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3 王子殿下の魔剣編

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 ヴァンフェルム団長の呆れた声に続いたのは、ユリンナ先輩のキンキン声だ。

「剣術大会はね、優勝すると金章をもらえるのよー それをお目当ての女性に捧げて、祝勝パーティーに同伴するのぅ!」

 へー。

 それは初めて聞いた。
 クストス隊長に話とはちょっと違う。

「あー、例の彼女持ちだと自慢するってヤツですか?」

「違うわよぅ!」

「だって、クストス隊長がそう言ってましたよ?」

 訳が分からず、私は首を傾げた。
 そこへ、オルドーが親切にも解説を挟んでくれる。

「クストス隊長が言ってた話と、ユリンナさんが言ってる話は違う話だ」

「えっ、話が二つあるってこと?」

「そうだ」

 大きく頷くオルドー。

 オルドー以外の人も驚いた風はないので、みんな知ってる話ってことか。

 ユリンナ先輩も珍しく丁寧だ。

「クストス君の話は、祝勝パーティーにわざわざ同伴して彼女持ちアピールするってやつでしょぅ?」

「はい、そう言ってました」

「同伴を申し込まれた側は、相手が気に入らなければ断れるのよぅ」

「普通そうですよね」

「既婚者だったり、婚約者がいたり、恋人がいたりしても、断れるのよぅ」

「それは当然ですよね」

 当たり前の話をわざわざ持ち出して説明するユリンナ先輩。なんだか嫌な予感がする。

「でもね! 優勝者の同伴は、ある意味、優勝者に対するご褒美なのぅ!」

 突然、ユリンナ先輩は夢見る乙女のような表情で、明後日の方を向いて、熱く語り出した。熱く語る意味が分からない。

「だから、そのご褒美に金章をもらえるんでしょう?」

 私は確認の意味を込めて聞き返す。

「そのもらった金章をね、お目当ての女性に捧げて同伴を申し込んだら、断れないのよぅ!」

「はい?」

 えーーっと、言ってる言葉の意味が、意味不明なんですけど?!

「相手が既婚者でも婚約者持ちでも恋人持ちでも上司でも身分の差があっても! 断れないのよぅ!」

 えーーーーーーー。

 私は絶句した。

 すぐには反応できないほど。

 だって、それ。下手したら決闘とか闇討ちものだよ。大丈夫なの、それ。

 私の保護者なら間違いなく、相手を消しにかかるって。命の危険、感じないかなぁ?

「ずいぶんムチャクチャですねぇ」

 言葉ではそうとしか返せなかったけど、かなりの衝撃がきた。ヤバい。

「まぁまぁまぁまぁ」

 ヴァンフェルム団長が、興奮するユリンナ先輩を脇に追いやる。続けて、実際のところを教えてくれた。

「あくまでもルール上の話。実際に既婚者や婚約者持ち相手にやったら、流血沙汰になるのは目に見えてるから」

 ですよね。

 とここで疑問が。

「でも、優勝者って部門ごとに出るからたくさんいますよね。相手がかぶったらどうするんですか?」

 この剣術大会。クラウドも参加部門が多いって言ってたように、いろいろな部門があって、それぞれの部門に優勝者が出る仕組みになっているそうだ。

 たくさんの人に剣術大会に参加してもらいたいから、らしいけど。

 参加者が多いせいもあってか、注目度も高いし、お祭り騒ぎみたいだし。
 とにかく、魔術大会や闘技会に比べて、一番盛り上がる大会のようだった。

 そんな盛り上がる大会の祝勝パーティーで、同伴者の申し込みが重なってしまったら、どうなるんだろう。

 もちろん、普段のパーティーでも申し込まれたら断れない、断りきれない相手、というのはあるけれど。
 ルール上は申し込まれた側が断れないわけなので。

 私の疑問にヴァンフェルム団長はあっさりと答えた。

「部門に上下はあるから、上の優勝者が優先だなぁ」

 すべての部門に序列がつけられていることを、ヴァンフェルム団長が説明してくれる。

 きっと実際にそういった問題が起きているんだろうな。

 なんだかバカらしくてため息が出る。

 そもそも『金章を捧げたら断れないルール』を作るのが間違いなんじゃないか、とふと思ってしまった。




 ヴァンフェルム団長の説明が切れて、これでこの話題は終わりか、と思っていたところに、ユリンナ先輩が割り込んでくる。

「ただ、いくら優勝者優先のご褒美だと言っても文句がある人はいるわけなのよぅ」

「でしょうね、ムチャクチャですからね」

「だーかーらー、その場合は決闘であれこれ決めるのよぅ!」

「あー、やっぱり流血沙汰…………」

 剣術大会、思いのほか大変そうだ。
 こんな流血沙汰を呼ぶ大会だとは思っても見なかった。

 ユリンナ先輩の説明を補足するように、団長も説明に加わる。

「言っておくけど、ルベラス君。同伴を申し込まれた女性には拒否権ないから。
 決闘するのは申し込みに文句がある周囲の男性の方だから」

「うーん、つまり。例えばですけど、万が一、私が誰かから申し込みを受けた場合、私には拒否権ないと」

「だねぇ」

「保護者がパートナーです、と言って断るのもダメだと」

「だな」

「それに対して、私の保護者が文句を言うのはいいと」

「そうそうそう、おもしろいことになりそうでしょぅ!」

「あー、そうなると、確実に流血沙汰ですね」

 私の保護者の相手になる人が、間違いなく殺られる。

 私に申し込みをする人なんていない、と思いたいけど、すでにフェリクス副隊長からは同伴を申し込まれたからな。

 この前はキッパリ断った。

 でも、フェリクス副隊長が優勝したら断れないのか。

「ねー、楽しみよねー」

 うん、面倒だ。楽しみなんてない。

 私はおもしろそうにするユリンナ先輩をじとっと見つめる。

「まー、私に申し込みが殺到することはないんで。ユリンナ先輩が楽しむようなことにはならないかと」

「えっ? えー? そんなことはないわよぅ!」

「それより、ユリンナ先輩の方こそ、殺到しそうですよね?」

「えっ? えー? 私?」

「しそうだよな」「しますね」

 この場にいる、みんなが同意した。

「まぁ、頑張ってね、ダイモス君」

「えーーーーー」

 私たちはユリンナ先輩の悲鳴を聞きながら、残りの書類を片付けに入った。
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