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4 聖魔術師の幻影編
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しかし、講習会参加が決まってからも長かった。
場所を移動すると言われ、歩いている間も、ダイアナ嬢とメッサリーナ殿のやり取りは続いた。
「それで、講習会とは具体的に何をいたしますの?」
「聖魔術師になるための講習会です。金冠の主は聖魔術師と呼ばれるため、主候補となるためには、まず、講習会を受けていただかねばなりません」
固まって歩いているので、前にいるダイアナ嬢とメッサリーナ殿からは、それほど離れていない。会話はよく聞こえる。
「前置きはいいから、具体的な話をしていただけないかしら」
「もう少々詳しい適性検査、古代リテラ王国や金冠についての座学、金冠との契約の儀式の練習となります」
「そう。なら、今日は適性検査をして終わりですわね」
はぁ。
ダイアナ嬢の返答を聞いて、カス王子とフォセル嬢以外が、そろってため息をついた。
ダイアナ嬢、座学、つまり、座って延々と話を聞かされたりするのが嫌で、先送りにしようとしてる。
だいたい、講習会って聞いた時点で、講習会=座学だと分かるよね、普通。
グリプス伯が指摘してたように、ダイアナ嬢はプライドが高く、自分の持つ知識に絶対的な自信を持っていた。
いまさら、他人に教わろうとは思わないはず。それがグリプス伯の見解で、私やソニア、リュリュ先輩に至るまで、グリプス伯の意見に同意しかなかった。
だから、講習会だ座学だなんて言われたら、使節団という立場を理解して了承するかどうか、全員が心配していたんだけど。
心配する通りの行動をするので、全員、ため息が出てしまったと。
ため息をつかなかったのは、講習会に自分は関係ないと思っているカス王子と、ダイアナ嬢の行動をよく分かっていないフォセル嬢だけ。
「いえ。今日は適性検査と座学まで終わらせますので。お持ちの荷物は部屋に運ばせますので」
「なんですって! 疲れていると言ったでしょう! ここに来るまでにどれだけ時間がかかったか分からないの?」
「休憩を挟みながら行いますので、問題ありません」
うん、これはグリプス伯と約束したわけだからね。
後ろからついていく私たちは、前の言い争いを聞かない振りをしながら、ひたすら歩く。
「疲れている客人に、ついてすぐ座学をさせようだなんて、いったい、どういう神経しているのかしら!」
ついに、ダイアナ嬢が爆発して立ち止まってしまった。
「(ごねてる)」
「(ごねてますわね)」
「(あれ、いつも通りだからー)」
子どもじゃないんだから、と言いたい。
向こうの護衛騎士たちも、うちの護衛騎士団も、困った顔で立ち尽くしていた。
せっかくまとまった話が最初の状態に逆戻りか。
と思った矢先、先方から別の団体が現れた。
「メッサリーナ、何か問題でも?」
別の団体の中心人物は、にこやかや笑顔でメッサリーナ殿に向けた。
背は高いが、茶色の髪に茶色の瞳。
容姿はかなり、いや、もの凄く整っていて、クラウドやカス王子のさらにさらに上をいくその人物は、魔力なしの特徴を持っていた。
よく見ると、集団の他の人間は全員が同じ色。騎士もいるのにすべて茶髪に茶眼。グラディアとはかなり違う。
新リテラ王国では魔力持ちは少ないのだろうか。
そんな疑問が頭の中をよぎった。
とはいえ、グラディアでも半分の人間は魔力なし。魔力があっても、魔術として発動できる人材は少ない。
魔術師としての適性が最悪な黒髪の魔術師でも、魔術師は魔術師。魔術師の中でも下には見られるけど、面と向かって魔術師としての礼を欠かれたことはなかった。
それだけ、魔術師は貴重。新リテラ王国に来て、まざまざとそのことを実感する。
「ルキウス殿下、実は…………」
メッサリーナ殿は声をかけてきた人物に事情を簡単に説明し始めた。
て、ルキウス殿下?!
新リテラ王国の王太子の名前がそれだったよね。
魔力を持たない王族だと分かって、内心ギョッとする。
そして、ギョッとした自分が情けなくなった。
うちの王族は、魔力の強い弱いはあっても全員が魔力持ち。そのせいか、私の中では、王族=魔力持ちという図式が出来上がっていて。
ついでに、魔力持ちが魔力なしより優秀だと、どこかしらで思っていたところがあったのだと思う。
魔力のあるなしで優劣が決まるわけでもない。
出来ることに差があるけど、世の中、魔法だけで成り立ってはいないから、魔力なしでも優秀な人材はたくさんいた。
ルキウス殿下の髪と瞳の色を見て、私の中にも差別の目があることを、少し恥ずかしく思って、私は目を伏せた。
そういえば。
国王に挨拶したときに、そばに、茶髪茶眼の若い男性がいたっけ。調子悪くてよく覚えてないけど、国王も茶髪茶眼だったっけ。お姫さまらしき人も同じ色だったような気がしたな。
私が考え込んでいる間に、説明は済んだようだ。
「というわけで、こちらの候補の方がお疲れで座学はしたくないと」
「したくないとは言っておりませんわ!」
キラキラと煌めきが見えるほど顔が良いルキウス殿下を目の前にして、ダイアナ嬢が吠えた。
吠え終えたダイアナ嬢とルキウス殿下の目が合う。
一瞬、しまった、という表情になるダイアナ嬢は、すぐさまにこやかな笑顔に変わった。
「あ、いえ、座学をしたくないと申したわけではございませんの。疲れているので明日にしていただけたら、と」
内心焦っているだろうに、ホホホと笑う余裕を見せるダイアナ嬢。
ルキウス殿下は、眉を寄せ考え込む仕草を見せた後、メッサリーナ殿とダイアナ嬢に向かって再び笑顔を見せた。
「それなら、美味しいお茶とケーキでも食べながら、座学をすればいいじゃないか」
ルキウス殿下の言葉を聞いて、脇に立っていた男性の一人が一礼した。そのまま、メッサリーナ殿のそばにいる魔術師に声をかけて、その場を立ち去る。
ルキウス殿下の方はすっと前に進み出て、ダイアナ嬢の前で片膝をついた。
「さぁ、レディ。私がエスコートしよう」
「まぁ、ありがとうございます」
満面の笑みで、手を取るダイアナ嬢。
「(秒で態度が変わった)」
「(あれもいつも通りですわ)」
「(そうそう、あれもいつも通りいつも通り)」
ダイアナ嬢の手を取ると、ルキウス殿下はさっと立ち上がり、横を見て、誰かに声をかけた。
「デュオニス殿下は、私の妹と歓談していてくれないかな。殿下に会って、国外の話を聞くのを楽しみにしていてね」
あー、カス王子、いたんだっけ。
存在感ゼロだったので、誰も気がつかなかったわ。
「到着早々、プリンセスにお目見え出来るなんて、とても光栄です。で、妹君はどちらに?」
カス王子がそう問いかけるや否や、さっと侍従が現れて、「こちらへ」と案内をする。
侍従に連れられ、ポーズを取るのも忘れて、カス王子はウキウキしながら、どこかに歩き去っていった。
呆れたカスだと思いながら、カス王子を目で見送ると、ルキウス殿下の隣に立つ人物と目が合う。
「(なんかあの人。こっちを見てる)」
「(エンデバート卿ですわね。王宮護衛騎士隊の隊長と紹介されましたけど)」
私とソニアがヒソヒソと話している隙に、ルキウス殿下がとんでもないことを言い出した。
場所を移動すると言われ、歩いている間も、ダイアナ嬢とメッサリーナ殿のやり取りは続いた。
「それで、講習会とは具体的に何をいたしますの?」
「聖魔術師になるための講習会です。金冠の主は聖魔術師と呼ばれるため、主候補となるためには、まず、講習会を受けていただかねばなりません」
固まって歩いているので、前にいるダイアナ嬢とメッサリーナ殿からは、それほど離れていない。会話はよく聞こえる。
「前置きはいいから、具体的な話をしていただけないかしら」
「もう少々詳しい適性検査、古代リテラ王国や金冠についての座学、金冠との契約の儀式の練習となります」
「そう。なら、今日は適性検査をして終わりですわね」
はぁ。
ダイアナ嬢の返答を聞いて、カス王子とフォセル嬢以外が、そろってため息をついた。
ダイアナ嬢、座学、つまり、座って延々と話を聞かされたりするのが嫌で、先送りにしようとしてる。
だいたい、講習会って聞いた時点で、講習会=座学だと分かるよね、普通。
グリプス伯が指摘してたように、ダイアナ嬢はプライドが高く、自分の持つ知識に絶対的な自信を持っていた。
いまさら、他人に教わろうとは思わないはず。それがグリプス伯の見解で、私やソニア、リュリュ先輩に至るまで、グリプス伯の意見に同意しかなかった。
だから、講習会だ座学だなんて言われたら、使節団という立場を理解して了承するかどうか、全員が心配していたんだけど。
心配する通りの行動をするので、全員、ため息が出てしまったと。
ため息をつかなかったのは、講習会に自分は関係ないと思っているカス王子と、ダイアナ嬢の行動をよく分かっていないフォセル嬢だけ。
「いえ。今日は適性検査と座学まで終わらせますので。お持ちの荷物は部屋に運ばせますので」
「なんですって! 疲れていると言ったでしょう! ここに来るまでにどれだけ時間がかかったか分からないの?」
「休憩を挟みながら行いますので、問題ありません」
うん、これはグリプス伯と約束したわけだからね。
後ろからついていく私たちは、前の言い争いを聞かない振りをしながら、ひたすら歩く。
「疲れている客人に、ついてすぐ座学をさせようだなんて、いったい、どういう神経しているのかしら!」
ついに、ダイアナ嬢が爆発して立ち止まってしまった。
「(ごねてる)」
「(ごねてますわね)」
「(あれ、いつも通りだからー)」
子どもじゃないんだから、と言いたい。
向こうの護衛騎士たちも、うちの護衛騎士団も、困った顔で立ち尽くしていた。
せっかくまとまった話が最初の状態に逆戻りか。
と思った矢先、先方から別の団体が現れた。
「メッサリーナ、何か問題でも?」
別の団体の中心人物は、にこやかや笑顔でメッサリーナ殿に向けた。
背は高いが、茶色の髪に茶色の瞳。
容姿はかなり、いや、もの凄く整っていて、クラウドやカス王子のさらにさらに上をいくその人物は、魔力なしの特徴を持っていた。
よく見ると、集団の他の人間は全員が同じ色。騎士もいるのにすべて茶髪に茶眼。グラディアとはかなり違う。
新リテラ王国では魔力持ちは少ないのだろうか。
そんな疑問が頭の中をよぎった。
とはいえ、グラディアでも半分の人間は魔力なし。魔力があっても、魔術として発動できる人材は少ない。
魔術師としての適性が最悪な黒髪の魔術師でも、魔術師は魔術師。魔術師の中でも下には見られるけど、面と向かって魔術師としての礼を欠かれたことはなかった。
それだけ、魔術師は貴重。新リテラ王国に来て、まざまざとそのことを実感する。
「ルキウス殿下、実は…………」
メッサリーナ殿は声をかけてきた人物に事情を簡単に説明し始めた。
て、ルキウス殿下?!
新リテラ王国の王太子の名前がそれだったよね。
魔力を持たない王族だと分かって、内心ギョッとする。
そして、ギョッとした自分が情けなくなった。
うちの王族は、魔力の強い弱いはあっても全員が魔力持ち。そのせいか、私の中では、王族=魔力持ちという図式が出来上がっていて。
ついでに、魔力持ちが魔力なしより優秀だと、どこかしらで思っていたところがあったのだと思う。
魔力のあるなしで優劣が決まるわけでもない。
出来ることに差があるけど、世の中、魔法だけで成り立ってはいないから、魔力なしでも優秀な人材はたくさんいた。
ルキウス殿下の髪と瞳の色を見て、私の中にも差別の目があることを、少し恥ずかしく思って、私は目を伏せた。
そういえば。
国王に挨拶したときに、そばに、茶髪茶眼の若い男性がいたっけ。調子悪くてよく覚えてないけど、国王も茶髪茶眼だったっけ。お姫さまらしき人も同じ色だったような気がしたな。
私が考え込んでいる間に、説明は済んだようだ。
「というわけで、こちらの候補の方がお疲れで座学はしたくないと」
「したくないとは言っておりませんわ!」
キラキラと煌めきが見えるほど顔が良いルキウス殿下を目の前にして、ダイアナ嬢が吠えた。
吠え終えたダイアナ嬢とルキウス殿下の目が合う。
一瞬、しまった、という表情になるダイアナ嬢は、すぐさまにこやかな笑顔に変わった。
「あ、いえ、座学をしたくないと申したわけではございませんの。疲れているので明日にしていただけたら、と」
内心焦っているだろうに、ホホホと笑う余裕を見せるダイアナ嬢。
ルキウス殿下は、眉を寄せ考え込む仕草を見せた後、メッサリーナ殿とダイアナ嬢に向かって再び笑顔を見せた。
「それなら、美味しいお茶とケーキでも食べながら、座学をすればいいじゃないか」
ルキウス殿下の言葉を聞いて、脇に立っていた男性の一人が一礼した。そのまま、メッサリーナ殿のそばにいる魔術師に声をかけて、その場を立ち去る。
ルキウス殿下の方はすっと前に進み出て、ダイアナ嬢の前で片膝をついた。
「さぁ、レディ。私がエスコートしよう」
「まぁ、ありがとうございます」
満面の笑みで、手を取るダイアナ嬢。
「(秒で態度が変わった)」
「(あれもいつも通りですわ)」
「(そうそう、あれもいつも通りいつも通り)」
ダイアナ嬢の手を取ると、ルキウス殿下はさっと立ち上がり、横を見て、誰かに声をかけた。
「デュオニス殿下は、私の妹と歓談していてくれないかな。殿下に会って、国外の話を聞くのを楽しみにしていてね」
あー、カス王子、いたんだっけ。
存在感ゼロだったので、誰も気がつかなかったわ。
「到着早々、プリンセスにお目見え出来るなんて、とても光栄です。で、妹君はどちらに?」
カス王子がそう問いかけるや否や、さっと侍従が現れて、「こちらへ」と案内をする。
侍従に連れられ、ポーズを取るのも忘れて、カス王子はウキウキしながら、どこかに歩き去っていった。
呆れたカスだと思いながら、カス王子を目で見送ると、ルキウス殿下の隣に立つ人物と目が合う。
「(なんかあの人。こっちを見てる)」
「(エンデバート卿ですわね。王宮護衛騎士隊の隊長と紹介されましたけど)」
私とソニアがヒソヒソと話している隙に、ルキウス殿下がとんでもないことを言い出した。
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