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3 王子殿下の魔剣編
3-0 エルシア、カス大公家を目撃する
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迷子の犬探しでプラエテリタの森に行った翌々日のこと。
私は朝から団長室勤務だった。
今の時期は天気が悪い日が多い。騎士は屋内で個人訓練となる。不思議と対外業務も一番少ない時期だった。
そんな事情もあって、この時期に個人戦の剣術大会、続いて、団体戦の闘技会と開催されているそうだ。
つまり、この時期、個人訓練にいそしむ騎士とは違って、魔術師は比較的暇。
対外業務が少ないとはいえゼロではないわけで。自分のことで忙しい騎士に代わって出来る業務は率先して魔術師が引き受けて、魔術師に経験を積ませるという流れになっていると。まぁ、上手くできる。
というわけで、今日は第三隊と第四隊の魔術師以外は全員が団長室に集められていた。うん、いつものメンバーだ。
別に第三隊と第四隊を仲間外れにしているわけではない。第三隊担当者は今日は三聖の展示室の案内だし、第四隊の担当者は休養日。
だから、自然といつものメンバーが集まった。
そして交わす会話もいつもの会話。
だったはずが。
「えー、あの犬。逃げちゃったんですか?!」
「そうなのよぅ! せっかくキラキラしたお家を用意してあげたのにぃ!」
まさかの事態を知る。
プラエテリタの森を撤収する際、問題になったのが保護した犬。
最初に保護したのは探していた迷子の犬なので、捕まえて騎士団に連れ戻ればそれでよしだった。
それに対して、次に保護したのは、湿った土の匂いが漂う、見た目は普通そうな犬。
ただの犬にしては毛並みはいいし、訓練も受けているようだし、捨てられたか、主人とはぐれた犬だと私は睨んでいた。
それに人の会話に聞き耳を立てる素振りもみせる。食べ物が目の前にあるのに興味をしめさない。何気ないところに目を向けてみると、ただの犬とは思えない賢さを感じた。
そんなこともあって、このまま森に置き去りにするのもなぁ、と悩んでいたところに、
「お嬢さま、ダイモス邸に連れていきましょうか?」
初老チームのひとりがそう申し出てくれたのだ。
ユリンナ先輩も、ふむ、と腕を組む。
「そうねぇ。一匹増えたところで大差ないでしょうしねぇ」
と言ってくれて。
でも、ここで疑問が。
「ユリンナ先輩って。犬、飼ってるんですか?」
どちらかというと世話してもらってる側のユリンナ先輩が、手の掛かるペットなんて飼うんだろうかと。
尋ねてみたものの、疑問はユリンナ先輩本人と初老チームによってとても簡単に解消した。
「実家の方でね」
「闘犬が十匹ほど暮らしております」
て。
「「闘犬!」」
闘う犬と書いて闘犬。文字通り闘いに生きる犬。
犬同士を闘わせる娯楽で活躍する一方で、邸宅への侵入者対策として使用される場合もある。
いずれにしても強い犬だ。
そんな犬を十匹って?!
私とオルドーが同時に叫んだのも無理からぬことだと思う。
「お嬢さまは飼育には携わっておりませんので、安全ですよ」
じぃやさんが一言付け加えてくれたけど、どういう意味で安全なのかが今ひとつ分からない。
ただの犬ではなさそうだし、闘犬の中に放り込んでもいいものなんだろうか。
同じことをオルドーも思ったようだ。
「こいつ、どこからどう見ても普通の犬だぞ? いや、むしろ駄犬。そんなところに混ぜて大丈夫なのか?」
そんなことを口にしながら、私の膝の上の犬をつつこうとするオルドー。私は魔の手から犬を守る。
「ちゃんと区域を分けて放し飼いしてるから、大丈夫よぅ!」
「それぞれ担当区域がありますから」
じぃやさんの話では、闘犬は縄張り意識が高いので、同じ区域で二頭以上は飼えないんだそうだ。
同じ区域にすると、どちらかが噛み殺されてしまうこともあるんだとか。うん、怖いな、闘犬。
それで区域を分けて飼うんだそうだけど。
「凄いな、豪邸かよ」
「ユリンナ先輩の家って、大きいんだね」
「大きいってもんじゃないだろ」
スケールの大きさに唖然とする私とオルドー。
私もオルドーも魔塔育ち。魔塔は上には高いけど、一階ごとの広さはそれほどでもない。
ユリンナ先輩の大きな家を想像して、これなら安全に暮らせるに違いないと、私はちょっと安心したのだった。
なのに。
「キラキラした家にするから、逃げたんだろ。普通に考えろよ、普通に。犬がキラキラした家に住みたがるか?」
もっともである。
それより何より、問題は犬の家がキラキラしていることじゃない。犬がいなくなったことだ。
「ユリンナ先輩、ちゃんと世話するって言ってたじゃないですか!」
「だって、じぃやが!」
「じぃやさんのせいにしないでください!」
ビシッと言うと、とたんにユリンナ先輩がシュンとなった。
今頃どこで何をしてるのかな、あの犬。
お腹、空かせてないかな。ひとりで寂しくないかな。
「大丈夫かな、あいつ」
オルドーも逃げた犬のことを心配してくれていた。
オルドーは、ある日突然、事故で親を失って孤児になったと聞く。
私と同じく、ひとりぼっちの寂しさを分かっている人間だから、ひとりぼっちの犬に自分を重ねているのかもしれない。
「こんなことになるなら、エルシアが飼えば良かったな」
はぁ?
そこは、自分が飼うって言うところだよね?
と思いながら、私は言葉を返す。
「あー、それが。私のところはちょっと」
「えー、なんで?」
「ペットを飼うときは保護者に許可とらないといけないし、それに」
「それに?」
「うちには猫がいるから」
そう。
私のところには猫がいるのだ。
私の保護者と共同で飼っていることもあって、猫は私のところと保護者のところを行ったり来たり、気ままに生きている。
保護者がつけた名前は《マグヌス》。
小さくてかわいくておとなしいのに、マグヌス=大きいという意味の名前をつけられたせいか、周りからはなぜか怖がられていた。
「そうだ。エルシアのところは、魔王猫がいたな」
まぁ、マグヌスは少しばかり普通の猫ではない。魔猫の最上位種の魔王猫、カタディアボリだったりする。
飼う前はあんなに面倒に思っていたのに、いざ、飼ってみたら思いのほか、かわいい。
「うんうん。魔王猫って、うちの闘犬よりヤバいわよねー」
「獰猛で乱暴で傲慢。まさしく最恐種だよな」
「エルシアのとこで犬なんて飼ったら、魔王猫が犬を食べちゃうわよぅ」
「確かにな」
て、猫が犬を食べる話になってる!
「うちのマグナスは、犬なんて食べませんから!」
と大きな声で否定したのに。信じてくれる人は誰一人いなかったのである。
私は朝から団長室勤務だった。
今の時期は天気が悪い日が多い。騎士は屋内で個人訓練となる。不思議と対外業務も一番少ない時期だった。
そんな事情もあって、この時期に個人戦の剣術大会、続いて、団体戦の闘技会と開催されているそうだ。
つまり、この時期、個人訓練にいそしむ騎士とは違って、魔術師は比較的暇。
対外業務が少ないとはいえゼロではないわけで。自分のことで忙しい騎士に代わって出来る業務は率先して魔術師が引き受けて、魔術師に経験を積ませるという流れになっていると。まぁ、上手くできる。
というわけで、今日は第三隊と第四隊の魔術師以外は全員が団長室に集められていた。うん、いつものメンバーだ。
別に第三隊と第四隊を仲間外れにしているわけではない。第三隊担当者は今日は三聖の展示室の案内だし、第四隊の担当者は休養日。
だから、自然といつものメンバーが集まった。
そして交わす会話もいつもの会話。
だったはずが。
「えー、あの犬。逃げちゃったんですか?!」
「そうなのよぅ! せっかくキラキラしたお家を用意してあげたのにぃ!」
まさかの事態を知る。
プラエテリタの森を撤収する際、問題になったのが保護した犬。
最初に保護したのは探していた迷子の犬なので、捕まえて騎士団に連れ戻ればそれでよしだった。
それに対して、次に保護したのは、湿った土の匂いが漂う、見た目は普通そうな犬。
ただの犬にしては毛並みはいいし、訓練も受けているようだし、捨てられたか、主人とはぐれた犬だと私は睨んでいた。
それに人の会話に聞き耳を立てる素振りもみせる。食べ物が目の前にあるのに興味をしめさない。何気ないところに目を向けてみると、ただの犬とは思えない賢さを感じた。
そんなこともあって、このまま森に置き去りにするのもなぁ、と悩んでいたところに、
「お嬢さま、ダイモス邸に連れていきましょうか?」
初老チームのひとりがそう申し出てくれたのだ。
ユリンナ先輩も、ふむ、と腕を組む。
「そうねぇ。一匹増えたところで大差ないでしょうしねぇ」
と言ってくれて。
でも、ここで疑問が。
「ユリンナ先輩って。犬、飼ってるんですか?」
どちらかというと世話してもらってる側のユリンナ先輩が、手の掛かるペットなんて飼うんだろうかと。
尋ねてみたものの、疑問はユリンナ先輩本人と初老チームによってとても簡単に解消した。
「実家の方でね」
「闘犬が十匹ほど暮らしております」
て。
「「闘犬!」」
闘う犬と書いて闘犬。文字通り闘いに生きる犬。
犬同士を闘わせる娯楽で活躍する一方で、邸宅への侵入者対策として使用される場合もある。
いずれにしても強い犬だ。
そんな犬を十匹って?!
私とオルドーが同時に叫んだのも無理からぬことだと思う。
「お嬢さまは飼育には携わっておりませんので、安全ですよ」
じぃやさんが一言付け加えてくれたけど、どういう意味で安全なのかが今ひとつ分からない。
ただの犬ではなさそうだし、闘犬の中に放り込んでもいいものなんだろうか。
同じことをオルドーも思ったようだ。
「こいつ、どこからどう見ても普通の犬だぞ? いや、むしろ駄犬。そんなところに混ぜて大丈夫なのか?」
そんなことを口にしながら、私の膝の上の犬をつつこうとするオルドー。私は魔の手から犬を守る。
「ちゃんと区域を分けて放し飼いしてるから、大丈夫よぅ!」
「それぞれ担当区域がありますから」
じぃやさんの話では、闘犬は縄張り意識が高いので、同じ区域で二頭以上は飼えないんだそうだ。
同じ区域にすると、どちらかが噛み殺されてしまうこともあるんだとか。うん、怖いな、闘犬。
それで区域を分けて飼うんだそうだけど。
「凄いな、豪邸かよ」
「ユリンナ先輩の家って、大きいんだね」
「大きいってもんじゃないだろ」
スケールの大きさに唖然とする私とオルドー。
私もオルドーも魔塔育ち。魔塔は上には高いけど、一階ごとの広さはそれほどでもない。
ユリンナ先輩の大きな家を想像して、これなら安全に暮らせるに違いないと、私はちょっと安心したのだった。
なのに。
「キラキラした家にするから、逃げたんだろ。普通に考えろよ、普通に。犬がキラキラした家に住みたがるか?」
もっともである。
それより何より、問題は犬の家がキラキラしていることじゃない。犬がいなくなったことだ。
「ユリンナ先輩、ちゃんと世話するって言ってたじゃないですか!」
「だって、じぃやが!」
「じぃやさんのせいにしないでください!」
ビシッと言うと、とたんにユリンナ先輩がシュンとなった。
今頃どこで何をしてるのかな、あの犬。
お腹、空かせてないかな。ひとりで寂しくないかな。
「大丈夫かな、あいつ」
オルドーも逃げた犬のことを心配してくれていた。
オルドーは、ある日突然、事故で親を失って孤児になったと聞く。
私と同じく、ひとりぼっちの寂しさを分かっている人間だから、ひとりぼっちの犬に自分を重ねているのかもしれない。
「こんなことになるなら、エルシアが飼えば良かったな」
はぁ?
そこは、自分が飼うって言うところだよね?
と思いながら、私は言葉を返す。
「あー、それが。私のところはちょっと」
「えー、なんで?」
「ペットを飼うときは保護者に許可とらないといけないし、それに」
「それに?」
「うちには猫がいるから」
そう。
私のところには猫がいるのだ。
私の保護者と共同で飼っていることもあって、猫は私のところと保護者のところを行ったり来たり、気ままに生きている。
保護者がつけた名前は《マグヌス》。
小さくてかわいくておとなしいのに、マグヌス=大きいという意味の名前をつけられたせいか、周りからはなぜか怖がられていた。
「そうだ。エルシアのところは、魔王猫がいたな」
まぁ、マグヌスは少しばかり普通の猫ではない。魔猫の最上位種の魔王猫、カタディアボリだったりする。
飼う前はあんなに面倒に思っていたのに、いざ、飼ってみたら思いのほか、かわいい。
「うんうん。魔王猫って、うちの闘犬よりヤバいわよねー」
「獰猛で乱暴で傲慢。まさしく最恐種だよな」
「エルシアのとこで犬なんて飼ったら、魔王猫が犬を食べちゃうわよぅ」
「確かにな」
て、猫が犬を食べる話になってる!
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と大きな声で否定したのに。信じてくれる人は誰一人いなかったのである。
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