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3 王子殿下の魔剣編
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研修生を対象とした『三聖の展示室』の見学会開催の少し前に、話はさかのぼる。
この日、私は直属の上司であるクストス隊長に連れられて、ヴァンフェルム団長の執務室へと来ていた。
もちろん、副隊長代理的なクラウドもいっしょに。
私たちが執務室にやってきて、開口一番、団長はとんでもないことを言い出す。
「『三聖の展示室』の見学会の見学にしようと思うんだよなぁ」
「はぁ?」
「見学会の見学?」
うん、意味が分からない。
「誰が何を見学するんですか?」
クストス隊長が突っ込むと、ようやく気がついてくれたようだ。
「あー、これだけじゃ、分からないか」
うん、分かるか!
「ほらほら、そろそろ研修生が各騎士団の仕事内容を見学しに来る時期だろう?」
うん、それを最初に言ってほしいものだわ。
団長が後から付け加えた一言で、全員が団長の言いたいことを理解した。
通常、研修生は研修期間中に、一通りの規則や業務内容を覚える講習を受け、実際に各騎士団や魔術師団の仕事内容や仕事ぶりを見学する。
この第三騎士団にも研修生がやってきて、具体的にどんな仕事をしているのか見学するわけだ。
「つまり、第三騎士団の具体的な仕事として、『三聖の展示室』の警備や見学会をやっているところを見学してもらうと」
クストス隊長がヴァンフェルム団長の意向を無理やりまとめにかかる。
「話が早くて助かるなぁ」
うんうんと頷くヴァンフェルム団長。
クストス隊長のまとめ力に丸投げしないで、ヴァンフェルム団長はもうちょっと分かりやすく説明するようにしてもらいたいな。
という目で見ていたのがバレたのか、ヴァンフェルム団長は私の方を見て、一言、つけくわえる。
「研修生の見学については説明するまでもないだろう?」
はぁ。
「毎年のことですからね」
「去年、見学した側ですので」
「私、騎士団や魔術師団の見学はしてないので、分かりません」
クストス隊長とクラウドが同時に答える中、私だけ違うことを言ったような気がする。
くるっ。
三人が私の方に顔を向けて私を見た。同席しているパシアヌス様も同じように私の方を見る。
「なんで見学してないんだ?」
「見学も研修の一環だっただろ?」
「そういえばルベラス君、配属されるまで見かけなかったような」
と、そこでポンと手を叩く団長。
「そういや、ルベラス君は配属先が最初から決まってたから、見学してないんだったっけ」
「「えっ?!」」
見学してない理由が団長の話通りかは分からないけど。
私は通常の研修生ではなかったので、通常行われるべきものがポコポコ抜けてたりする。
言っておくが、私の責任ではない。断じてない。私以外の誰か、たぶん私の保護者とか保護者とか保護者とかが勝手に決めたせいだ。
だから、みんなして信じられないって顔して、私を見ないでほしい。
そんな雰囲気の中、ヴァンフェルム団長だけ、いつもと変わらない様子で、話を先に進めた。
「なーに、いつもの『三聖の展示室』の見学会と同じだよ。見学会はルベラス君が一番慣れてるからねぇ」
ヴァンフェルム団長は簡単に言う。
「見学会の見学者が研修生になるだけ。簡単な仕事だろう?」
ヴァンフェルム団長の言う『簡単な仕事』は簡単だったためしがない。簡単な仕事を装った面倒くさい仕事ばかり。
「面倒なんで、嫌なんだけどな」
「おい、エルシア。心の声が聞こえてるぞ」
「今のは心の声じゃなくて、大きな独り言よ、クラウド」
「大差ないだろ!」
私の隣からクラウドが怒鳴る。
口に出すのと出さないのでは大きく違うし、うっかり喋るのと意図して喋るのでは大きく違うのに。
最近のクラウドは、副隊長代理の立場もあってか、先輩面を通り越して上司面をするようになってきた。おもしろくない。
クストス隊長から上司面されるのは致し方ないとしても、同時期に配属された同期のクラウドに上司面されるのは、かなり気分が悪い。
ムッとしてクラウドを睨みつけると、
「こらこら、二人とも静かに」
団長が割って入って、すぐさま、睨み合いは終了にさせられた。やっぱりおもしろくない。
場が静かになったところで、改めて、クストス隊長が喋り出した。難しい顔というよりは戸惑いを隠せない顔に近い表情を浮かべながら。
「ヴァンフェルム団長。正直なところ、エルシアに研修生の相手をさせるのは心配です」
クストス隊長はさらに言い募る。
「エルシアは、第三騎士団一の問題児ですよ? 反省文の数は類を見ない速さで増えていってます」
ムムム。
反射的に言い返そうとして、はっと思いとどまり、ぐっとこらえた。唇を軽く噛んで口角が下がる。
言い方。言い方が酷い。事実ではあるけど言い方が酷い。
とはいえ、研修生に対しての見学会なんて面倒くさい臭いしかしない。
ここで言い返して、それならルベラス君に任せようか、という流れになっても嫌だし。
それなら、言い返すのをぐっと我慢しておとなしくしていた方が百倍いい。
なので我慢した。我慢の出来る私って成長していると思う。心の中で私は私を誉めてあげた。だって誰も誉めてなんてくれないし。
クストス隊長の酷い発言を、ヴァンフェルム団長は聞く振りをして、うんうんと適当に相づちを打った。
どうして適当かと断言できるかというと、その直後の返答がこんなだったから。
「大丈夫だろう? クラウドだっているし」
何をどう判断して大丈夫と言えるのかが今ひとつ分からない、という顔をしているクストス隊長に代わって、クラウドがヴァンフェルム団長に反対した。
「俺、いつまでもエルシアのお守りばかりしていられないんですが」
別にクラウドにお守りをしてもらわなくていいし。
という顔をしたつもりはまるでないのに、クラウドから小声でブツブツ言われる。
「そんなにムッとしなくてもいいだろ」
と。
同い年で同期のヤツに先輩面や上司面されてるってのに、ムッとしない人間がいるのだろうか。おもしろくない。
私の気分は悪くなる一方だ。
そんな私たちのやり取りには構うことなく、団長は話を続ける。
「それに、研修生は学院の一つ下の代なんだから、交流もあるだろう? 君ら二人とも首席なんだし、下の代の首席とも知り合いだろうしなぁ」
団長の何気ない言葉に、私とクラウドはぴたっと動きを止め、黙り込んだ。
この日、私は直属の上司であるクストス隊長に連れられて、ヴァンフェルム団長の執務室へと来ていた。
もちろん、副隊長代理的なクラウドもいっしょに。
私たちが執務室にやってきて、開口一番、団長はとんでもないことを言い出す。
「『三聖の展示室』の見学会の見学にしようと思うんだよなぁ」
「はぁ?」
「見学会の見学?」
うん、意味が分からない。
「誰が何を見学するんですか?」
クストス隊長が突っ込むと、ようやく気がついてくれたようだ。
「あー、これだけじゃ、分からないか」
うん、分かるか!
「ほらほら、そろそろ研修生が各騎士団の仕事内容を見学しに来る時期だろう?」
うん、それを最初に言ってほしいものだわ。
団長が後から付け加えた一言で、全員が団長の言いたいことを理解した。
通常、研修生は研修期間中に、一通りの規則や業務内容を覚える講習を受け、実際に各騎士団や魔術師団の仕事内容や仕事ぶりを見学する。
この第三騎士団にも研修生がやってきて、具体的にどんな仕事をしているのか見学するわけだ。
「つまり、第三騎士団の具体的な仕事として、『三聖の展示室』の警備や見学会をやっているところを見学してもらうと」
クストス隊長がヴァンフェルム団長の意向を無理やりまとめにかかる。
「話が早くて助かるなぁ」
うんうんと頷くヴァンフェルム団長。
クストス隊長のまとめ力に丸投げしないで、ヴァンフェルム団長はもうちょっと分かりやすく説明するようにしてもらいたいな。
という目で見ていたのがバレたのか、ヴァンフェルム団長は私の方を見て、一言、つけくわえる。
「研修生の見学については説明するまでもないだろう?」
はぁ。
「毎年のことですからね」
「去年、見学した側ですので」
「私、騎士団や魔術師団の見学はしてないので、分かりません」
クストス隊長とクラウドが同時に答える中、私だけ違うことを言ったような気がする。
くるっ。
三人が私の方に顔を向けて私を見た。同席しているパシアヌス様も同じように私の方を見る。
「なんで見学してないんだ?」
「見学も研修の一環だっただろ?」
「そういえばルベラス君、配属されるまで見かけなかったような」
と、そこでポンと手を叩く団長。
「そういや、ルベラス君は配属先が最初から決まってたから、見学してないんだったっけ」
「「えっ?!」」
見学してない理由が団長の話通りかは分からないけど。
私は通常の研修生ではなかったので、通常行われるべきものがポコポコ抜けてたりする。
言っておくが、私の責任ではない。断じてない。私以外の誰か、たぶん私の保護者とか保護者とか保護者とかが勝手に決めたせいだ。
だから、みんなして信じられないって顔して、私を見ないでほしい。
そんな雰囲気の中、ヴァンフェルム団長だけ、いつもと変わらない様子で、話を先に進めた。
「なーに、いつもの『三聖の展示室』の見学会と同じだよ。見学会はルベラス君が一番慣れてるからねぇ」
ヴァンフェルム団長は簡単に言う。
「見学会の見学者が研修生になるだけ。簡単な仕事だろう?」
ヴァンフェルム団長の言う『簡単な仕事』は簡単だったためしがない。簡単な仕事を装った面倒くさい仕事ばかり。
「面倒なんで、嫌なんだけどな」
「おい、エルシア。心の声が聞こえてるぞ」
「今のは心の声じゃなくて、大きな独り言よ、クラウド」
「大差ないだろ!」
私の隣からクラウドが怒鳴る。
口に出すのと出さないのでは大きく違うし、うっかり喋るのと意図して喋るのでは大きく違うのに。
最近のクラウドは、副隊長代理の立場もあってか、先輩面を通り越して上司面をするようになってきた。おもしろくない。
クストス隊長から上司面されるのは致し方ないとしても、同時期に配属された同期のクラウドに上司面されるのは、かなり気分が悪い。
ムッとしてクラウドを睨みつけると、
「こらこら、二人とも静かに」
団長が割って入って、すぐさま、睨み合いは終了にさせられた。やっぱりおもしろくない。
場が静かになったところで、改めて、クストス隊長が喋り出した。難しい顔というよりは戸惑いを隠せない顔に近い表情を浮かべながら。
「ヴァンフェルム団長。正直なところ、エルシアに研修生の相手をさせるのは心配です」
クストス隊長はさらに言い募る。
「エルシアは、第三騎士団一の問題児ですよ? 反省文の数は類を見ない速さで増えていってます」
ムムム。
反射的に言い返そうとして、はっと思いとどまり、ぐっとこらえた。唇を軽く噛んで口角が下がる。
言い方。言い方が酷い。事実ではあるけど言い方が酷い。
とはいえ、研修生に対しての見学会なんて面倒くさい臭いしかしない。
ここで言い返して、それならルベラス君に任せようか、という流れになっても嫌だし。
それなら、言い返すのをぐっと我慢しておとなしくしていた方が百倍いい。
なので我慢した。我慢の出来る私って成長していると思う。心の中で私は私を誉めてあげた。だって誰も誉めてなんてくれないし。
クストス隊長の酷い発言を、ヴァンフェルム団長は聞く振りをして、うんうんと適当に相づちを打った。
どうして適当かと断言できるかというと、その直後の返答がこんなだったから。
「大丈夫だろう? クラウドだっているし」
何をどう判断して大丈夫と言えるのかが今ひとつ分からない、という顔をしているクストス隊長に代わって、クラウドがヴァンフェルム団長に反対した。
「俺、いつまでもエルシアのお守りばかりしていられないんですが」
別にクラウドにお守りをしてもらわなくていいし。
という顔をしたつもりはまるでないのに、クラウドから小声でブツブツ言われる。
「そんなにムッとしなくてもいいだろ」
と。
同い年で同期のヤツに先輩面や上司面されてるってのに、ムッとしない人間がいるのだろうか。おもしろくない。
私の気分は悪くなる一方だ。
そんな私たちのやり取りには構うことなく、団長は話を続ける。
「それに、研修生は学院の一つ下の代なんだから、交流もあるだろう? 君ら二人とも首席なんだし、下の代の首席とも知り合いだろうしなぁ」
団長の何気ない言葉に、私とクラウドはぴたっと動きを止め、黙り込んだ。
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