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4 聖魔術師の幻影編

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 お昼が終わり、クストス隊長が待つ第五隊の隊長室に戻った私は、そこで、全隊に向けての招集の伝令を受けた。

「第一隊ヴォードフェルム副隊長から全隊に向けて。ルベラス魔術師殿の新リテラ王国使節団参加に同行する、専属護衛の選考会をこれから開催する。
 選考会に参加するものは至急、大訓練場へ集合せよ。
 なお、選考会に参加希望で手があかない者は申し出ること。時間をずらして選考会を行うこととする」

 招集者はフェリクス・ヴォードフェルム。

 何度、見直しても、フェリクス副隊長が招集者になっている。

 何やってんの、あの人?

 それに話をしたのはついさきほど。なのにこのタイミングで召集が回ってくるって、どういうことよ?

 フェリクス副隊長はどうしても、国外に遊びに行きたいらしい。

「今日はとくに業務もないし、みんなで見に行ってみるか」

 と、クストス隊長。

 まるで、他人事。ヴァンフェルム団長の口癖が感染したかのような、まったりのんびり口調。

「おーし、行くぞ」

 そして、移動の号令も非常にのんびりしたもの。

「ま、参加する訳じゃないからな。参加するヤツを眺めに行くだけだから」

 うん。投げやりな物言いに、ちょっとカチンとくる。なんか、私が酷いことを言われているような気がしてきた。




 そんなこんなで着いた大訓練場。

「おおっ、凄い」

 私は目を見張った。

「おー、かなり集まってるな」

 隣に立つクストス隊長も同じ感想のようだ。

 大訓練場には、私の予想に反して、意外とたくさんの騎士たちが集まっている。そしてクストス隊長の予想にも反していたのか、クストス隊長も驚きの顔。

 大訓練場はその名の通り、一番大きな訓練用施設で、闘技場も兼ねていた。

 剣術大会では、騎士以外の各部門の予選会が行われていた会場で、観客席もばっちり完備。
 闘技会でもここを主会場として、設営が行われるとのこと。

 だだっ広い大訓練場は、第三騎士団の全隊を集めてもなお、余裕があるほどの広さを誇る。

 その大訓練場にかなりの人数、第三騎士団の七割ほどと、どこから話を聞きつけてきたのか、第二騎士団の騎士も混じっていた。

「私、意外と人気だとか?」

 大勢の騎士を見て唖然とする私。

「それはないな」

 と、横から口を挟んできたのは第一隊のカニス隊長。

「ほら、よく見ろ。集まっているのは参加者じゃなくて見物者だ。俺も含めて」

 あっさり言う様が憎らしいけど、どうやらそうらしい。

 だって、みんな、剣も何も持たずにブラブラしている。それどころか、何やら賭けまでやっている。

 何これ、何なのこれ。




 ざわざわとする中、大訓練場の中央に、一人の人物が進み出た。黒髪に長身の男性だ。剣を腰に下げ、戦闘準備万全な姿をひている。

 静まりかえる群衆。

 うん。進み出た人物、見なくても分かるかも。あれは間違いなく、フェリクス副隊長だ。

 フェリクス副隊長は息をすーっと吸い込むと、大訓練場の隅々にまで届くような大声で叫んだ。

「エルシアの、護衛になりたいヤツ、いるかーーー?!」


 シーーーーーーーン


 さらに静かになる群衆。

 ちらほら挙がる手。

 この大人数で、立候補わずか二名。

 ううっ、私の人気、私の人気がなさすぎてツラい。

 フェリクス副隊長はさらに叫んだ。

「エルシアと、新リテラに行きたいヤツ、いるかーーー?!」


 シーーーーーーーン


 さらにさらに静かになる群衆。

 ちらほら挙がる手。

 この大人数で、立候補合わせて四名。

 ううっ、私の人気、私の人気がなさすぎて地獄すぎる。

「て、フェリクス副隊長が勝手に仕切ってるし」

「まぁ、いいんじゃないか?」

「そうだな。剣術大会も終わって、闘技会までは競い合うイベントはないしな」

 あくまでも見物目的の傍観者な隊長たちは、まるで、娯楽でも見て楽しむように、呑気に喋り出した。

「勝手に選考したからダメとか、言われないんですか?」

 私のごく普通の質問を聞き、集まって何事かを話し合っていた隊長たちは、怪訝な顔をする。

 それから、一人一人が滅多切りにし始めた。

「ヴァンフェルム団長が、そんな細かいこと気にすると思うか?
 あの口調だけはのんびりしたヴァンフェルム団長が。使える物は喜んで使うと思うけどな」

「例え言われたとしても、選考の参考にはしてもらえるだろう。改めて選考するにしては、今回は時間がないだろうしな」

「ま、気にしたとしても、護衛は複数必要なはずだから、一人くらいは採用になるんじゃないか?
 あながち、実力的に不適当な人物は立候補してなさそうだし」

「どちらにしろ、エルシアが心配する必要はない。フェリクスたちが自主的にやってることだしな。
 それに、大訓練場の使用許可を取る時点で、団長にも話がいってるはずだしな」

「そもそも、エルシアに専属護衛なんているか? いらんだろ? 護衛よりも暴走を止めるお目付役をつけとけばいい話だし」

 さすが、隊長たち。

「ま、俺たちには関係ないしな」

「「あぁ」」

 完全に他人事だ。

「にしてもエルシア、お前、人気ないな」


 ザクッ


 滅多切りする物がなくなったのか、その矛先は私にも向けられた。ううっ、胸が痛い。心が痛い。

「放っておいてください!」

 こんなにたくさん集まっているのに、たった四人、いやいや、司会進行をしているフェリクス副隊長も立候補してたから、五人か。

 それでも!

 少なすぎない?!

「ダイモス魔術師殿なら、少なくとも二十人くらいは立候補が出るよな」


 グサッ


 言葉が刺さる。リアルに刺さる。

 私の専属護衛の選考会なんだから、ある意味、私が主役なのに。
 どうして、逆に肩身の狭い感じに追い込まれないといけないのよ。

「だから、比べないでください!」

「やっぱりあれだな、黒髪に金眼、てのが恐怖を誘うんだろうな」

「「だな」」

「なんの恐怖ですか!」

 とは言ってみたものの。

 以前にアエレウス大公家の二人に言われたことを思い出した。

 黒髪金眼のセラフィアスへの畏怖が、昔から人間の無意識に根付いていて、黒髪金眼の組み合わせを、異質な物と捉えるよう刷り込まれている。近寄る人間がいないのはそれが原因。

 二人の話では、畏れ多い存在は、近寄りがたいし、声をかけにくいし、恋愛対象にならないらしい。

 私の根本的な人気の無さは、私の持つ色の組み合わせに由来している。

 隊長たちの指摘はまさにそれだった。

 黒髪の魔術師だということで、見た目だけで役に立たないと揶揄され、さらに黒髪金眼という色の組み合わせで、怖い、関わりたくないと敬遠され。

 私だって、なりたくて黒髪金眼になったのではないのに。

 ショボンとした私を慮ってか、クストス隊長だけは違うことを言ってくれた。

「そんなことより、反省文の多さに巻き込まれたくないだけじゃないか?」


 うぐっ


 正論で殴られた。さらに落ち込む私。

 それもそうだな、と、さきほどより納得顔の他の隊長たち。

 クストス隊長、ぜんぜん、フォローになってないんですけど。

「くぅぅぅ、痛いところを!」

「とにかく、見てればいいから」

「見てればいいって言われても」

 私は大訓練場の中央に目を向ける。

 そこには、フェリクス副隊長を中心に五人が集まっていた。

「ところで、護衛の選考って何をするつもりなんですか?」

「それはだな」

 クストス隊長は言葉を止め、視線を中央から別な方に向けた。

 私もクストス隊長の視線を追う。

 すると、そこには中央へ向かう、とある人物の姿があった。
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