運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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3 王子殿下の魔剣編

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 私はあの犬を対象にして《感知》をかける。
 王族の墓所でも《感知》が出来たので、ここでも出来るはずだった。

 なのに、反応がない。

 私の腕が落ちたのかと思って、目の前のカスカスを対象にすると、ちゃーーーんと反応した。

 念のため、ユリンナ先輩に確認をする。ユリンナ先輩も、プラエテリタの森であの犬には会っている。

「今、犬の声がしましたよね?」

 と聞いてみると、はぁぁぁ?という顔をするユリンナ先輩。

 そして怒涛の口撃が始まった。

「エルシア、犬の声なんてしないわよぅ! そうやって話し合いを私と団長に押し付けるつもりでしょぅ!」

「え? 本当にあの犬の声がしたんですって」

「あの犬ぅ? あの逃げちゃった犬のことぅ? あの犬がどーーーーして地下にまで入ってこれるのよぅ! そんなの絶対におかしーでしょぅ!」

「でも、本当に聞こえたんですってば」

 私はユリンナ先輩に食い下がる。

「王族の墓所にも侵入してたし、魔力も感知が出来る犬なんですよ? きっと普通の犬ではないんですよ!」

 魔力がある『ただの犬』の話なんて、聞いたことがない。これが『ただの犬』ではなく、魔法生物ならば話が違ってくる。

 王女殿下が魔猫を召喚したように、もしかしてもしかしたら、誰かが魔犬を召喚したのかもしれないし。

「まぁ、あの犬が魔犬だとか他の魔法生物だと言うのなら、プラエテリタの森とか墓所とか、地盤の魔力溜まりに引き寄せられても、おかしくはないわねぇ」

 ユリンナ先輩は口撃の勢いを弱めて、うーんと考え出した。

 あの犬=魔犬説はかなり濃厚なのではないかと感じている。
 問題なのは、誰が何の目的で魔犬を召喚したのか。誰かの召喚でないなら、どこからどうやってやってきたのか。

 顔をつきあわせてうーんと唸る私たちの耳に、突然、叫び声が聞こえてくる。




「ウォォォォォォ」

「ヤァァァァァァ」


 ガツーーーーーーン


「やるなぁ」

「そっちこそ」


 ガツーーーーーーン


「ハァァァァァァ」

「トォォォォォォ」




 とうとうあのカスカス、戦いを始めてしまった。

 でも。




「そりゃぁぁぁぁ」

「よっしゃぁぁぁ」


 ガツーーン


「なかなかだなぁ」

「そっちもなぁ」




 戦いが始まったにしては、最初から勢いがない。

 剣を持つ手もすでに震えていて、剣先はガクガク。振り上げたり振り下ろしたりする軌道はヘロヘロ。
 ほんの数分、切り結んだだけで、こんなに体力って削がれるものだっけ?

 普段は第三騎士団の騎士しか目にする機会がないし、たまに合流する後援家門の騎士は体力バカが多くて参考にならないし。

「もしや、呪いの魔剣?」

 私は最悪の事態を想定する。

 世の中には、呪いの魔導具というものが存在するけど、大抵は誰かを陥れようとして作られたもの。
 中には、魔導具そのものが、何かに対する恨み辛み憎しみなどの悪感情をこじらせて、呪いの魔導具に変化することもあるんだとか。

 どちらのタイプも学院の講義で話を聞いただけなので、実物には出会ったことはない。

 後者のタイプも、やはり魔導具の精霊の一種になるんだろう。悲しい誕生の仕方だと思う。

 カスカスの持つ魔剣は、セラフィアスの見立てからも剣精はいないようなので、前者か。

「もしかして、王族の命を狙った陰謀で呪いの魔剣があったとか?」

 悪い想像がどんどん進む。

 突然、ぽんと肩を叩かれた。

「そんなものが王族の地下墓地に眠っていたら、それこそ一大事だろう?」

 カスカスをつぶさに観察していたヴァンフェルム団長の疲れた声。

「あの二人をよく見るんだ」

 団長が指差す先は、やっぱりヘロヘロな二人しかいない。

「あれは普通に、基礎訓練不足だ」

「え? 嘘?」

 魔剣を欲しがっていたのに?
 剣を持っただけで、あんなにヘロヘロってある?

「残念だけどなぁ」

 と心底、残念そうに言う団長。

「剣の腕もないし厳しい修行も嫌だから、強力な武器で見つけて、どうにかしようと思っちゃったパターンね!」

「残念だけどなぁ」

 繰り返すヴァンフェルム団長の表情がすべてを物語っていた。




「まだまだぁ」

「行くぞぉぉぉ」


 ガツン


「「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」」




「もうこのまま、体力が尽きるまで放置しておいたらいいんじゃないですか?」

「いやまぁ、そうもいかないだろう」

「どっちももう少しで、おもしろいことになるわよぅ!」

「おもしろいことになっても困るんだけどなぁ」

 困った顔になるヴァンフェルム団長。

 しかし、ユリンナ先輩の予想を裏切るように、カスカスはヘロヘロしながらも戦いを続けている。

 あぁ。そうか。けっきょく、あの魔剣はちゃんと魔剣だったのか。私は二人の動きと魔力の様子を見て確信する。

 けっきょく、魔剣を持った二人をどうにも出来ないまま、ずるずると戦いは続いていった。




「その動き、魔剣の、おかげだ、ろう?」

「そっちこそ、その威力、魔剣の力、だろう?」

 そしてとうとう、魔剣を杖代わりにしてフラフラ立っている状況になった。

 もはや、魔剣を持って戦う動きはない。

 喋りも切れ切れだし、喋り以外では、ぜいぜい、はぁはぁ、浅く早い呼吸音しか聞こえない。

「あの二人、あんなこと言ってるけど?」

 ヴァンフェルム団長が魔術師の私たちを見た。
 そのヴァンフェルム団長の視線を受け止めて、ユリンナ先輩が肘で私をつつく。

 うん、私が解説しろってことね。

「魔法の剣、魔導具の剣、という意味では魔剣ですね」

「威力や効果は?」

「一般的な魔剣と変わりないです」

「いや、私は魔剣士ではないから、一般的な魔剣と言われても分からないんだが」

 ヴァンフェルム団長は赤茶髪に赤眼を持つ。

 魔剣士や魔導騎士としての適正があってもおかしくないのに、普通に騎士として剣を振るう方が身体にあっているらしい。

 そんな団長に私は丁寧に説明をした。

「魔法の杖も魔法の剣も、魔法を使うための杖、魔法を使うための剣なんですよ」

「待った。ルベラス君、魔剣は魔法を使うための剣なのかい? 剣ではなくて?」

「私の杖が打撃武器であるのと同じです」

 私は私の杖をずずいと、団長の目の前に差し出した。

 セラフィアスは今も、灯りの役割を忠実にこなしている。拍手をしてくれるユリンナ先輩。

「それは、そうなのかなぁ?」

 団長の語尾はなぜか疑問系だ。

 私は先を続ける。

「魔剣は、剣としての機能を持つ魔導具です。
 魔剣士が使う魔法は、剣の威力を増したり、動きを速めたりする補助魔法、剣に雷撃やら炎撃などの能力を付加する付与魔法が主流。
 その魔法を魔剣を使って発動させているだけなんで。魔剣が魔法を使うわけではありません」

「中には、魔剣を使うと、動きが良くなる、力が強くなると思ってる人たちがいるけどねぇ」

 ユリンナ先輩が「顔は良いのに、頭の中身がねぇ」と残念そうにつぶやいた。

「発動しやすくはなるでしょうけど。魔法の種類や威力は本人の性能次第ですよ」

「ルベラス君の言い方だと、魔剣で魔術師のような攻撃魔法も使えるような気がするんだが」

 団長が良いところに気がついてくれた。

「主が魔術師なら使えますよ。あと魔導騎士も。例えば、三聖のスローナスは厳密にいうと『剣型』じゃないですか」

「いや、それ、初耳なんだけどなぁ」

「まさかそれも極秘事項?!」

 完全に動きも喋りも止まったカスカスに注意を向けながらも、話を進める。

「で、結論から言うと。あの二人が持っているのは魔剣で、威力が増していたり、スピードが上がっているのは、あの二人の魔法の能力ってところですね」

「なるほど」

「回復魔法も少しばかり使えるみたいよねぇ。おかげで、いつまで経ってもおもしろいことにならないわぁ!」

 明後日の方向に怒り出すユリンナ先輩を押しとどめて、ヴァンフェルム団長は話をまとめた。

「てことは、あの二人は魔剣の主になったということか」

 うん、そこが一番の問題なんだよなぁ。
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