運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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4 聖魔術師の幻影編

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 面倒くさい仕事の話を、ヴァンフェルム団長から聞かされた次の日。

 午前中は、第五隊の方でせっせと書類整理。

 クストス隊長からお茶とタルトをもらってバリバリ仕事を進めていると、お昼を少し過ぎた時間になる。お昼はクストス隊長と入れ替わり。

 ついでにヴェルフェルム団長に書類を提出してこようと、帰ってきたクストス隊長に声をかけ、席を立った。

 いっしょに書類整理をしているクラウドは、おそらく、後輩だという研修生の魔術師、フォセル嬢とお昼をするだろう。

 少し前、ちょっとしたトラブルから、クラウドがフォセル嬢を助けて。それから、お昼はフォセル嬢といっしよに食べているクラウド。

 クラウドとフォセル嬢の噂は、そういった話に疎い私の耳にまで入ってくるほど。

 その前までは、クラウドのヤツ。私のお昼に着いてきたのにね。

 いやいや、勘違いしないでもらいたい。

 別に、二人の仲を羨んでいるわけじゃないら。
 私も毎日、恋人といっしょにお昼を食べたいとか思ってないから。本当だから。




 まぁ、そんな事情もあって、私はクラウドに声もかけず、一人で食堂に向かった。

 もちろん、向かう先は第三騎士団の食堂だ。

 私は昨日の使節団の話で、ちょっと心がモヤモヤしていた。
 そもそも、私は国外に出てもいいものなのか?
 そこからだよねぇ。

 頭の中でうだうだ考えていても仕方がない。こういうときは美味しいお昼で心を癒すに限る、と無理やり気持ちを切り替える。

 実際問題、美味しいご飯の癒し効果の力は底知れない。第三騎士団の食堂のお昼ならなおさら。
 私の食い意地が張っているのではなく、第三騎士団の食堂のご飯は、本当に本当に、美味しいのだ。




 王都騎士団はそれぞれ食堂を持っていて、それぞれ特色があった。

 第一騎士団の食堂は昼間のみ。

 貴族出身者に合わせて、前菜、スープ、肉料理、魚料理、デザートと食後のお茶もつく。

 さすがに一品一品、配膳するような余裕はないので、まとめて配膳。
 食堂に行って、給仕の人に所属を伝えるだけで、席に案内され、自動的に料理がまとめて運ばれてくる。

 というのは、第一騎士団で魔術師をやっている、学院時代の同期でライバル、カエルレウス公爵令嬢ソニアから聞いた話。

 私自身は行ったことはなかった。
 貴族の礼儀作法だとかなんだとか、面倒くさそうだし。

 第二騎士団の食堂は昼から深夜にかけて。

 平民出身者に合わせた、市井の料理が中心だ。

 毎日、メイン料理が二、三種類、小皿料理が五、六種類、提供されている。ずらっと皿によそって並べてあるので、それを自由に好きなだけ取っていいシステムだ。

 第二騎士団の食堂には、何回か、第二騎士団暗黒隊の魔術師、リュリュ先輩に誘われて行ったことがあった。
 がやがやと賑わっていて、騎士団の食堂なのに街中みたい。とても活気のあるところだったのを覚えている。

 ちなみに、行ったことはないけど、夜は酒場的な感じだそうだ。行ったことはないけど。

 そして、第三騎士団の食堂は、朝からやっているという親切設定。

 だから、朝ご飯が必要な第二騎士団の人もやってくるんだよね。

 メニューは、日替わりのおかずか、日替わりのスープの二種類のみ。

 日替わりのスープは一日通して同じスープ、日替わりのおかずの方は朝、昼、夜の時間帯で種類が変わる。

 注文は簡単。日替わりのおかずかスープかを選ぶだけ。
 後は食堂の人たちがチャッチャと、トレーにサラダとパンも乗せてくれて終わる。

 おかずもスープも量があるので、食の細い騎士や女性は、少なめと声をかけると減らしてもらえる気遣いあり。

 最近の私の定番は、第三騎士団の食堂で朝は日替わりを少なめ、昼は日替わりスープ。

 夜は買い置きのパンや果物を官舎で食べるので、食堂利用はほとんどない。

 実は今、セラフィアスに魔力コントロールの再特訓を受けているから、夜は官舎にこもっているという。
 しっかりやらないと「死人が出るレベル」とセラフィアスに脅されたので、致し方なく。

 騎士団とは別に、王宮で働く人用の食堂もあって、全員がどの食堂で食事をしてもいいルールにはなっていた。

 そうはいっても、やっぱり自分の騎士団の食堂が一番美味しい。心も癒される。




 そんなわけで、私は今日も日替わりスープを注文する。私の疲れた心を温かいスープで満たせば、午後もしっかり働けるはずだから。

 今日の日替わりスープは、骨付きの鶏肉と夏野菜の豪快なスープ。トマトの酸味と甘味に野菜と鶏肉のダシが利いていて、絶品だった。

「美味しくて最強」

 思わず、頬がゆるむ。

 と、そこへ、いきなりかけられる声。

「新リテラに行くんだってな、エルシア」

 ケホ

 びっくりして吹き出しそうになるのを、全力で留めて、声がする方を見た。

 見知った黒髪に藍色の瞳。

 第三騎士団第一隊のフェリクス・ヴォードフェルム副隊長だ。

 もともと、フェルム一族は黒髪好きだそうで、私の黒髪が気に入ったのか、しつこくしつこく絡んでくる。

 キツいことを言えば、なぜか、喜ぶので、ちょっと気味が悪い。

 そのフェリクス副隊長が隣のテーブルにいる。

 クラウドと同じくらいの長身だけれど、フェリクス副隊長の方が線がやや細い。

 細くても力が弱いわけではなく、この前の剣術大会では、騎士上級で準優勝までいった実力者。意外と侮れない。

 私はいったんスプーンをトレーに置く。

「えっと、フェリクス副隊長、どこから湧いたんですか?」

「いや、俺。最初から隣のテーブルにいて、エルシアを見てたけど?」

「え?」

 いた? いたっけ? 最近、面倒くさいので、存在自体を感知しないようにしていたけど、そのせい?

「本当だって! エルシアが団長室から出てきたところから、そーっと後をつけて食堂まで来たんだから!」

「フェリクス。それ、ただのヤバいヤツだぞ」

 ケホ

 今度はフェリクス副隊長とは反対側から声が聞こえた。

 くるっと体勢を変えて振り向くと、今度は見慣れた赤茶髪に赤眼。クラウドだ。

「なんで、クラウドが隣に? フォセル嬢は?」

 私のまっとうな問いかけに、クラウドは、どういうわけか不機嫌そうに眉をしかめた。

「俺も最初から隣のテーブルにいたし、ミライラとはただの先輩後輩だと、何度も何度も何度も言ってるよな、エルシア?
 この前は、お礼を断るわけにもいかなかったんだから、仕方ないだろ」

「なんか、言い訳がましい」

 久しぶりに、クラウドといっしょにランチっぽい感じになったのに。ケンカしたみたいになって、居心地が悪かった。

 だから、私は再びくるっと体勢を変え、フェリクス副隊長の方を見る。

「えーっと、フェリクス副隊長、つまり、団長室での会話も聞いてたってことですよね?」

「違うって! 団長に書類を提出しに行ったら、エルシアの声が中から聞こえてきたから。話を邪魔しちゃいけないなーと思って、外で待ってたんだ!」

 食堂に来る前、団長室によったときに、また使節団の話を出されたので、おそらく、その話のことだろうけど。

 扉のすぐそばにいれば、そりゃ、聞こえるだろうし、完全に盗み聞きだ。

「フェリクス。それ、盗み聞きだぞ」

「う」

 クラウドにとどめを刺されて、呻くフェリクス副隊長。

 はぁ。

 頭が痛い。せっかく、美味しいご飯で癒されたばかりなのに。
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