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2 暗黒騎士と鍵穴編
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そして、あっという間に手配が終わり、連れていかれたのは王宮の菓子厨房。
王族専用の菓子を作っている厨房で、フルヌビの初代も元々はここの厨房長だったという。
私たちはぞろぞろと菓子厨房にお邪魔することになった。総勢四人、プラス侍女さん二人、プラス王女殿下の護衛騎士二人。
侍女軍団の他の人たちは、お茶会の片付けや他の仕事でここにはいない。
王女殿下の護衛騎士二人は、最初からずっといた。護衛なのでお茶会に参加することなく、王女殿下の後ろにずっと控えていたけど。
一人はクラウドのお兄さんの偽爽騎士だったので、クラウドもさぞかし居心地が悪かったと思う。
さてさて、肝心なのは王宮の菓子厨房だ。
「へー。凄い。お菓子のあまーい香りがする!」
「あちらにいらっしゃるのが、フルヌビの二代目厨房長さんです」
侍女さんが紹介してくれた人は、スラッとした高身長のオシャレなおじさんだった。職人感はあまりない。
初代がどんな人かは知らないけど、二代目はオシャレカフェがよく似合いそう。
「うん、普通の、オシャレな感じの人だよね」
「王宮でもお菓子を作ることができる、特級菓子職人よ!」
「王宮の料理は、特級の資格を持った方しか作れないんです」
侍女さんが王女殿下の言葉を分かりやすく説明してくれる。
「フルヌビが三代目に世代交代したら、二代目は私の専属として、引き抜くわ!」
「他の王族や高位貴族も狙っていそう」
あのカス王子とか、アエレウス大公家とか。
マリーアンのところも侯爵家だから狙いそうだよな。私は三聖の展示室の案内で知り合った侯爵令嬢を思い出していた。
身分が身分なので、王宮主催のイベントでもない限りは会うこともないだろう。
考え事をする私におずおずと侍女さんが話しかけてくる。
「タルトを焼いている最中ですが、ご覧になりますか?」
「見せて」
ではこちらに、と言って侍女さんが二代目を促すと、私たちはさらに奥に連れていかれる。
「こちらの魔導オーブンです」
着いたところは厨房の奥まったところ。
ちょうどタルトを焼いている最中で、魔導オーブンはかなりの熱を発している。周りの空気も温められて暑い。
危ないからと、王女殿下は厨房の入り口付近にいるのみだったけど、あそこで正解。王女殿下のドレス姿では、暑くてたまらないほどだ。
熱いオーブンのそばまで行くと、私は周りの魔力の動きやオーブンの中の魔力の流れを確認する。そして感心した。
「ふーん、うまく出来てる。家庭用のオーブンとはちょっと違うんだね」
「家庭用の量産品は、魔結晶をはめ込んで動力としています。動かなくなったら、魔結晶を交換するんです。
こちらも魔結晶がついていますが、魔結晶に直接、魔力を補充できるよう改良されています」
侍女さん、かなり詳しい。
それとも、私が見せてと言ったので、紹介できるよう、勉強したのかな?
王女殿下も少しは見習ってほしいなぁと思いつつ、それならばとフルヌビにある魔導オーブン第一号についても聞いてみた。
「基本的には同じ作りかと」
ちょっと困った表情の侍女さんは言いよどんだ。これ以上は侍女さんも、何も分からないようだ。
必要な物は見れたので、熱いオーブンのそばから、厨房入り口で待つ王女殿下のところへと戻る。
クストス隊長が、焼いているタルトを遠目に名残惜しそうにしていたけど、あれはクストス隊長の分じゃないから。あまりガツガツしないでもらいたいものだ。
クストス隊長のことは脇に置いておくとして。
「よしっ、見に行こう」
「え? 何を?」
私は思い立った。
「もちろん、フルヌビにある魔導オーブン第一号を、ですよ」
「え? どうして?」
王女殿下は首を傾げる。
「ここの魔導オーブンとフルヌビの魔導オーブン第一号を比べれば、焼きあがるタルトの違いが分かるはずです」
私は自信を持って言う。
本当に違いがあるかは比べてみないと分からないけど。とりあえず、自信ありげに言う。これ、重要。
「何か違いがあるから、フルヌビのタルトに違いがあるわけなんですから。王女殿下も違いが気になりますよね?」
「え? ええ、まぁ」
うん、これは違いを気にしていないな。
そもそも、私以外は違いが分からなかったっけ。まったくなんで分からないのか。とても不思議だ。
「フルヌビの二代目も違いが気になりますよね? 他の魔導オーブンでは出せない味って言われているんですよね?」
「そういえば、そうだわ! 第一号の魔導オーブンに何か秘密があるんだわ!」
うん、ようやく王女殿下が乗ってきた。
「王女殿下も、そう思いますよね?」
「ええ! そう思うわ! さっそく本店に行きましょう! 二代目、良いわよね!」
「よしっ」
「エルシア、うまく乗せたな」
今までのやりとりを見て、こっそりクラウドが耳元で囁く。
「だって、違いが気になるでしょ?」
「いや、俺も違いがあるのかさえ分からないから、気になるところがないんだが」
「そうだった」
ともあれ、王女殿下が見に行く気になった。フルヌビの二代目も同意してくれた。クストス隊長はそもそもフルヌビに行こうとしていた。
あれ?
「もしかして、王女殿下を乗り気にさせなくても、良かった?」
「だな」
「いや、まぁ、権力があった方が何かと便利だから」
そう返す私は、心の中で汗をかいた。
王族専用の菓子を作っている厨房で、フルヌビの初代も元々はここの厨房長だったという。
私たちはぞろぞろと菓子厨房にお邪魔することになった。総勢四人、プラス侍女さん二人、プラス王女殿下の護衛騎士二人。
侍女軍団の他の人たちは、お茶会の片付けや他の仕事でここにはいない。
王女殿下の護衛騎士二人は、最初からずっといた。護衛なのでお茶会に参加することなく、王女殿下の後ろにずっと控えていたけど。
一人はクラウドのお兄さんの偽爽騎士だったので、クラウドもさぞかし居心地が悪かったと思う。
さてさて、肝心なのは王宮の菓子厨房だ。
「へー。凄い。お菓子のあまーい香りがする!」
「あちらにいらっしゃるのが、フルヌビの二代目厨房長さんです」
侍女さんが紹介してくれた人は、スラッとした高身長のオシャレなおじさんだった。職人感はあまりない。
初代がどんな人かは知らないけど、二代目はオシャレカフェがよく似合いそう。
「うん、普通の、オシャレな感じの人だよね」
「王宮でもお菓子を作ることができる、特級菓子職人よ!」
「王宮の料理は、特級の資格を持った方しか作れないんです」
侍女さんが王女殿下の言葉を分かりやすく説明してくれる。
「フルヌビが三代目に世代交代したら、二代目は私の専属として、引き抜くわ!」
「他の王族や高位貴族も狙っていそう」
あのカス王子とか、アエレウス大公家とか。
マリーアンのところも侯爵家だから狙いそうだよな。私は三聖の展示室の案内で知り合った侯爵令嬢を思い出していた。
身分が身分なので、王宮主催のイベントでもない限りは会うこともないだろう。
考え事をする私におずおずと侍女さんが話しかけてくる。
「タルトを焼いている最中ですが、ご覧になりますか?」
「見せて」
ではこちらに、と言って侍女さんが二代目を促すと、私たちはさらに奥に連れていかれる。
「こちらの魔導オーブンです」
着いたところは厨房の奥まったところ。
ちょうどタルトを焼いている最中で、魔導オーブンはかなりの熱を発している。周りの空気も温められて暑い。
危ないからと、王女殿下は厨房の入り口付近にいるのみだったけど、あそこで正解。王女殿下のドレス姿では、暑くてたまらないほどだ。
熱いオーブンのそばまで行くと、私は周りの魔力の動きやオーブンの中の魔力の流れを確認する。そして感心した。
「ふーん、うまく出来てる。家庭用のオーブンとはちょっと違うんだね」
「家庭用の量産品は、魔結晶をはめ込んで動力としています。動かなくなったら、魔結晶を交換するんです。
こちらも魔結晶がついていますが、魔結晶に直接、魔力を補充できるよう改良されています」
侍女さん、かなり詳しい。
それとも、私が見せてと言ったので、紹介できるよう、勉強したのかな?
王女殿下も少しは見習ってほしいなぁと思いつつ、それならばとフルヌビにある魔導オーブン第一号についても聞いてみた。
「基本的には同じ作りかと」
ちょっと困った表情の侍女さんは言いよどんだ。これ以上は侍女さんも、何も分からないようだ。
必要な物は見れたので、熱いオーブンのそばから、厨房入り口で待つ王女殿下のところへと戻る。
クストス隊長が、焼いているタルトを遠目に名残惜しそうにしていたけど、あれはクストス隊長の分じゃないから。あまりガツガツしないでもらいたいものだ。
クストス隊長のことは脇に置いておくとして。
「よしっ、見に行こう」
「え? 何を?」
私は思い立った。
「もちろん、フルヌビにある魔導オーブン第一号を、ですよ」
「え? どうして?」
王女殿下は首を傾げる。
「ここの魔導オーブンとフルヌビの魔導オーブン第一号を比べれば、焼きあがるタルトの違いが分かるはずです」
私は自信を持って言う。
本当に違いがあるかは比べてみないと分からないけど。とりあえず、自信ありげに言う。これ、重要。
「何か違いがあるから、フルヌビのタルトに違いがあるわけなんですから。王女殿下も違いが気になりますよね?」
「え? ええ、まぁ」
うん、これは違いを気にしていないな。
そもそも、私以外は違いが分からなかったっけ。まったくなんで分からないのか。とても不思議だ。
「フルヌビの二代目も違いが気になりますよね? 他の魔導オーブンでは出せない味って言われているんですよね?」
「そういえば、そうだわ! 第一号の魔導オーブンに何か秘密があるんだわ!」
うん、ようやく王女殿下が乗ってきた。
「王女殿下も、そう思いますよね?」
「ええ! そう思うわ! さっそく本店に行きましょう! 二代目、良いわよね!」
「よしっ」
「エルシア、うまく乗せたな」
今までのやりとりを見て、こっそりクラウドが耳元で囁く。
「だって、違いが気になるでしょ?」
「いや、俺も違いがあるのかさえ分からないから、気になるところがないんだが」
「そうだった」
ともあれ、王女殿下が見に行く気になった。フルヌビの二代目も同意してくれた。クストス隊長はそもそもフルヌビに行こうとしていた。
あれ?
「もしかして、王女殿下を乗り気にさせなくても、良かった?」
「だな」
「いや、まぁ、権力があった方が何かと便利だから」
そう返す私は、心の中で汗をかいた。
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