運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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3 王子殿下の魔剣編

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 マリーアンの指差した方向には、木々があるだけでなく、一際、存在感を放つ天幕が引かれていた。

 じぃやがセッティングしてくれた天幕は芸が細かいけど小さい。なにせ、三人分だからね。

 ところが。

 マリーアンが指差す天幕はでかい。

 うん、いったい何人、いや、十数人くらい入れそうな広さ。

 木々の間にそんなデカい物を設置できるのかって?

 だよね。そう思うよね。

 でも心配はいらない。

 なぜなら、

 邪魔な木は切ればいいから。

 切ってる。木を切ってる。勝手に切ってる。公共施設って訳でもなく、自然に生えてる木だから、切るのに許可はいらないのか。

 なるほど~

 て! だからって切るなよ!

 意味もなく気分が悪くなる私の横で、ユリンナ先輩が思いっきり指を差した。

 デカい天幕から出てきた男性に向けて。

「あれ、アルゲン大公子よぅ!」

「アルゲン大公子?」

 うん、聞いたことある家門名。

 あれだ。あのお花畑家門だ。

 私が知らないと思ったのか、オルドーがざっくりと解説をした。

「グラディアが誇る二大公の片方だ。あの『真実の愛』の主役のご子息だよ、エルシア」

「いや、私だって、そのくらいは知ってるから」

 まぁ、知ってるどころの話じゃない。向こうは私のことなんて、存在すら知らないだろうけど。私はアルゲン大公家のことはよく知っている。

「出てくるだなんて、予定外だわぁ。おとなしくしててくれればいいのに」

 アルゲン大公子を睨んでマリーアンがぼそっと零した声は、私たちのざわつきの中に消えていった。




 私たちがざわついている間にも、アルゲン大公子は天幕から出てきて、まっすぐ私たちの天幕へと近づいてきた。

 金髪碧眼の麗しい容姿。一重でキレのある目元。一瞬、女性に見間違えるような肌の白さ。ガッシリという言葉とは無縁な身体は細く、しなやかさを感じる。

 どことなく、カス王子を思い出させるのは、王家とアルゲン大公家が元は同じ家系だったからだろう。

 十代くらい前の王弟だか王妹だかが興した家門が、アルゲン大公家とアエレウス大公家で、それ以降、大公家の創家は認められていない。

 国王の兄弟姉妹がぽこぽこ大公家を作ったら、際限なく増えてしまう。
 それを嫌って、八代前の国王が一代公爵となるよう法律を変えたそうだ。

 ともかく、そんなわけで、アルゲン大公子はカス王子に似ていて、もしかしたら中身も似ているのかもしれないと、思うような雰囲気があった。

 すなわち、

「マリーアン、そちらはお知り合いかな? 紹介してもらっても?」

 髪をかきあげたり、腰や額に手を当てたり、たぶん本人は格好良いと思っている決めポーズをすること。

 うん、王太子殿下や王女殿下がやっているのはまるで見たことないから、この二人特有の現象なのかも。

 アルゲン大公子はカス王子よりも、身体のキレは悪いが、ポーズは要所のみ。
 一つの台詞で何ヶ所もポーズを決めまくるカス王子とは少し様子が違っていた。

 それでもだいぶ少なくなるので、見ている方はかなり楽になる。

 声をかけられたマリーアンは静かに頭を下げると、簡単に私たちの紹介を始めた。

「知り合いの魔術師殿たちですわぁ、シグナルト様。ルベラス嬢とその同僚の魔術師殿ですの」

 え? それだけ? と思って、ユリンナ先輩とオルドーの方を見ると、ぶんぶん首を振る。

「(関わり合いたくはないから、そんなんでいいよ)」

「(高みの見物の方が、断然、おもしろそうね!)」

 うん、二人とも私に相手を押し付けたな。

 チッと舌打ちをする目の前では、アルゲン大公子がマリーアンのすぐ隣までやってきていた。

「ほぅ、その若さで王都騎士団配属とは凄いな。僕はシグナルト・アルゲン。次期アルゲン大公だよ」

 アルゲン大公子は優雅に一礼すると、白い歯を見せて、ニカッとさわやかな笑みを浮かべる。


「キャーーー」

「アルゲン大公子殿下よ!」

「素敵ね」

「こっちを見たわ!」


 気がつくと、アルゲン大公子を中心にして、遠巻きに輪が出来ていた。

 どうやら、この大公子。人気だけはあるらしい。

 周りを囲む女性たちの声に、大公子は手を振って応じるので、さらにキャーキャーと声が大きくなる。

 さらに気をよくした大公子は、こちらを放置して、手を振りまくっていた。

 するとそこに、今度は大公子の出てきた天幕から、別の女性の声が。
 聞いたことのある声、というか最近、食堂でよく聞く若い女性の明るい声は、私たちに話しかけてくる。

「あ! オルドー先輩! あと確か、第三騎士団の魔術師さんたちでしたよね?」

 クラウドによくくっついている研修生のミライラ・フォセル嬢だ。

 うん? オルドーも先輩扱いなの? しかも名前呼び?

 オルドーの名前呼びに反応した私とユリンナ先輩がオルドーを睨むと、オルドーは無言でブンブン首を横に振るだけ。

 続いて聞こえてきたのは、うん、こちらも聞いたことがある声だ。

「シグナルト様。第三騎士団のような雑用騎士団で働いている魔術師など、魔術師であってないようなものです」

 これも聞き間違えはないな。王宮魔術師団の自称若きエース、ダイアナ・セイクリウス嬢。

 その言い方、失礼じゃない? 失礼だよね?

「まぁ、そうなんですか。セイクリウス様」

「あなたも研修生のうちに、身の振り方をよくよく考えることですわね。もっとも、実力がなければどうしようもありませんけれど」

 あー、ダイアナ嬢。私たちだけでなく、フォセル嬢にも噛みついたよ。やだやだ。

「カオスだ。帰りたい」

「まあまあまあ。おもしろそうじゃないのぅ!」

 思わず口から出た本音をユリンナ先輩が押しとどめた。
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