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2 暗黒騎士と鍵穴編
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隊長たちとクラウドが呆然としている間にも、白髪の杖精は壊れたように、言葉を繰り返していた。
そして、クズ男ににじりよっていく。
「アアアアルジ、アル……ジノタイセ…ツ」
「ハァァァァァ? 何を言ってるんだ?」
「モドスアナナナナナ…………ツクル………」
「意味が分からんぞ?」
クズ男はというと、白髪の杖精を相手にもしていない。
ふと、白髪の杖精が消え、クズ男の目の前に現れた。
「我が主!」
ズガン
アキュシーザが体当たりをして、白髪の杖精をはね飛ばす。
白髪の杖精の身体がテーブに当たり、ガーッと音を立てて移動した。イスが倒れ、その真ん中に杖精が倒れ伏す。
アキュシーザの突然の行動は過剰防衛とも思えた。
しかし、はね飛ばされる直前、白髪の杖精は歯をむき出していたのだ。クズ男に噛みつこうとしていたのかもしれない。
顔をさっと赤くするクズ男。
倒れた杖精を指差すと、
「お前。破壊処分だ!」
と、言い放つ。
「ハ、ハ、ハハハハハハハハ」
クズ男の反応に、今度はクラヴィスが笑い出した。
「すっかり忘れてるんだな。三年前も破壊処分にしようとして、出来なかったっていうのに」
クラヴィスの言葉で、クズ男はようやく思い出したようだ。「あ」という顔を見せる。
クラヴィスは私たちに身体を向け、クズ男を指差して断言した。
「そうさ、こいつさ。自分が作った人喰い杖を破壊できなくて封印処分にした、件のお偉い魔導師殿はな!」
まぁ、白髪の杖精とクズ男との間に主従契約がなされているのが何よりの証拠。
白髪の杖精は壊れかけていても、主従契約は生きている。アキュシーザもそれに気がついたようで、嫌な顔をクラヴィスに向けた。
「あーあ、断言しちゃった」
団長二人も分かっていただろうに、あえて指摘はしなかった。
その行動から察するに上層部はある程度のことは黙認する方針だったんだと思う。
それをクラヴィスは口にしてしまったわけで。
「だから、この前、言っただろう? 三年前と今回の犯人が分かって捕まえられた、これで良いんじゃないかなぁって」
ヴァンフェルム団長の発言に、何人かがハッとした。
ここでの発言は記録に残る。
なにせ、記録官がいるから。
クラヴィスは記録官がクラヴィスの発言を正確に記すのを見て、ふっと笑った。
クラヴィスはクズ男の人気も騎士団の仕組みも分かっていて、あえて、ここで発言したんだ。
闇に葬られた真実を、光の当たる記録に残すのが、クラヴィスの目的だったわけだ。
穏やかに笑うクラヴィスと、苛立つクズ男がとても対照的だった。
「団長とエルシアはすべて分かっていたんですね」
クラウドがボソッとつぶやいたのを皮切りに、隊長たちがワッと騒ぎ出す。
「いや、きっと。筆頭殿には深い理由があったんだ。そうに違いない」
「過去を取り戻す、過去から人や物を持ってくるって。生きている奥さんを取り戻したかったってことか?」
「つまり、筆頭殿は奥さんのために、そこまで考えて行動してたんだな」
「運命の相手との別れなんて、つらすぎるものな」
うん、少し前まで、悪の黒幕的なことを言ってた人たちはどこに消えたのかな?!
はぁ。『運命の恋』の主人公が一連の黒幕魔導師だと分かったとたんにこれだ。
私は何を期待してたんだろうな。
調子のいいファンたちに、私は鉄槌を下したい気持ちになる。いやいや、本当に鉄槌を食らわないといけないのは黒幕魔導師のクズ男か。
「でも、それってダメでしょ。死んだ人を死ななかったことにするなんて」
私の言葉に隊長たちはピタリと口を閉ざした。その様子から、彼らも心の底では分かってくれているのだと思いたかった。
が。私の考えはすぐさま打ち砕かれる。
隊長たちはともかく、クズはクズ。自分の実の娘でさえ平気で捨てる人間が、魔導具を大事に扱うはずがなかった。
私の発言の意味など無視して、けろりとした顔をしているクズ男。
「なんでダメなんだ? 別に良いだろう? 愛するミレニアの笑顔を取り戻すためなら、僕はどんな困難にも打ち勝つつもりだし、努力だって怠らない」
率直に、奥さんへの愛を語り始めた。
「前の流れを聞いてなければ、良い話なのになぁ」
苦い顔をするのはヴァンフェルム団長とクラヴィスだけ。
「いやいや、団長。前の流れがあるからこそ、良い話ですよ」
「これぞ、運命の恋だよな」
隊長たちは、今のクズ発言に引き寄せられてしまっている。クラウドと記録官は複雑そうな表情で成り行きを見守っていた。
「どこが良い話なわけ? 死人を生き返らせるなんて禁忌でしょ?」
「筆頭殿は死んだ奥さんを生き返らせるなんて言ってないだろう? 生きている奥さんを過去から連れてくると言ってるんだ」
とリンクス隊長。一度、殴りたい。
「いや、どちらも変わりないから」
「いやいやいや、重みが違うさ」
とクストス隊長も援護に回る。正気かこいつ。
「えー、さっきまで、諸悪の根元て言っていましたよね?」
「「訂正する!」」
早業のような手のひら返しに、私は頭が痛くなってきた。
「クストス隊長も暗黒騎士も、けっきょくはファンなんだ。主人公が現実に悪いことをしても庇うんだ。だから嫌なんだよね、ファンは」
私の愚痴を聞いても、すぐそばにいるクラウドは何も反応しない。
ヴァンフェルム団長だけが「まぁまぁまぁまぁ」といつもの言葉を口にするだけ。ほとほと嫌になってきた。
「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴァァァァァァ」
私がやる気をなくしたそのとき、会議室の床の上では、別のことが起きようとしていた。
そして、クズ男ににじりよっていく。
「アアアアルジ、アル……ジノタイセ…ツ」
「ハァァァァァ? 何を言ってるんだ?」
「モドスアナナナナナ…………ツクル………」
「意味が分からんぞ?」
クズ男はというと、白髪の杖精を相手にもしていない。
ふと、白髪の杖精が消え、クズ男の目の前に現れた。
「我が主!」
ズガン
アキュシーザが体当たりをして、白髪の杖精をはね飛ばす。
白髪の杖精の身体がテーブに当たり、ガーッと音を立てて移動した。イスが倒れ、その真ん中に杖精が倒れ伏す。
アキュシーザの突然の行動は過剰防衛とも思えた。
しかし、はね飛ばされる直前、白髪の杖精は歯をむき出していたのだ。クズ男に噛みつこうとしていたのかもしれない。
顔をさっと赤くするクズ男。
倒れた杖精を指差すと、
「お前。破壊処分だ!」
と、言い放つ。
「ハ、ハ、ハハハハハハハハ」
クズ男の反応に、今度はクラヴィスが笑い出した。
「すっかり忘れてるんだな。三年前も破壊処分にしようとして、出来なかったっていうのに」
クラヴィスの言葉で、クズ男はようやく思い出したようだ。「あ」という顔を見せる。
クラヴィスは私たちに身体を向け、クズ男を指差して断言した。
「そうさ、こいつさ。自分が作った人喰い杖を破壊できなくて封印処分にした、件のお偉い魔導師殿はな!」
まぁ、白髪の杖精とクズ男との間に主従契約がなされているのが何よりの証拠。
白髪の杖精は壊れかけていても、主従契約は生きている。アキュシーザもそれに気がついたようで、嫌な顔をクラヴィスに向けた。
「あーあ、断言しちゃった」
団長二人も分かっていただろうに、あえて指摘はしなかった。
その行動から察するに上層部はある程度のことは黙認する方針だったんだと思う。
それをクラヴィスは口にしてしまったわけで。
「だから、この前、言っただろう? 三年前と今回の犯人が分かって捕まえられた、これで良いんじゃないかなぁって」
ヴァンフェルム団長の発言に、何人かがハッとした。
ここでの発言は記録に残る。
なにせ、記録官がいるから。
クラヴィスは記録官がクラヴィスの発言を正確に記すのを見て、ふっと笑った。
クラヴィスはクズ男の人気も騎士団の仕組みも分かっていて、あえて、ここで発言したんだ。
闇に葬られた真実を、光の当たる記録に残すのが、クラヴィスの目的だったわけだ。
穏やかに笑うクラヴィスと、苛立つクズ男がとても対照的だった。
「団長とエルシアはすべて分かっていたんですね」
クラウドがボソッとつぶやいたのを皮切りに、隊長たちがワッと騒ぎ出す。
「いや、きっと。筆頭殿には深い理由があったんだ。そうに違いない」
「過去を取り戻す、過去から人や物を持ってくるって。生きている奥さんを取り戻したかったってことか?」
「つまり、筆頭殿は奥さんのために、そこまで考えて行動してたんだな」
「運命の相手との別れなんて、つらすぎるものな」
うん、少し前まで、悪の黒幕的なことを言ってた人たちはどこに消えたのかな?!
はぁ。『運命の恋』の主人公が一連の黒幕魔導師だと分かったとたんにこれだ。
私は何を期待してたんだろうな。
調子のいいファンたちに、私は鉄槌を下したい気持ちになる。いやいや、本当に鉄槌を食らわないといけないのは黒幕魔導師のクズ男か。
「でも、それってダメでしょ。死んだ人を死ななかったことにするなんて」
私の言葉に隊長たちはピタリと口を閉ざした。その様子から、彼らも心の底では分かってくれているのだと思いたかった。
が。私の考えはすぐさま打ち砕かれる。
隊長たちはともかく、クズはクズ。自分の実の娘でさえ平気で捨てる人間が、魔導具を大事に扱うはずがなかった。
私の発言の意味など無視して、けろりとした顔をしているクズ男。
「なんでダメなんだ? 別に良いだろう? 愛するミレニアの笑顔を取り戻すためなら、僕はどんな困難にも打ち勝つつもりだし、努力だって怠らない」
率直に、奥さんへの愛を語り始めた。
「前の流れを聞いてなければ、良い話なのになぁ」
苦い顔をするのはヴァンフェルム団長とクラヴィスだけ。
「いやいや、団長。前の流れがあるからこそ、良い話ですよ」
「これぞ、運命の恋だよな」
隊長たちは、今のクズ発言に引き寄せられてしまっている。クラウドと記録官は複雑そうな表情で成り行きを見守っていた。
「どこが良い話なわけ? 死人を生き返らせるなんて禁忌でしょ?」
「筆頭殿は死んだ奥さんを生き返らせるなんて言ってないだろう? 生きている奥さんを過去から連れてくると言ってるんだ」
とリンクス隊長。一度、殴りたい。
「いや、どちらも変わりないから」
「いやいやいや、重みが違うさ」
とクストス隊長も援護に回る。正気かこいつ。
「えー、さっきまで、諸悪の根元て言っていましたよね?」
「「訂正する!」」
早業のような手のひら返しに、私は頭が痛くなってきた。
「クストス隊長も暗黒騎士も、けっきょくはファンなんだ。主人公が現実に悪いことをしても庇うんだ。だから嫌なんだよね、ファンは」
私の愚痴を聞いても、すぐそばにいるクラウドは何も反応しない。
ヴァンフェルム団長だけが「まぁまぁまぁまぁ」といつもの言葉を口にするだけ。ほとほと嫌になってきた。
「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴァァァァァァ」
私がやる気をなくしたそのとき、会議室の床の上では、別のことが起きようとしていた。
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