンスを断られたクラウド。
当然、バルザード卿に食ってかかった。
「え?! 俺、エルシアとは騎士団で同じ所属なんだけど」
クラウドは見知らぬ人間ではなく、同僚であることをアピールをする。
そこはもっと他になかったのか、と言いたいところだけれど、確かに、同僚で同期という以外、クラウドと私に接点はない。
私はバルザード卿とクラウドとのやり取りを横目で見ながら、もくもくと料理を食べていた。
グレイがいいタイミングで給仕に別な料理を頼んでくれるので、もくもくと食べ続ける。
私が食べ続けている間も、中央のスペースではダンスを楽しむ人たち。
フォセル嬢、今度はフェリクス副隊長と踊っているようだった。クラウドの時よりキラキラしさはないけど、やはり、見目はいいので華やかさがある。
それに、ダンス自体はクラウドよりフェリクス副隊長の方が上手そうだ。さきほどより派手にダンスパフォーマンスをして、周囲の人を沸かせていた。
その華やかな二人の隣で、獲物を狙うような目つきのダイアナ嬢と踊るルキウス殿下。
迷惑そうな顔一つ見せずににこやかに応対している。さすが王族。作りものの見せ笑顔なのに、自然で様になっていた。
同じ王族でもカス王子の方はいつもと変わりなく、周りから見て格好良く見えるポーズとやらを頻発させては、一人で満足している。見ていて恥ずかしい。
ただ、権力好きの令嬢たちには好評なようで、カス王子なのに周りは新リテラ王国のご令嬢と参席国のご令嬢で溢れかえっていた。
そんなカス王子に人目をひかせて、自分は目立たないよう、周辺国の外交関係者と雑談をするグリプス伯。
うん。いろいろなものを見てしまった気分。
そして、私の横ではまだまだ話は続いていた。
「うちのお嬢、いろいろとトラブル起こすんで。後援家門でも(とくに隊長が)もの凄く心配しているんです」
「トラブルって」
聞き捨てのならない言葉が耳に入ってきたので、食べるのを止めて口を挟むと、ジロッとバルザード卿が私を見る。
「お嬢、事実ですよね。今回だって大変だったじゃないですか(隊長が)」
「いや、まぁ、そうだけど」
言い返せないところが悔しいというか、なんというか。
悔し紛れに、手にしたフォークでも叩きつけてやろうかと思うと、横からフォークを取られて、ナフキンで口を拭われた。
くぅ。
至れり尽くせり。
そしてまたフォークを持たされて、新しい小皿が目の前に置かれる。
続けてもくもくと食べ始める私に、バルザード卿は諭すような口調で、私を畳みかけてきた。
「何かあったら(主に隊長が暴走したら)お嬢が収拾するようなんですからね」
「え、そこも私?」
とんでもない言い分。
だというとに、クラウドには何かが伝わったようだ。
「まぁ、そうだな。エルシアは普段から反省文だらけだしな」
「え、そこで納得する?」
クラウドもクラウドで、納得するポイントがおかしい。
「そういうわけで。ほら、お嬢、さっさと食べてください。次はスイーツを持ってきますから」
「いや、まぁ、食べたいけど」
「お嬢、新リテラ王国のスイーツ、楽しみにしていましたよね。食べに行けなかったんだから、ここで食べまくりましょう」
この言葉には、クラウドも気まずそうな顔をする。
いっしょに流行りのスイーツを食べに行こうと誘っておいて、私とではなく、フォセル嬢と仲良くスイーツを食べてきたクラウド。
フォセル嬢が割り込んできて、結果的に私が行くのを辞退したのが原因だけれど。
「邪魔して悪かったな」
一言残して、クラウドはフォセル嬢のところへ戻っていった。
専属護衛をするためか、再びダンスに誘うためかは分からないけど。
中央に目を向けると、さきほどと同じ光景と違う光景があった。
フォセル嬢は相手を変えず、そのままフェリクス副隊長と踊り続けていて、カス王子はご令嬢たちに囲まれたまま、結果として踊れずにいる。
同じ相手と踊り続けようとしたダイアナ嬢は、笑顔でルキウス殿下から他の相手を勧められて、慌てて何か言いすがっていた。
グリプス伯はどこに行ったのかと探していると、ちょうど、扉を開けて入ってきたメッサリーナ殿が目に留まる。
青ざめた表情のメッサリーナ殿は、国王陛下に一言二言、耳打ちすると、国王陛下の右前方に進み出て、声をあげた。
「たったいま、金冠が再び十年の眠りにつきました」
メッサリーナ殿が持ってきたのは、金冠の振りをしている銀冠が、眠りに入ったことの知らせ。
こうして、銀冠は再び眠りにつき、お披露目会は幕を閉じた。
けっきょく。
新リテラ王国に金冠がいないということが分かっただけ。
銀冠は金冠の話を一切口にしなかったので、金冠の所在は分からないまま、私たちは新リテラ王国を後にして、グラディア王国に帰る。
引っかかるような物が多少残ったけれど、クラウドとフォセル嬢、そしてグレイに対する感情も何もかも一段落した。
このときの私は、一段落してこれで終わりだと、そう思っていた。
最後の最後に、私の感情のすべてをひっくり返すものがやってくるとは考えもせずに。
「ヴェルフェルム卿。申し訳ありませんが、警備の関係上、うちのお嬢は後援家門以外の人間とダンスは出来ないんです。
うちのお嬢の(周囲の)安全のためなんで、ご了承いただけますね?」
バルザード卿はそのまま手を握って、クラウドをぐいっと引っ張り上げる。あっさりクラウドは立ち上がった。
さすがうちの騎士団の新人。力が強い。
じゃなくて。
今はそんな誉めるようなことを考えている場合ではなかった。
バルザード卿の言い分は私の安全のためと見せかけておいて、私の周囲の安全、つまりは自分の安全を最優先に考えてるとんでもない言い分だったのだ。
うん。言葉が出ない。
脇から出てきて、その上、とんでもない言い分で、申し込み先の私以外の人間からダンスを断られたクラウド。
当然、バルザード卿に食ってかかった。
「え?! 俺、エルシアとは騎士団で同じ所属なんだけど」
クラウドは見知らぬ人間ではなく、同僚であることをアピールをする。
そこはもっと他になかったのか、と言いたいところだけれど、確かに、同僚で同期という以外、クラウドと私に接点はない。
私はバルザード卿とクラウドとのやり取りを横目で見ながら、もくもくと料理を食べていた。
グレイがいいタイミングで給仕に別な料理を頼んでくれるので、もくもくと食べ続ける。
私が食べ続けている間も、中央のスペースではダンスを楽しむ人たち。
フォセル嬢、今度はフェリクス副隊長と踊っているようだった。クラウドの時よりキラキラしさはないけど、やはり、見目はいいので華やかさがある。
それに、ダンス自体はクラウドよりフェリクス副隊長の方が上手そうだ。さきほどより派手にダンスパフォーマンスをして、周囲の人を沸かせていた。
その華やかな二人の隣で、獲物を狙うような目つきのダイアナ嬢と踊るルキウス殿下。
迷惑そうな顔一つ見せずににこやかに応対している。さすが王族。作りものの見せ笑顔なのに、自然で様になっていた。
同じ王族でもカス王子の方はいつもと変わりなく、周りから見て格好良く見えるポーズとやらを頻発させては、一人で満足している。見ていて恥ずかしい。
ただ、権力好きの令嬢たちには好評なようで、カス王子なのに周りは新リテラ王国のご令嬢と参席国のご令嬢で溢れかえっていた。
そんなカス王子に人目をひかせて、自分は目立たないよう、周辺国の外交関係者と雑談をするグリプス伯。
うん。いろいろなものを見てしまった気分。
そして、私の横ではまだまだ話は続いていた。
「うちのお嬢、いろいろとトラブル起こすんで。後援家門でも(とくに隊長が)もの凄く心配しているんです」
「トラブルって」
聞き捨てのならない言葉が耳に入ってきたので、食べるのを止めて口を挟むと、ジロッとバルザード卿が私を見る。
「お嬢、事実ですよね。今回だって大変だったじゃないですか(隊長が)」
「いや、まぁ、そうだけど」
言い返せないところが悔しいというか、なんというか。
悔し紛れに、手にしたフォークでも叩きつけてやろうかと思うと、横からフォークを取られて、ナフキンで口を拭われた。
くぅ。
至れり尽くせり。
そしてまたフォークを持たされて、新しい小皿が目の前に置かれる。
続けてもくもくと食べ始める私に、バルザード卿は諭すような口調で、私を畳みかけてきた。
「何かあったら(主に隊長が暴走したら)お嬢が収拾するようなんですからね」
「え、そこも私?」
とんでもない言い分。
だというとに、クラウドには何かが伝わったようだ。
「まぁ、そうだな。エルシアは普段から反省文だらけだしな」
「え、そこで納得する?」
クラウドもクラウドで、納得するポイントがおかしい。
「そういうわけで。ほら、お嬢、さっさと食べてください。次はスイーツを持ってきますから」
「いや、まぁ、食べたいけど」
「お嬢、新リテラ王国のスイーツ、楽しみにしていましたよね。食べに行けなかったんだから、ここで食べまくりましょう」
この言葉には、クラウドも気まずそうな顔をする。
いっしょに流行りのスイーツを食べに行こうと誘っておいて、私とではなく、フォセル嬢と仲良くスイーツを食べてきたクラウド。
フォセル嬢が割り込んできて、結果的に私が行くのを辞退したのが原因だけれど。
「邪魔して悪かったな」
一言残して、クラウドはフォセル嬢のところへ戻っていった。
専属護衛をするためか、再びダンスに誘うためかは分からないけど。
中央に目を向けると、さきほどと同じ光景と違う光景があった。
フォセル嬢は相手を変えず、そのままフェリクス副隊長と踊り続けていて、カス王子はご令嬢たちに囲まれたまま、結果として踊れずにいる。
同じ相手と踊り続けようとしたダイアナ嬢は、笑顔でルキウス殿下から他の相手を勧められて、慌てて何か言いすがっていた。
グリプス伯はどこに行ったのかと探していると、ちょうど、扉を開けて入ってきたメッサリーナ殿が目に留まる。
青ざめた表情のメッサリーナ殿は、国王陛下に一言二言、耳打ちすると、国王陛下の右前方に進み出て、声をあげた。
「たったいま、金冠が再び十年の眠りにつきました」
メッサリーナ殿が持ってきたのは、金冠の振りをしている銀冠が、眠りに入ったことの知らせ。
こうして、銀冠は再び眠りにつき、お披露目会は幕を閉じた。
けっきょく。
新リテラ王国に金冠がいないということが分かっただけ。
銀冠は金冠の話を一切口にしなかったので、金冠の所在は分からないまま、私たちは新リテラ王国を後にして、グラディア王国に帰る。
引っかかるような物が多少残ったけれど、クラウドとフォセル嬢、そしてグレイに対する感情も何もかも一段落した。
このときの私は、一段落してこれで終わりだと、そう思っていた。
最後の最後に、私の感情のすべてをひっくり返すものがやってくるとは考えもせずに。
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