運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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2 暗黒騎士と鍵穴編

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 さらにその次の日。

「ハァァァァァ。どうして、この僕がそんなことを?」

 私がおとなしく見ているその目の前で、クズが大げさにため息をつく。

 この日、リンクス隊長とクストス隊長の二人が連れ立って、王宮魔術管理部の保管庫に預けた例の箱を受け取りに来ていた。

 そしてその引き取りでは、魔法関係の物を取り扱うため、取り扱い責任者として魔術師が必要となる。

 本来ならパシアヌス様か第二騎士団の魔術師長かが適任なのに、二人とも辞退してしまい、関わりのあった私が取り扱い責任者として、いっしょに来ていたのだ。

 本当はクズがいる王宮魔術師団の本部なんて、来たくもないけど。これは仕事なので仕方がない。

 これは仕事、これは仕事と自分自身に言い聞かせて、ようやくここまでやってきたのに。

 クズのクズっぽいクズ発言に私はキレそうになった。

「ムカつく。あいつ、いますぐ殴りたいんだけど」

「ルベラス君は落ちつこうなぁ」

 ヴァンフェルム団長が代わりに殴ってくれるのなら、すぐにでも落ちつきますけどね!




 どういう状況なのか、改めて、説明する。

 ここは王宮魔術管理部の会議室。

 王宮魔術管理部に預けた例の箱を受け取る際、筆頭魔術師殿に魔導具関係の相談を申し入れたので、この会議室で会うことになっていた。

 会議室に集まったのは記録官の他は、七人。

 箱は第二騎士団と第三騎士団の共有物扱いとなっているので、引き取りは、リンクス隊長とクストス隊長の二人。

 取り扱い責任者の私、私のストッパーとしてクラウド、何かあったときのためにヴァンフェルム団長。

 王宮魔術管理部の方は、筆頭であるクズ男とその杖精のアキュシーザのみ。

 箱を受けとった後、リンクス隊長から箱の中身の説明がなされ、中身の取り扱いをどうすべきか、魔導具なので管理をお願いできないか?と訴えてみたのだ。

 いちおう、中身は外に出してある。

 クラヴィスと白髪の杖精は人型に顕現し、物珍しそうに王宮魔術管理部の会議室をキョロキョロと眺めていた。

 もちろんキョロキョロ眺めたのはクラヴィスだけで、白髪の杖精はうつろな目を彷徨わせている。

 そして、リンクス隊長の訴えに対する返事が最初のもの。

 クズ男が王宮魔術師団の筆頭って、完全に人選ミスじゃないの?

 私はムカつきが止まらない。

 自分の主のあまりにも酷い応対に、アキュシーザでさえ困り果てていた。

「我が主、王宮魔術管理部は、魔術に関するすべての事象を管理、監督するところだろう? ならば、危険な杖精や魔導具の管理も主が管理する、で間違いはない」

 ツラツラと説明する。

 その説明がわざとらしく聞こえてしまって、つい、突っ込みを入れてしまった。

「ふーん、連れてきただけなのに、危険な杖精や魔導具だって分かるんだ」

「ルベラス君は黙っていようなぁ」

 ヴァンフェルム団長がガツンと言ってくれるのなら、いくらでも黙っていますけどね!




 ところが、珍しくクズ男が話に応じた。

「構わないよ。アキュシーザ、そこの黒髪の疑問を解消してやれ」

 手をひらひらさせて、アキュシーザに命じる。

「承知した、我が主。聞け、黒髪の魔術師とそして他の騎士たちよ。答えは至って簡単だ。
 安全なものなら王宮魔術管理部に持ち込まない。危険なもの、それも魔法的なものだから王宮魔術管理部にやってきた。
 それも騎士を何人も引き連れてとなると、相当な危険物だろう。
 ただ、それだけの推測など、数秒で出来る」

 数秒で出来ることを数分かけて言わないでくれるかな?

「やっぱり、言い方がムカつく」

 絶対にこちらを舐めてかかってるわ。クズ男もアキュシーザも、先月、私にガツンとやられたこと、覚えてないのかな。覚えてなさそうだよな。ならば思い出させてあげようかな。

「ほらほら、ルベラス君はそこでおとなしくしていようねぇ。クラウド、よろしく頼んだよ」

「はい、団長」

 私の機嫌が下降していることに気づいたヴァンフェルム団長が、ストッパーのクラウドを私のすぐ横に張り付かせた。

 これじゃ、殴りたくても身動きが取れない。

「くぅぅぅ」

 私は歯噛みをするだけだった。




 ここから先は隊長格では荷が重いからと、ヴァンフェルム団長が前に出る。
 最初から前に出てくれと、言いたげな顔の隊長たち。気持ちは分からなくもない。

「ま、そんなわけで、分かっているなら話は早い。筆頭殿とアキュシーザ殿にこの二人の杖精の管理をお願いしたい。よくご存知だろう?」

 のんびり口調で、団長はズカズカと話し始めた。しかも決めつけるような言い方。推測と自白だけ、確たる物証は残されていないから、決めつけは難しいのに。

 それでも口にしたということは、団長には何か考えがありそうだ。

 団長の揺さぶりにも知らん顔のクズ男。

「ハァァァァァ? 僕が知ってるわけないだろう。僕はいろいろと忙しいんだ。
 アキュシーザ、代わりに頼む。次席のアシオーに押しつけといてもいいから」

「承知した、我が主」

 と、その時。

「おい、お前。『知ってるわけない』だと? ふざけるなよ。僕らのことを忘れたのか? 忘れるわけないよな?」

 クラヴィスの、怒りを押し込めたような声。

 クラヴィスの話では、クラヴィスは魔術師に協力して白髪の杖精を作り出したそうで、私もおそらくヴァンフェルム団長も、その魔術師がクズ男だと睨んでいる。

 なのに、クズ男の反応はこれだ。

「何を言ってるんだ、この杖精。主もいないくせに、フラフラ出歩いている杖はろくな杖じゃない。
 アキュシーザ、厳重管理区域に連れていけ。手続き書類は後回しでいい」

 つまり、クラヴィスのことも、自分が手がけた杖精のことも、まるで覚えていないのだ。

 私はヴァンフェルム団長の顔をチラッと窺う。ヴァンフェルム団長も同じことを考えていたようで、私の顔をチラッと見た。

 本当にクズ男は関わっていない? それともすっかり忘れてるだけ?

 後者だったら、もう最悪だ。

「何を言ってるんだは、こっちのセリフだよ。あぁ、人間は記憶力の劣化も早いんだな、そうかそうか」

「なんだと、失礼な杖精だな。だいたい、僕はお前もその隣の白髪も知らないぞ」

 いつまでもこの繰り返しかと、周りが諦めかけたとき、クラヴィスが動きを変えた。

 知らない覚えてないを繰り返すクズ男に対して、クラヴィスは決定的な証拠を持っていたのだ。

 それは、

「聞いたか? 知らないだとよ、お前の創造主はその程度なんだよ」

 そう、自我を持つ創造物への確認。

 自我を持つ創造物は、創造主と主従契約を結んでいて、その契約は未だに生きている。

「ウソダダダダ…………アアアアアルジ!」

 突然、白髪の杖精が腹の底から振り絞るような声をあげた。
 周囲にある自然界の魔力が白髪の杖精に吸い込まれる。

 マズい。

「くっ」

 私はとっさに防御壁を張った。

 魔法陣なしで発動させたため、一気に魔力が持っていかれて呻き声が出たけれど、なんとか間に合う。

 そして、白髪の杖精の魔力が一気に爆発する。


 ポフッ


 気の抜けるような小さな音。

 幸いにも、吸い込める魔力の量が少なかったせいか、爆発は小さくはじけて終わった。
 室内で大爆発なんて起きたら、それこそ大惨事となるところだったので、ホッとする。

 ホッと出来ずに騒然となったのは隊長たちとクラウドだった。

「まさかの、まさかか」

「嘘だろ」

「察しの悪い俺でも、なんとなく、分かりましたよ、団長」

「これで、察しないヤツは相当だよなぁ」

 ここに来て、ようやく、黒幕の魔導師の正体に行き当たったようだ。

「クズは昔からクズだってことだよね」

「エルシア、黙っててくれ。正直、ちょっとショックで」

 顔色を悪くするクラウドを、私は冷めた目で見つめる。

 さぁ、主人公の正体はクズ男。クラウドは隊長たちは、それでも主人公を擁護し続けるわけ?
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