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4 聖魔術師の幻影編
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講習会の会場は、思ったより近いところにあった。
エスコートいるの?と思うくらいの場所だったけど、きっと、ダイアナ嬢の機嫌を取るために、ルキウス殿下が配慮をしたんだろうと思うことにした。
その会場には、メッサリーナ殿が先についており、初めて目にする銀髪の女性と何か話し込んでいる。
到着した私たちに気がつくと、すぐさま銀髪の女性を紹介して、メッサリーナ殿は後ろに下がった。
レティーティア・レクペラスと名乗ったその女性。銀髪銀眼という目を引く色合いを持っていた。
銀髪も魔術師向きの色。銀眼は金眼ほどではないけど、やはり珍しい瞳だ。
声も、澄んだ鈴の音色のようで、自然と耳の中に染み込むように感じる。
「本来、聖魔術師とは『金冠』の主に対する呼び名です」
という出だしで講習会が始まった。
「あの銀髪の人。人間じゃないみたい」
思わず、言葉が漏れる。
「うんうん、凄く綺麗だよねー 透き通ってるっていうか、透明感抜群」
隣にいるリュリュ先輩が大きく頷いてくれた。
誰もが見惚れるくらいの美しさ。ルキウス殿下といい、レティーティア殿といい、新リテラ王国は美男美女が揃っている。
もちろん、エンデバート卿のような普通の人もいるにはいるけど。
まぁ、そんな感じで始まった講習会は、新リテラ王国の成り立ちと、金冠にまつわる昔話から始まり、金冠の話を中心に話が続いていった。
レティーティア殿の語り口は、魅了にでもかかったように妙に引き込まれる。
心配した私の護衛が、何分かおきに私をつつくので、取り込まれることはなかったし。何より、ルキウス殿下がいなくなった後のダイアナ嬢が、いつもの嫌味なダイアナ嬢に戻ったので、話の合間合間に嫌味な台詞をたっぷりと叩き込んできた。
「そんな基本的なことは、もちろん知っていますわ。知っている内容を、いまさらあなたに習う必要があります?」
「あなた、いったい何回、同じことを説明するつもりですの? さきほども説明していましたわよね? 一度説明を聞けば十分ですわ」
「わたくしを次期筆頭だと分かっていらっしゃるのかしら。それにわたくし、魔術師家門のセイクリウス伯爵家の者なんですのよ? 本来なら、国外になど出ないような身分ですのに」
魅了も吹き飛ばすほどの嫌味っぷり。
怒ったら負けだと分かっているのか、レティーティア殿はダイアナ嬢を正面から相手にすることはなく、最初から最後まで澄んだ声を響かせていた。
ダイアナ嬢が嫌味な口を挟んだかと思えば、フォセル嬢は真面目に、そして熱心に話を聞いている。
「不勉強で申し訳ありません。自分の国以外のところの歴史や魔導具の話には、なかなか、触れる機会がなくて」
「研修生なので足りないところがあるかと思います。分からないところは、質問してもいいですか?」
「魔導具に対する法律も、グラディアとはだいぶ違うんですね。とても勉強になります。分かりやすく教えていただいて、ありがとうございます」
うん、ダイアナ嬢の嫌味っぷりをフォセル嬢が見事に帳消しにしてくれている。
うちの護衛騎士団も向こうの護衛騎士隊も、フォセル嬢をチラチラと見ては顔を赤くしていた。
かわいくて健気な姿を見るのは自由だからね。存分に見るがいいわ。
ともかく、最後は『ダイアナ嬢対フォセル嬢』みたいな感じで講習会はあっという間に終わってしまった。
ヤバい。
ダイアナ嬢とフォセル嬢に気を取られて、けっきょくあまり聞いてなかったかも。
講習会が終わって、私は立ち上がった。
また、エスコートだなんだと面倒なことになる前に、宿泊する部屋に行きたい。
立ち上がった私に、同じく立ち上がったソニアが話しかけてくる。
「フォセル嬢、空気を読めないところはありますけれど、素直な性格で、明るくハツラツとしていて謙虚。
勉学も優秀で、その上、魔力量も多くて全属性の適性あり。とくれば、人気があるのも分かりますわね」
講習会の内容ではなく、フォセル嬢の人気についてか。ソニアも金冠の話の方は集中して聞けなかったようだ。
「あの傲慢魔術師より、フォセル嬢の方が幹部候補とされてるんだってよー まだ、研修生なのにねー」
ソニアの話にリュリュ先輩も乗ってくる。リュリュ先輩もいろいろな噂話を知ってるものだな。
とここで、ちょっと考え込む。
「あれ? でも、フォセル嬢って第三騎士団希望じゃなかったっけ?」
そんなこと、言ってたような気がする。
憧れの先輩、クラウドといっしょに働いてみたいって。
そんな私の疑問をソニアが冷静に解決してくれた。
「研修を数ヶ月で切り上げて、新人が最初に配属される第三騎士団にまず仮配属。次の春に、王宮魔術師団に正式配属」
「あり寄りのありな、エリートコースだよねー」
「いきなり王宮魔術師団配属だと、軋轢も生じますので、まずは手頃な第三騎士団で手を打っておいて」
「からの本命、王宮魔術師団配属ー 将来有望視されてるって証拠よー」
リュリュ先輩の補足も入って、本当にそれらしい話へと変わる。
「ふーん。それじゃ、フォセル嬢。すぐに第三騎士団に来るのか」
「その可能性は高いと思いますわ」
「エルシア、何かひっかかるのー?」
「いや、別に」
将来有望視はクラウドもだ。副隊長代理としてすでに研修を受けているので、すぐに副隊長に昇進。
もしかしたら、クラウドも、次の春には第一騎士団に異動になるかもしれない。
私は二人の明るく広がる未来を、なんとなく羨ましく思った。
「フォセル嬢といっしょに仕事したら、張り切って頑張ってくれそうだなぁ、と思って」
羨ましくて、口ではそうとしか答えられなかった。
エスコートいるの?と思うくらいの場所だったけど、きっと、ダイアナ嬢の機嫌を取るために、ルキウス殿下が配慮をしたんだろうと思うことにした。
その会場には、メッサリーナ殿が先についており、初めて目にする銀髪の女性と何か話し込んでいる。
到着した私たちに気がつくと、すぐさま銀髪の女性を紹介して、メッサリーナ殿は後ろに下がった。
レティーティア・レクペラスと名乗ったその女性。銀髪銀眼という目を引く色合いを持っていた。
銀髪も魔術師向きの色。銀眼は金眼ほどではないけど、やはり珍しい瞳だ。
声も、澄んだ鈴の音色のようで、自然と耳の中に染み込むように感じる。
「本来、聖魔術師とは『金冠』の主に対する呼び名です」
という出だしで講習会が始まった。
「あの銀髪の人。人間じゃないみたい」
思わず、言葉が漏れる。
「うんうん、凄く綺麗だよねー 透き通ってるっていうか、透明感抜群」
隣にいるリュリュ先輩が大きく頷いてくれた。
誰もが見惚れるくらいの美しさ。ルキウス殿下といい、レティーティア殿といい、新リテラ王国は美男美女が揃っている。
もちろん、エンデバート卿のような普通の人もいるにはいるけど。
まぁ、そんな感じで始まった講習会は、新リテラ王国の成り立ちと、金冠にまつわる昔話から始まり、金冠の話を中心に話が続いていった。
レティーティア殿の語り口は、魅了にでもかかったように妙に引き込まれる。
心配した私の護衛が、何分かおきに私をつつくので、取り込まれることはなかったし。何より、ルキウス殿下がいなくなった後のダイアナ嬢が、いつもの嫌味なダイアナ嬢に戻ったので、話の合間合間に嫌味な台詞をたっぷりと叩き込んできた。
「そんな基本的なことは、もちろん知っていますわ。知っている内容を、いまさらあなたに習う必要があります?」
「あなた、いったい何回、同じことを説明するつもりですの? さきほども説明していましたわよね? 一度説明を聞けば十分ですわ」
「わたくしを次期筆頭だと分かっていらっしゃるのかしら。それにわたくし、魔術師家門のセイクリウス伯爵家の者なんですのよ? 本来なら、国外になど出ないような身分ですのに」
魅了も吹き飛ばすほどの嫌味っぷり。
怒ったら負けだと分かっているのか、レティーティア殿はダイアナ嬢を正面から相手にすることはなく、最初から最後まで澄んだ声を響かせていた。
ダイアナ嬢が嫌味な口を挟んだかと思えば、フォセル嬢は真面目に、そして熱心に話を聞いている。
「不勉強で申し訳ありません。自分の国以外のところの歴史や魔導具の話には、なかなか、触れる機会がなくて」
「研修生なので足りないところがあるかと思います。分からないところは、質問してもいいですか?」
「魔導具に対する法律も、グラディアとはだいぶ違うんですね。とても勉強になります。分かりやすく教えていただいて、ありがとうございます」
うん、ダイアナ嬢の嫌味っぷりをフォセル嬢が見事に帳消しにしてくれている。
うちの護衛騎士団も向こうの護衛騎士隊も、フォセル嬢をチラチラと見ては顔を赤くしていた。
かわいくて健気な姿を見るのは自由だからね。存分に見るがいいわ。
ともかく、最後は『ダイアナ嬢対フォセル嬢』みたいな感じで講習会はあっという間に終わってしまった。
ヤバい。
ダイアナ嬢とフォセル嬢に気を取られて、けっきょくあまり聞いてなかったかも。
講習会が終わって、私は立ち上がった。
また、エスコートだなんだと面倒なことになる前に、宿泊する部屋に行きたい。
立ち上がった私に、同じく立ち上がったソニアが話しかけてくる。
「フォセル嬢、空気を読めないところはありますけれど、素直な性格で、明るくハツラツとしていて謙虚。
勉学も優秀で、その上、魔力量も多くて全属性の適性あり。とくれば、人気があるのも分かりますわね」
講習会の内容ではなく、フォセル嬢の人気についてか。ソニアも金冠の話の方は集中して聞けなかったようだ。
「あの傲慢魔術師より、フォセル嬢の方が幹部候補とされてるんだってよー まだ、研修生なのにねー」
ソニアの話にリュリュ先輩も乗ってくる。リュリュ先輩もいろいろな噂話を知ってるものだな。
とここで、ちょっと考え込む。
「あれ? でも、フォセル嬢って第三騎士団希望じゃなかったっけ?」
そんなこと、言ってたような気がする。
憧れの先輩、クラウドといっしょに働いてみたいって。
そんな私の疑問をソニアが冷静に解決してくれた。
「研修を数ヶ月で切り上げて、新人が最初に配属される第三騎士団にまず仮配属。次の春に、王宮魔術師団に正式配属」
「あり寄りのありな、エリートコースだよねー」
「いきなり王宮魔術師団配属だと、軋轢も生じますので、まずは手頃な第三騎士団で手を打っておいて」
「からの本命、王宮魔術師団配属ー 将来有望視されてるって証拠よー」
リュリュ先輩の補足も入って、本当にそれらしい話へと変わる。
「ふーん。それじゃ、フォセル嬢。すぐに第三騎士団に来るのか」
「その可能性は高いと思いますわ」
「エルシア、何かひっかかるのー?」
「いや、別に」
将来有望視はクラウドもだ。副隊長代理としてすでに研修を受けているので、すぐに副隊長に昇進。
もしかしたら、クラウドも、次の春には第一騎士団に異動になるかもしれない。
私は二人の明るく広がる未来を、なんとなく羨ましく思った。
「フォセル嬢といっしょに仕事したら、張り切って頑張ってくれそうだなぁ、と思って」
羨ましくて、口ではそうとしか答えられなかった。
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