210 / 317
4 聖魔術師の幻影編
3-1
しおりを挟む
「結構です。暇じゃないので」
私は声の主に対して、振り向かずにそのまま答えた。
「まぁ、そう言わずに。お二人でどうですか?」
ルキウス殿下から入れ知恵でもされたのか、私が失礼な態度を取っていても、声に動揺が見られない。怯む感じもない。
「案内は昨日していただきましたわ」
足音が私たちの真横、私からもソニアからも見えるところにやってきて止まる。
ソニアの返事を受けて、さらにその人物は声を発した。
「昨日以外のところもご案内できます」
「はい?」
ここでようやく、私は声の方に顔を向けた。声の主は予想通りのエンデバート卿。
私たちの真横で片膝をつき、捨てられた子犬のような表情でこちらを見ている。
「王族の宮、お披露目会の会場など重要部には立ち入りが限られますが、私どもが自由に動ける部分は基本的に大丈夫です」
そう言って、エンデバート卿は口をつぐんだ。なぜか目を潤ませて、じーっと私の返事を待っている様子。どうやら演技指導までされたようだ。
正直、鬱陶しい。
フォセル嬢のようなかわいい女子がやるならともかく、こんな屈強な騎士にやられてもな。
ただ、エンデバート卿の言葉で思い出したことがあった。
私はエンデバート卿を放置した状態で、うーんと少し考え込んだ後、身体をソニアの方へと乗り出す。
「(ねぇ、ソニア)」
「(なんです?)」
エンデバート卿には聞こえない、でも、ソニアや私の護衛たちには聞こえる、そんな絶妙な小声で、私は呼びかけた。
「(私、王太子殿下から、お願い事されてたんだよね)」
聞こえてるのに返事をしないソニア。
王族、それも王太子殿下からのお願い事。勘のいいソニアはすでに分かったのだろう。
すぐに返事をしないのが、何かを察した証拠だった。
とはいえ、ここでソニアを巻き込まないといけない理由が私にはある。
私はエンデバート卿を見習って、じーっとソニアを見ると、ソニアは手にしたカップをいったん卓上に置いてから、はぁーっと息を吐いた。眉はギュッと寄っている。
そして、渋々と口を開いた。
「(…………嫌な予感しかしませんわね。聞きたくありませんけど、そのお願い事というのは?)」
「(金冠を探ってこい、だって。適任だからって。すっかり忘れてたけど)」
ソニアが表情を消す。
元々、表情豊かな方ではないけど、さらに人形のような顔つきになった。
ソニアの頭の中では、金冠のお披露目会で『金冠』を探らないといけない理由について、あれこれ推察しているはずだ。
私自身、金冠の価値というか凄さがよく分かっていないので、どうして他国の魔導具まで確認する必要があるのかが、今一つ分からない。
自分たちを守護する魔導具を大事にするだけでは、いけないのだろうか。
それとも、金冠というのは、こちらを守護する魔導具を害して、グラディアに敵対するものなんだろうか。
その辺がよく分からない。
セラフィアスに聞いてみても、セラフィアス自身が他の魔導具に対して興味がなさ過ぎて、満足のいく回答はなかったし。
「(エルシア、どうしてこのタイミングで思い出しますの?)」
「(騎士が自由に動ける部分には入れるって話で、なんとなく思い出しちゃって)」
ソニアが嫌そうな顔をする。
うちの王太子殿下だけでなく、ルビー大公女にも頼まれてたんだよね。すっかり忘れてたけど。
「(その話、他の方はご存知ですの?)」
「(グリプス伯と私の専属護衛の二人は知ってる)」
コクッと首の動きだけで返事をするグレイとバルザード卿。
「(なるほど。こちらへ移動している最中の話からも、何かあるとは思っていましたけれど)」
そうだった。
移動している車の中で、カス王子やダイアナ嬢がおまけで、私が本物の主役、使節団の中心だ、と臭わせるような物言いがグリプス伯からあったんだっけ。
「(私一人だと反省文の心配があるから、ソニアもいっしょだと安心なんだよね)」
反省文という単語にピクッと反応するソニア。ソニアも私の反省文の多さにギョッとした一人。
これでソニアも、同行が嫌だとは言えないだろう。
「はぁぁぁ。エンデバート卿、魔術師や騎士の訓練場は見学できますの?」
ソニアが折れた。
よしっ。
これで、この面倒なエンデバート卿と二人で、ってこともなくなった。
なんなら、エンデバート卿がソニアに気を取られている隙に、いろいろ探索してしまえる。
「王宮の周りも見てみたいんだけど」
ソニアに続いて、私はエンデバート卿に声をかけた。
パッと表情を明るくするエンデバート卿。うん、分かりやすい。護衛騎士隊の隊長がいいのか、これで。
「もちろんです。ご案内しますね!」
エンデバート卿は明るく返事をすると、周りにいた騎士たちに指示を出し始めた。
「それではすぐ、行きましょう!」
気が変わる前にと思ったのか、そこからの行動はとても早かった。
私は声の主に対して、振り向かずにそのまま答えた。
「まぁ、そう言わずに。お二人でどうですか?」
ルキウス殿下から入れ知恵でもされたのか、私が失礼な態度を取っていても、声に動揺が見られない。怯む感じもない。
「案内は昨日していただきましたわ」
足音が私たちの真横、私からもソニアからも見えるところにやってきて止まる。
ソニアの返事を受けて、さらにその人物は声を発した。
「昨日以外のところもご案内できます」
「はい?」
ここでようやく、私は声の方に顔を向けた。声の主は予想通りのエンデバート卿。
私たちの真横で片膝をつき、捨てられた子犬のような表情でこちらを見ている。
「王族の宮、お披露目会の会場など重要部には立ち入りが限られますが、私どもが自由に動ける部分は基本的に大丈夫です」
そう言って、エンデバート卿は口をつぐんだ。なぜか目を潤ませて、じーっと私の返事を待っている様子。どうやら演技指導までされたようだ。
正直、鬱陶しい。
フォセル嬢のようなかわいい女子がやるならともかく、こんな屈強な騎士にやられてもな。
ただ、エンデバート卿の言葉で思い出したことがあった。
私はエンデバート卿を放置した状態で、うーんと少し考え込んだ後、身体をソニアの方へと乗り出す。
「(ねぇ、ソニア)」
「(なんです?)」
エンデバート卿には聞こえない、でも、ソニアや私の護衛たちには聞こえる、そんな絶妙な小声で、私は呼びかけた。
「(私、王太子殿下から、お願い事されてたんだよね)」
聞こえてるのに返事をしないソニア。
王族、それも王太子殿下からのお願い事。勘のいいソニアはすでに分かったのだろう。
すぐに返事をしないのが、何かを察した証拠だった。
とはいえ、ここでソニアを巻き込まないといけない理由が私にはある。
私はエンデバート卿を見習って、じーっとソニアを見ると、ソニアは手にしたカップをいったん卓上に置いてから、はぁーっと息を吐いた。眉はギュッと寄っている。
そして、渋々と口を開いた。
「(…………嫌な予感しかしませんわね。聞きたくありませんけど、そのお願い事というのは?)」
「(金冠を探ってこい、だって。適任だからって。すっかり忘れてたけど)」
ソニアが表情を消す。
元々、表情豊かな方ではないけど、さらに人形のような顔つきになった。
ソニアの頭の中では、金冠のお披露目会で『金冠』を探らないといけない理由について、あれこれ推察しているはずだ。
私自身、金冠の価値というか凄さがよく分かっていないので、どうして他国の魔導具まで確認する必要があるのかが、今一つ分からない。
自分たちを守護する魔導具を大事にするだけでは、いけないのだろうか。
それとも、金冠というのは、こちらを守護する魔導具を害して、グラディアに敵対するものなんだろうか。
その辺がよく分からない。
セラフィアスに聞いてみても、セラフィアス自身が他の魔導具に対して興味がなさ過ぎて、満足のいく回答はなかったし。
「(エルシア、どうしてこのタイミングで思い出しますの?)」
「(騎士が自由に動ける部分には入れるって話で、なんとなく思い出しちゃって)」
ソニアが嫌そうな顔をする。
うちの王太子殿下だけでなく、ルビー大公女にも頼まれてたんだよね。すっかり忘れてたけど。
「(その話、他の方はご存知ですの?)」
「(グリプス伯と私の専属護衛の二人は知ってる)」
コクッと首の動きだけで返事をするグレイとバルザード卿。
「(なるほど。こちらへ移動している最中の話からも、何かあるとは思っていましたけれど)」
そうだった。
移動している車の中で、カス王子やダイアナ嬢がおまけで、私が本物の主役、使節団の中心だ、と臭わせるような物言いがグリプス伯からあったんだっけ。
「(私一人だと反省文の心配があるから、ソニアもいっしょだと安心なんだよね)」
反省文という単語にピクッと反応するソニア。ソニアも私の反省文の多さにギョッとした一人。
これでソニアも、同行が嫌だとは言えないだろう。
「はぁぁぁ。エンデバート卿、魔術師や騎士の訓練場は見学できますの?」
ソニアが折れた。
よしっ。
これで、この面倒なエンデバート卿と二人で、ってこともなくなった。
なんなら、エンデバート卿がソニアに気を取られている隙に、いろいろ探索してしまえる。
「王宮の周りも見てみたいんだけど」
ソニアに続いて、私はエンデバート卿に声をかけた。
パッと表情を明るくするエンデバート卿。うん、分かりやすい。護衛騎士隊の隊長がいいのか、これで。
「もちろんです。ご案内しますね!」
エンデバート卿は明るく返事をすると、周りにいた騎士たちに指示を出し始めた。
「それではすぐ、行きましょう!」
気が変わる前にと思ったのか、そこからの行動はとても早かった。
1
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

純白の檻からの解放~侯爵令嬢アマンダの白い結婚ざまあ
ゆる
恋愛
王太子エドワードの正妃として迎えられながらも、“白い結婚”として冷遇され続けたアマンダ・ルヴェリエ侯爵令嬢。
名ばかりの王太子妃として扱われた彼女だったが、財務管理の才能を活かし、陰ながら王宮の会計を支えてきた。
しかしある日、エドワードは愛人のセレスティーヌを正妃にするため、アマンダに一方的な離縁を言い渡す。
「君とは何もなかったのだから、問題ないだろう?」
さらに、婚儀の前に彼女を完全に葬るべく、王宮は“横領の罪”をでっち上げ、アマンダを逮捕しようと画策する。
――ふざけないで。
実家に戻ったアマンダは、密かに経営サロンを立ち上げ、貴族令嬢や官吏たちに財務・経営の知識を伝授し始める。
「王太子妃は捨てられた」? いいえ、捨てられたのは無能な王太子の方でした。
そんな中、隣国ダルディエ公国の公爵代理アレクシス・ヴァンシュタインが現れ、彼女に興味を示す。
「あなたの実力は、王宮よりももっと広い世界で評価されるべきだ――」
彼の支援を受けつつ、アマンダは王宮が隠していた財務不正の証拠を公表し、逆転の一手を打つ!
「ざまあみろ、私を舐めないでちょうだい!」

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

超絶美形騎士は塩対応の婚約者を一途に病的に純粋に愛す
月冴桃桜
恋愛
「あんなに美しくて美形な騎士様を婚約者にできるなんて、一体どんな狡い手を使ったのでしょうね?」
醜い嫉妬の顔をした令嬢たちが、とある伯爵令嬢を問い詰めていた。
普通ならばそんなことを言われれば、何らかの反応を示すだろうが、彼女はそうではなかった。
「はて?」と、何を言われているのかわからないという顔をしている。
勿論、貴族特有の仮面で感情を隠している訳でもなくて、本当に意味がわかっていない様子。
だからこそ、嫌みの言葉も何も通じないことに令嬢たちは、どうにかして傷付けてやろうと次の言葉を探す。
「あの方にお似合いになるのは、この国で最も高貴な存在である華麗な王女様しかいませんわ」
「そうですわ! あの方と似合っているのは、気高く美しい王女様しかいませんわ!」
ここ最近、社交界で囁かれている噂だ。
そう、婚約者様が王女様の護衛騎士になってから広がった噂と噂。
それでも、我関せずな顔な私を、
それでも、嫉妬心醜い令嬢たちから救い出してくれるは……
勿論、私の美しき婚約者様。
現実を見て欲しいと言いたいのは、私の方だ。
この男がどうやったら、私の元を離れてくれるのかなんて、こっちが聞きたいくらい。
溺愛面倒、婚約破棄希望に拒絶反応。
はあ。やれやれと。
今日も婚約者と言う存在に疲れてしまうのだった。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
牢で死ぬはずだった公爵令嬢
鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。
表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。
小説家になろうさんにも投稿しています。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる