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4 聖魔術師の幻影編

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 レティーティア殿は余計な前置きは省いて、本題をぶち込んできた。

「単刀直入に申し上げますわ」

 銀眼が私をじっと見つめる。

 グレイとバルザード卿が何かを感じて、私を庇おうとしたくらい、真剣な眼差しだった。

「ルベラス様、この王国を守護する魔導具の『主』になっていただきたいのです」

「無理」

 即答してから、あれ?、と思う。

「『主』を決めるのは魔導具であって、レティーティア様ではありませんわ」

 ソニアがやんわりと嫌みを言う。

 しかし、ソニアの話は無視して、レティーティア殿は自分の話を続けた。

「セラの魔力量であれば、魔導具を二つ所持することも十分、可能かと思いますが」

「だから、無理だって」

 再度、即答する。

 二つの魔導具の主になるのは、もちろん可能だけれどね。

 レティーティア殿は私の即答も無視して、話し続けた。何か焦りのような物を漂わせながら。

「明日のお披露目会で、魔導具との契約の儀を行えば終わりです。後はバルシアスと婚姻していただくだけですから」

「あのね、本当にダメなんだって」

 と返してから、首を捻る。

「て、なんで、エンデバート卿と婚姻?」

 金冠の主になると、エンデバート卿がもれなくついてくる仕様? もっと嫌なんだけど!

「バルシアスはエンデバートの直系ですから」

 あー

 そうだった。

 ルビー大公女が言ってたっけ。金冠は将軍家の血筋付き魔導具で、血筋の範囲が緩いんだと。

『血筋となると、かなり緩くなるのよ。遠い親戚や配偶者もありだし』

 って、話だったわ。

 つまり、私が金冠の主になるには、エンデバート卿の配偶者という前提がないといけない。だから、エンデバート卿と結婚しろ。

 うん。この人たち、ふざけてるのか。私をなんだと思ってるんだ。まったく。

 目の端がピクピクするのを感じる。

 そもそも招待状では、五強リグヌムの主であるデルティウン王女殿下の参席依頼があったわけで。

 当初は私ではなく、デルティウン王女殿下が金冠の主候補、ひいてはエンデバート卿の配偶者候補に選ばれてたということだわ。

 うん。この人たち、ムチャクチャ勝手すぎる。

「エンデバート卿が『主』になればいいんじゃないの?」

 ムカついたせいか、思った以上に低い声が出た。
 バルザード卿がビクビクッとする。

「バルシアスは騎士なので、合わないのです」

 レティーティア殿は平然と答えた。何が合わないのかがまったく分からない。

 ちなみにここまで、立ったまま、大広間の隅での会話。

 公式な話にしてしまえば、国と国との話になるので、断りづらくはなる。だからこその非公式での立ち話なんだろう。

 とてもじゃないけど、話の重さ的には、そんな感じに済ませていい内容ではなくて。
 バルザード卿なんて表情が硬い。ソニアも同様。グレイだけ、いつもと同じ厳つい顔だった。
 ソニアの専属護衛の方には、離れておいてもらって良かったわ。

 で。

 私はレティーティア殿の返しに突っ込みを入れてみた。

 引っかかることもあったので。

「金冠は回復や治療系の魔導具でしょ?
 ケガの治療や体力筋力の回復が出来るのなら、騎士としての能力も上がる。
 だから『合わない』なんてことはないと思うけど。何が問題なの?」

 レティーティア殿は少し黙り込むと、話題をずらした。

「ずいぶんと金冠についてお詳しいのですね。講習会では具体的な能力については触れませんでしたが」

 そう言われてみればそうだった。

 金冠の能力は周知の事実だろうに、どうして講習会では触れなかったのか。それこそ、周知の事実だからだろうか。

 新リテラ王国に来る前から、金冠にまつわることすべて、しっくりいかない物を感じていた。

 この人たちは金冠の何を隠したいのか。それが見えそうで見えない。

「金冠が回復や治療系の魔導具だというのは、周知の事実でしょ。絵本にだって描いてあるくらいだし」

「金冠の絵本ですか? そんなものが存在するんですか?」

 レティーティア殿が驚きの声をあげる。

 いや、むしろ、絵本があるってなんで金冠の国の人が知らないのよ!

 言い返そうとした瞬間。

 絵本に描かれていた金冠の絵が、突然、頭の中に思い浮かんだ。

 金冠に刻まれていた複雑な模様。
 絵本のあちこちに描かれていた不思議な模様。

 あ。

 紋様だ。

 新リテラ王国の白い建物に、聖魔術師の白い服装にあったあの紋様と同じもの。

 見覚えがあるはずだ。

 幼い頃、絵本で見たのだから。

 あの絵本はお母さまのところにあったもの。お母さまは結婚前に新リテラ王国を訪問し、今回と同じように、金冠のお披露目会に参席している。

 絵本の模様は手本を見て描いたかのように複雑だった。今となっては、新リテラ王国の物とまったく同じかは比べようがない。

「子どもの頃に見たけど。もう、あの家から捨てられてるかも。私が捨てられたのと同じように」

 私は昔を思い出して、ぼんやりと答えた。

 私の返事をどう受け止めたのかは分からないけど、レティーティア殿は真っ直ぐ私を見て、励ますように安心させるように言葉を絞り出す。

「ルベラス様。ルベラス様の身柄は我が国がしっかり保護いたします。バルシアスもあなたをしっかりお守りしますので。この国では、あなたが捨てられるなどと絶対に起こりません」

 レティーティア殿は、私の心の奥に向かって、さらに囁きかける。

「あなたはこの国で、自由に生きられるんですよ?」

 そんなところで、レティーティア殿の話終わった。




「エルシア」

「大丈夫だって、ソニア」

 私はソニアに、私の大切な親友に笑いかける。

「いざとなったら、鎮圧するって言ってるでしょ?」

「だから、それはそれで問題ですわね」

 私の決意に、ソニアは困ったような顔をして笑い返してくれた。
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