223 / 238
4 聖魔術師の幻影編
4-2
しおりを挟む
少し時間を戻して、お披露目会の会場に移動する前のこと。
「結婚式に着るような真っ白なドレスって、どういう趣味?」
無理やり着させられた白いレースたっぷりのドレス。その端を持って、私はくるりとその場で一回転する。
ふわっと広がるドレスの裾。まるで、お話の中のお姫さまかお嬢さまだ。
いや、私も後援家門では『お嬢』と呼ばれてはいるけど、お嬢さまらしさは皆無。これだけは自信を持って言える。
「気になるのはそこですの?」
ソニアが呆れた顔をした。
ソニアも同じ様なデザインのドレス。もちろん、自分たちで用意したものではなく、新リテラ王国側で用意されたもの。
生地も作りも上質な物なのに、なぜか、しっくりこない。
「私、こういうの、似合わないし」
ソニアを見る。
本物の公爵令嬢は何を着てもビシッと決まるもので、用意された白いドレスも見事に着こなしていた。
「ソニアはさらっと着こなせて、羨ましいなぁ」
「あら、エルシアも着こなせてますわ」
「お世辞はいいって、て言いたいけど、ちょっと嬉しいかも」
似合っていないのは分かっているのに、ソニアに誉められると、なんとなく嬉しい。
むふふ、と笑っていると、ソニアはさらに話を続けた。
「ふふ。いつもムスッとして他人を睨み付けてるエルシアの専属護衛が、エルシアのかわいさに照れて、耳を赤くしてますわ」
「え」
くるりと振り向く。
「本当だ」
この状況で、怒って赤くなっているとは思えない。
「グレイ、似合う?」
グレイを見上げて、こくんと首を傾げてみた。グレイの赤みは耳から頬まで一気に広がる。
「隊長。お嬢、かわいいですね!」
「お前は見るな。シアのかわいさが減るだろうが」
「減りませんよ。お嬢のかわいさは大噴出にも負けませんから」
「いきなり物騒になった」
誉められているんだろうけど、もっと他に言葉はなかったんだろうか。
「そうだな。シアのかわいさは災害級だからな」
対してグレイ。バルザード卿の物騒な誉め方を怒るのかと思えば、嬉しそうに応じる。誉め言葉もさらに物騒になった。
まぁ、この二人に気の利いた誉め言葉を期待しても無駄か。
「二人とも、物騒な言葉から離れてくれる?」
物騒な誉め言葉ではあるけれど、二人が本気でかわいいと思ってくれていることは明白で、私もついつい嬉しくなったのだった。
そんな和やかなところにも、騒がしさは突然、訪れる。
バーーーンとドアが開いたかと思うと、明るくて賑やかな声。
「カエルレウス先輩もルベラス先輩も、みーんな、白いドレスなんですね!」
声の方を振り向くと、そこには私たちと同じく白いレースたっぷりのドレスに身を包んだフォセル嬢がいた。傍らにクラウドを従えて。
「フォセル嬢、ノックをしていただけないかしら?」
チクリとソニアが注意をすると、フォセル嬢はたいして悪くも思ってないのか、あっさりと反射的に誤る。
「あ、すみません。つい。でも、二人とも凄く素敵です! ね! ヴェルフェルム先輩!」
「あ、あ、あぁ」
いやいや。そんな話題をクラウドに振っても困るでしょうに。
予想通り、クラウドはポツリと言葉にならない言葉を漏らすだけ。
焦って、顔を赤くしているのを何か別なことと勘違いして、フォセル嬢がさらに余計なことを言い始める。
「ヴェルフェルム先輩たら、二人を見て真っ赤になっちゃって。ふふふ」
ところが突然、フォセル嬢が食ってかかるような声を出した。
「って、なーんで、ルベラス先輩の護衛さんたちは、ルベラス先輩を隠すんですか? ルベラス先輩のかわいいが、ぜーんぜん見えないじゃないですか!」
隠さなくても、私のかわいいは一部の人間にしか見えないと思うけど?
という冗談は置いといて。
フォセル嬢とクラウドが入室してすぐ、グレイとバルザード卿が私の前に立ちふさがっていた。
フォセル嬢が見えないと言ったのも、この体格の良い二人の後ろに隠れる形になってしまったからだろう。
「昨日もトラブルがあったんです。フォセル嬢、ご理解ください」
むすっとするグレイの代わりに、バルザード卿がフォセル嬢に説明した。
「単に、エルシアを他の騎士に見せたくないだけではなくて?」
「まぁ、昨日、変質者に押しかけられて、トラブルになったのは事実だから」
昨日の事件が大変なものになったのは、当事者のクラウドも、その場に居合わせたフォセル嬢も分かっていることだった。
バルザード卿の説明に二人とも揃って「あー、なるほどー」と口にする。
それでも、フォセル嬢は少し納得がいかない様子。
「ルベラス先輩のドレス姿ってレアだから、もっと見たかったのに」
「確かにな」
クラウドも余計な同意をする始末。
「お披露目会の会場は護衛が一人だけだから、エルシアのドレス姿も、じっくり見られるんじゃないか?」
「やった! ヴェルフェルム先輩、こんなところで話し込んでないで、早く行きましょうよ!」
余計な助言までしてくれたお陰で、俄然、やる気になるフォセル嬢。
だいたい、こんなところに突撃したのは、フォセル嬢なんだけどね。
バタバタと部屋を出ていくフォセル嬢を、私はグレイの背中越しに見送った。
そして。
「皆様、移動をお願いします。他の方はすでに移動済みですので」
私たちにも移動の声がかかった。
「結婚式に着るような真っ白なドレスって、どういう趣味?」
無理やり着させられた白いレースたっぷりのドレス。その端を持って、私はくるりとその場で一回転する。
ふわっと広がるドレスの裾。まるで、お話の中のお姫さまかお嬢さまだ。
いや、私も後援家門では『お嬢』と呼ばれてはいるけど、お嬢さまらしさは皆無。これだけは自信を持って言える。
「気になるのはそこですの?」
ソニアが呆れた顔をした。
ソニアも同じ様なデザインのドレス。もちろん、自分たちで用意したものではなく、新リテラ王国側で用意されたもの。
生地も作りも上質な物なのに、なぜか、しっくりこない。
「私、こういうの、似合わないし」
ソニアを見る。
本物の公爵令嬢は何を着てもビシッと決まるもので、用意された白いドレスも見事に着こなしていた。
「ソニアはさらっと着こなせて、羨ましいなぁ」
「あら、エルシアも着こなせてますわ」
「お世辞はいいって、て言いたいけど、ちょっと嬉しいかも」
似合っていないのは分かっているのに、ソニアに誉められると、なんとなく嬉しい。
むふふ、と笑っていると、ソニアはさらに話を続けた。
「ふふ。いつもムスッとして他人を睨み付けてるエルシアの専属護衛が、エルシアのかわいさに照れて、耳を赤くしてますわ」
「え」
くるりと振り向く。
「本当だ」
この状況で、怒って赤くなっているとは思えない。
「グレイ、似合う?」
グレイを見上げて、こくんと首を傾げてみた。グレイの赤みは耳から頬まで一気に広がる。
「隊長。お嬢、かわいいですね!」
「お前は見るな。シアのかわいさが減るだろうが」
「減りませんよ。お嬢のかわいさは大噴出にも負けませんから」
「いきなり物騒になった」
誉められているんだろうけど、もっと他に言葉はなかったんだろうか。
「そうだな。シアのかわいさは災害級だからな」
対してグレイ。バルザード卿の物騒な誉め方を怒るのかと思えば、嬉しそうに応じる。誉め言葉もさらに物騒になった。
まぁ、この二人に気の利いた誉め言葉を期待しても無駄か。
「二人とも、物騒な言葉から離れてくれる?」
物騒な誉め言葉ではあるけれど、二人が本気でかわいいと思ってくれていることは明白で、私もついつい嬉しくなったのだった。
そんな和やかなところにも、騒がしさは突然、訪れる。
バーーーンとドアが開いたかと思うと、明るくて賑やかな声。
「カエルレウス先輩もルベラス先輩も、みーんな、白いドレスなんですね!」
声の方を振り向くと、そこには私たちと同じく白いレースたっぷりのドレスに身を包んだフォセル嬢がいた。傍らにクラウドを従えて。
「フォセル嬢、ノックをしていただけないかしら?」
チクリとソニアが注意をすると、フォセル嬢はたいして悪くも思ってないのか、あっさりと反射的に誤る。
「あ、すみません。つい。でも、二人とも凄く素敵です! ね! ヴェルフェルム先輩!」
「あ、あ、あぁ」
いやいや。そんな話題をクラウドに振っても困るでしょうに。
予想通り、クラウドはポツリと言葉にならない言葉を漏らすだけ。
焦って、顔を赤くしているのを何か別なことと勘違いして、フォセル嬢がさらに余計なことを言い始める。
「ヴェルフェルム先輩たら、二人を見て真っ赤になっちゃって。ふふふ」
ところが突然、フォセル嬢が食ってかかるような声を出した。
「って、なーんで、ルベラス先輩の護衛さんたちは、ルベラス先輩を隠すんですか? ルベラス先輩のかわいいが、ぜーんぜん見えないじゃないですか!」
隠さなくても、私のかわいいは一部の人間にしか見えないと思うけど?
という冗談は置いといて。
フォセル嬢とクラウドが入室してすぐ、グレイとバルザード卿が私の前に立ちふさがっていた。
フォセル嬢が見えないと言ったのも、この体格の良い二人の後ろに隠れる形になってしまったからだろう。
「昨日もトラブルがあったんです。フォセル嬢、ご理解ください」
むすっとするグレイの代わりに、バルザード卿がフォセル嬢に説明した。
「単に、エルシアを他の騎士に見せたくないだけではなくて?」
「まぁ、昨日、変質者に押しかけられて、トラブルになったのは事実だから」
昨日の事件が大変なものになったのは、当事者のクラウドも、その場に居合わせたフォセル嬢も分かっていることだった。
バルザード卿の説明に二人とも揃って「あー、なるほどー」と口にする。
それでも、フォセル嬢は少し納得がいかない様子。
「ルベラス先輩のドレス姿ってレアだから、もっと見たかったのに」
「確かにな」
クラウドも余計な同意をする始末。
「お披露目会の会場は護衛が一人だけだから、エルシアのドレス姿も、じっくり見られるんじゃないか?」
「やった! ヴェルフェルム先輩、こんなところで話し込んでないで、早く行きましょうよ!」
余計な助言までしてくれたお陰で、俄然、やる気になるフォセル嬢。
だいたい、こんなところに突撃したのは、フォセル嬢なんだけどね。
バタバタと部屋を出ていくフォセル嬢を、私はグレイの背中越しに見送った。
そして。
「皆様、移動をお願いします。他の方はすでに移動済みですので」
私たちにも移動の声がかかった。
10
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!
奏音 美都
恋愛
ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。
そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。
あぁ、なんてことでしょう……
こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!
悪妃の愛娘
りーさん
恋愛
私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。
その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。
そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!
いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!
こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。
あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる