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3 王子殿下の魔剣編
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犬を見失った後、私は気持ちを切り替えて楽しんだ。
席も無事に確保できたし。しかも、その席というのが最前列で見られる席。
席の確保が終わって、保護者の試合を途中まで見終わって、ちょっとした休憩時間に私たちは繰り出していた。
「なんか、お祭りみたいでおもしろいね」
「だろう、主」
「んー、でも、私の分まで席取りをお願いしちゃって良かったのかなぁ?」
今、私の席は、私の後援家門の騎士が必死になって守ってくれていた。
悪いな。あの人たちもお祭りを楽しみたいだろうに。
そうは思ったけど、私も自分の欲には勝てず、買い食いをしに会場の外までやってきたのだ。
ウキウキしながら、さきほどチェックしておいた屋台に向けて歩いていると、セラフィアスは呆れた口調で話しかけてくる。
「何を言ってるんだよ、主。あいつら、感謝してたろ?」
「まぁね」
「隊長の応援、引き続きよろしくって言われてたじゃないか」
「まぁね」
ギチギチに緊張していた彼らの様子が脳裏によぎった。
うん、あれ。事前になんか言われていたんだな。でなければ、あんなに緊張しないよな。
まったく、グレイは何を言って怖がらせたんだか。
私は私の保護者がときおり見せる、子どものような振る舞いを思い出して、後援家門の騎士たちに同情した。
「むしろ、主がよく見えて、なおかつ、近い場所から応援しないと、大変なことになるからな、周りのヤツらが」
「そうみたいだね」
応援するだけなのに、かなり重労働な感じになっている。
それだけ保護者が、私に応援してもらいたがっているってことだと思えば、いいだけか。
私は都合の良い方向に考えることにした。そう考えておけば誰も損はしない。
「まぁ、あいつも危機感、覚えたんだろうな」
何かに納得する様子のセラフィアスを連れて、私は目的の屋台へとたどり着いた。
席を押さえてくれてる騎士たちの分も買っていこうっと。
と、思ったそばから、声をかけられた。
「エルシア、見ててくれたか?」
「いえ、騎士特級を見てたんで」
フェリクス副隊長だ。
こんなに大勢の人がいて、たまたま偶然出くわすなんて、ある?
不信感を全面に出してフェリクス副隊長を見たつもりが、ぜんぜん伝わってなさそう。
恥ずかしそうにモジモジして、成果を報告してきた。いや、別にそういうの、いらないんだけどな。
「あー、ヴァンフェルム団長の応援か。それより俺、決勝進出したから」
「良かったですね」
第三騎士団としても箔がつくし、良いことだらけだ。
そういえば、ヴァンフェルム団長は負けてたな、私の保護者に。
年上だろうが知り合いだろうが勝負は勝負。当然だけど容赦ない。
「その、応援してくれよな」
相変わらず恥ずかしそうに、顔を赤らめて話をするフェリクス副隊長。
「それは同じ第三騎士団の仲間として、ということでしょうか?」
「この場合は普通、個人的に、だろ?」
私の質問には真顔に戻って突っ込みを入れる。
「善処します」
「いや、善処って。言葉選びおかしくないか?」
今度は焦ったような様子。まったく表情が忙しい人だな。
そのとき。
横で、黙って話を聞いていたセラフィアスが私をつついた。
セラフィアスがつつくだなんて何事か。
急いでセラフィアスの視線の先を見ると、そこには見慣れた姿。
ちょっと買い食いしに来ただけなのに。すぐに買い出しし終えて、席に戻れると思っていた私は思いっきりがっかりする。
こんなに大勢の人がいるのに、こんな道端で、たまたま偶然出くわすなんて、ありえる? しかも二人目!
「ルベラス嬢、俺の試合は見ててくれたかな?」
爽やかそうな笑みを目の前でこぼしまくっているのは、偽爽騎士のカイエン卿だ。
「いえ、騎士特級を見てたんで」
フェリクス副隊長のときと同じくだりで、同じ言葉を繰り返す。
この後、クラウドに会ったら、クラウドも同じことを言いそうで怖い。
「あぁ、見応えあっただろう。うちの母上も出場してるしな」
続く言葉は、さすがにフェリクス副隊長とは違う言葉。
うん、見てた。というかじっくり観察させてもらったよ、ヴェルフェルム団長の試合。
「はい、決勝進出しましたね。おめでとうございます」
「ここ数年は母上が優勝しているから。今年も騎士特級は母上で決まりだろうな」
「さぁ、それは最後まで分かりませんよね」
決勝の相手は一筋縄ではいかない相手だからね。ふん。
まるでヴェルフェルム団長の優勝が決まったかのように語るカイエン卿に、私は心の中で悪態をつく。
「ところで、この前の話は覚えているだろうね?」
「何の話ですか?」
「優勝者の特権の話だよ」
「またそれですか? 優勝してからにしてくれません?」
「あぁ、楽しみにしておいてくれ」
「はいはい」
カイエン卿の方も自分の優勝に疑いを持たない。
私は適当に返事をした。
そうして、やっと迷惑な人たちから解放された私は、買い出しを終え、無事に席へと戻る。
差し入れなのに、遠慮して食べない騎士たち。
仕方なく「私の買った物を食べてくれなかった、ってグレイに言う」と説得すると、喜んで食べてくれた。
最初から遠慮なんてしなくていいのに。
「うん、試合続きでだいぶ疲れたみたいだったし、グレイも不安になるよね。私も頑張って応援しないとな」
買い食いも終わって、残すは決勝戦だ。
私は応援に気合いを入れ直す。
「いや、危機感とか不安とかはそっちのことじゃないんだけど。ま、いいか」
セラフィアスが何かゴニョゴニョ言ってたけど、よく聞こえず。
聞き返そうとしたところで、ついに、決勝戦が始まった。
席も無事に確保できたし。しかも、その席というのが最前列で見られる席。
席の確保が終わって、保護者の試合を途中まで見終わって、ちょっとした休憩時間に私たちは繰り出していた。
「なんか、お祭りみたいでおもしろいね」
「だろう、主」
「んー、でも、私の分まで席取りをお願いしちゃって良かったのかなぁ?」
今、私の席は、私の後援家門の騎士が必死になって守ってくれていた。
悪いな。あの人たちもお祭りを楽しみたいだろうに。
そうは思ったけど、私も自分の欲には勝てず、買い食いをしに会場の外までやってきたのだ。
ウキウキしながら、さきほどチェックしておいた屋台に向けて歩いていると、セラフィアスは呆れた口調で話しかけてくる。
「何を言ってるんだよ、主。あいつら、感謝してたろ?」
「まぁね」
「隊長の応援、引き続きよろしくって言われてたじゃないか」
「まぁね」
ギチギチに緊張していた彼らの様子が脳裏によぎった。
うん、あれ。事前になんか言われていたんだな。でなければ、あんなに緊張しないよな。
まったく、グレイは何を言って怖がらせたんだか。
私は私の保護者がときおり見せる、子どものような振る舞いを思い出して、後援家門の騎士たちに同情した。
「むしろ、主がよく見えて、なおかつ、近い場所から応援しないと、大変なことになるからな、周りのヤツらが」
「そうみたいだね」
応援するだけなのに、かなり重労働な感じになっている。
それだけ保護者が、私に応援してもらいたがっているってことだと思えば、いいだけか。
私は都合の良い方向に考えることにした。そう考えておけば誰も損はしない。
「まぁ、あいつも危機感、覚えたんだろうな」
何かに納得する様子のセラフィアスを連れて、私は目的の屋台へとたどり着いた。
席を押さえてくれてる騎士たちの分も買っていこうっと。
と、思ったそばから、声をかけられた。
「エルシア、見ててくれたか?」
「いえ、騎士特級を見てたんで」
フェリクス副隊長だ。
こんなに大勢の人がいて、たまたま偶然出くわすなんて、ある?
不信感を全面に出してフェリクス副隊長を見たつもりが、ぜんぜん伝わってなさそう。
恥ずかしそうにモジモジして、成果を報告してきた。いや、別にそういうの、いらないんだけどな。
「あー、ヴァンフェルム団長の応援か。それより俺、決勝進出したから」
「良かったですね」
第三騎士団としても箔がつくし、良いことだらけだ。
そういえば、ヴァンフェルム団長は負けてたな、私の保護者に。
年上だろうが知り合いだろうが勝負は勝負。当然だけど容赦ない。
「その、応援してくれよな」
相変わらず恥ずかしそうに、顔を赤らめて話をするフェリクス副隊長。
「それは同じ第三騎士団の仲間として、ということでしょうか?」
「この場合は普通、個人的に、だろ?」
私の質問には真顔に戻って突っ込みを入れる。
「善処します」
「いや、善処って。言葉選びおかしくないか?」
今度は焦ったような様子。まったく表情が忙しい人だな。
そのとき。
横で、黙って話を聞いていたセラフィアスが私をつついた。
セラフィアスがつつくだなんて何事か。
急いでセラフィアスの視線の先を見ると、そこには見慣れた姿。
ちょっと買い食いしに来ただけなのに。すぐに買い出しし終えて、席に戻れると思っていた私は思いっきりがっかりする。
こんなに大勢の人がいるのに、こんな道端で、たまたま偶然出くわすなんて、ありえる? しかも二人目!
「ルベラス嬢、俺の試合は見ててくれたかな?」
爽やかそうな笑みを目の前でこぼしまくっているのは、偽爽騎士のカイエン卿だ。
「いえ、騎士特級を見てたんで」
フェリクス副隊長のときと同じくだりで、同じ言葉を繰り返す。
この後、クラウドに会ったら、クラウドも同じことを言いそうで怖い。
「あぁ、見応えあっただろう。うちの母上も出場してるしな」
続く言葉は、さすがにフェリクス副隊長とは違う言葉。
うん、見てた。というかじっくり観察させてもらったよ、ヴェルフェルム団長の試合。
「はい、決勝進出しましたね。おめでとうございます」
「ここ数年は母上が優勝しているから。今年も騎士特級は母上で決まりだろうな」
「さぁ、それは最後まで分かりませんよね」
決勝の相手は一筋縄ではいかない相手だからね。ふん。
まるでヴェルフェルム団長の優勝が決まったかのように語るカイエン卿に、私は心の中で悪態をつく。
「ところで、この前の話は覚えているだろうね?」
「何の話ですか?」
「優勝者の特権の話だよ」
「またそれですか? 優勝してからにしてくれません?」
「あぁ、楽しみにしておいてくれ」
「はいはい」
カイエン卿の方も自分の優勝に疑いを持たない。
私は適当に返事をした。
そうして、やっと迷惑な人たちから解放された私は、買い出しを終え、無事に席へと戻る。
差し入れなのに、遠慮して食べない騎士たち。
仕方なく「私の買った物を食べてくれなかった、ってグレイに言う」と説得すると、喜んで食べてくれた。
最初から遠慮なんてしなくていいのに。
「うん、試合続きでだいぶ疲れたみたいだったし、グレイも不安になるよね。私も頑張って応援しないとな」
買い食いも終わって、残すは決勝戦だ。
私は応援に気合いを入れ直す。
「いや、危機感とか不安とかはそっちのことじゃないんだけど。ま、いいか」
セラフィアスが何かゴニョゴニョ言ってたけど、よく聞こえず。
聞き返そうとしたところで、ついに、決勝戦が始まった。
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