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3 王子殿下の魔剣編

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 魔法陣を展開させ、《探索》と《感知》を同時に発動させてから数分後。

「…………見つけた」

 額に汗が滲む。

 地盤の魔力が荒れ狂う中、私の魔力を糸のように張り巡らせて墓所を探り、目当ての魔力反応を拾い上げた。

 ここについたときには澄み渡っていた空も、すっかり雲に覆われている。

「地図で示せますか?」

 私の横からタルパー卿の声が聞こえるので、黙って頷くと、目の前に墓所の地図らしき紙がさっと広げられた。

「ここと、ここと、ここ」

 私は指で、引っかかった場所を指し示すと、周りでどよめきが起きる。

 だよね。

 なんで三ヶ所。話が違うし。

「ルベラス魔術師殿、侵入したのは第二王子殿下だけと聞いていますが」

「そう言われても。私の知ってる魔力が三つ、《探索》に引っかかってるから」

 そうとしか答えようがない。

「ここはカ、じゃなくて第二王子殿下。こことここは、うん、誰だっけ? この魔力、つい最近だったような覚えはあるんだけど」

 騎士団の人以外で最近会ったのは、マリーアン、ダイアナ嬢、フォセル研修生くらいのはずだけど。彼女たちの魔力ではないんだよなぁ。しかも、二人。誰だったかなぁ。

 悩み続ける私をよそに、タルパー卿は誰の魔力かはあまり気にした風もなかった。

「いずれにせよ、第二王子殿下以外も王族の墓地に侵入している、ということ。由々しき事態です」

 私は《探索》の糸を引っかかった三つだけに絞ると、今度は《魔力障壁》を作り出した。

 今度は荒れた魔力の中に入っての捜索になる。念には念を入れておいた方が安全だから。




 私が突入の準備を進める一方で、ユリンナ先輩が王女殿下やカイエン卿と話し込んでいて、私の耳にも彼らの会話が聞こえてきた。

「第二王子殿下は侵入とは言わないんじゃないのぅ? 親族のお墓でしょぅ?」

「ダイモス嬢、その辺りの扱いが難しいんですよ」

「わたくしも王族だけど、許可をもらってここに来てるわ!」

 いやいや、申請を出せば許可されるってものではないはずなんだけどな。誰が許可したよ。こんな大変な状況なのに。

 思わず、突っ込みそうになって、口が半分開いた。「どうしました?」とタルパー卿が目で訴えてきたので、「なんでもない」と笑ってこたえる。

 危ない危ない。不敬扱いされるところだったわ。

 ぜんぜん関係ないことを考えていても、王女殿下に突っ込みを入れようとしてても、私の魔法陣は普通に完成する。

 そして発動。《魔力障壁》、ここにいる全員分。

 普通、《魔力障壁》は指定した空間に対して発動する。魔法が発動した区域の中にいれば魔力の影響を受けない、というものだ。

 今回はこれを応用させて、個人個人の身体を指定した空間とし、魔法を発動させてみた。
  これで、荒れた魔力がすぐそばで弾けたとしても影響を受けない。理論上は。

 一般的には《魔法防御》で魔法に対する抵抗力を増やしたり、《魔法盾》で飛んでくる魔法や魔力を防いだりする。

 でも、《魔法防御》は魔法によるダメージを軽くするだけだし、《魔法盾》は文字通り盾なので、片面しか防げない。

 今回の探索は、わざわざ、荒れ狂う地盤の魔力の中に入っていかないといけないため、一般的な魔法では危険だったから。あえて《魔力障壁》にしてみたと。

 難点は、身体を空間指定するため、魔法陣が複雑になるのと、魔力をごっそり使うこと。

 もっとも私の場合は、直接、地盤の魔力を吸収するという荒業を使えるので。
 ごっそり減った分は周りに溢れる地盤の魔力を吸収して終わりとなる。

 ふぅ。

 私が一仕事している間も、ユリンナ先輩たちは話に夢中だった。

「その通りです。ここは歴代の王を奉る神聖な場所。王族といえども、自由に入ることはできません」

「王族って、偉くて凄くて優遇されているとばかり思っていたけど、意外と窮屈そうだわ~」

「好き勝手やってる王族もいますがね」

 皮肉っぽく語るカイエン卿の目が私を見ていたような気がして、私はちょっと身震いをした。




「待って。カス、じゃなくて第二王子殿下ともう一つの魔力がぶつかる」

 私の魔力糸が二つの魔力の接近を知らせた。周囲に緊張が走る。

「てことは?」

「鉢合わせね!」

「一触即発!」

「お二人とも、楽しそうにしないでください!」

 緊急事態なのに、キャーキャーと賑やかな二人に対して、ついにタルパー卿が声を張った。

 タルパー卿の気持ちは分かるけど、ピクニック感覚でいる二人に合わせる必要はないから。

「喋ってないで、行かないと!」

「すみません、その通りですね。一斑と二班は入り口の警備を続けろ。三班四班は墓所に突入する」

 タルパー卿に号令で騎士たちが動き出した。

 ところが。

「さぁ、行くわよ! わたくしに続きなさい!」

 動かなくていいはずの王女殿下まで動き出す始末。そしてユリンナ先輩も王女殿下の後に続く。

「出来れば王女殿下は留守番しててほしいなぁ」

 ついでにユリンナ先輩も。三聖の展示室同様、ここではうまく魔法が発動しないだろうから。

 ていうか。

 どうして王女殿下の護衛騎士は、あの暴走を止めないわけ?

 という目でカイエン卿を見ると、

「好き勝手やってる王族に何を言っても無駄だろ。戦力になるし、風除けもしてくれるから、このまま先頭を行かせればいい」

 などと毒を吐いた。
 うん、これが偽爽騎士の本心だよね。

「カイエン、さすがにそれはマズいだろ」

 カイエン卿を止めるタルパー卿。

 良かった、まともな近衛騎士がいて。

 と思った私がバカだった。

「形だけでいいから、まずは諫めないと」

 ちょっと。

 私には不敬だとか言っておいて、自分たちは案外、ぞんざいに扱ってる。
 私は近衛の裏側を覗き見した気分だった。
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