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3 王子殿下の魔剣編
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「はぁぁぁ、あのカス王子。ろくなことしないわ」
話を聞いた正直な感想がこれだ。
タルパー卿の話では、王族の墓所に無断で侵入したのはカス王子だという。
何度も言うが、王族でも自由に出入り出来ないのが王族の墓所だ。直系王族だって王太子だって国王陛下だって、このルールを破ることは出来ない。
それをあっさり破り、お仲間といっしょになって、王族の墓所の中を移動しているそうで。
はぁぁぁぁぁ。
頭が痛い。
「あいつ、カスなだけじゃなくてバカでもあったのか」
考えていたことが口から出た。
「エルシア、それはちょーーーっと不敬なんじゃないのぅ?」
珍しくユリンナ先輩がまともなことを言う。でも、話題の相手はまともではない人間。
私は隣を歩くユリンナ先輩にしっかりと反論した。
「王女殿下から許可をいただきました」
「王女殿下から許可もらってるなら、仕方ないわね~」
ユリンナ先輩が肩をすくめる。
「て、そんなわけありませんからね」
前を歩いていたタルパー卿が、立ち止まってクルッと振り向いたので、
コツン
肩をすくめた姿勢のまま、ユリンナ先輩が派手にぶつかった。
気がつくと、石造りの扉の前にたどり着いている。どうやらここが墓所への入り口のようだ。
でも、なんだか、空気がピリピリしていて、おかしい。
私たちの到着に気がついたのか、扉の脇の小さな建物から、近衛の制服を来た騎士がぞろぞろと出てくる。警備の騎士の詰め所だろう。
ここへの道は三つ。
私たちが歩いてきた抜け道の他に、正規の道と、もう一つの抜け道があった。
タルパー卿にぶつかったユリンナ先輩は、顔を押さえたまま騒ぎ出す。
「いたたたたたたた。タルパー君、相変わらず、かった~い」
うん? それは性格が? それとも胸板が?
タルパー卿の背はそれほど高くない。平均より少し低め。
そのタルパー卿に、同じく平均より低めのユリンナ先輩が突っ込んだので、ちょうど胸のボタンに顔をぶつけたようだ。
押さえた手の隙間から見える皮膚は、とくに赤くもなってないので、大げさに痛がっているだけのよう。
大したことはなさそうで、私もちょっと安心した。
顔を隠したまま、ユリンナ先輩はひんひんと泣き真似を続ける。
が、タルパー卿はまったく動じなかった。眉一つ動かさずに口だけ動かす。
「ダイモス嬢は相変わらず、ゆるすぎですよ」
泣き真似を見抜かれている。
ユリンナ先輩に気がある騎士なら、あれでイチコロなのに。やるな、タルパー卿。
「相変わらず、かたいわねぇ。だから未だに彼女なしなんでしょぅ!」
「はっ。恋人なしなのは、お互い様でしょう?」
軽口を言い合う二人。
どうやらユリンナ先輩とタルパー卿は以前からの知り合いのよう。もしかして同期とか? あり得る。
私は二人のことをじっくり観察した。
「意外と仲がいい」
「「どこが?!」」
そして、息もぴったり。
「かわいい振りをする、年齢でもないでしょうに」
「近衛には、私のかわいらしさが通じないのよぅ!」
常套手段が通じなくて、ご機嫌斜めのユリンナ先輩。
タルパー卿どころか、タルパー卿に同行している騎士二人も、ユリンナ先輩に興味なさげ。それも気に入らないようだ。
まぁ、当然といえば当然。
近衛は王族の護衛を任せられるような部署。簡単に魅了されるようでは、王族の守りがあやうくなるから。
ユリンナ先輩から視線を逸らし、タルパー卿の真面目そうな横顔をじっと眺めていると、タルパー卿は私の視線など気にする風もなく、私たちに釘をさした。
「とにかく。この国の第二王子殿下なんです。失礼のない呼称でお願いします」
言い切ったところで、どこからか、空気を切り裂くような甲高い声。
「それなら、カス王子で構わないわ!」
「だそうですよ、タルパー卿」
続いて、わざとらしく爽やかさを装った声が聞こえた。
どちらも聞き覚えしかない。
タルパー卿はもう一つの抜け道に視線をやり、はぁ、とため息をついた。
「王女殿下」
詰め所にいた近衛が全員ずらっと並び、敬礼をする中、タルパー卿の嫌そうな声が響く。
「まったく、デュオニスお兄さまったら、迷惑極まりないわね!」
「迷惑極まりないのはあなたもですが」
こめかみをぐりぐりやりながら、タルパー卿が二回目のため息をついた。
「あら、タルパー卿。言うじゃないの!」
タルパー卿は王女殿下の話を最後まで聞かず、王女殿下の隣に立つカイエン卿に声をかける。
うん、タルパー卿も十分、不敬だよね。
「カイエン、お前がついていて、なんで王女殿下を連れてきた?」
「上の許可が出てる以上、こちらではどうしようもない」
うん、タルパー卿だけでなく、カイエン卿も不敬だわ。
というか、王女殿下があまり敬われていないのか。
私はなんとなく、気分が悪くなった。
空気はピリピリして刺すようだし、気分も悪い。さっさと仕事を終わりにするか。
ところが、タルパー卿とカイエン卿はヒソヒソとやり取りを続けていて、私も王女殿下も立たされたまま。
こちらはこちらで話を進めてもいいのだろうか。ええい、いいことにしてしまえ。
吹っ切れた私はツカツカと歩いて、王女殿下のそばへ。
私の歩みを止めようとした近衛が、割って入ろうと、動こうとしてはピクリと身体を硬直させる。
「ここで私とやり合えるわけないでしょ」
私はバカにしたようにつぶやいた。
ここは墓所の入り口。すでに地盤の魔力が濃くなっている。三聖の展示室同様、ほとんどの人間が制限を受ける場所。
加えて、ピリピリする空気。
こんな場所で私とやり合うのは分が悪いと思ったのか、自然と感じたのか。さすが近衛。勘の悪い騎士はいないようだ。
周りを圧して、王女殿下を促す。
「王女殿下は何をしにこちらへ?」
「もちろん、エルシア嬢の大活躍を見物するためよ! おもしろそうじゃないの!」
動きを止めた近衛とは違って、魔力に余裕のある殿下は、臆することなく腕を振り回して返事をした。
「ですよね~! 私、王女殿下と波長が合いそうぅ!」
「ホホホホホ。わたくしと同じことを考えるなんて、あなたもなかなかだわ!」
どうしてだか、意気投合する二人。
性格はともかく、声のキンキンさは似たものがある。
「えー、おもしろくなくても、静かにしててくださいね、二人とも」
「「もちろん!」」
声も揃う二人。
私たちの様子に気がついたタルパー卿が、慌てて戻ってきた。
「ルベラス魔術師殿、待ってください」
「ムリ」
「無理って、勝手なことをされては困ります」
タルパー卿の方こそ勝手なことを言う。
「勝手に、私を指名してここに連れてきたのはそちらでしょ。だから勝手なのは私じゃないわ」
「ですが、ここではこちらの指示に従っていただかないと」
「はぁぁぁぁぁぁ?!」
バチンッ!
私の声に応じて火花が散った。
「いったいこれは?」
カイエン卿もそばにきて、火花に警戒をする。
「墓所の状況が分かるんですよね? 説明してください。こちらで指示を出しますから」
火花を見てもタルパー卿は動じることなく、冷静だった。
私に状況報告を求め、指示は自分で出すという。
「責任者は私です。他の方に責任を負わすわけにはいきません」
凛とした表情のタルパー卿。
そうか。この人は、ただの傲慢で自分が指示を出すと言ってるわけじゃなかったんだ。
私は肩の力を抜いて、タルパー卿に状況報告をし始めた。
「墓所に吹き出している地盤の魔力が荒れています。おそらく、勝手に入った人たちのせいで」
空気がピリピリしているのは、地盤の魔力が荒れているせいだ。そして、この騎士たちは魔力の荒れを体感できてない。
「そこに私、魔力量が多い人間が来たので、荒れた魔力が私の魔力に刺激され、さらに荒れて火花が散ってます」
火に油をそそぐというか。私がいることで悪循環を起こしている。
解決方法は、荒れている原因をなくすか、荒れている魔力をなくすか。
「さっさと終わらせないと、地盤の魔力がどんどん荒れて、今の火花がどんどん大きくなります」
「予想より状況は悪そうですね」
私の話を聞いて、タルパー卿はあごに手を当て考え込む。
「ルベラス魔術師殿は、ここから出来る範囲で第二王子殿下を見つけてください。位置が分かれば、近衛が突入します。
分からなければ、近衛の警護の下、中に入って再度、探索をお願いします」
私は黙って頷いた。
「《探索》に集中できるよう静かにしててください」
「承知いたしました」
「それじゃあ、始めるんで」
私はさっそく魔法陣を展開させた。
話を聞いた正直な感想がこれだ。
タルパー卿の話では、王族の墓所に無断で侵入したのはカス王子だという。
何度も言うが、王族でも自由に出入り出来ないのが王族の墓所だ。直系王族だって王太子だって国王陛下だって、このルールを破ることは出来ない。
それをあっさり破り、お仲間といっしょになって、王族の墓所の中を移動しているそうで。
はぁぁぁぁぁ。
頭が痛い。
「あいつ、カスなだけじゃなくてバカでもあったのか」
考えていたことが口から出た。
「エルシア、それはちょーーーっと不敬なんじゃないのぅ?」
珍しくユリンナ先輩がまともなことを言う。でも、話題の相手はまともではない人間。
私は隣を歩くユリンナ先輩にしっかりと反論した。
「王女殿下から許可をいただきました」
「王女殿下から許可もらってるなら、仕方ないわね~」
ユリンナ先輩が肩をすくめる。
「て、そんなわけありませんからね」
前を歩いていたタルパー卿が、立ち止まってクルッと振り向いたので、
コツン
肩をすくめた姿勢のまま、ユリンナ先輩が派手にぶつかった。
気がつくと、石造りの扉の前にたどり着いている。どうやらここが墓所への入り口のようだ。
でも、なんだか、空気がピリピリしていて、おかしい。
私たちの到着に気がついたのか、扉の脇の小さな建物から、近衛の制服を来た騎士がぞろぞろと出てくる。警備の騎士の詰め所だろう。
ここへの道は三つ。
私たちが歩いてきた抜け道の他に、正規の道と、もう一つの抜け道があった。
タルパー卿にぶつかったユリンナ先輩は、顔を押さえたまま騒ぎ出す。
「いたたたたたたた。タルパー君、相変わらず、かった~い」
うん? それは性格が? それとも胸板が?
タルパー卿の背はそれほど高くない。平均より少し低め。
そのタルパー卿に、同じく平均より低めのユリンナ先輩が突っ込んだので、ちょうど胸のボタンに顔をぶつけたようだ。
押さえた手の隙間から見える皮膚は、とくに赤くもなってないので、大げさに痛がっているだけのよう。
大したことはなさそうで、私もちょっと安心した。
顔を隠したまま、ユリンナ先輩はひんひんと泣き真似を続ける。
が、タルパー卿はまったく動じなかった。眉一つ動かさずに口だけ動かす。
「ダイモス嬢は相変わらず、ゆるすぎですよ」
泣き真似を見抜かれている。
ユリンナ先輩に気がある騎士なら、あれでイチコロなのに。やるな、タルパー卿。
「相変わらず、かたいわねぇ。だから未だに彼女なしなんでしょぅ!」
「はっ。恋人なしなのは、お互い様でしょう?」
軽口を言い合う二人。
どうやらユリンナ先輩とタルパー卿は以前からの知り合いのよう。もしかして同期とか? あり得る。
私は二人のことをじっくり観察した。
「意外と仲がいい」
「「どこが?!」」
そして、息もぴったり。
「かわいい振りをする、年齢でもないでしょうに」
「近衛には、私のかわいらしさが通じないのよぅ!」
常套手段が通じなくて、ご機嫌斜めのユリンナ先輩。
タルパー卿どころか、タルパー卿に同行している騎士二人も、ユリンナ先輩に興味なさげ。それも気に入らないようだ。
まぁ、当然といえば当然。
近衛は王族の護衛を任せられるような部署。簡単に魅了されるようでは、王族の守りがあやうくなるから。
ユリンナ先輩から視線を逸らし、タルパー卿の真面目そうな横顔をじっと眺めていると、タルパー卿は私の視線など気にする風もなく、私たちに釘をさした。
「とにかく。この国の第二王子殿下なんです。失礼のない呼称でお願いします」
言い切ったところで、どこからか、空気を切り裂くような甲高い声。
「それなら、カス王子で構わないわ!」
「だそうですよ、タルパー卿」
続いて、わざとらしく爽やかさを装った声が聞こえた。
どちらも聞き覚えしかない。
タルパー卿はもう一つの抜け道に視線をやり、はぁ、とため息をついた。
「王女殿下」
詰め所にいた近衛が全員ずらっと並び、敬礼をする中、タルパー卿の嫌そうな声が響く。
「まったく、デュオニスお兄さまったら、迷惑極まりないわね!」
「迷惑極まりないのはあなたもですが」
こめかみをぐりぐりやりながら、タルパー卿が二回目のため息をついた。
「あら、タルパー卿。言うじゃないの!」
タルパー卿は王女殿下の話を最後まで聞かず、王女殿下の隣に立つカイエン卿に声をかける。
うん、タルパー卿も十分、不敬だよね。
「カイエン、お前がついていて、なんで王女殿下を連れてきた?」
「上の許可が出てる以上、こちらではどうしようもない」
うん、タルパー卿だけでなく、カイエン卿も不敬だわ。
というか、王女殿下があまり敬われていないのか。
私はなんとなく、気分が悪くなった。
空気はピリピリして刺すようだし、気分も悪い。さっさと仕事を終わりにするか。
ところが、タルパー卿とカイエン卿はヒソヒソとやり取りを続けていて、私も王女殿下も立たされたまま。
こちらはこちらで話を進めてもいいのだろうか。ええい、いいことにしてしまえ。
吹っ切れた私はツカツカと歩いて、王女殿下のそばへ。
私の歩みを止めようとした近衛が、割って入ろうと、動こうとしてはピクリと身体を硬直させる。
「ここで私とやり合えるわけないでしょ」
私はバカにしたようにつぶやいた。
ここは墓所の入り口。すでに地盤の魔力が濃くなっている。三聖の展示室同様、ほとんどの人間が制限を受ける場所。
加えて、ピリピリする空気。
こんな場所で私とやり合うのは分が悪いと思ったのか、自然と感じたのか。さすが近衛。勘の悪い騎士はいないようだ。
周りを圧して、王女殿下を促す。
「王女殿下は何をしにこちらへ?」
「もちろん、エルシア嬢の大活躍を見物するためよ! おもしろそうじゃないの!」
動きを止めた近衛とは違って、魔力に余裕のある殿下は、臆することなく腕を振り回して返事をした。
「ですよね~! 私、王女殿下と波長が合いそうぅ!」
「ホホホホホ。わたくしと同じことを考えるなんて、あなたもなかなかだわ!」
どうしてだか、意気投合する二人。
性格はともかく、声のキンキンさは似たものがある。
「えー、おもしろくなくても、静かにしててくださいね、二人とも」
「「もちろん!」」
声も揃う二人。
私たちの様子に気がついたタルパー卿が、慌てて戻ってきた。
「ルベラス魔術師殿、待ってください」
「ムリ」
「無理って、勝手なことをされては困ります」
タルパー卿の方こそ勝手なことを言う。
「勝手に、私を指名してここに連れてきたのはそちらでしょ。だから勝手なのは私じゃないわ」
「ですが、ここではこちらの指示に従っていただかないと」
「はぁぁぁぁぁぁ?!」
バチンッ!
私の声に応じて火花が散った。
「いったいこれは?」
カイエン卿もそばにきて、火花に警戒をする。
「墓所の状況が分かるんですよね? 説明してください。こちらで指示を出しますから」
火花を見てもタルパー卿は動じることなく、冷静だった。
私に状況報告を求め、指示は自分で出すという。
「責任者は私です。他の方に責任を負わすわけにはいきません」
凛とした表情のタルパー卿。
そうか。この人は、ただの傲慢で自分が指示を出すと言ってるわけじゃなかったんだ。
私は肩の力を抜いて、タルパー卿に状況報告をし始めた。
「墓所に吹き出している地盤の魔力が荒れています。おそらく、勝手に入った人たちのせいで」
空気がピリピリしているのは、地盤の魔力が荒れているせいだ。そして、この騎士たちは魔力の荒れを体感できてない。
「そこに私、魔力量が多い人間が来たので、荒れた魔力が私の魔力に刺激され、さらに荒れて火花が散ってます」
火に油をそそぐというか。私がいることで悪循環を起こしている。
解決方法は、荒れている原因をなくすか、荒れている魔力をなくすか。
「さっさと終わらせないと、地盤の魔力がどんどん荒れて、今の火花がどんどん大きくなります」
「予想より状況は悪そうですね」
私の話を聞いて、タルパー卿はあごに手を当て考え込む。
「ルベラス魔術師殿は、ここから出来る範囲で第二王子殿下を見つけてください。位置が分かれば、近衛が突入します。
分からなければ、近衛の警護の下、中に入って再度、探索をお願いします」
私は黙って頷いた。
「《探索》に集中できるよう静かにしててください」
「承知いたしました」
「それじゃあ、始めるんで」
私はさっそく魔法陣を展開させた。
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