運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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3 王子殿下の魔剣編

1-10 クラウド、同僚から責められる

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 荒れた三聖の部屋から五強の部屋へと移動し、そのまま三聖の展示室の外の建物の、さらに外までやってきた。

 三聖の展示室前の広場には、第三騎士団から応援の騎士がやってきていて、研修生を順に並ばせている。

 三聖の部屋で助けた後輩の魔術師、ミライラ・フォセルは、相当怖かったようで、まだ小刻みに震えていた。

 落ち着かせようと彼女の肩に手をおこうとして、ふと、何か忘れていることに気がつく。

「あれ? そういえば、」

 俺はここにきて、ようやく、大事な忘れ物に思い至った。

「エルシアは?」

 マズい。もの凄くマズい。
 あのエルシアを置き去りにしてしまった。

 修復を頼んで、ひとりで大丈夫か?とは尋ねたが、あれからだいぶ時間が経っている。その間、ずっとエルシアをひとりで行動させてしまっていた。

 顔から血の気がさーーっと引いていく。

 少しの間、そばを離れるだけのつもりだったのに。

 それに、クストス隊長からもヴァンフェルム団長からも、絶対にエルシアから目を離すなと言われてたのに。

 この前だって、俺がエルシアから目を離していなければ。

 後悔しても仕方ない。エルシアを探さないと。そう思って、三聖の展示室前の広場をぐるっと見回す。

 でも、どこにもいない。

 エルシアはいったいどこに…………?

 王宮魔術師団の筆頭殿と対峙したときのことが思い出される。最近の中では一番、嫌な記憶だった。

 目をつぶると、あの時のエルシアの姿が脳裏に浮かぶ。

 と、その時。

「うちの魔術師殿なら、まだ三聖の部屋に残っているが、どうかしたか?」

 背後から声をかけられた。

 振り返るとそこには三聖の部屋で警備をしていた二人。俺の三年先輩と同期の騎士だった。

 三聖の展示室の警備は、現場を離れることはしない。なのに、この二人は展示室前の広場で研修生の整理をしている。

「いったいどうして、ここに?」

「あぁ、俺たちのことか?」

 先輩騎士は落ち着いた様子だ。

「うちの魔術師殿の指示で、全員、外に出すため、いっしょに出てきたんだ。
 念のため、五強の警備に魔術師殿のことは頼んであるけど、なるべく早く戻らないとな」

 かいつまんではいるが、事の次第を教えてくれる。

 先輩騎士の話では、俺が後輩の面倒を見ながら外に避難させている間に、エルシアは警備の騎士全体に指示を出したようだった。

 しかし、なんであいつだけ、三聖の部屋に残ったんだよ。

 その疑問にはもう一人の騎士が答える。

「うちの魔術師殿はな、クラウドが、その子とイチャイチャしている間に、三聖の展示室の点検と修復をやってくれてるんだ」

 引っかかるような言い方をされて、俺はすぐに言い返した。

「俺の方は、助けたお礼を言われてただけだよ」

「そうです、イチャイチャだなんて」

 俺が助けた後輩も弁護してくれたが、なんだか言い訳をしているようで、ばつが悪い。

 それ以上、言葉を続けられないでいると、先輩騎士から想像もしてなかったことを言われる。

「助けたお礼? なんでお前が言われるんだ?」

「いやだって、」

 壊れた破片だとか落ちてくるところを助けたのは俺だし、と続けようとしたところに、もう一人の騎士が俺の言葉を遮った。

「あそこで三聖の部屋が荒れないよう、研修生に被害が出ないよう、身体を張ってたのはうちの魔術師殿だろうが!
 お前はどさくさに紛れて、その子を自分の方へ抱き寄せただけだろ!」

 噛みつくような物言い。

「それは、」

 俺はここに至って、この二人から敵意、とまではいかないにしろ、好意的には思われてないことに気がつく。

 あぁ。俺、他人の感情には敏いと思っていたのに、鈍感だったんだな。

「まったく。うちの魔術師殿も魔術師殿だよな。散々、好き放題言ってたヤツらなんだから、少しは痛い目にあわせてもいいのに」

「副隊長候補に抜擢されてるからって、いい気になるなよ、お前」

 二人から酷い言葉を浴びせられるが、今は何を言い返しても言い訳にしかならない。

 悔しさを噛みしめながら、俺はじっと黙っていた。拳をぐっと握りしめる。

 エルシアなら、わざとムカつくことを言われると、感情豊かにプリプリと怒ったり、まったく意に返さず表情一つ変えないこともあったり。

 エルシアは、その場その場で見せる姿がぜんぜん違っていて、何を考えているのか読み切れないところもある。
 でも、相手に対して真正面に向き合うところに好感がもてた。

 後輩のミライラは、というと、さきほどとは違って今度は何も言い返さなかった。

 さきほど言い返したときの様子から、自分が口を挟めば、俺が余計に不利になると判断したらしい。

 俺と同じように、ぐっと拳を握りしめていた。




 警備の二人は俺たちが何も言い返さないのを見て取ると、お互いに小さく頷く。

「俺たちはうちの魔術師殿から指示を受けてる。クラウドは研修生を研修部に連れていってくれ」

 先輩騎士が俺に研修生の移動を命じる。

 しかし、緊急事態の場合、命令系統はその場で一番高いポジションの人間が行うものだ。
 この場には団長も隊長もいないので、通常なら副隊長代理の俺になる。

「勝手に指示を割り振るのは、」

「うちの魔術師殿からの指示だと言っただろ?」

 またもや、話を遮られた。

「三聖の展示室は、うちの魔術師殿しか修復出来ないことは知ってるよな。だから今は、うちの魔術師殿の指示の方が上なんだよ」

 が、続く内容は納得のいくものだった。

「団長や隊長にも報告済みだし、研修部にも研修生を戻らせる旨は連絡済みだ」

 そのうえ、何から何まで手配済み。返す言葉もない。

 俺は後輩のミライラを従えると、研修生の集まっている方に赴く。

「みんな、集まってくれ」

 声をかけると全員が静かに集まってきた。

 こんな俺でも後輩たちからの人望はあるらしい。というか、後輩たちからの人気しかないのか、俺。

 密かに愕然としながら、後輩の研修生たちを研修部へと引き連れていくのだった。
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