運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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3 王子殿下の魔剣編

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 私は今、ユリンナ先輩といっしょに歩いていた。通ったこともないような道をてくてくてくてく、どこまでも歩いている。

 おかしい。

 私は首をひねりながら、ひたすら歩く。

 私の予定では、今日の午前中は書類仕事をして、お昼に日替わりスープのランチを食べて、午後も書類仕事をして、丸一日引きこもり生活のような一日を送るはずだったのに。

 こんな見たこともないようなところを歩くだなんて、今日の予定にない。

 予定通りであれば、今の時間は今日のスープはなんだろうと、ワクワクしながら午前中の業務をしているはず。

 そしてようやく午前の業務が終わり、待望のランチタイム。

 団長室勤務の場合、部屋に誰もいなくなるのは都合が悪いため、交代でお昼に出かける。もしくは団長室に届けてもらう。

 団長は自称引きこもりなので後者。私は温かいスープを食べたいので前者。

 とはいえ、お昼になってもすぐには行かない。ランチの終わりかけくらいに行くのが最近のベスト。

 ランチのピークを過ぎたころに行くと、必ず、クラウドと例の研修生が仲良くお昼を食べているから。
 おまけに、この時間帯にはフェリクス副隊長も現れるし。

 別にクラウドや研修生がいっしょにいたとしても、私とは無関係なので、何も気にはしてないんだけど。クラウドがデレデレしているところを見るのは、なんとなくムカつく。

 しかも、あんなにベタベタデレデレしているというのに、関係を全否定するのだ。しかも、誤解だとかなんだとか、言い訳までして。
 これではまるで、私がクラウドの恋愛を責めているようじゃないのさ。

 どうやらクラウドは、断固として自分の恋バナを私には教えたくないようだ。ムカつく。本当にムカつく。

 にしても長い。現場までの道のりが長い。あれこれ余計なことを延々と考えられるほど長い。

 思わず、不満が口から漏れる。

「今日は丸一日、団長室のはずだったのにな」

「仕方ないわよぅ! お仕事だもん!」

 私の不満を聞き咎めたユリンナ先輩が、明るく私を慰めた。

 私とユリンナ先輩は今、近衛騎士団の騎士に先導されて歩いている。
 通ったこともない道なので、ここではぐれたら、第三騎士団に戻れなさそうだ。

 お世辞にも散策日和とは言い難い曇り空。こんな状況でもユリンナ先輩は楽しみを忘れない。

 ユリンナ先輩は仕事に楽しさを追求するタイプで。そういう働き方、私も嫌いではない。

「ユリンナ先輩、楽しそうですね」

「だってぇ~、イケメンな近衛に囲まれてのお仕事よぅ! 滅多にないわ~!」

 うん、ユリンナ先輩の働き方は嫌いではないんだけど、納得いかないときもある。

「働くの、私なんですけど」

 そう。ユリンナ先輩はただの付き添い。

「頑張って、エルシア! 同行して声援だけ送るわ!」

 出来れば助力もして欲しいかな。




 ところで、私とユリンナ先輩がどうして知らないところを歩いているのか、というと、発端は今からほんの三十分ほど前のことだった。

 団長室の扉がコンコンと叩かれ、訪問してきたのは近衛騎士団の騎士。
 エヴァルト・タルパーと名乗るその騎士は配下らしき二人を従えて、伝令として、第三騎士団へとやってきた。

 伝令なのに配下付き、ってところで、すぐに変だと気付けば良かったんだけどね。

 近衛騎士団というと、あの偽爽騎士のカイエン卿の印象しかなかったので、私にとっては、タルパー卿の至って普通な感じが新鮮だった。
 つまりまぁ、普通なところに気を取られてしまったわけだ。

 なので、心の準備が少し遅れる。

「ヴァンフェルム団長、近衛、リノケロンより第三騎士団に応援要請」

「え? なんで近衛? しかも今、動ける騎士はいないんだけどなぁ」

「現在、任務についている騎士以外は、第一騎士団と手合わせ中ですね。おそらく第一騎士団の方も同様かとは思いますが」

 タルパー卿の突然の言葉に、ヴァンフェルム団長とパシアヌス様が応じた。

 二人ともおっとりのんびりと話してはいるけど、端々に警戒感がにじみ出ている。

「騎士の応援ではなく、魔術師の応援要請です」

 ここに来てようやく私も、何か変だと気がついた。

「え? なんで魔術師? 魔術師なら第三に来るのは見当違いだ。なぁ、パシアヌス魔術師長」

「はい。近衛騎士団は魔術師を擁しない代わりに、何かあれば王宮魔術師団が動く決まりになっています」

 変な理由は二人が話すとおり。

 近衛が第三に、頭を下げてまで応援要請をする必要はない。どこからどう考えてもない。

 なのに、やってきた。しかも三人で。

 ユリンナ先輩もオルドーも訝しく思っているようで、何も喋らずじーーーっと近衛の様子を窺っている。

 コホンと咳払いをすると、タルパー卿は第三騎士団に要請に来た理由を端的に説明した。

「王族の墓所に何者かが侵入しました」

「「!」」

 全員が息を飲む。

 王族の墓所は、王族でさえ出入りが制限されている場所。

 私も必要があって何度か出入りしたことがあるけど、管理は厳重だった。

 なにしろここは、三聖の展示室と同じく魔力の溜まり場。そのうえ、どういうわけかいろいろな自然の魔力が混じり合う場所だった。

 三聖の展示室が三聖五強などの名のある杖や剣を安置しているのと同様、王族の墓所には王族が使用した魔導具や剣が、持ち主の亡骸とともに保管されている。

 すなわち、盗難の被害を防ぐために、制限区域になっていると。

 タルパー卿は私たちの反応に大きく頷くと、話を進めた。

「場所が場所です。速やかに発見、捕縛するため、ルベラス魔術師殿の力を借りたいのです」

「私?」

 待って。

 どうして私?

 まぁ、確かに、私が一番有利な場所かもしれないけどねぇ。

 ヴァンフェルム団長も、私の出動要請には難色を示す。

「確かに、ルベラス君は魔猫騒動の時に発見、捕縛を見事な手際で行ったがなぁ」

「今回も魔物関係なんですか?」

「それが……………………」

 その後の説明を聞いた私は、あまりの内容に愕然した。
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