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4 聖魔術師の幻影編

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 少し時間を戻して、お披露目会の会場に移動する前のこと。

「結婚式に着るような真っ白なドレスって、どういう趣味?」

 無理やり着させられた白いレースたっぷりのドレス。その端を持って、私はくるりとその場で一回転する。

 ふわっと広がるドレスの裾。まるで、お話の中のお姫さまかお嬢さまだ。

 いや、私も後援家門では『お嬢』と呼ばれてはいるけど、お嬢さまらしさは皆無。これだけは自信を持って言える。

「気になるのはそこですの?」

 ソニアが呆れた顔をした。

 ソニアも同じ様なデザインのドレス。もちろん、自分たちで用意したものではなく、新リテラ王国側で用意されたもの。

 生地も作りも上質な物なのに、なぜか、しっくりこない。

「私、こういうの、似合わないし」

 ソニアを見る。

 本物の公爵令嬢は何を着てもビシッと決まるもので、用意された白いドレスも見事に着こなしていた。

「ソニアはさらっと着こなせて、羨ましいなぁ」

「あら、エルシアも着こなせてますわ」

「お世辞はいいって、て言いたいけど、ちょっと嬉しいかも」

 似合っていないのは分かっているのに、ソニアに誉められると、なんとなく嬉しい。

 むふふ、と笑っていると、ソニアはさらに話を続けた。

「ふふ。いつもムスッとして他人を睨み付けてるエルシアの専属護衛が、エルシアのかわいさに照れて、耳を赤くしてますわ」

「え」

 くるりと振り向く。

「本当だ」

 この状況で、怒って赤くなっているとは思えない。

「グレイ、似合う?」

 グレイを見上げて、こくんと首を傾げてみた。グレイの赤みは耳から頬まで一気に広がる。

「隊長。お嬢、かわいいですね!」

「お前は見るな。シアのかわいさが減るだろうが」

「減りませんよ。お嬢のかわいさは大噴出にも負けませんから」

「いきなり物騒になった」

 誉められているんだろうけど、もっと他に言葉はなかったんだろうか。

「そうだな。シアのかわいさは災害級だからな」

 対してグレイ。バルザード卿の物騒な誉め方を怒るのかと思えば、嬉しそうに応じる。誉め言葉もさらに物騒になった。

 まぁ、この二人に気の利いた誉め言葉を期待しても無駄か。

「二人とも、物騒な言葉から離れてくれる?」

 物騒な誉め言葉ではあるけれど、二人が本気でかわいいと思ってくれていることは明白で、私もついつい嬉しくなったのだった。




 そんな和やかなところにも、騒がしさは突然、訪れる。

 バーーーンとドアが開いたかと思うと、明るくて賑やかな声。

「カエルレウス先輩もルベラス先輩も、みーんな、白いドレスなんですね!」

 声の方を振り向くと、そこには私たちと同じく白いレースたっぷりのドレスに身を包んだフォセル嬢がいた。傍らにクラウドを従えて。

「フォセル嬢、ノックをしていただけないかしら?」

 チクリとソニアが注意をすると、フォセル嬢はたいして悪くも思ってないのか、あっさりと反射的に誤る。

「あ、すみません。つい。でも、二人とも凄く素敵です! ね! ヴェルフェルム先輩!」

「あ、あ、あぁ」

 いやいや。そんな話題をクラウドに振っても困るでしょうに。

 予想通り、クラウドはポツリと言葉にならない言葉を漏らすだけ。
 焦って、顔を赤くしているのを何か別なことと勘違いして、フォセル嬢がさらに余計なことを言い始める。

「ヴェルフェルム先輩たら、二人を見て真っ赤になっちゃって。ふふふ」

 ところが突然、フォセル嬢が食ってかかるような声を出した。

「って、なーんで、ルベラス先輩の護衛さんたちは、ルベラス先輩を隠すんですか? ルベラス先輩のかわいいが、ぜーんぜん見えないじゃないですか!」

 隠さなくても、私のかわいいは一部の人間にしか見えないと思うけど?

 という冗談は置いといて。

 フォセル嬢とクラウドが入室してすぐ、グレイとバルザード卿が私の前に立ちふさがっていた。
 フォセル嬢が見えないと言ったのも、この体格の良い二人の後ろに隠れる形になってしまったからだろう。

「昨日もトラブルがあったんです。フォセル嬢、ご理解ください」

 むすっとするグレイの代わりに、バルザード卿がフォセル嬢に説明した。

「単に、エルシアを他の騎士に見せたくないだけではなくて?」

「まぁ、昨日、変質者に押しかけられて、トラブルになったのは事実だから」

 昨日の事件が大変なものになったのは、当事者のクラウドも、その場に居合わせたフォセル嬢も分かっていることだった。

 バルザード卿の説明に二人とも揃って「あー、なるほどー」と口にする。

 それでも、フォセル嬢は少し納得がいかない様子。

「ルベラス先輩のドレス姿ってレアだから、もっと見たかったのに」

「確かにな」

 クラウドも余計な同意をする始末。

「お披露目会の会場は護衛が一人だけだから、エルシアのドレス姿も、じっくり見られるんじゃないか?」

「やった! ヴェルフェルム先輩、こんなところで話し込んでないで、早く行きましょうよ!」

 余計な助言までしてくれたお陰で、俄然、やる気になるフォセル嬢。

 だいたい、こんなところに突撃したのは、フォセル嬢なんだけどね。

 バタバタと部屋を出ていくフォセル嬢を、私はグレイの背中越しに見送った。

 そして。
 
「皆様、移動をお願いします。他の方はすでに移動済みですので」

 私たちにも移動の声がかかった。
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