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3 王子殿下の魔剣編
5-9 ???、祝勝パーティーに向かう
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決勝をさっさと終わらせて、俺は彼女のところへと急いでいた。
手には赤いバラの花束。
昨日のうちに手配して、今日の朝、花屋で受け取ってきたものだ。金と黒の二色のリボンで飾ってもらってある。
そして胸のポケットには金章。
彼女に金章を捧げると抜かしてる不届きな者が何人かいるようだが、彼女だけは絶対に誰にも渡さない。
そう決意して臨んだ久しぶりの剣術大会は案外、楽だった。骨のあるヤツはそうそういないもので、金章はあっさりと俺の物になる。
そして、今、俺は彼女の下へと向かう途中だった。
「ワン!」
何かが俺の花束を襲う。
なんだ? 犬か? こんなところに?
俺は大事な彼女への花束を左手で持っていた。とっさに花束を脇にかばい、右手に『力』を乗せ、何かに叩きつける。
ゴスッ
鈍い音がした。
だが、それだけだった。殺った気配がどこにもない。
「なんだ?」
通常なら人も魔物も、右手の一発だけで仕留められるのに。
反撃に備えて身構える。さっさと殺って彼女に会わないと。俺は急いでいるんだ。
とどめをさそうと、俺は殴って地面にめり込ませた何かに近づく。
そんな殺気立つ俺に、話しかけてくる物があった。
《主》
俺の剣、『黒哮のルプシス』だ。
「なんだ?」
《いきなり吠えかかってきた剣を、片手で制圧しておいて、なんだも何もないだろうが》
いきなり吠えかかってくること事態がおかしいんだが。それも、俺の持つ花束を目掛けて吠えかかるなんて。
待て、今、なんて言った?
俺は、俺の剣の言葉に首を傾げた。
「剣だと? これが?」
俺は地面にめり込んだ灰色の物体を見下ろす。
《『暴嵐のテンペスタス』》
「キャゥン」
灰色の物体は、鳴き声をあげて地面から這い出した。
ゴスッ
這い出した瞬間を狙ってもう一発。
それから、グリグリと踏みつける。
「かわいい犬の振りをするな。大事な花束に噛みつこうとするとは、万死に値する」
グリグリグリグリ
《ま、待って、くれ……》
「誰が待つか」
テンペスタスとかいう魔剣は、途切れ途切れ、声を振り絞る。ほら、普通に喋れるんじゃないか。犬の振りをしやがって。
グリグリグリグリ
足先に力が入る。
《あ、主を、探して、いただけだ……》
呻いて、ありきたりの言い訳をする魔剣。
魔剣が主を探すのは当然のこと。だが、それがどうして、俺の大事な花束に噛みつくことに繋がるんだ?
「だからどうした」
《我の主に、なって、もらえない、だろう、か……》
あぁ、つまりあれか。俺の力を試したのか。そんなくだらないことのために、大事な花束がダメになるところだったじゃないか。犬の振りをすれば許されるとでも?
どんどん気分が悪くなる。
急いでいるのに足止めされる形になっているのも気に入らない。
「ふん」
とどめをさそうと、俺は振り上げた腕に力を込める。
と、そのとき。
ガルルルルゥ
ルプシスが顕現して、俺とテンペスタスの間に入る。
《主、落ち着け。大事な花束を襲ったことについては、謝罪させればいいだろ?》
ルプシスは大きな黒い狼の姿で俺を諭しにかかる。
「時間がもったいない。あいつとの貴重な時間が減る」
それに世の中、謝れば済む問題ばかりではない。花束を襲うだなんて、絶対に許されないことだ。
《…………と、主は思ってるはずだ》
目の前で堂々と、俺の頭の中を解説するルプシス。
ルプシスに人の心を読む能力などないが、付き合いが長いせいか、俺の行動原理をほぼ把握していた。
《ただの花じゃないのか?》
とテンペスタス。
なわけあるかよ。ただの花ならここまで怒るか。
《ただの花な訳があるか。主の番、あの方への大事な貢ぎ物だぞ!》
ルプシス、せめて贈り物と言え。まぁ、ほぼ同義だが。
《なんと! そんな大切なものだったとは!》
テンペスタスがガバッと身体を起こした。
二回殴って踏みつけていたのに、ダメージは微塵も感じない。
それどころか、ルプシスと同じくらいの毛並みの艶まで見せている。
顕現した姿はルプシスの色違いのようにも見える。ルプシスが大きな黒い狼なら、テンペスタスの方は大きな灰色の狼。
バッ
突然、テンペスタスが大きな身体を縮こめ、ペタッと地面に伏せた。
これは、
「土下座か?」
しかも犬流の。
《申し訳ない!》
《主、許してやってくれ!》
バッ
ルプシスまで地面に伏せる。犬流の土下座で。
いい加減、バカバカしくなってきた。
地面に伏せる二匹にくるりと背を向けると、背後で慌てたような雰囲気がする。
《主、どこへ行くんだ?!》
「あいつのところ」
正直、お前らの相手より、彼女との時間の方が大切だ。
《…………と、考えてる顔だな》
「分かってるなら引き留めるな」
今度こそ俺は歩き出そうとした。
《主、剣は二本まで持てる》
歩き出そうとする俺の背中へ、ルプシスが声をかける。
だから?
《あの方も二本持ちだろ。主も二本持ちになればあの方と『お揃い』だな》
ピクッ
足が止まった。
「…………『お揃い』か」
確かに今の彼女は、二本の杖の主だ。
理論上、魔剣や杖は二本まで所持出来るが、普通の人間は所持した時点で魔力切れを起こす。
二本持ちというのは、頭抜けた魔力の持ち主だからこそ、出来る芸当だ。
しかし、彼女は何の苦もなく二本の杖を使いこなしている模様。
彼女よりは少し劣るが、俺も魔力には自信があった。
それにテンペスタスとルプシスの反応から言っても、俺も二本持ちが可能なんだろう。
それより何より、『お揃い』という言葉に心が動く。
俺の動揺を感じて、ルプシスがさらに言い募った。
《それに、あの方はフサフサを好む。我が主のそばにフサフサが二匹いたら、喜ぶよな?》
「…………フサフサか」
《け、毛並みには自信がある!》
振り向くと、テンペスタスが身体を起こし、毛並みを銀色に輝かせていた。ルプシスの方は黒銀。二匹揃って輝かしい。
「なるほど。いいだろう。ただし、一番のフサフサはこの俺だ。分かってるよな?」
《おうよ、主》
《もちろんだ》
まるで双子のように動きがシンクロする二匹。
「ならば、契約だ。《我が下僕となり、我の力の一部となれ、テンペスタス》」
俺はテンペスタスの頭に手を乗せ、力のある言葉を解き放った。
《よろしくな、テンペスタス》
《恩に着る、ルプシス》
少し時間はとってしまったが、俺は二匹を連れて彼女の下へと急いだ。
「わぁ、グレイ。新しいワンちゃん? 最近見かける仔に似てるような気がするけど、フサフサしててかわいい! ねぇねぇ、触っていい? 抱っこしていい?」
ピキッ
会う早々、俺ではなく、魔剣に興味津々の彼女。
《先に主を抱っこだ!》
《先に主をナデナデだ!》
一瞬、ムッとした俺の心を読んだかのように、俺を彼女の前に押し出す二匹。
彼女はピタッと動きを止めると、ギギギギッと首を俺に向け見上げる。
「ええっと、グレイ。ワンちゃん、じゃなくて魔剣にどういう教育をしてるわけ?」
「当然、主ファーストだが?」
当たり前のように答える俺。
その流れで跪いて、バラの花束と金章を彼女に捧げた。
花束と金章を見て、フワッとバラの花が開いたかのような笑みを浮かべる彼女。
かわいい。凄くかわいい。このままこの場で襲いたいくらいかわいい。
というのは顔に出さない。絶対に出さない。なにせ俺は、頼れる最強の保護者だからな。
「うん、まぁ、いいか」
《主、そこで流されるのかよ》
彼女の杖が余計な突っ込みを入れているが、彼女は気にしないことに決めたようだ。
俺は彼女の手を取る。
「行こうか、シア」
こうして俺は、彼女とともに祝勝パーティーに乗り込んだ。
エルシア・ルベラスが俺のパートナーだと見せびらかすために。
手には赤いバラの花束。
昨日のうちに手配して、今日の朝、花屋で受け取ってきたものだ。金と黒の二色のリボンで飾ってもらってある。
そして胸のポケットには金章。
彼女に金章を捧げると抜かしてる不届きな者が何人かいるようだが、彼女だけは絶対に誰にも渡さない。
そう決意して臨んだ久しぶりの剣術大会は案外、楽だった。骨のあるヤツはそうそういないもので、金章はあっさりと俺の物になる。
そして、今、俺は彼女の下へと向かう途中だった。
「ワン!」
何かが俺の花束を襲う。
なんだ? 犬か? こんなところに?
俺は大事な彼女への花束を左手で持っていた。とっさに花束を脇にかばい、右手に『力』を乗せ、何かに叩きつける。
ゴスッ
鈍い音がした。
だが、それだけだった。殺った気配がどこにもない。
「なんだ?」
通常なら人も魔物も、右手の一発だけで仕留められるのに。
反撃に備えて身構える。さっさと殺って彼女に会わないと。俺は急いでいるんだ。
とどめをさそうと、俺は殴って地面にめり込ませた何かに近づく。
そんな殺気立つ俺に、話しかけてくる物があった。
《主》
俺の剣、『黒哮のルプシス』だ。
「なんだ?」
《いきなり吠えかかってきた剣を、片手で制圧しておいて、なんだも何もないだろうが》
いきなり吠えかかってくること事態がおかしいんだが。それも、俺の持つ花束を目掛けて吠えかかるなんて。
待て、今、なんて言った?
俺は、俺の剣の言葉に首を傾げた。
「剣だと? これが?」
俺は地面にめり込んだ灰色の物体を見下ろす。
《『暴嵐のテンペスタス』》
「キャゥン」
灰色の物体は、鳴き声をあげて地面から這い出した。
ゴスッ
這い出した瞬間を狙ってもう一発。
それから、グリグリと踏みつける。
「かわいい犬の振りをするな。大事な花束に噛みつこうとするとは、万死に値する」
グリグリグリグリ
《ま、待って、くれ……》
「誰が待つか」
テンペスタスとかいう魔剣は、途切れ途切れ、声を振り絞る。ほら、普通に喋れるんじゃないか。犬の振りをしやがって。
グリグリグリグリ
足先に力が入る。
《あ、主を、探して、いただけだ……》
呻いて、ありきたりの言い訳をする魔剣。
魔剣が主を探すのは当然のこと。だが、それがどうして、俺の大事な花束に噛みつくことに繋がるんだ?
「だからどうした」
《我の主に、なって、もらえない、だろう、か……》
あぁ、つまりあれか。俺の力を試したのか。そんなくだらないことのために、大事な花束がダメになるところだったじゃないか。犬の振りをすれば許されるとでも?
どんどん気分が悪くなる。
急いでいるのに足止めされる形になっているのも気に入らない。
「ふん」
とどめをさそうと、俺は振り上げた腕に力を込める。
と、そのとき。
ガルルルルゥ
ルプシスが顕現して、俺とテンペスタスの間に入る。
《主、落ち着け。大事な花束を襲ったことについては、謝罪させればいいだろ?》
ルプシスは大きな黒い狼の姿で俺を諭しにかかる。
「時間がもったいない。あいつとの貴重な時間が減る」
それに世の中、謝れば済む問題ばかりではない。花束を襲うだなんて、絶対に許されないことだ。
《…………と、主は思ってるはずだ》
目の前で堂々と、俺の頭の中を解説するルプシス。
ルプシスに人の心を読む能力などないが、付き合いが長いせいか、俺の行動原理をほぼ把握していた。
《ただの花じゃないのか?》
とテンペスタス。
なわけあるかよ。ただの花ならここまで怒るか。
《ただの花な訳があるか。主の番、あの方への大事な貢ぎ物だぞ!》
ルプシス、せめて贈り物と言え。まぁ、ほぼ同義だが。
《なんと! そんな大切なものだったとは!》
テンペスタスがガバッと身体を起こした。
二回殴って踏みつけていたのに、ダメージは微塵も感じない。
それどころか、ルプシスと同じくらいの毛並みの艶まで見せている。
顕現した姿はルプシスの色違いのようにも見える。ルプシスが大きな黒い狼なら、テンペスタスの方は大きな灰色の狼。
バッ
突然、テンペスタスが大きな身体を縮こめ、ペタッと地面に伏せた。
これは、
「土下座か?」
しかも犬流の。
《申し訳ない!》
《主、許してやってくれ!》
バッ
ルプシスまで地面に伏せる。犬流の土下座で。
いい加減、バカバカしくなってきた。
地面に伏せる二匹にくるりと背を向けると、背後で慌てたような雰囲気がする。
《主、どこへ行くんだ?!》
「あいつのところ」
正直、お前らの相手より、彼女との時間の方が大切だ。
《…………と、考えてる顔だな》
「分かってるなら引き留めるな」
今度こそ俺は歩き出そうとした。
《主、剣は二本まで持てる》
歩き出そうとする俺の背中へ、ルプシスが声をかける。
だから?
《あの方も二本持ちだろ。主も二本持ちになればあの方と『お揃い』だな》
ピクッ
足が止まった。
「…………『お揃い』か」
確かに今の彼女は、二本の杖の主だ。
理論上、魔剣や杖は二本まで所持出来るが、普通の人間は所持した時点で魔力切れを起こす。
二本持ちというのは、頭抜けた魔力の持ち主だからこそ、出来る芸当だ。
しかし、彼女は何の苦もなく二本の杖を使いこなしている模様。
彼女よりは少し劣るが、俺も魔力には自信があった。
それにテンペスタスとルプシスの反応から言っても、俺も二本持ちが可能なんだろう。
それより何より、『お揃い』という言葉に心が動く。
俺の動揺を感じて、ルプシスがさらに言い募った。
《それに、あの方はフサフサを好む。我が主のそばにフサフサが二匹いたら、喜ぶよな?》
「…………フサフサか」
《け、毛並みには自信がある!》
振り向くと、テンペスタスが身体を起こし、毛並みを銀色に輝かせていた。ルプシスの方は黒銀。二匹揃って輝かしい。
「なるほど。いいだろう。ただし、一番のフサフサはこの俺だ。分かってるよな?」
《おうよ、主》
《もちろんだ》
まるで双子のように動きがシンクロする二匹。
「ならば、契約だ。《我が下僕となり、我の力の一部となれ、テンペスタス》」
俺はテンペスタスの頭に手を乗せ、力のある言葉を解き放った。
《よろしくな、テンペスタス》
《恩に着る、ルプシス》
少し時間はとってしまったが、俺は二匹を連れて彼女の下へと急いだ。
「わぁ、グレイ。新しいワンちゃん? 最近見かける仔に似てるような気がするけど、フサフサしててかわいい! ねぇねぇ、触っていい? 抱っこしていい?」
ピキッ
会う早々、俺ではなく、魔剣に興味津々の彼女。
《先に主を抱っこだ!》
《先に主をナデナデだ!》
一瞬、ムッとした俺の心を読んだかのように、俺を彼女の前に押し出す二匹。
彼女はピタッと動きを止めると、ギギギギッと首を俺に向け見上げる。
「ええっと、グレイ。ワンちゃん、じゃなくて魔剣にどういう教育をしてるわけ?」
「当然、主ファーストだが?」
当たり前のように答える俺。
その流れで跪いて、バラの花束と金章を彼女に捧げた。
花束と金章を見て、フワッとバラの花が開いたかのような笑みを浮かべる彼女。
かわいい。凄くかわいい。このままこの場で襲いたいくらいかわいい。
というのは顔に出さない。絶対に出さない。なにせ俺は、頼れる最強の保護者だからな。
「うん、まぁ、いいか」
《主、そこで流されるのかよ》
彼女の杖が余計な突っ込みを入れているが、彼女は気にしないことに決めたようだ。
俺は彼女の手を取る。
「行こうか、シア」
こうして俺は、彼女とともに祝勝パーティーに乗り込んだ。
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