運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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4 聖魔術師の幻影編

3-6

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「またか」

 いつもなら、こういった反応は相手に分からないようにやるんだけれど。

 今回ばかりは、はっきり相手に聞こえるように反応する。しつこいな、いい加減にしろよ、という意味を込めて。

 相手は、数秒、凍り付いたように動かなくはなったものの、私の声が聞こえなかったかのように、話を再開させた。

「ルベラス嬢。どうですか? 舞踏会は楽しんでおられますか?」

 にこやかに話しかけてくるその相手は、相変わらずのエンデバート卿だ。

 典礼用の煌びやかな騎士服。髪もビシッと決めていて、もの凄く気合いが入った格好だ。

 お披露目会の参席者を集めたパーティーだとはいっても、新リテラ王国側のレディの参加者もいるわけで。
 そのレディたちからの熱い視線を釘付けに出来るほどには、決まっているようには見えた。

 それに比べて私の方は、儀礼用とはいえただの制服。煌びやかな人たちに並ばれると、かなり見劣りがする。

 その私に、白に金糸の刺繍が入ったキラキラする騎士服姿の男性が話しかけてくるのだから、目立ってしょうがない。

「今、楽しくなくなったんだけど」

 正直に本音を伝えると、それには何も答えず、別な話題を持ち出してきた。

「昼間の手合わせでは、実力をお見せできなかったので、挽回の機会をいただけませんか?」

「え、ここで、手合わせするの?」

 非常識なヤツだな、まったく。

「いえ。舞踏会ですので、ダンスのお相手にと思いまして」

 どう見たってダンスする格好してないだろ。ダンスしたがってる雰囲気も出てないだろ。空気読めよ、空気。

 イライラして、心の声の口調がどんどん悪くなる。

 非常識な上に空気も読めないなんて、無視したい、無視。

「私、ドレスじゃないんで」

 そっけなく、遠回しにダンスの誘いを断ると、さらににこやかな笑みを私に向けてきた。

「制服姿もお綺麗ですよ」

「はぁあ?」

 非常識で空気が読めない上、遠回しなお断りも通じない。最悪だ。

 すると、ぶすっとした私の後ろから、バルザード卿が失礼なことを囁いてきた。

「お嬢、ヤバい。殺気が漏れる」

「はぁあ?」

 殺気なんて、私、出してないのに。

 そう言おうとした瞬間、バルザード卿とは反対側から殺気が漏れてくる。

 グレイだ。グレイの殺気だ。バルザード卿が言ってた殺気は私のことではなく、グレイのことだったのか。

 私がイライラと感じるくらいだ。グレイがイライラしていても不思議ではない。

 殺気が漏れるグレイの腕をちょんちょんとつつき、手袋をした手をギュッと握り締めると、殺気が少し落ち着いたような気がした。

 同時にバルザード卿が私とグレイの前に一歩に歩み出る。

 そして、堂々とムチャクチャなことを言い出した。

「エンデバート卿。申し訳ありませんが、警備の関係上、うちのお嬢は後援家門以外の人間とダンスは出来ないんです。
 うちのお嬢の(周囲の)安全のためなんで、ご了承いただけますね?」

「は? そんなムチャクチャな話は初めて聞くが」

 うん。私も初めて聞く。

「エンデバート卿は、警備の責任者なのに、うちのお嬢の(周囲の)安全はどうでもいいとおっしゃるんですか?!」

 ムチャクチャ理論で詰め寄ろうとするバルザード卿を止めようと、私はグレイの手を離した。

 ガシッ

 おや?

 今度はグレイの方から手を握ってくる。

 じゃなくて、バルザード卿を止めようとした私を止めたのか。

「(いいの、これ? このままで?)」

 うむ、と頷くグレイ。

 はぁ。

 私はここでいろいろと諦めた。

 私が頑張って力を入れても握られたグレイの手は私から離れないだろうし。
 それに、バルザード卿のムチャクチャ理論にエンデバート卿は完全に面食らって怯んでるから、あえて止めなくても良さそうだし。

「というわけなので、他を当たってください。ほら、エンデバート卿待ちのご令嬢がたくさんいらっしゃいますよ?」

 バルザード卿はエンデバート卿の後ろを手で示した。そこには、いつの間にか出来たのか、ずらーっと人の列。

 ちょうど、一曲終わって戻ってきたフォセル嬢とクラウドもいた。

「あ、バルシアス卿。昨日はエスコート、ありがとうございます。こちらにも、いらしてたんですね!」

 誰も自分からエンデバート卿に話しかけられないでいる中、フォセル嬢だけが気安く話しかける。

「あぁ、ちょっと済まない。ルベラス嬢と話をしたいんだ」

「ルベラス先輩ですか?」

 フォセル嬢がエンデバート卿の言葉に首を傾げ、二人の会話に間が空いたとたん。

「エンデバート様、今日のお姿もとても素敵ですわね!」

「エンデバート卿、うちの娘と一曲、踊っていただいても?」

 突撃するお偉そうな人たちとご令嬢。

「エンデバート卿。今日、手合わせをしたと聞きました。騎士としてお話を伺いたいのですが」

「エンデバート卿、手合わせしたんですか? 俺もこっちに残っていれば良かったなぁ」

 そして、同じく突撃する騎士たち。

 これでエンデバート卿は身動きが取れなくなった。

「バルザード卿、いい仕事したね」

 くるりと後ろを振り返り、私たちに合流するバルザード卿。私とグレイがバルザード卿とハイタッチをすると、彼は疲れたような口振りで私に小言を言い始める。

「俺の寿命が縮まるので、隊長に張り付いていてください」

「え? 私が張り付くの?」

「それが一番、安全です」

 グレイを見上げると、やっぱり、うむ、と力強く頷いた。

 グレイは一応、右手が利き腕。だから、利き腕でない方の左側に回り込む。
 太いグレイの左腕に自分の右腕を回してペタッと張り付くと、大人にしがみつく子どものようにも見える。

 その姿に対して、グレイもバルザード卿も、うんうん頷いたので、これで問題はないようだ。

「とりあえず、何か食べようか?」

 大人数に囲まれているエンデバート卿を横目に見ながら、私たちはその場を後にしたのだった。
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