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4 聖魔術師の幻影編
4-0 エルシア、厄介な相手の裏をかく
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「ちょっと待って! なんで、フェリクス副隊長とクラウドが拘束されるのよ!」
突然、現れたレティーティア殿は、複数の騎士を連れていて。
乗り込んでくるようにやってきたかと思えば、床に押しつけられているエンデバート卿、ではなく、押しつけている方のフェリクス副隊長とクラウドを拘束させた。
私はというと、相変わらず、グレイに抱き上げられたまま。自室のドアを開けたその場にいる。
レティーティア殿の行動にリンクス隊長は眉をひそめた。一言二言、隣の騎士に囁くとその場に集まっていた騎士一人がどこかへ行く。
「えっと。何があったんですか? どうして、ヴェルフェルム先輩とヴォードフェルム副隊長が捕まってるんです?」
騒ぎを聞きつけて、部屋が同じ階のフォセル嬢も部屋からやってきた。
同じ階はもう一人、リュリュ先輩がいるけど、さすがに空気を呼んで部屋からは出てこない。ここで出てきても何の力にもならないだろうし、下手すると話が複雑になるだけだから。
レティーティア殿は、後からやってきたフォセル嬢に銀色の目を向けると、淡々と説明をした。
「残念ですが、この二人はこの国の騎士隊長に乱暴を働いた罪人です。法に則って拘束します」
後ろ手に拘束されて、立ち上がらせられるクラウドとフェリクス副隊長。乱暴さはなく丁寧に扱われている。
私はレティーティア殿に向かって叫んだ。
「夜、寝ている女性の部屋に侵入しようとしたのはエンデバート卿じゃないの! こっちの変態をなんで捕まえないわけ?」
グレイにしがみついた状態なので、格好よくは見えないだろうけど。
「バルシアス卿が? まさかぁ」
「エンデバート卿は全体の護衛隊長も勤める立派な騎士です。何か手違いがあったのでは?」
おい。フォセル嬢。そこでエンデバート卿を擁護してどうするよ。
おかげで、レティーティア殿が図々しく乗っかってきたじゃないの。
私はさらに続ける。
感情に任せて問い詰めるのではなく、おかしい点、言い逃れ出来ない点を押さえて。
「入り口の護衛騎士だって気を失って倒れてたし。そんな騎士たちを放置して、私の部屋を開けようとしてたし!」
「警護中に寝てしまうなんて、なってないのはそちらの騎士では? 入り口の護衛が寝ていたから心配して安否を確認しようとしたのでしょう」
「それなら、ドアを叩くでしょ? いきなり合い鍵を使って入ろうとする? それに花束持ってるのもおかしいでしょ」
「ですから、エンデバート卿は全体の護衛隊長も勤める立派な騎士なんですよ。何か手違いがあったのでは?」
最初に戻った。イライラする。
「(ルベラス魔術師殿。こいつら全員、結託してお前狙いだ。何を言っても都合のいいようにかわされるぞ)」
私とレティーティア殿の会話の合間に、リンクス隊長がグレイのすぐそばにまでやってきていてコソコソと耳打ちをしてきた。
ムカつくムカつく。
余裕そうな笑みを浮かべるレティーティア殿も、さきほどまで床に這いつくばって求婚していたのにヘラヘラしているエンデバート卿も。みんなまとめて排除したい気分だった。
グレイにしがみついている手に力が入る。
自然とそこに魔力が溜まる。
そうだ。これであいつを。
私は手に魔力を握りしめて、エンデバート卿を窺う。
頭にでもぶつければ一発だ。
投げつけようと振りかぶろうとした瞬間、私の手はグレイに押さえられる。
「(シア、落ち着け。あいつらは絶対、交換条件を突きつけてくる)」
「(俺もそう思う)」
グレイとリンクス隊長の意見が一致した。隊長クラスが二人も同じ事を言うなら、と私は魔力の塊をすーっと引っ込める。
彼らの声が聞こえないところにいるフォセル嬢が、私とレティーティア殿のやり取りを見て、悲壮な声をあげた。
「リンクス隊長。このままじゃ、ヴェルフェルム先輩たちが連れていかれます!」
フォセル嬢もこちらの分が悪いことには気がついたようだ。声だけでなく表情も悲壮感に溢れている。
相手にしているのはこの国で敬われている騎士隊長と聖魔術師の副長。
騎士隊長のエンデバート卿の方は、能力も実力もだいたい把握できていて、問題なのはレティーティア殿のみ。
こっそり、ケルビアスを連れてくるんだったかな。それか、ケルビアスに連絡が取れればな。
私はここにいない、鑑定能力と知識に長けた三聖の一人を思い浮かべた。
うん。でも待てよ?
もしかしたら、あれが使えるかも。
私が頭の中でいろいろ考え込んでいる間にも、クラウドたちが連行される準備は出来ていて、後は連れていかれるだけ。
リンクス隊長も打開策が見あたらず、
「そうは言っても。この場で事態をどうにか出来るのは、ルベラス魔術師殿だけだ」
と言葉を濁すだけだった。
でも、ここで私の名前を出したら、フォセル嬢が食いついてくるのに。
私はわざとここで私の名前を出したリンクス隊長の意図を計りかねていると、予想通り、フォセル嬢がリンクス隊長の言葉に釣られて私に頼み込んできた。
「ルベラス先輩。お願いします。なんとかしてください!」
「なんとか、って。雑すぎない?」
頼み事の中身は、ほぼ丸投げ。
そこで、フォセル嬢の言葉にレティーティア殿の銀眼がキラリと光る。続く私の突っ込みも無視して、レティーティア殿が話を被せてきた。
「ルベラス様が明日のお披露目会で、こちらの言うとおりに動いてくださるなら、この二人を解放してもよろしいですけど」
「(やはり狙いはそれか)」
ボソッとつぶやくグレイ。
なんだか、すべてが向こうに都合良く動いているような気がする。
「いきなり、ルベラス様に結婚しろだなんて申しませんわ。
ただ、あることをやっていただくだけ。それだけで彼らを解放するんです。いい話だと思いますが?」
獲物に狙いを定めるような目つきのレティーティア殿は、不満げな顔のエンデバート卿を後ろに下げると、私の方へ歩いてきた。
不穏な物を感じて緊張する私。
安心しろとでも言うように、私を抱えあげる手に力を込めるグレイ。
「それで、具体的には?」
私は上から見下ろすような感じで質問を投げると、レティーティア殿は予想通りの答えを返してきた。
突然、現れたレティーティア殿は、複数の騎士を連れていて。
乗り込んでくるようにやってきたかと思えば、床に押しつけられているエンデバート卿、ではなく、押しつけている方のフェリクス副隊長とクラウドを拘束させた。
私はというと、相変わらず、グレイに抱き上げられたまま。自室のドアを開けたその場にいる。
レティーティア殿の行動にリンクス隊長は眉をひそめた。一言二言、隣の騎士に囁くとその場に集まっていた騎士一人がどこかへ行く。
「えっと。何があったんですか? どうして、ヴェルフェルム先輩とヴォードフェルム副隊長が捕まってるんです?」
騒ぎを聞きつけて、部屋が同じ階のフォセル嬢も部屋からやってきた。
同じ階はもう一人、リュリュ先輩がいるけど、さすがに空気を呼んで部屋からは出てこない。ここで出てきても何の力にもならないだろうし、下手すると話が複雑になるだけだから。
レティーティア殿は、後からやってきたフォセル嬢に銀色の目を向けると、淡々と説明をした。
「残念ですが、この二人はこの国の騎士隊長に乱暴を働いた罪人です。法に則って拘束します」
後ろ手に拘束されて、立ち上がらせられるクラウドとフェリクス副隊長。乱暴さはなく丁寧に扱われている。
私はレティーティア殿に向かって叫んだ。
「夜、寝ている女性の部屋に侵入しようとしたのはエンデバート卿じゃないの! こっちの変態をなんで捕まえないわけ?」
グレイにしがみついた状態なので、格好よくは見えないだろうけど。
「バルシアス卿が? まさかぁ」
「エンデバート卿は全体の護衛隊長も勤める立派な騎士です。何か手違いがあったのでは?」
おい。フォセル嬢。そこでエンデバート卿を擁護してどうするよ。
おかげで、レティーティア殿が図々しく乗っかってきたじゃないの。
私はさらに続ける。
感情に任せて問い詰めるのではなく、おかしい点、言い逃れ出来ない点を押さえて。
「入り口の護衛騎士だって気を失って倒れてたし。そんな騎士たちを放置して、私の部屋を開けようとしてたし!」
「警護中に寝てしまうなんて、なってないのはそちらの騎士では? 入り口の護衛が寝ていたから心配して安否を確認しようとしたのでしょう」
「それなら、ドアを叩くでしょ? いきなり合い鍵を使って入ろうとする? それに花束持ってるのもおかしいでしょ」
「ですから、エンデバート卿は全体の護衛隊長も勤める立派な騎士なんですよ。何か手違いがあったのでは?」
最初に戻った。イライラする。
「(ルベラス魔術師殿。こいつら全員、結託してお前狙いだ。何を言っても都合のいいようにかわされるぞ)」
私とレティーティア殿の会話の合間に、リンクス隊長がグレイのすぐそばにまでやってきていてコソコソと耳打ちをしてきた。
ムカつくムカつく。
余裕そうな笑みを浮かべるレティーティア殿も、さきほどまで床に這いつくばって求婚していたのにヘラヘラしているエンデバート卿も。みんなまとめて排除したい気分だった。
グレイにしがみついている手に力が入る。
自然とそこに魔力が溜まる。
そうだ。これであいつを。
私は手に魔力を握りしめて、エンデバート卿を窺う。
頭にでもぶつければ一発だ。
投げつけようと振りかぶろうとした瞬間、私の手はグレイに押さえられる。
「(シア、落ち着け。あいつらは絶対、交換条件を突きつけてくる)」
「(俺もそう思う)」
グレイとリンクス隊長の意見が一致した。隊長クラスが二人も同じ事を言うなら、と私は魔力の塊をすーっと引っ込める。
彼らの声が聞こえないところにいるフォセル嬢が、私とレティーティア殿のやり取りを見て、悲壮な声をあげた。
「リンクス隊長。このままじゃ、ヴェルフェルム先輩たちが連れていかれます!」
フォセル嬢もこちらの分が悪いことには気がついたようだ。声だけでなく表情も悲壮感に溢れている。
相手にしているのはこの国で敬われている騎士隊長と聖魔術師の副長。
騎士隊長のエンデバート卿の方は、能力も実力もだいたい把握できていて、問題なのはレティーティア殿のみ。
こっそり、ケルビアスを連れてくるんだったかな。それか、ケルビアスに連絡が取れればな。
私はここにいない、鑑定能力と知識に長けた三聖の一人を思い浮かべた。
うん。でも待てよ?
もしかしたら、あれが使えるかも。
私が頭の中でいろいろ考え込んでいる間にも、クラウドたちが連行される準備は出来ていて、後は連れていかれるだけ。
リンクス隊長も打開策が見あたらず、
「そうは言っても。この場で事態をどうにか出来るのは、ルベラス魔術師殿だけだ」
と言葉を濁すだけだった。
でも、ここで私の名前を出したら、フォセル嬢が食いついてくるのに。
私はわざとここで私の名前を出したリンクス隊長の意図を計りかねていると、予想通り、フォセル嬢がリンクス隊長の言葉に釣られて私に頼み込んできた。
「ルベラス先輩。お願いします。なんとかしてください!」
「なんとか、って。雑すぎない?」
頼み事の中身は、ほぼ丸投げ。
そこで、フォセル嬢の言葉にレティーティア殿の銀眼がキラリと光る。続く私の突っ込みも無視して、レティーティア殿が話を被せてきた。
「ルベラス様が明日のお披露目会で、こちらの言うとおりに動いてくださるなら、この二人を解放してもよろしいですけど」
「(やはり狙いはそれか)」
ボソッとつぶやくグレイ。
なんだか、すべてが向こうに都合良く動いているような気がする。
「いきなり、ルベラス様に結婚しろだなんて申しませんわ。
ただ、あることをやっていただくだけ。それだけで彼らを解放するんです。いい話だと思いますが?」
獲物に狙いを定めるような目つきのレティーティア殿は、不満げな顔のエンデバート卿を後ろに下げると、私の方へ歩いてきた。
不穏な物を感じて緊張する私。
安心しろとでも言うように、私を抱えあげる手に力を込めるグレイ。
「それで、具体的には?」
私は上から見下ろすような感じで質問を投げると、レティーティア殿は予想通りの答えを返してきた。
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