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3 王子殿下の魔剣編
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ダイアナ嬢とフォセル嬢の会話を完全に無視した形で、アルゲン大公子は話を続けた。これはこれでいい性格をしている。
「それで、君たちも魔剣の捜索か。残念だけど、魔剣は僕が見つけるよ。悪いね」
私自身、『魔剣の捜索』とは一言も言ってない。相手が勝手に勘違いしているだけ。
「(こっちは一言も『魔剣の捜索』なんて言ってないけどぅ!)」
お願いだから、笑いをかみしめながらヒソヒソ会話しないで欲しいんだけど。
「(騎士団の任務を関係ない人間に喋るのは規律違反だしな。当然の対応だよな)」
だから、黙って。顔がひきつる。
私は心の中で冷や汗をダラダラ流した。それでも視線はアルゲン大公子とマリーアンに向けたまま。
にっこりと笑うまではしないにしろ、ここで視線を外すことも出来ない。
だいたい、こういう役割はオルドーでしょ。
一番上のユリンナ先輩に話をさせるととんでもないことになるらしいので、やっぱりここはオルドーだ。
なのにオルドーは私の前に出ようともしない。
そんな中、私の心の声に構うことなく、アルゲン大公子を囲む人たちも、アルゲン大公子の天幕にいる令嬢たちも、キャーキャー言っていた。
「まぁ、シグナルト様ったら!」
「シグナルト様、素敵ですわぁ!」
「シグナルト様ならすぐ見つかります!」
そんな周りの声を聞いて疑問に思う。
「お茶会っぽいことしてるだけなのに、魔剣が見つかるわけ?」
あ、口から出た。
「その辺は突っ込んでやるなよ、エルシア」
ついにオルドーもちゃんとした声で話しかけてくる。が、アルゲン大公子はオルドーのことは見ない。
え? なんで?
「(アルゲン大公子といえば、女性としか話をしないことで有名なんだ)」
オルドーが脇でヒソヒソと話しかけてきた。
「(見た目はちょーーっとイケメンなんだけどぅ、ただの女好きよぅ!)」
ユリンナ先輩も後ろからヒソヒソと話しかけてくる。
二人の話の内容が酷い。
あぁ。だからか。
アルゲン大公子を囲んでいるのは女性のみ、熱い視線を送っている。男性は遠巻きにしていて、アルゲン大公子を見る視線がやけに冷たい。
話しかけても無視されるのだとしたら、あの冷たい視線も無理はないか。
オルドーの言うとおり、オルドーのことは無視して、アルゲン大公子は私の独り言に返事をしてくれた。
「心配には及ばないよ、レディ。配下の騎士たちに魔剣の捜索は任せているから」
騎士団でいえば、団長のようなポジションだろうから、言い分は分かる。
ヴァンフェルム団長だって、捜索をする人ではなく、捜索する人を管理する人。
ただ、みんなの上に立つ人が、捜索している騎士の目の前でお茶会やっているってのは、どうなんだろう?
少なくとも、わざわざ、令嬢を集める必要はないと思う。
私はアルゲン大公子の行動に少し疑問を持った。
ところで。
アルゲン大公子に話しかけられたのは私なので、返事を返すべき?
私がちょっとの間考え込んだせいで、言い返すのがちょっと遅れる。その隙に、私とアルゲン大公子の会話にマリーアンが割って入った。
「さすがはシグナルト様。適材適所ですわねぇ」
「まぁ、そうとも言うけど」
アルゲン大公子をそれとなく持ち上げるマリーアン。
マリーアンの言うとおりではあるので、同意はしたけど、でも、なんかおかしい。
マリーアンは、王女殿下やダイアナ嬢みたいな自己主張強めの傲慢さはあまり感じられず、空気が読めなさそうで、しっかり空気を読んでくる令嬢だ。
他人の会話に強引に割って入るなんて、もってのほか。つきあいが短い私でも、マリーアンならやらないだろうことくらい分かる。
なのに、マリーアンは躊躇することなく割って入った。まるで、私とアルゲン大公子に会話をさせたくないような、そんな雰囲気で。
そしていいタイミングで、ユリンナ先輩が大声をあげる。この場にいる全員に聞かせるように。
「エルシア、こっちもお茶の用意が終わったって!」
あれ? お茶、飲み終わったよね?
首を傾げて、ユリンナ先輩の方を見る。
「あらぁ、お茶会でしたのねぇ」
間髪入れず、マリーアンも声を上げた。こちらもいいタイミングだ。示し合わせてもいないのに息ぴったり。
するとアルゲン大公子は、これはしまった、というような顔をして、こちらに謝罪してきた。
「あぁ、邪魔してしまったな」
「ですわねぇ」
マリーアンがすかさず、アルゲン大公子に同意をすると、
「それではよい一時を」
と言って、アルゲン大公子は再び、自分のデカい天幕に戻っていったのだった。
もちろん、マリーアンもいっしょに。
いったいなんだったのか、マリーアンが何をしたかったのか、今ひとつ分からない私だった。
パチン!
「ユリンナさん、ナイス」
「えへ」
私の後ろでユリンナ先輩とオルドーがハイタッチをしているところを、呼び止めた。
「今の、何だったんですか?」
私だけ何がなんだか分かってなくて、仲間外れになっているような、疎外感を感じる。
「「あー」」
二人の声が揃った。
「(たぶんだけどな、カリュブス侯爵令嬢は忠告しに来たんだ)」
「(そぅそぅ。あの天幕、アルゲン大公子のだとは思わなかったわよぅ!)」
「(こちらの不手際でございます。調査が徹底できず申し訳ございません)」
じぃやさんまでヒソヒソ会話に加わってくる。
「(アルゲン大公子ってイケメンだけど、女好きであちこち手を出しまくってるのよぅ。そんなヤバいヤツと、うちのエルシアを会わせるわけにはいかないもんね!)」
「(だよな。だから、気をつけろって言いに来たんだよ、あの令嬢。なのにアルゲン大公子が出てきちゃったからな)」
「(そぅそぅ。カリュブスちゃん、慌ててたわよねぇ! アルゲン大公子を天幕に引き戻そうと必死だったわよぅ!)」
「うん、そうなんだ」
よく分からないけど、どうやらそういうことらしい。
私たちのヒソヒソ会話が中断したところで、
「あのー」
と声を控えめにかけてくる人物がいた。
「それで、君たちも魔剣の捜索か。残念だけど、魔剣は僕が見つけるよ。悪いね」
私自身、『魔剣の捜索』とは一言も言ってない。相手が勝手に勘違いしているだけ。
「(こっちは一言も『魔剣の捜索』なんて言ってないけどぅ!)」
お願いだから、笑いをかみしめながらヒソヒソ会話しないで欲しいんだけど。
「(騎士団の任務を関係ない人間に喋るのは規律違反だしな。当然の対応だよな)」
だから、黙って。顔がひきつる。
私は心の中で冷や汗をダラダラ流した。それでも視線はアルゲン大公子とマリーアンに向けたまま。
にっこりと笑うまではしないにしろ、ここで視線を外すことも出来ない。
だいたい、こういう役割はオルドーでしょ。
一番上のユリンナ先輩に話をさせるととんでもないことになるらしいので、やっぱりここはオルドーだ。
なのにオルドーは私の前に出ようともしない。
そんな中、私の心の声に構うことなく、アルゲン大公子を囲む人たちも、アルゲン大公子の天幕にいる令嬢たちも、キャーキャー言っていた。
「まぁ、シグナルト様ったら!」
「シグナルト様、素敵ですわぁ!」
「シグナルト様ならすぐ見つかります!」
そんな周りの声を聞いて疑問に思う。
「お茶会っぽいことしてるだけなのに、魔剣が見つかるわけ?」
あ、口から出た。
「その辺は突っ込んでやるなよ、エルシア」
ついにオルドーもちゃんとした声で話しかけてくる。が、アルゲン大公子はオルドーのことは見ない。
え? なんで?
「(アルゲン大公子といえば、女性としか話をしないことで有名なんだ)」
オルドーが脇でヒソヒソと話しかけてきた。
「(見た目はちょーーっとイケメンなんだけどぅ、ただの女好きよぅ!)」
ユリンナ先輩も後ろからヒソヒソと話しかけてくる。
二人の話の内容が酷い。
あぁ。だからか。
アルゲン大公子を囲んでいるのは女性のみ、熱い視線を送っている。男性は遠巻きにしていて、アルゲン大公子を見る視線がやけに冷たい。
話しかけても無視されるのだとしたら、あの冷たい視線も無理はないか。
オルドーの言うとおり、オルドーのことは無視して、アルゲン大公子は私の独り言に返事をしてくれた。
「心配には及ばないよ、レディ。配下の騎士たちに魔剣の捜索は任せているから」
騎士団でいえば、団長のようなポジションだろうから、言い分は分かる。
ヴァンフェルム団長だって、捜索をする人ではなく、捜索する人を管理する人。
ただ、みんなの上に立つ人が、捜索している騎士の目の前でお茶会やっているってのは、どうなんだろう?
少なくとも、わざわざ、令嬢を集める必要はないと思う。
私はアルゲン大公子の行動に少し疑問を持った。
ところで。
アルゲン大公子に話しかけられたのは私なので、返事を返すべき?
私がちょっとの間考え込んだせいで、言い返すのがちょっと遅れる。その隙に、私とアルゲン大公子の会話にマリーアンが割って入った。
「さすがはシグナルト様。適材適所ですわねぇ」
「まぁ、そうとも言うけど」
アルゲン大公子をそれとなく持ち上げるマリーアン。
マリーアンの言うとおりではあるので、同意はしたけど、でも、なんかおかしい。
マリーアンは、王女殿下やダイアナ嬢みたいな自己主張強めの傲慢さはあまり感じられず、空気が読めなさそうで、しっかり空気を読んでくる令嬢だ。
他人の会話に強引に割って入るなんて、もってのほか。つきあいが短い私でも、マリーアンならやらないだろうことくらい分かる。
なのに、マリーアンは躊躇することなく割って入った。まるで、私とアルゲン大公子に会話をさせたくないような、そんな雰囲気で。
そしていいタイミングで、ユリンナ先輩が大声をあげる。この場にいる全員に聞かせるように。
「エルシア、こっちもお茶の用意が終わったって!」
あれ? お茶、飲み終わったよね?
首を傾げて、ユリンナ先輩の方を見る。
「あらぁ、お茶会でしたのねぇ」
間髪入れず、マリーアンも声を上げた。こちらもいいタイミングだ。示し合わせてもいないのに息ぴったり。
するとアルゲン大公子は、これはしまった、というような顔をして、こちらに謝罪してきた。
「あぁ、邪魔してしまったな」
「ですわねぇ」
マリーアンがすかさず、アルゲン大公子に同意をすると、
「それではよい一時を」
と言って、アルゲン大公子は再び、自分のデカい天幕に戻っていったのだった。
もちろん、マリーアンもいっしょに。
いったいなんだったのか、マリーアンが何をしたかったのか、今ひとつ分からない私だった。
パチン!
「ユリンナさん、ナイス」
「えへ」
私の後ろでユリンナ先輩とオルドーがハイタッチをしているところを、呼び止めた。
「今の、何だったんですか?」
私だけ何がなんだか分かってなくて、仲間外れになっているような、疎外感を感じる。
「「あー」」
二人の声が揃った。
「(たぶんだけどな、カリュブス侯爵令嬢は忠告しに来たんだ)」
「(そぅそぅ。あの天幕、アルゲン大公子のだとは思わなかったわよぅ!)」
「(こちらの不手際でございます。調査が徹底できず申し訳ございません)」
じぃやさんまでヒソヒソ会話に加わってくる。
「(アルゲン大公子ってイケメンだけど、女好きであちこち手を出しまくってるのよぅ。そんなヤバいヤツと、うちのエルシアを会わせるわけにはいかないもんね!)」
「(だよな。だから、気をつけろって言いに来たんだよ、あの令嬢。なのにアルゲン大公子が出てきちゃったからな)」
「(そぅそぅ。カリュブスちゃん、慌ててたわよねぇ! アルゲン大公子を天幕に引き戻そうと必死だったわよぅ!)」
「うん、そうなんだ」
よく分からないけど、どうやらそういうことらしい。
私たちのヒソヒソ会話が中断したところで、
「あのー」
と声を控えめにかけてくる人物がいた。
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