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3 王子殿下の魔剣編

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 転送魔法陣による、四回目の移動が終わると、さすがにヴァンフェルム団長もユリンナ先輩も疲れてきたようだ。

「ルベラス君、本当に本当に本当にここで良いのかなぁ?」

「エルシア、方向音痴だったりしないわよねぇ?」

 団長もユリンナ先輩も集中力が落ちてきている。

 それに、地下迷宮に入ってからずっと、まったく代わり映えしない天井と壁と床を見るだけ。

 いつまで経っても現場につかないので、私の案内が本当に合っているのかと、疑われてもいた。

 実のところ、時間はそれほど経ってはおらず、十分もかかっていない。
 狙い通り、空間感覚だけでなく、時間感覚も狂ってきている。

 私は二人を安心させようと、自信を持って言った。

「大丈夫です。だいたい、分かってますから」

「「だいたい?!」」

 あれ?

 自信満々の『だいたい』に、二人から不満があがる。

「いやいや、そこは完璧に分かってると言おうよ、な?」

「そうよ、エルシア。いつものように、ズバッと言えばいいのに」

「え? 分かるのは、冗談抜きで『だいたい』ですよ?」

 三聖の地下迷宮なんだから、だいたい分かれば楽勝だった。

 それなのに。

「ひぃぃぃ。だいたいしか分からないんじゃ、下手したら迷子?!遭難?!」

「ルベラス君、来た道の目印とかは、魔力で付けてあるんだよねぇ?」

 同時に騒ぎ出す二人。

「え? 私、そんな面倒なことしませんけど?」

「「ひぃぃぃ」」

 頭を傾げる私を見て、団長とユリンナ先輩は失礼にも悲鳴を上げたのだった。




 そして。

「よしっ。ここです」

「また魔法陣かぁ」

「七個目? 八個目?」

 正確には五回移動したので、六個目。

「ルベラス君、本当に迷子じゃないんだよねぇ?」

 相当、疑われてる。

 仕方ないじゃないの、三聖の地下迷宮は極秘中の極秘。わざと転送を重ねて、詳細を気取られないようにしているから。

 ともあれ、目指す場所にはたどり着いたし、地下迷宮に入ってから、まだ十分ほどしか経っていない。

 私はセラフィアスで作る灯りを少し強くして、もう少し先まで見通せるようにした。

 石作りは先ほどまでと同じなのに、石の雰囲気が変わっているのが、二人にも分かるはず。

「あ、ここって、王族の墓所?!」

「の地下にある地下墓地です」

「ずいぶん遠回りをしたような気がしなくもないんだけどなぁ。本当に近道だったのかい?」

 まず最初に、ユリンナ先輩が目的地に到着したことに気がついて、ヴァンフェルム団長の方は遠回りにも気がついたようだ。

 でも、私は近道なんて言葉は一切使っていない。

「え? 近道なんて言ってませんよ?」

「あれ? ルベラス君、『ちかみち』って確かに言ってたけどなぁ?」

「あぁ。『地下道』とは言いましたね」

 団長が黙り込んで、自分の頭に手をかける。ようやく、私の意図に気がついたようだ。

「『近道(ちかみち)』じゃなくて『地下道(ちかみち)』。そういうことか」

「でもでもぅ、向こうから入れないんだから、こっちが近道なんでしょぅ?」

 ユリンナ先輩は気がついてないようなので、私は話を変えることにした。




「そもそも、王族の地下墓地への侵入者って、どうやって分かったんですか?」

 私は最初から気になっていたことを質問した。

 もちろん、時間がもったいないので、侵入者の探索を行いながらだ。
 すでに《探索》と《感知》用の魔法陣は展開してあるし、発動もしている。

「ルベラス君。何か気になることでもあるのかい?」

「王族の墓所ならともかく、地下墓地に侵入者だと、よく分かりましたよね。普通は侵入されたか分かりませんよね」

「まぁ、そうだなぁ」

「それに、地下墓地に侵入する前に墓所に侵入しますよね? なのに、なんで墓所への侵入者じゃないんでしょう?」

 考えられることは二つ。

 墓所へは正規の手段で入って勝手に地下墓地へ侵入したか。墓所に侵入されたのに気がつかず、気づいたときには地下墓地へ侵入されていたか。

 後者なのが公になると、警備の近衛は相当マズいことになる。
 二度も同じ場所に侵入しないだろうと気を緩めていたのでは?、とつつかれかねない。

「はぁぁぁ。王族の地下墓地の存在自体も極秘事項だし、今から話すことも極秘だからな?」

 私たちに話したくはなかったようだけど、団長は諦めたのか、詳しく説明してくれるようだ。

 いろいろの念押ししてきたので、ついでに私も念押しをしておこう。

「先ほど通ってきた三聖の地下迷宮も、存在自体が極秘事項ですけど?」

「………………だろうなぁ」

 マズいものでも食べたような顔で、団長は相づちを打った。

「ええええええ? もしかして、私、消されちゃったりしないわよねぇ?」

「さぁ?」

 とぼけてみる。

 こうしている間も私の《探索》と《感知》はキリキリ働いていて、目的の人物を捉えた。

「エルシア。エルシアも一蓮托生よね!」

「いや、それはあれだなぁ」

「私、継承権、持ってるんで」

「ほぇぇぇ? 嘘よね? 冗談よね?」

「こうみえて王族なんです」

 母方の祖母がね。会ったことないけど。

 私の母親はルベル公爵の一人娘。本来なら私がルベル公爵の後継になるはずだったようだ。

 なのに、母親が亡くなって私もいないものとされていたので、すでに、ルベル公爵の甥で私の従兄に当たる人が後継になっている。

 いまさら私が「生きてました」と現れても、誰も得をしない。だからあえて名乗り出てないし、会ってもいない。

 どうせ、いないものとして扱われていたんだ。このままでいい。納得はしているし、割り切ってもいる。

 それでも。

 あのクズ男に捨てられていなかったら、私にはたくさんの親族がいて、違った人生もあったんだと思うと、やりきれないものを感じた。

 そんな私の感傷を吹き飛ばすように、ユリンナ先輩のキンキン声が耳元でする。

 ずいぶんとぴったりくっついて、歩いていたものだわ。

「ヴァンフェルム団長ぅ! エルシアがおかしなこと言ってるわ!」

 慌てるユリンナ先輩を見て、ヴァンフェルム団長は人の悪い笑みを浮かべた。

「ダイモス君、良かったなぁ」

「何が?!」

「ルベラス君が王太子殿下の再従妹で、王位継承権持ちだってことも極秘事項。いろいろ、詳しくなって良かったなぁ」

 団長、さらに極秘事項を盛り足したよ。
 ユリンナ先輩は涙目になる。

「良くないですぅ!」

「いまさら、極秘事項が一つ二つ増えたところで、どうってことないだろう?」

「どうってことありますぅ!」

「それでは、極秘の続きを話そうか」

 こうして、団長の極秘な話が始まった。
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