運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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4 聖魔術師の幻影編

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 私の意向を敏感に察知したグレイが、私に合わせてエンデバート卿に食いかかる。

「杖精も杖精なら、こいつもこいつだな」

 フンと鼻で笑い、煽るグレイ。

「なんだと。さっきからルベラス嬢と距離が近くないか。護衛の分際で。貴様、何様だ」

 うん。専属護衛だもの。一番近いところで守るのが普通だよね。

 グレイの背中に張り付いたまま、スンとなる私の目の前で、グレイは静かに相手を見つめている。

 まぁ、グレイだし。さすがにこんな低俗な煽り文句で、ブチ切れたりは…………

「うわっ。絶対にケンカ売っちゃいけない隊長にケンカ売ってる人、初めて見たよ。
 グリプス伯、こっちに避難してください。ヤバいです。危険です」

 グレイの真横にいたバルザード卿が、グリプス伯の腕を取り、さっと脇に下がる。

 バルザード卿はおどけた口調。

 相手を焦らせようとわざと大げさに言ってるんだな。と頭では思うのに、なぜか汗が出てくる。

「昨日の夜も、あんな遅い時間にルベラス嬢といっしょに部屋の中にいるなんて。護衛なら入り口を守っていろ。同室なんて百年早い」

「お前、まだ、ほざくか」

 ゆらりと一歩前に出るグレイ。

 背中に張り付いてる私はつられて、一歩前に出た。

 グレイの背中越しに、グレイの魔力が体内で荒れ狂ってるのが伝わってくる。

 グレイも私同様、ふだんから《魔力隠蔽》をしているので、魔力が身体の外に漏れることはない。

 だけど、荒れないわけでもない。

 感情が爆発したり、精神的なショックを受けたり、何かの弾みで魔力は荒れる。

 グレイの魔力が体内で荒れ狂ってる、ということはつまり、グレイは今、もの凄くブチ切れてるということだ。

 て。

 冷静にこんなこと考えてる場合じゃないよ。グレイがキレてる。

 ヤバい。

 マズい。

 私ってば、グレイの背中に張り付いたままだったよ。

 これって、

 完全に、

 逃げ遅れてない?

 離れたところでは、グリプス伯がバルザード卿に呑気な質問を投げかけている。

「ルプス卿って、どのような方なんでしょう?」

「え?! 隊長を知らないんですか?」

 グレイの今のフルネームは、グレイアド・ルプス子爵。

 事情があって北部辺境伯の養子となり、後継者となったグレイ。

 持ち前の実力に加えて、ひたすら目標に向かって努力する姿勢と実績を評価され、辺境伯が持つ爵位の一つを若くして受け継いだ。

 それで、ルプス子爵を名乗るようになったんだけれど、グレイのことを誰もルプス子爵とは呼んでいなかったりする。

 北部辺境領でのグレイの呼び名で、一番有名な物が他にあった。

「鳴く魔獣も黙る、絶対無敵の討伐隊長です!」

 何が嬉しいのか分からないけど、バルザード卿が嬉々として紹介する。

 絶対無敵の討伐隊長。

 それがグレイだった。

 私と合わせて、凶悪ペアと呼ばれることもある。いや、凶悪なのは私じゃないよ、グレイだよ?

「ルプス卿を見ただけで、鳴く魔獣が本当に黙るんですか?」

 今一つ、ピンと来てないようで、半信半疑な様子のグリプス伯。

「あー、それ。事実なところが怖いんすよねー」

 グレイの顔を見ただけで、鳴く魔獣が黙るはずがない…………と思っているグリプス伯。その意見は正しい。

 なぜなら、魔獣が怯えて静かになるのは、グレイの顔を見たからではなく、グレイの殺気に反応しての行動だから。

 殺気一つで、魔獣が固まる。

 殺気だけで人が殺せる日が来るのも、そう遠くなさげ。

「隊長が暴走したら、お嬢、よろしくお願いしますよ」

「無理無理。私より強いから」

 グレイの背中に張り付いたままの私に、ムチャクチャなことを押し付けるバルザード卿。

「そんなことがありますか? セラより強いなんて」

「いや、普通に考えて物理で負ける。殴られたら終わるでしょ」

「物理攻撃も魔法で防げますよね?」

「魔法で防いでも、普通に攻撃が貫通するから怖いんだよね」

 普通は防げる。普通の物理攻撃なら防げる。

 残念ながら、グレイは魔剣士属性。普通でない。剣に魔力を乗せてくるせいか、普通に魔法が斬れる。

 あ、魔法陣って斬れるんだ。

 魔法陣が剣で斬られるところを初めて見た感想がこれだ。何のひねりもない、普通の感想。もはや、恐怖する意欲もなく、呆然となった。

 私ですら、こんな。

「だから、魔獣もおとなしくなるんすよね」

 バルザード卿はグリプス伯とグリプス伯の補佐の人を守りながら、完全に防御の体勢。

 エンデバート卿の方は、いちおう、怯まず踏みとどまっていた。私の手前、格好いいところを見せたいようだ。

「また暴力か。とてもじゃないが、ルベラス嬢に見せられた物じゃないな」

「なんだと!」

 だんだんと、見た目にも、イライラが分かるようになってきたグレイ。

「煽りますね。昨日のこともありますから。向こうは、こちらが先に手を出すのを狙ってるんでしょう」

「ですよねー なので、お嬢。よろしくお願いします」

 安全なところで解説するグリプス伯と声援を送ってくるバルザード卿のことは無視して、私はこの状況をどうにかすることだけを考えていた。

「ま、そろそろいいかな」

「何か策でも?」

「奥の手をね」

 後はグラディアに帰るだけだからね。

 私は力強く、私の杖に呼びかけた。

「《セラフィアス》」

《おうよ、主》

 待ってましたとばかりに応じてくるセラフィアス。

 新リテラ王国側の人間に、私の力を正確に把握されないようにと、今までずっと温存状態。おかげで、力はたまりにたまっている。

「それと、もう一人」

 私はさらに呼びかけた。
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