運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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4 聖魔術師の幻影編

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「結構です。暇じゃないので」

 私は声の主に対して、振り向かずにそのまま答えた。

「まぁ、そう言わずに。お二人でどうですか?」

 ルキウス殿下から入れ知恵でもされたのか、私が失礼な態度を取っていても、声に動揺が見られない。怯む感じもない。

「案内は昨日していただきましたわ」

 足音が私たちの真横、私からもソニアからも見えるところにやってきて止まる。

 ソニアの返事を受けて、さらにその人物は声を発した。

「昨日以外のところもご案内できます」

「はい?」

 ここでようやく、私は声の方に顔を向けた。声の主は予想通りのエンデバート卿。

 私たちの真横で片膝をつき、捨てられた子犬のような表情でこちらを見ている。

「王族の宮、お披露目会の会場など重要部には立ち入りが限られますが、私どもが自由に動ける部分は基本的に大丈夫です」

 そう言って、エンデバート卿は口をつぐんだ。なぜか目を潤ませて、じーっと私の返事を待っている様子。どうやら演技指導までされたようだ。

 正直、鬱陶しい。

 フォセル嬢のようなかわいい女子がやるならともかく、こんな屈強な騎士にやられてもな。

 ただ、エンデバート卿の言葉で思い出したことがあった。




 私はエンデバート卿を放置した状態で、うーんと少し考え込んだ後、身体をソニアの方へと乗り出す。

「(ねぇ、ソニア)」

「(なんです?)」

 エンデバート卿には聞こえない、でも、ソニアや私の護衛たちには聞こえる、そんな絶妙な小声で、私は呼びかけた。

「(私、王太子殿下から、お願い事されてたんだよね)」

 聞こえてるのに返事をしないソニア。

 王族、それも王太子殿下からのお願い事。勘のいいソニアはすでに分かったのだろう。
 すぐに返事をしないのが、何かを察した証拠だった。

 とはいえ、ここでソニアを巻き込まないといけない理由が私にはある。

 私はエンデバート卿を見習って、じーっとソニアを見ると、ソニアは手にしたカップをいったん卓上に置いてから、はぁーっと息を吐いた。眉はギュッと寄っている。

 そして、渋々と口を開いた。

「(…………嫌な予感しかしませんわね。聞きたくありませんけど、そのお願い事というのは?)」

「(金冠を探ってこい、だって。適任だからって。すっかり忘れてたけど)」

 ソニアが表情を消す。

 元々、表情豊かな方ではないけど、さらに人形のような顔つきになった。

 ソニアの頭の中では、金冠のお披露目会で『金冠』を探らないといけない理由について、あれこれ推察しているはずだ。

 私自身、金冠の価値というか凄さがよく分かっていないので、どうして他国の魔導具まで確認する必要があるのかが、今一つ分からない。

 自分たちを守護する魔導具を大事にするだけでは、いけないのだろうか。

 それとも、金冠というのは、こちらを守護する魔導具を害して、グラディアに敵対するものなんだろうか。

 その辺がよく分からない。

 セラフィアスに聞いてみても、セラフィアス自身が他の魔導具に対して興味がなさ過ぎて、満足のいく回答はなかったし。

「(エルシア、どうしてこのタイミングで思い出しますの?)」

「(騎士が自由に動ける部分には入れるって話で、なんとなく思い出しちゃって)」

 ソニアが嫌そうな顔をする。

 うちの王太子殿下だけでなく、ルビー大公女にも頼まれてたんだよね。すっかり忘れてたけど。

「(その話、他の方はご存知ですの?)」

「(グリプス伯と私の専属護衛の二人は知ってる)」

 コクッと首の動きだけで返事をするグレイとバルザード卿。

「(なるほど。こちらへ移動している最中の話からも、何かあるとは思っていましたけれど)」

 そうだった。

 移動している車の中で、カス王子やダイアナ嬢がおまけで、私が本物の主役、使節団の中心だ、と臭わせるような物言いがグリプス伯からあったんだっけ。

「(私一人だと反省文の心配があるから、ソニアもいっしょだと安心なんだよね)」

 反省文という単語にピクッと反応するソニア。ソニアも私の反省文の多さにギョッとした一人。

 これでソニアも、同行が嫌だとは言えないだろう。

「はぁぁぁ。エンデバート卿、魔術師や騎士の訓練場は見学できますの?」

 ソニアが折れた。

 よしっ。

 これで、この面倒なエンデバート卿と二人で、ってこともなくなった。
 なんなら、エンデバート卿がソニアに気を取られている隙に、いろいろ探索してしまえる。

「王宮の周りも見てみたいんだけど」

 ソニアに続いて、私はエンデバート卿に声をかけた。

 パッと表情を明るくするエンデバート卿。うん、分かりやすい。護衛騎士隊の隊長がいいのか、これで。

「もちろんです。ご案内しますね!」

 エンデバート卿は明るく返事をすると、周りにいた騎士たちに指示を出し始めた。

「それではすぐ、行きましょう!」

 気が変わる前にと思ったのか、そこからの行動はとても早かった。
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