運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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4 聖魔術師の幻影編

4-1

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 お披露目会が行われる会場は、聖魔術師団の建物の中の『金冠』が展示されているところだった。

 この場所に来るのはこれで三回目。最初、案内されたとき、次に儀式の練習と称して連れてこられたとき。そして今。

 部屋というより大広間といった方が近い作りのこの場所は、奥に段があって、その中央に台座がある。
 金冠はその台座に飾られていて、変わらず銀色の輝きを放っていた。

 うん。どう見ても、あれは銀だ。

「ムカつく」

 きっとあれは偽物だ。私があの偽物と契約を行うのを確実にするため、クラウドとフェリクス副隊長が捕まったんだ。

 となると、エンデバート卿の暴挙も、クラウドとフェリクス副隊長を捕まえるために、レティーティア殿がそそのかしたせいだろう。合い鍵まで使わせて。

 そそのかされたくらいで卑劣な行動に出るなんて、騎士としてダメ認定をしてあげたい。

「ムカつくムカつく」

 向こうの筋書き通りに事が運んでいくことに、私は腹を立てていた。

 でも。

 私を襲撃したとして、クラウドとフェリクス副隊長が真っ先に駆けつけてくるだろうか?

 何か引っかかる。

 今回だって、グレイが私を押しとどめ、バルザード卿が遠くから大声で騒ぎを大きくして、部屋の外に出ようとする私をグレイがさらに押しとどめ、そうこうしているうちにクラウドとフェリクス副隊長がやってきて…………あれ?

 バルザード卿は最後まで、遠くから大声を出していただけ。

 グレイに至っては部屋の外にも出ず、最後に部屋のドアを開けてその場にいただけ。

 もしかしてこの二人。

 最初から仕掛けられることを知ってたとか?!

 普通なら、クラウドとフェリクス副隊長の役割はグレイとバルザード卿だ。
 私の専属護衛があそこでエンデバート卿を取り押さえないでどうする、って話なんだけど。グレイもバルザード卿も取り押さえてない。

 取り押さえる代わりに、大声を出して、他の騎士を呼び寄せた。

 結果、同じ階で私の部屋に近いところにいた、クラウドとフェリクス副隊長がやってきて、拘束された。

 グレイとバルザード卿が拘束されたら、私は専属護衛から引き離されるし。そこへエンデバート卿が押し掛けてきたら、今の力を隠した状態では対処しきれない。

 もしかして、クラウドとフェリクス副隊長は、グレイとバルザード卿によって、身代わりにされた?

 隣にいるグレイの様子を窺おうとしても、簡易兜のせいで表情は分からない。私が見つめているのに気付くと、少しだけ口角をあげた。

「まぁ、まさかね」

 グレイもさすがに他人を陥れることまではしないだろう。

「何かありまして?」

 私のつぶやきに、ソニアが反応した。

 四人掛けの長椅子に、グレイ、私、ソニア、第一騎士団のヴォードフェルム隊長、という順番で座っているので、ソニアはすぐ隣だった。

 会場は広さの問題があって、今日、脇に従える専属護衛は一人のみ。

 私たちの前の長椅子には、リンクス隊長、リュリュ先輩、フォセル嬢、クラウド。さらにその前にはカス王子とダイアナ嬢がそれぞれ護衛とともに座っていた。

 ソニアの問いかけを誤魔化そうと、私は偽認定したばかりの偽金冠を指差す。

「あれ、ついでに壊していいかなぁ」

 ギョッとするソニア。

「エルシア、国家間の問題になることは止めなさい」

 壊せると思ってるところがおかしいけど。国家間問題はすでに起きている。

 だから私はソニアに囁いた。

「もうすでに国家間問題になってるから」

 と。




 クラウドとフェリクス副隊長の解放条件は、レティーティア殿の口から語られた。

「つまり、明日のお披露目会で、魔導具の主となる儀を行えばいいってこと?」

 話し合いは同階の談話室。

 こんな深夜に、得体の知れない存在を自室に招き入れたくはない。

 もちろん、話し合いにもグレイを持参した。抱き抱えられていたので、どちらかというと、私が持参された形になってる。
 向こうはレティーティア殿とエンデバート卿。

 グレイ以外は自室に返し、その自室の外に騎士を待機させるという徹底ぶりだった。

 まぁ、グラディアの五人が金冠の主候補だと最初に言っておいて、実は候補は私だけだったとは知られたくないのだろう。

 私の問いかけに、レティーティア殿はあっさりと解放を承諾する。

「えぇ。あなたが主になってくだされば、あの二人は解放しますわ。
 あの令嬢の専属護衛がまったくいないのもマズいから、明日は、一人だけ腹痛で自室にこもってもらいましょう」

 つまり、一人は解放して、一人は拘束したままということか。

「主となる儀を行うのは約束するけど。主になるのは約束しないわ。儀を行っても主になれるとは限らないでしょ?」

 私はどうにか解放条件をずらす。『主になること』ではダメだ。『主となる儀を行うこと』でないと。

 それに私の発言は当然のものだった。

 主になれるかどうかは、儀をやってみないと分からない。不確かな物を約束するとこは出来ないのだから。

 私の発言を聞いたレティーティア殿は、小さくクスリと笑う。

「あなたの魔力量なら、もう一つの魔導具と契約できるでしょう?」

「不確かなことは約束が出来ないから」

 粘れ、私。押されるな、私。

「よろしいでしょう」

 私の強固な主張にレティーティア殿の方が折れた。

「解放条件は『主となる儀を行う』で。ただし、きちんと正確に儀を行ってくださいね。魔導具の真名もけして間違えないように、正確に」

「あと、儀は専属護衛といっしょで構わないでしょ?」

 この発言に対しては少し間が空く。

「出来れば、バルシアスとやってもらいたいのですけれど。二人の仲を周知するためにも」

 同席していたエンデバート卿を見て、レティーティア殿がため息を吐いた。

「絶対に嫌」

 この人は無理だ。

 政略結婚なら仕方ないとしても、考え方がだいぶ違うし、私のことを分かろうとしていない。

「だいたい、この人。ずっとフォセル嬢にデレデレしていたし」

 私の発言にエンデバート卿があわあわと喋り出す。

「いや、俺は最初からルベラス嬢だけを見つめていたんだ。ようやく、運命の女性に会えたんだと思って」

「運命をもてはやす男なんて、クズしかいないから」

 やっぱり無理だ。政略結婚でも無理だ。

 私の機嫌が急降下するのを見て、レティーティア殿まで慌てて出した。
 せっかくまとまりかけている話を、壊したくはないのだろう。

 エンデバート卿を軽く睨みつける。

「まぁ、儀式は専属護衛と行っていただいて構いませんわ。大事なのは魔導具の主となること。バルシアスとの婚姻はその後からでも問題ありませんから」

 最後に、魔導具の真名を告げて、レティーティア殿とエンデバート卿は帰っていった。




「というわけだから、十分、国家間問題」

 真名の部分は伏せて、昨夜の事件をかいつまんで説明すると、ソニアはギューッと眉を寄せ、睨みつけるような顔になる。

 真名に関しては、私の杖にあることを調べるようお願いしておいた。少し時間がかかるというので、もうそろそろかな。

「エルシアとセラフィアス様までいただいてしまおう、という計画ですわね。
 でも、解放されたのなら、指示に従う必要はないのでは?」

 ソニアは前列に座るクラウドをちょんちょんと指差した。

「フェリクス副隊長はまだ拘束されてる」

「それは困りましたわね。でも、ヴォードフェルム副隊長、エルシアの結婚を阻止するためなら、喜んで犠牲になるのでは?」

「犠牲」

 案外、ソニアも思い切ったことを言う。
 私は心の中で汗をかいた。

「でもまぁ、フェリクス副隊長を切り捨てるのも、忍びないので」

「命拾いしましたわね、ヴォードフェルム副隊長」

「命拾い」

 拘束されてるだけで、死罪にまではならないはずだけど。

 レティーティア殿のなりふり構わないところを見ると、死罪にもなりかねないことに思いいたる私。

 私の心の中の汗はダラダラと流れっぱなしだった。 
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