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4 聖魔術師の幻影編

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 凍り付いたまま、みんなの視線は私とグレイに向けられた。

 エンデバート卿は左手に花束、右手に部屋の鍵を持ち、フェリクス副隊長とクラウドに取り押さえられている。

 右手の鍵を見たグレイ。

「部屋の鍵は一本しか渡されてないはずだよな。ほら、ここにある」

 胸元から私の部屋の鍵を取り出した。

「その鍵はなんだ? 誰からもらった?」

「これは、ルベラス嬢から」

「だから、その鍵は俺が持ってるんだ。おかしいだろ。
 それとも新リテラ王国は客人の部屋の鍵を、むやみに第三者に渡すのか?」

「くっ」

 エンデバート卿は、グレイにまっとうなことを言われて言い返せない。

 グレイの指摘を受けて、逆に激昂したのはフェリクス副隊長だ。

「お前、騎士隊長の地位を利用して、合い鍵を持ち出したんだな!」

「ぐっ」

 力を込めてエンデバート卿を床に押し付ける。

「この本館自体、部外者は入れない。関係者を装って入り込んだんだろ!」

 完全に頭に血がのぼってる。

 怒ってくれるのはありがたいけど、とにかく、もっと上の人を呼ばないと。

 騒ぎを聞きつけて、リンクス隊長たちもやってきた。床に押し付けられるエンデバート卿を見て、やれやれと言う顔。

「エンデバート卿、どういうことか説明を」

「それはこっちの台詞だ。なぜ、ルベラス嬢の部屋に男がいるんだ?!」

「いや、私の専属護衛だけど?」

 ていうか、抱っこされてるのは、どうして誰も指摘しないんだ。

「専属護衛は二十四時間警護が基本だろ」

 しれっと答えるグレイの台詞に対して、首をコクコク振って同意するフェリクス副隊長。渋々頷くリンクス隊長。

 どうやら二十四時間警護は、ギリギリ大丈夫な線らしい。

「さっきそっちの騎士が、いっしょに寝てると」

「護衛だから同室してるだけだろうが。変な勘ぐりは止めてもらいたい物だな」

 またもや、しれっと答えるグレイ。

 いや、ベッドもいっしょだったよね。
 余計なことで墓穴は掘りたくないから、口にはしないけどね。

 グレイの言葉にホッとした顔をするフェリクス副隊長とクラウド。二人して、ふぅーっと息を吐いた。

 うん。二人も変な勘ぐりしちゃったんだね。そりゃするよね。抱っこされて現れたもんね。

「それで、エンデバート卿。どういうことですか?」

 リンクス隊長は追求を緩めない。

 ところが、リンクス隊長の問いかけを無視して、エンデバート卿は叫んだ。

「ルベラス嬢、こんな乱暴な騎士たちに囲まれて生きる必要はない! 俺があなたを一生守ると誓う! だから、俺と結婚しよう!」


 シーーーーーン


 突然の告白と求婚に全員が呆気にとられる。

「返事がないということは、無言の同意だな」

 不思議理論を唱えるエンデバート卿に、私は呆れて突っ込んだ。

「なわけ、あるか」

 私の突っ込みを皮切りにして、周りもしゃべり始める。

「お前、ふざけてるのか!」

「俺はルベラス嬢に求婚を…………」

「ふざけるな!」

 またもや、エンデバート卿を乱暴にガシンと床に押しつけるフェリクス副隊長。今度は頭まで押しつけていた。

「うぐぐぐぐ」

「言っとくがな。ルベラス魔術師殿は強いぞ? 専属護衛がつく方がおかしいくらいに」

 リンクス隊長はチラッと私を見る。そしてグレイのことも同じようにチラ見した。

 寝ていたということもあって、グレイは簡易兜をしていなかった。抱き上げた私で顔を隠すようにはしている。
 ちなみに剣術大会ではフルヘルム。顔は隠れて全く見えない。

 正体を明かしたくない理由は、動きにくくなるからだそうだ。騎士特級の優勝者ともなると、聞いただけで身構えられてしまうので、ただの田舎の護衛騎士の方が気楽なんだと。

 リンクス隊長の感じだとバレていそうな気もする。バレていなくても、実力者であることは気付いていそうだ。
 そのくらいでないと、第二騎士団では生き残れないから。

「強さなど関係ない」

「いや、ある。彼女が婚姻で他国に渡るとなると我が国の損失だ。国家間の問題になるんだよ」

 意地悪そうに事実を指摘するリンクス隊長。確かに。セラが他国に渡るのはなんとしてでも阻止するだろうからな。

 そう考えると、私の結婚はとても面倒臭い。しなければしないで問題にされる。はぁ。

「ルベラス嬢! 俺と結婚すれば、働かなくとも好きに暮らしていける。グラディアの騎士団で乱暴な騎士に囲まれて、イヤイヤ働かなくてもいいんだ」

 私に訴えかければ、私が折れるとでも思っているらしい。

 だいたい、この人は私のことを何も分かっていない。この人が知っているのは私の見た目だけ。

 王都の騎士団で働くのは私の希望だ。グレイには反対された。期限付きで許可が出て、けっこう楽しく働いている。地方の領地に戻る前にしっかり経験を積んでおきたい。そんなことを丁寧に教えてあげる気もないので黙っておく。

 うん。いろいろ考えてなくても、あれこれ考えてみても、この人と結婚は無理だ。

「黙れ、不届き者」

「お嬢が一番、乱暴なんだけどなぁ」

 がやがやとした周りの声とともに、私もエンデバート卿に私の考えを告げた。

「私の生き方は私が決めるから。勝手に決めつけないで」

「俺はあなたを幸せにしたいんだ」

「私は今、十分、幸せに生きてるから」

 うん。私、格好いいこと言った!

「隊長に抱っこされたままドヤ顔しても、格好つきませんね、お嬢」

 うるさい。

 バルザード卿がチクチクと余計な口を挟む。

「とにかく、この件はそちらの上層部に報告する」

 リンクス隊長がそう言って、エンデバート卿を立たせようとしたところ、

「何事ですか?」

 何の前触れもなく声がかけられた。
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