運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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4 聖魔術師の幻影編

4-5

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 私には銀色に見える金冠を頭に乗せ、ダイアナ嬢が契約の言葉を口にする。

「《偉大なる我と契約し、我がために力をふるえ》」


 シーーーーーーン


 静まり返る会場。

 動きを止めたままのダイアナ嬢。

 参席者全員がダイアナ嬢に注目しているが、何も起こらない。契約が出来た様子もない。

 まぁ、それはそうだ。

 ダイアナ嬢が使った言葉は、契約としては不完全なものだから。

 学院の講義でも、魔導具との契約の儀については一切紹介がない。
 なぜなら、講義をしている本人が魔導具との契約者ではなく、契約について詳しくないから。

 通り一遍のことは教えられるけど、あれこれ質問されても答えられない。こちらが真の理由じゃないかと私は思っている。

 そもそも、魔導具との契約には、決まりきった言葉があるわけではない。

 では、正確な契約の言葉とはどういうものになるのか。

 自分と契約することを命じる言葉。

 ただこれだけ。形式自由。内容も自由。

 だいたい、主が契約したい魔導具と契約するのではなく、魔導具が契約したい主に契約させるのだから、内容はどうでもいい。

 どうしても言ってほしいことがあるのなら、魔導具の方から指定される。

 では、ダイアナ嬢が使った言葉は、形式も内容も自由なのにどうして、不完全なのか。

 これは考えれば分かる。

 考えてるのかどうかはともかくとして、ダイアナ嬢は自信がありすぎたせいで、契約が出来なかったことに納得がいかなかったらしい。

「なんですの? わたくしとは契約できないということですの? どうして? 適性はわたくしが一番あるはずですわ! いったい、どういうことですの!」

 ダイアナ嬢が狂ったように騒ぎ出す。

 まぁ、あれだけ自信満々にしていて、自分が選ばれると信じていて、疑いの欠片も持たなかったのだから、現実の結果を受け入れるのは難しいのだろうけど。

 魔導具の主になりたいのなら、もっと勉強しておくべきだと思う。魔導具との契約には、魔導具の『真名』が必要だという事を。

 契約するための言葉に、契約する相手の名前を盛り込むのは基本だよね。

 なのに、魔導具の真名も言わないで、契約が出来ると思っている頭の中身を疑いたくなる。

 しかし、ダイアナ嬢にとっては経緯なんてどうでもいいことだと思う。彼女にとって大事なのは、主役になれたかどうか、なんじゃないかな。

 こうしている間にも、台座のところで暴れるダイアナ嬢。

 ざわめきたつ会場。

 事態を重く見た新リテラ王国の騎士たちと聖魔術師たちが、ダイアナ嬢を取り囲んだ。

 何が起きてるか周りからは分からない。

 まずは頭に乗せた魔導具を回収して、それから穏便に退場してもらうつもりなんだろうけど、あんなに興奮している人を取り囲んだら、余計に抗寸するだろうに。

 騎士たちに囲まれた中に、レティーティア殿も移動していく。

 どうやら、レティーティア殿もあそこに加わるようだ。レティーティア殿の注意が私から逸れた。

「《探索》からの《術式感知》」

 こっそりと小さな小さな魔法陣を二つ展開する。

 相変わらず注意は私に向いていない。ダイアナ嬢を抑えようと、そちらに集中しているようだ。

 私の《探索》は魔力を細い糸に変えて、真っ直ぐに目標に向かって伸びていった。

 騎士たちが囲んでいるところへたどり着くと、だいたいの魔力の様子がはっきりと分かる。目で見た物よりも、より詳細に。

 ダイアナ嬢の魔力の特徴は記憶しているので、それを頼りに周りの魔力を探った。

 囲んでいる周りの騎士たちからはほとんど魔力がないようだ。茶髪茶眼の割合が多いこの国では、魔力持ちは騎士にならないのかもしれない。

 中にいる聖魔術師たちからは微力な魔力、少し強めなのはメッサリーナ殿かな。魔力の強さや量はダイアナ嬢とさほど変わりがなかった。

 うん? 聖魔術師長でこの程度なら、ダイアナ嬢が長になるのも、有りなのかも。この国限定で。

 ふと、異質な魔力を感じた。

 ダイアナ嬢の上部から。おそらく、銀色に見える金冠だ。これは人間の魔力ではない、魔導具の魔力。

 と、ここまではいい。

 問題なのは、この魔導具の魔力と同じ魔力の塊が、ダイアナ嬢のそばにあること。

「あの銀色の金冠が、レティーティア殿だということ?」

 魔導具と顕現した杖精が同時に存在するなんて、あり得ないのに。

 それとも、私は何か見逃している?




 そのとき、《術式感知》の方に反応があった。

 使っているのはレティーティア殿でもメッサリーナ殿でもなく、ダイアナ嬢の頭の上の魔導具。

 固有能力なのか。術式がよく分からないが、みるみるうちにダイアナ嬢の荒ぶった魔力が収まり、ダイアナ嬢の騒ぐ声もすっかり静まり返った。

「やっぱり精神魔法?」

 つぶやく私の声に思いがけない返事が聞こえる。

《いや。あれは幻覚魔法の一種だ、主》

 セラフィアス!

《こっちはバッチリだったぞ。でも、説明と報告は後だ。そろそろ向こうが気づく》

 セラフィアスの指摘を受け、私はさっと魔法陣を解除した。すっと魔力の糸が消える。

 台座の周りは騎士の囲みが解かれ、穏やかな様子のダイアナ嬢が見られた。銀色の金冠はすでに台座に戻されている。

 レティーティア殿が気持ちの安定を取り戻す回復魔法を使い、ダイアナ嬢を落ち着かせたことを、メッサリーナ殿が説明すると、会場からどよめきが起きた。

 さすがは新リテラ王国の聖魔術師云々という賛辞が、あちこちからあがる。

 そして、何事もなかったように、選定会は続行された。
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