219 / 247
4 聖魔術師の幻影編
3-10
しおりを挟む
凍り付いたまま、みんなの視線は私とグレイに向けられた。
エンデバート卿は左手に花束、右手に部屋の鍵を持ち、フェリクス副隊長とクラウドに取り押さえられている。
右手の鍵を見たグレイ。
「部屋の鍵は一本しか渡されてないはずだよな。ほら、ここにある」
胸元から私の部屋の鍵を取り出した。
「その鍵はなんだ? 誰からもらった?」
「これは、ルベラス嬢から」
「だから、その鍵は俺が持ってるんだ。おかしいだろ。
それとも新リテラ王国は客人の部屋の鍵を、むやみに第三者に渡すのか?」
「くっ」
エンデバート卿は、グレイにまっとうなことを言われて言い返せない。
グレイの指摘を受けて、逆に激昂したのはフェリクス副隊長だ。
「お前、騎士隊長の地位を利用して、合い鍵を持ち出したんだな!」
「ぐっ」
力を込めてエンデバート卿を床に押し付ける。
「この本館自体、部外者は入れない。関係者を装って入り込んだんだろ!」
完全に頭に血がのぼってる。
怒ってくれるのはありがたいけど、とにかく、もっと上の人を呼ばないと。
騒ぎを聞きつけて、リンクス隊長たちもやってきた。床に押し付けられるエンデバート卿を見て、やれやれと言う顔。
「エンデバート卿、どういうことか説明を」
「それはこっちの台詞だ。なぜ、ルベラス嬢の部屋に男がいるんだ?!」
「いや、私の専属護衛だけど?」
ていうか、抱っこされてるのは、どうして誰も指摘しないんだ。
「専属護衛は二十四時間警護が基本だろ」
しれっと答えるグレイの台詞に対して、首をコクコク振って同意するフェリクス副隊長。渋々頷くリンクス隊長。
どうやら二十四時間警護は、ギリギリ大丈夫な線らしい。
「さっきそっちの騎士が、いっしょに寝てると」
「護衛だから同室してるだけだろうが。変な勘ぐりは止めてもらいたい物だな」
またもや、しれっと答えるグレイ。
いや、ベッドもいっしょだったよね。
余計なことで墓穴は掘りたくないから、口にはしないけどね。
グレイの言葉にホッとした顔をするフェリクス副隊長とクラウド。二人して、ふぅーっと息を吐いた。
うん。二人も変な勘ぐりしちゃったんだね。そりゃするよね。抱っこされて現れたもんね。
「それで、エンデバート卿。どういうことですか?」
リンクス隊長は追求を緩めない。
ところが、リンクス隊長の問いかけを無視して、エンデバート卿は叫んだ。
「ルベラス嬢、こんな乱暴な騎士たちに囲まれて生きる必要はない! 俺があなたを一生守ると誓う! だから、俺と結婚しよう!」
シーーーーーン
突然の告白と求婚に全員が呆気にとられる。
「返事がないということは、無言の同意だな」
不思議理論を唱えるエンデバート卿に、私は呆れて突っ込んだ。
「なわけ、あるか」
私の突っ込みを皮切りにして、周りもしゃべり始める。
「お前、ふざけてるのか!」
「俺はルベラス嬢に求婚を…………」
「ふざけるな!」
またもや、エンデバート卿を乱暴にガシンと床に押しつけるフェリクス副隊長。今度は頭まで押しつけていた。
「うぐぐぐぐ」
「言っとくがな。ルベラス魔術師殿は強いぞ? 専属護衛がつく方がおかしいくらいに」
リンクス隊長はチラッと私を見る。そしてグレイのことも同じようにチラ見した。
寝ていたということもあって、グレイは簡易兜をしていなかった。抱き上げた私で顔を隠すようにはしている。
ちなみに剣術大会ではフルヘルム。顔は隠れて全く見えない。
正体を明かしたくない理由は、動きにくくなるからだそうだ。騎士特級の優勝者ともなると、聞いただけで身構えられてしまうので、ただの田舎の護衛騎士の方が気楽なんだと。
リンクス隊長の感じだとバレていそうな気もする。バレていなくても、実力者であることは気付いていそうだ。
そのくらいでないと、第二騎士団では生き残れないから。
「強さなど関係ない」
「いや、ある。彼女が婚姻で他国に渡るとなると我が国の損失だ。国家間の問題になるんだよ」
意地悪そうに事実を指摘するリンクス隊長。確かに。セラが他国に渡るのはなんとしてでも阻止するだろうからな。
そう考えると、私の結婚はとても面倒臭い。しなければしないで問題にされる。はぁ。
「ルベラス嬢! 俺と結婚すれば、働かなくとも好きに暮らしていける。グラディアの騎士団で乱暴な騎士に囲まれて、イヤイヤ働かなくてもいいんだ」
私に訴えかければ、私が折れるとでも思っているらしい。
だいたい、この人は私のことを何も分かっていない。この人が知っているのは私の見た目だけ。
王都の騎士団で働くのは私の希望だ。グレイには反対された。期限付きで許可が出て、けっこう楽しく働いている。地方の領地に戻る前にしっかり経験を積んでおきたい。そんなことを丁寧に教えてあげる気もないので黙っておく。
うん。いろいろ考えてなくても、あれこれ考えてみても、この人と結婚は無理だ。
「黙れ、不届き者」
「お嬢が一番、乱暴なんだけどなぁ」
がやがやとした周りの声とともに、私もエンデバート卿に私の考えを告げた。
「私の生き方は私が決めるから。勝手に決めつけないで」
「俺はあなたを幸せにしたいんだ」
「私は今、十分、幸せに生きてるから」
うん。私、格好いいこと言った!
「隊長に抱っこされたままドヤ顔しても、格好つきませんね、お嬢」
うるさい。
バルザード卿がチクチクと余計な口を挟む。
「とにかく、この件はそちらの上層部に報告する」
リンクス隊長がそう言って、エンデバート卿を立たせようとしたところ、
「何事ですか?」
何の前触れもなく声がかけられた。
エンデバート卿は左手に花束、右手に部屋の鍵を持ち、フェリクス副隊長とクラウドに取り押さえられている。
右手の鍵を見たグレイ。
「部屋の鍵は一本しか渡されてないはずだよな。ほら、ここにある」
胸元から私の部屋の鍵を取り出した。
「その鍵はなんだ? 誰からもらった?」
「これは、ルベラス嬢から」
「だから、その鍵は俺が持ってるんだ。おかしいだろ。
それとも新リテラ王国は客人の部屋の鍵を、むやみに第三者に渡すのか?」
「くっ」
エンデバート卿は、グレイにまっとうなことを言われて言い返せない。
グレイの指摘を受けて、逆に激昂したのはフェリクス副隊長だ。
「お前、騎士隊長の地位を利用して、合い鍵を持ち出したんだな!」
「ぐっ」
力を込めてエンデバート卿を床に押し付ける。
「この本館自体、部外者は入れない。関係者を装って入り込んだんだろ!」
完全に頭に血がのぼってる。
怒ってくれるのはありがたいけど、とにかく、もっと上の人を呼ばないと。
騒ぎを聞きつけて、リンクス隊長たちもやってきた。床に押し付けられるエンデバート卿を見て、やれやれと言う顔。
「エンデバート卿、どういうことか説明を」
「それはこっちの台詞だ。なぜ、ルベラス嬢の部屋に男がいるんだ?!」
「いや、私の専属護衛だけど?」
ていうか、抱っこされてるのは、どうして誰も指摘しないんだ。
「専属護衛は二十四時間警護が基本だろ」
しれっと答えるグレイの台詞に対して、首をコクコク振って同意するフェリクス副隊長。渋々頷くリンクス隊長。
どうやら二十四時間警護は、ギリギリ大丈夫な線らしい。
「さっきそっちの騎士が、いっしょに寝てると」
「護衛だから同室してるだけだろうが。変な勘ぐりは止めてもらいたい物だな」
またもや、しれっと答えるグレイ。
いや、ベッドもいっしょだったよね。
余計なことで墓穴は掘りたくないから、口にはしないけどね。
グレイの言葉にホッとした顔をするフェリクス副隊長とクラウド。二人して、ふぅーっと息を吐いた。
うん。二人も変な勘ぐりしちゃったんだね。そりゃするよね。抱っこされて現れたもんね。
「それで、エンデバート卿。どういうことですか?」
リンクス隊長は追求を緩めない。
ところが、リンクス隊長の問いかけを無視して、エンデバート卿は叫んだ。
「ルベラス嬢、こんな乱暴な騎士たちに囲まれて生きる必要はない! 俺があなたを一生守ると誓う! だから、俺と結婚しよう!」
シーーーーーン
突然の告白と求婚に全員が呆気にとられる。
「返事がないということは、無言の同意だな」
不思議理論を唱えるエンデバート卿に、私は呆れて突っ込んだ。
「なわけ、あるか」
私の突っ込みを皮切りにして、周りもしゃべり始める。
「お前、ふざけてるのか!」
「俺はルベラス嬢に求婚を…………」
「ふざけるな!」
またもや、エンデバート卿を乱暴にガシンと床に押しつけるフェリクス副隊長。今度は頭まで押しつけていた。
「うぐぐぐぐ」
「言っとくがな。ルベラス魔術師殿は強いぞ? 専属護衛がつく方がおかしいくらいに」
リンクス隊長はチラッと私を見る。そしてグレイのことも同じようにチラ見した。
寝ていたということもあって、グレイは簡易兜をしていなかった。抱き上げた私で顔を隠すようにはしている。
ちなみに剣術大会ではフルヘルム。顔は隠れて全く見えない。
正体を明かしたくない理由は、動きにくくなるからだそうだ。騎士特級の優勝者ともなると、聞いただけで身構えられてしまうので、ただの田舎の護衛騎士の方が気楽なんだと。
リンクス隊長の感じだとバレていそうな気もする。バレていなくても、実力者であることは気付いていそうだ。
そのくらいでないと、第二騎士団では生き残れないから。
「強さなど関係ない」
「いや、ある。彼女が婚姻で他国に渡るとなると我が国の損失だ。国家間の問題になるんだよ」
意地悪そうに事実を指摘するリンクス隊長。確かに。セラが他国に渡るのはなんとしてでも阻止するだろうからな。
そう考えると、私の結婚はとても面倒臭い。しなければしないで問題にされる。はぁ。
「ルベラス嬢! 俺と結婚すれば、働かなくとも好きに暮らしていける。グラディアの騎士団で乱暴な騎士に囲まれて、イヤイヤ働かなくてもいいんだ」
私に訴えかければ、私が折れるとでも思っているらしい。
だいたい、この人は私のことを何も分かっていない。この人が知っているのは私の見た目だけ。
王都の騎士団で働くのは私の希望だ。グレイには反対された。期限付きで許可が出て、けっこう楽しく働いている。地方の領地に戻る前にしっかり経験を積んでおきたい。そんなことを丁寧に教えてあげる気もないので黙っておく。
うん。いろいろ考えてなくても、あれこれ考えてみても、この人と結婚は無理だ。
「黙れ、不届き者」
「お嬢が一番、乱暴なんだけどなぁ」
がやがやとした周りの声とともに、私もエンデバート卿に私の考えを告げた。
「私の生き方は私が決めるから。勝手に決めつけないで」
「俺はあなたを幸せにしたいんだ」
「私は今、十分、幸せに生きてるから」
うん。私、格好いいこと言った!
「隊長に抱っこされたままドヤ顔しても、格好つきませんね、お嬢」
うるさい。
バルザード卿がチクチクと余計な口を挟む。
「とにかく、この件はそちらの上層部に報告する」
リンクス隊長がそう言って、エンデバート卿を立たせようとしたところ、
「何事ですか?」
何の前触れもなく声がかけられた。
11
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
【1/1取り下げ予定】妹なのに氷属性のお義兄様からなぜか溺愛されてます(旧題 本当の妹だと言われても、お義兄様は渡したくありません!)
gacchi
恋愛
事情があって公爵家に養女として引き取られたシルフィーネ。生まれが子爵家ということで見下されることも多いが、公爵家には優しく迎え入れられている。特に義兄のジルバードがいるから公爵令嬢にふさわしくなろうと頑張ってこれた。学園に入学する日、お義兄様と一緒に馬車から降りると、実の妹だというミーナがあらわれた。「初めまして!お兄様!」その日からジルバードに大事にされるのは本当の妹の私のはずだ、どうして私の邪魔をするのと、何もしていないのにミーナに責められることになるのだが…。電子書籍化のため、1/1取り下げ予定です。1/2エンジェライト文庫より電子書籍化します。
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
王太子妃、毒薬を飲まされ意識不明中です。
ゼライス黒糖
恋愛
王太子妃のヘレンは気がつくと幽体離脱して幽霊になっていた。そして自分が毒殺されかけたことがわかった。犯人探しを始めたヘレンだったが・・・。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
私は逃げます
恵葉
恋愛
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。
そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。
貴族のあれやこれやなんて、構っていられません!
今度こそ好きなように生きます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる