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4 聖魔術師の幻影編
1-5
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「よしっ、次はーー、大訓練場の外周を三十周ー!」
ケニス隊長の声が響く中、大訓練場の外周を、五人がただひたすら走っていた。
パシアヌス様と庶務の文官さんたちによる一般教養の試験が終わり、次に始まったのが、隊長たちによる試験だった。
まずは体力試験だということで、筋力に続いて持久力の試験。どう見ても、おもしろがって、しごいているようにしか見えない。
「そんなに要ります? 隊長たち、おもしろがってません?」
さすがにクラウドたちがかわいそうになってきて、口を挟んでみた。
すると、隊長たちが一斉にくるっと私の方を向く。
「あのなぁ、エルシア。護衛は体力勝負なんだぞ?」
「そうそう。二十四時間、働けないとダメなんだよ」
「なにしろ、常に気を張っていないといけないしな」
一見、おもしろがってるように見えるのに、隊長たちは意外とまともなことを並べ立てた。ダメだ。口で勝てそうもない。
「でもちょっと、ブラック過ぎません?」
それでも、もう少し粘ってみる。
「そうか?」
「そうだなぁ」
首を捻り合う隊長たちは、走るフェリクス副隊長に声をかけた。
凄い勢いで走るフェリクス副隊長は、先頭を走っていて、ちょうど、私たちから一番遠いところにいる。
「おーーーい、フェリクスーーー!」
「なんですかぁぁぁ、ケニス隊長!」
声をかけている、というより、怒鳴り合っているような。
まぁ、走っているフェリクス副隊長に声をかけているなら、怒鳴らないと聞こえないのは分かる。
でも、走りながら怒鳴り返すのって、余計に労力がいるんじゃないの?
そのうち、フェリクス副隊長はぐるっと回って、私たちの方へと近づいてきた。そして、私が見ている前を颯爽と走る。
そんなフェリクス副隊長に、ケニス隊長がさらに声をかけた。近いところを走っているので、今度は怒鳴らない。
「二十四時間、エルシアと二人でいっしょにいられる専属護衛って、ブラックかぁぁぁー?」
「いえっ、ご褒美ですっ!」
うん、即答。
「ほら、ブラックじゃないって」
「いや、それって、フェリクス副隊長の個人的な意見ですよね?」
そう。忘れていたけど、フェリクス副隊長は、キツいことを言われて喜ぶ趣味を持つ、ヤバい人だ。
私の疑問を、ケニス隊長は真面目な顔で聞くと、今度はクラウドに怒鳴りかけた。
クラウドは他の三人といっしょに走っていて、フェリクス副隊長とは半周くらい遅れている。
なので、今はやっぱり一番遠いところ。
「おーーーい、クラウドーーー! お前はどうだ?」
返事はない。
ざっざっざっ、と走る足音が響くだけ。
少ししてクラウドが近づいてきて、ようやく、クラウドの声が聞こえた。
「護衛対象を、二十四時間、警護するのは、専属護衛、として、ごく、当たり前のこと、かと、思います」
息切れしてるし。
いや、これが正常。フェリクス副隊長がおかしいだけか。
ともあれ、クラウドの返答は、専属護衛のお手本のような回答。
ケニス隊長は満足げに頷く。
「ほら、ブラックじゃないな」
「えー」
二十四時間働かせられるキツい仕事なのに、嬉しそうにする騎士の感覚が、私にはよく分からなかった。
そうこうしているうちに、外周三十周はあっという間に終わり、騎士たちの体力バカ振りに驚く暇もなく、護衛術と剣術の試験が始まる。
たぶん、試験もこれで最後だとは思うけど。最後だとは思えないほど、騎士たちは元気だった。
残すは剣術のみ、という最終。
「ヤッホー、エルシア。見に来てあげたわよぅ」
剣戟と声援が飛び交う大訓練場に似つかわしくない、明るい女性の声が響く。
「ユリンナ先輩?」
いまさらやってきたのかよ、とでも言いたげな顔でユリンナ先輩を見るケニス隊長を無視して、ユリンナ先輩は私の隣に割り込んできた。
「エルシア、モテ期到来ね!」
私の腕にぶら下がりご機嫌な先輩。
ユリンナ先輩は第一隊配属だから、ケニス隊長の直属の部下に当たる。ケニス隊長のあの顔からして、ユリンナ先輩、何か別のことをやっていたようだ。
それから、ユリンナ先輩の後を追いかけるようにやってきたのは、第二隊配属の魔術師オルドー・フェルアス。
私と同じく魔塔孤児院出身で、幼なじみというか、魔塔でいっしょに過ごしていたというか。
気安い間柄のせいか、オルドーは私対する評価がいつも辛い。平気で辛辣なことを言ってくる。
「たった五人じゃモテ期とは言わないな」
「たった五人でもモテ期はモテ期よぅ!」
グサグサッ
二人の言葉が刺さりまくるので止めてほしい。本気で。
「二人とも、たった五人を強調しないでもらえませんか?!」
「いや、だってなぁ」「事実だし~」
「世の中、強調しなくてもいい事実があるんです」
そして、タイミングよく登場したのはこの二人だけではなかった。
「いやぁ、ルベラス君の護衛希望者が五人もいたなんてなぁ」
「「団長!」」
私とユリンナ先輩たちが言い合っているところにやってきたのは、何を考えているのか分からない、うちの団長。
いまさら登場する理由が分からない。
「てっきり、フェリクスとクラウドの二人だけかと思っていたよ」
団長がなんだか気まずそうに、声を上げた。
うん? 二人だけ?
あー、分かった。今、分かった。
団長が遅れてやってきた理由が、バッチリ分かった。
「団長。もしかして、『どうせ、立候補者なんて二名だけしか出ないだろう』とか、思っていたんじゃないですよね?!」
あー、明後日の方を向いたよ。図星だ。
「ほーら、エルシア! やっぱりモテ期じゃないのぅ!」
「いや、とにかく! 私はモテなくていいんです!」
団長へのイライラもあって、ユリンナ先輩のからかうような言葉に言い返してしまった。
言い返してから、はたと気付く。
「て、あれ? そんな話だったっけ?」
私とユリンナ先輩がじゃれ合っている間に、最後の剣術は終わりを迎え、後は合格者の二名を発表するだけとなっていた。
ケニス隊長の声が響く中、大訓練場の外周を、五人がただひたすら走っていた。
パシアヌス様と庶務の文官さんたちによる一般教養の試験が終わり、次に始まったのが、隊長たちによる試験だった。
まずは体力試験だということで、筋力に続いて持久力の試験。どう見ても、おもしろがって、しごいているようにしか見えない。
「そんなに要ります? 隊長たち、おもしろがってません?」
さすがにクラウドたちがかわいそうになってきて、口を挟んでみた。
すると、隊長たちが一斉にくるっと私の方を向く。
「あのなぁ、エルシア。護衛は体力勝負なんだぞ?」
「そうそう。二十四時間、働けないとダメなんだよ」
「なにしろ、常に気を張っていないといけないしな」
一見、おもしろがってるように見えるのに、隊長たちは意外とまともなことを並べ立てた。ダメだ。口で勝てそうもない。
「でもちょっと、ブラック過ぎません?」
それでも、もう少し粘ってみる。
「そうか?」
「そうだなぁ」
首を捻り合う隊長たちは、走るフェリクス副隊長に声をかけた。
凄い勢いで走るフェリクス副隊長は、先頭を走っていて、ちょうど、私たちから一番遠いところにいる。
「おーーーい、フェリクスーーー!」
「なんですかぁぁぁ、ケニス隊長!」
声をかけている、というより、怒鳴り合っているような。
まぁ、走っているフェリクス副隊長に声をかけているなら、怒鳴らないと聞こえないのは分かる。
でも、走りながら怒鳴り返すのって、余計に労力がいるんじゃないの?
そのうち、フェリクス副隊長はぐるっと回って、私たちの方へと近づいてきた。そして、私が見ている前を颯爽と走る。
そんなフェリクス副隊長に、ケニス隊長がさらに声をかけた。近いところを走っているので、今度は怒鳴らない。
「二十四時間、エルシアと二人でいっしょにいられる専属護衛って、ブラックかぁぁぁー?」
「いえっ、ご褒美ですっ!」
うん、即答。
「ほら、ブラックじゃないって」
「いや、それって、フェリクス副隊長の個人的な意見ですよね?」
そう。忘れていたけど、フェリクス副隊長は、キツいことを言われて喜ぶ趣味を持つ、ヤバい人だ。
私の疑問を、ケニス隊長は真面目な顔で聞くと、今度はクラウドに怒鳴りかけた。
クラウドは他の三人といっしょに走っていて、フェリクス副隊長とは半周くらい遅れている。
なので、今はやっぱり一番遠いところ。
「おーーーい、クラウドーーー! お前はどうだ?」
返事はない。
ざっざっざっ、と走る足音が響くだけ。
少ししてクラウドが近づいてきて、ようやく、クラウドの声が聞こえた。
「護衛対象を、二十四時間、警護するのは、専属護衛、として、ごく、当たり前のこと、かと、思います」
息切れしてるし。
いや、これが正常。フェリクス副隊長がおかしいだけか。
ともあれ、クラウドの返答は、専属護衛のお手本のような回答。
ケニス隊長は満足げに頷く。
「ほら、ブラックじゃないな」
「えー」
二十四時間働かせられるキツい仕事なのに、嬉しそうにする騎士の感覚が、私にはよく分からなかった。
そうこうしているうちに、外周三十周はあっという間に終わり、騎士たちの体力バカ振りに驚く暇もなく、護衛術と剣術の試験が始まる。
たぶん、試験もこれで最後だとは思うけど。最後だとは思えないほど、騎士たちは元気だった。
残すは剣術のみ、という最終。
「ヤッホー、エルシア。見に来てあげたわよぅ」
剣戟と声援が飛び交う大訓練場に似つかわしくない、明るい女性の声が響く。
「ユリンナ先輩?」
いまさらやってきたのかよ、とでも言いたげな顔でユリンナ先輩を見るケニス隊長を無視して、ユリンナ先輩は私の隣に割り込んできた。
「エルシア、モテ期到来ね!」
私の腕にぶら下がりご機嫌な先輩。
ユリンナ先輩は第一隊配属だから、ケニス隊長の直属の部下に当たる。ケニス隊長のあの顔からして、ユリンナ先輩、何か別のことをやっていたようだ。
それから、ユリンナ先輩の後を追いかけるようにやってきたのは、第二隊配属の魔術師オルドー・フェルアス。
私と同じく魔塔孤児院出身で、幼なじみというか、魔塔でいっしょに過ごしていたというか。
気安い間柄のせいか、オルドーは私対する評価がいつも辛い。平気で辛辣なことを言ってくる。
「たった五人じゃモテ期とは言わないな」
「たった五人でもモテ期はモテ期よぅ!」
グサグサッ
二人の言葉が刺さりまくるので止めてほしい。本気で。
「二人とも、たった五人を強調しないでもらえませんか?!」
「いや、だってなぁ」「事実だし~」
「世の中、強調しなくてもいい事実があるんです」
そして、タイミングよく登場したのはこの二人だけではなかった。
「いやぁ、ルベラス君の護衛希望者が五人もいたなんてなぁ」
「「団長!」」
私とユリンナ先輩たちが言い合っているところにやってきたのは、何を考えているのか分からない、うちの団長。
いまさら登場する理由が分からない。
「てっきり、フェリクスとクラウドの二人だけかと思っていたよ」
団長がなんだか気まずそうに、声を上げた。
うん? 二人だけ?
あー、分かった。今、分かった。
団長が遅れてやってきた理由が、バッチリ分かった。
「団長。もしかして、『どうせ、立候補者なんて二名だけしか出ないだろう』とか、思っていたんじゃないですよね?!」
あー、明後日の方を向いたよ。図星だ。
「ほーら、エルシア! やっぱりモテ期じゃないのぅ!」
「いや、とにかく! 私はモテなくていいんです!」
団長へのイライラもあって、ユリンナ先輩のからかうような言葉に言い返してしまった。
言い返してから、はたと気付く。
「て、あれ? そんな話だったっけ?」
私とユリンナ先輩がじゃれ合っている間に、最後の剣術は終わりを迎え、後は合格者の二名を発表するだけとなっていた。
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