運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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3 王子殿下の魔剣編

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「あれ? カス王子とカス大公子?」

 いたのは、カス王子の第二王子とカス大公子のアルゲン大公子。

 侵入したと聞いていたのはカス王子だけのはずだったのに、カス大公子も侵入していたとは、予想外だった。

 今回はカス王子だけを標的にし《感知》を発動させていたので、カス大公子のことはまるで気がつかなくて。

 言い訳になってしまうけど、ヴァンフェルム団長の話を鵜呑みにするんじゃなかったと、私は後悔したものだ。

 カスが二人いてカスカス状態。

 それならそれで、もうちょっと考えて二人に近寄ったのにな。

 二人を捕縛するためにこれからどう動こうかと、私は頭の中をフル回転させる。

 そこへ、話しかけてくるヴァンフェルム団長。

「ルベラス君、言い方、言い方」

 うん? 言い方? なんの?

「そうよぅ、エルシア。ちゃんと殿下ってつけないとぅ!」

「ダイモス君、そこじゃないよね?」

 あー

「カスが二人いるのを見て動揺しちゃったせいで、言い間違えました」

 私はそこでようやく、私がカスと二人を呼んでいたことに気がつく。

「だから、ルベラス君。言い方、気をつけてよ」

「善処します」

 団長もこれ以上はカス呼びについて、咎めるつもりもないそぶりを見せた。

 それよりも、カスカスだ。

「ところで、あれ」

 私はカスカスの方に視線を向ける。

 私たちはカスカスから少し距離を置いたところで立ち止まっていた。

 なぜなら。

「対決してるみたいなんですけど、止めなくていいんですか?」

 二人とも剣らしきものを振り上げて、対峙していたから。一触即発。私の目から見ても、殺りあう準備万端だった。

 しかも、二人が握る剣らしきものから魔力を感じる。

 魔剣だ。

 魔剣といっても、杖と同じでピンからキリまで。
 彼らが手にしているのは、伝説の魔剣というレベルの物ではなさそうだけど、魔剣には違いない。

《名もなき魔剣。つまり、覚醒前の魔剣だな。過去の王族の誰かが持っていたんだろうな》

 セラフィアスが自分の見立てを述べる。

 この地下墓地には、魔剣や杖、魔導具を持ったまま亡くなった王族が眠っていた。

 魔導具は次の持ち主が決まる物ばかりではない。
 持ち主がその魔導具に愛着がありすぎて最期まで手放せなかったり、次の持ち主が決まる前に亡くなってしまったり。

 こうして、行き場のなくなった魔導具も地下墓地で持ち主とともに眠っている。

 カスカスの二人が手にしているのは、おそらく、そういった類の魔剣だろう。偶然でも何でも、手にしたのも何かの縁だ。

 もっとも、魔剣がどういうものかも分からない人、魔剣があれば剣術大会優勝と軽く考えている人に、魔剣を与えていいものなのか判断に悩む。

 ともあれ、今の状態では『魔法を使うのにちょっと便利な剣』という程度。どれだけ魔剣が成長するかは、ひとえに持ち主にかかっていた。

 ちょっと便利な剣程度であっても、武器は武器。斬り合えば、どちらかがケガをすることだって考えられる。 

「私的には、どちらも潰れてくれれば楽で良いんですけど」

「私的には、おもしろければどっちでもいいわ!」

 私の言い方も大概だと思うけど、ユリンナ先輩はもっと酷い。

 なにしろ、ユリンナ先輩は拳を握りしめて、おもしろさを期待する目をカスカスに向けている。

「いやいや、二人ともダメだから。そもそも、地下墓地への侵入者を捕まえるのが目的だからねぇ」

 ヴァンフェルム団長が、私とユリンナ先輩の発言を咎める。

「五体満足なまま捕まえろとは言われてません」

「五体満足なまま捕まえるのが普通だからね!」

「いまさら私に、世の中の普通を求めないでください。親からも保護者からも教えられてないので」

「いや、そうだけどなぁ」

 頭をかきむしるヴァンフェルム団長。

 この場合、団長が率先してあの二人をどうにかするのが正解、というか一番無難だと思う。

 カスカスといっても、剣を振りかざしている成人男性。
 魔術師といっても、私とユリンナ先輩はか弱い女性。

 ゆえに、ここはヴァンフェルム団長にぜひとも頑張ってもらいたい。

 私がヴァンフェルム団長と言い合いをしている横で、ユリンナ先輩が最初の話と違うことにやっと気がついた。

「ていうかぁ、アルゲン大公子がここにいるだなんて、聞いてないわよぅ!」

「ですね」

「私だって予想外だよ。聞いていたのは第二王子殿下のことだけだったからねぇ」

 まぁ、そういうことにしておいてあげよう。




 さてさて、話をどんどん進めないと、終わるものも終わらなくなる。

 私たち同士で言い争いをしても先に進まないので、まずは、カスカスをどう捕縛するかを話し合うことにした。

 ここは団長だろう、という目で見ていたとき、近くで、

「ワン!」

 と犬が鳴くような声がする。

 まさか。

 王族の地下墓地にまで、この前の犬が侵入したんじゃないよね?

 そう思って、私は辺りを探り始めた。
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