運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

文字の大きさ
上 下
101 / 317
2 暗黒騎士と鍵穴編

4-6

しおりを挟む
 こうして私たちはプラエテリタの森にやってきた。

 プラエテリタの森は新市街と旧市街の間にあるちょっとした緑地。森と名前がついているわりには森っぽさはまるでない。

 元々は森だったのだろう。間引きされた森林樹の間を縫うように、綺麗に舗装された通路が通っている。綺麗に整備されていて、見た感じは完全に公園だった。

 王女殿下たちとはフルヌビで別れたので、今いるのは私、クストス隊長、クラウドの三人。

 この三人で駆けつけたのはいいけれど。

「意外と小さい」

 私は穴を見て唖然とした。

 穴があったのは舗装されていない場所。森林樹の合間だった。
 とはいえ、下草はなく、やはりここも、飛び石とウッドチップで綺麗に整えられている。

 そんな場所の大樹の横。人が一人通れるか通れないかくらいの大きさの穴が、地面にぽっかりと開いていて、それだけだったのだ。

 見た感じ、自然に出来た『世界の穴』ではなさそう。穴から魔力やら魔物やら吹き出してもいないし、何より、とても静か。
 底が見えないくらい真っ黒い穴が地面に開いている。ただ、それだけ。こんな平穏な『世界の穴』はない。

 私が見たことないだけかもしれないけど。私が見ている『世界の穴』と違うことだけは確かだった。

 私のつぶやきを耳にしたのか、クストス隊長が青い顔で返事をした。

「そうか? けっこう大きいと思うが」

「『大噴出』の穴はもっと大きいです。小さいものでも、あれの三倍くらいはあるから」

 私は保護者といっしょに見た『大噴出』を思い出す。

 大きな『世界の穴』からは息苦しさを感じるほどの濃厚な魔力が溢れ、魔物が後から後からどんどん吹き出しくる。言葉の通りの『大噴出』だった。

 それに比べたら、目の前の穴は小さくて穏やか。何の揺らぎもない。

「なら、『大噴出』を起こすのが目的ではなさそうだな」

 私たちは、穴の周りにいる騎士たちと合流した。

 暗黒隊のリンクス隊長に、ヴァンフェルム団長もいる。

「今はどういう状態だ?」

「何の反応も進展もない。王宮魔術師団が何やらやっていたが、変化なしだ。結界を張ろうにも張れないようで。今は目視で穴を見張っている」

 クストス隊長の問いかけにリンクス隊長が状況を教えてくれたけど。

 王宮魔術師団、相変わらずだな。

 私は呆れた。

 いやだって。クズ男だったら、穴に結界を張るなんてことは考えないはずだから。

 クズ男は性格はクズだけど実力はクズではない。王宮魔術師団の筆頭。名のある杖持ち。王国一の大魔導師。
 穴を壊すか消すかのどちらかの方法で対処するだろう。私だって同じことをすると思う。

 これが出来ない人間は、結界を張って何かが出てこないように封じ込めようとするはずだ。

 要するに、ここに来て対処した王宮魔術師団の人間は、この結界も張れなかった使えない魔術師だということになる。

 そんなヤツ、来させるなって。

 ヴァンフェルム団長もリンクス隊長も、どうりでムシャクシャした顔をしているわけだ。

「やぁ。クストス隊長。とりあえず、王宮魔術師団に対応を任せてみたんだけどねぇ。最近の若者は困ったものだよねぇ」

 ハハハハハハ、とヴァンフェルム団長。

 笑顔なのに団長の口元が引きつる。それに目が怖い。目が。

「けっきょくのところ、王宮魔術師団の魔術師が、使いものにならないんだ。
 優秀だとか、ほざいていたわりには、何も分からないし何も出来ないし。挙げ句には、自分の力と相性が悪いようだ、だと。ふざけてんのかって、話だよ」

 ケッ、とリンクス隊長。

 こちらは思いっきりストレートにダメ出ししてるし。舌打ちしてるし。

 やさぐれる二人の気持ちは分からなくもないけど。
 今、実際に穴が開いていて、王宮魔術師団は対処が出来なかった状況なので、これからどういう方針で行くかが大事なのではないかな。

「それで、どうするんですか? 見張るだけですか?」

 私はふむっと腕を組んで、二人を見た。

「ルベラス君が推察した杖精の痕跡や魔導具の反応は見当たらなくてなぁ。
 それでも、魔術的なものには間違いなさそうだから、筆頭殿を呼ぶことになったんだよ」

「え? あのクズをですか?」

 急に気分が悪くなった。

 今日は美味しいお菓子がたくさん食べられて、さきほどまで、幸せ気分だったのに。

 あのクズと顔を合わせるのかと思うと吐き気がしてくる。

「ルベラス君、他の騎士団がいるところではその言い方、止めような」

「いやいや、団長。第三騎士団内なら良いってわけではないでしょう。
 エルシア、筆頭殿の言い方、もっと丁寧にな、な?」

 ヴァンフェルム団長に続けてクストス隊長にも注意されたので、しぶしぶ私は返事をした。

「……………………………………はい」

「凄く、間が空いているんだが」

 しぶしぶだったので、はいと言うまで時間がかかってしまって、さらにクストス隊長につっこまれる。

「大丈夫です。気分が悪いだけなので」

 おそらく、気分が悪くなる事情を分かっているヴァンフェルム団長が、私の肩を無言でぽんぽん叩いた。表情が穏やかだ。

 そして、さり気なく話題を変えてくれた。

「それでだ。とりあえず、ここはこのままだから。まずは、そっちの報告を聞きたいんだなぁ」

 そう言って、クストス隊長を見るヴァンフェルム団長。

 ところが、クストス隊長は困った様子で、頭に手を当てる。

「実はまだ、エルシアから詳しい説明をされていないんです」

「それはどういうことだい?」

 ヴァンフェルム団長は、むむむっとした表情で私とクストス隊長を交互に見た。

 だから、私も正直に話す。

「クストス隊長もクラウドも、魔力をよく分かってなかったんで。その説明から始めました」

「え? そこからかい?」

「だって、クストス隊長が騒ぐから」

 クストス隊長は、フルヌビの魔力タルトをずっと食べ続けていたのが、衝撃だったようだ。魔力と自分の体調の話しかしなくなった。

 チラッとクストス隊長を見ると、オホンオホンと咳払いをしている。様子を知っているクラウドは見て見ぬ振りだし。

「とにかく、そっちの話をしてもらおうか」

 立ち話ではなんだからと、ヴァンフェルム団長に私たちは連れられて、天幕のあるところへの向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

超絶美形騎士は塩対応の婚約者を一途に病的に純粋に愛す

月冴桃桜
恋愛
「あんなに美しくて美形な騎士様を婚約者にできるなんて、一体どんな狡い手を使ったのでしょうね?」 醜い嫉妬の顔をした令嬢たちが、とある伯爵令嬢を問い詰めていた。 普通ならばそんなことを言われれば、何らかの反応を示すだろうが、彼女はそうではなかった。 「はて?」と、何を言われているのかわからないという顔をしている。 勿論、貴族特有の仮面で感情を隠している訳でもなくて、本当に意味がわかっていない様子。 だからこそ、嫌みの言葉も何も通じないことに令嬢たちは、どうにかして傷付けてやろうと次の言葉を探す。 「あの方にお似合いになるのは、この国で最も高貴な存在である華麗な王女様しかいませんわ」 「そうですわ! あの方と似合っているのは、気高く美しい王女様しかいませんわ!」 ここ最近、社交界で囁かれている噂だ。 そう、婚約者様が王女様の護衛騎士になってから広がった噂と噂。 それでも、我関せずな顔な私を、 それでも、嫉妬心醜い令嬢たちから救い出してくれるは…… 勿論、私の美しき婚約者様。 現実を見て欲しいと言いたいのは、私の方だ。 この男がどうやったら、私の元を離れてくれるのかなんて、こっちが聞きたいくらい。 溺愛面倒、婚約破棄希望に拒絶反応。 はあ。やれやれと。 今日も婚約者と言う存在に疲れてしまうのだった。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

どんなに私が愛しても

豆狸
恋愛
どんなに遠く離れていても、この想いがけして届かないとわかっていても、私はずっと殿下を愛しています。 これからもずっと貴方の幸せを祈り続けています。 ※子どもに関するセンシティブな内容があります。

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

【完結】堅物な婚約者には子どもがいました……人は見かけによらないらしいです。

大森 樹
恋愛
【短編】 公爵家の一人娘、アメリアはある日誘拐された。 「アメリア様、ご無事ですか!」 真面目で堅物な騎士フィンに助けられ、アメリアは彼に恋をした。 助けたお礼として『結婚』することになった二人。フィンにとっては公爵家の爵位目当ての愛のない結婚だったはずだが……真面目で誠実な彼は、アメリアと不器用ながらも徐々に距離を縮めていく。 穏やかで幸せな結婚ができると思っていたのに、フィンの前の彼女が現れて『あの人の子どもがいます』と言ってきた。嘘だと思いきや、その子は本当に彼そっくりで…… あの堅物婚約者に、まさか子どもがいるなんて。人は見かけによらないらしい。 ★アメリアとフィンは結婚するのか、しないのか……二人の恋の行方をお楽しみください。

処理中です...